臨床工学技士は将来性のある仕事?医療現場に必要な理由を詳しく解説

臨床工学技士には、将来性があるのでしょうか?医療機器の操作のスペシャリストである臨床工学技士は、医療現場には不可欠な存在です。しかし、将来性に不安を感じている人もいるかもしれません。臨床工学技士の需要がなくならない理由について解説します。

臨床工学技士の将来性は?

臨床技師

(出典) pixta.jp

臨床工学技士は、医療機関でメディカルスタッフとして働く職種の1つです。しかし、仕事内容や医療現場での役割について、あまり知られていないかもしれません。まずは、臨床工学技士の仕事内容や、将来性について見ていきましょう。

臨床工学技士は医療現場に不可欠な存在

臨床工学技士は、1987年に制定された比較的新しい国家資格です。医療機器の高度化に伴い、医学・工学両方の知識を兼ね備えた専門家が必要となったために生まれました。

医療現場で使われるさまざまな機器を扱うスペシャリストとして、現代のチーム医療にはなくてはならない存在です。

臨床工学技士は、呼吸治療・人工心肺・血液浄化・心血管カテーテルなど、さまざまな治療に使用する医療機器の操作・保守・点検などを担当します。今後も、手術や集中治療室など、医療の最前線で重要な役割を果たすことが期待される職種です。

臨床工学技士に将来性がある3つの理由

検査技師

(出典) pixta.jp

医療機器のスペシャリストである臨床工学技士は、将来性がある職種といってよいでしょう。その理由を3つ挙げて解説します。

AIや高度化した医療機器への対応が必要

臨床工学技士に将来性があるといえる理由の1つは、医療機器の目覚ましい発展です。内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」をはじめ、さまざまな分野にAIを活用した医療機器が導入され、高度化しています。

ロボットを操作するのは医師ですが、操作中のトラブルに対応するのは臨床工学技士です。また、常に正常に稼働するよう、日頃の点検・メンテナンスも臨床工学技士が担当します。

今後もますます高度化する医療機器に対応できる臨床工学技士は、将来的にも需要が高い職種といえるでしょう。

臨床工学技士が担う業務内容の拡大

2021年の臨床工学技士法施行令の改正によって、臨床工学技士の業務範囲が拡大されたことも将来性のある理由です。臨床工学技士の業務範囲に追加されたのは、以下の4つです。

  • 手術室・集中治療室で生命維持管理装置を用いて治療する際の、輸液ポンプやシリンジポンプの静脈への穿刺(せんし)・薬剤投与の操作・終了後の抜針や止血
  • 生命維持管理装置を用いた心臓や血管のカテーテル治療での、身体に電気的刺激を与える装置の操作
  • 手術室で生命維持管理装置を用いて行う鏡視下手術での、体内に挿入された内視鏡用ビデオカメラの保持および操作
  • 透析治療における表在化動脈または表在静脈への穿刺および抜針

参考:臨床工学技士が実施可能となる業務 | 臨床工学技士の業務範囲追加に伴う厚生労働大臣指定による研修 | 公益社団法人 日本臨床工学技士会
  :臨床工学技士法施行令 | e-Gov法令検索

透析患者の増加

透析患者の数が年々増加している点も、臨床工学技士の将来性に関係します。日本透析医学会の調査によると、2021年12月31日時点の慢性透析患者の数は34万9,700人でした。つまり、人口100万人当たり2,786人が透析を必要としていることになります。

透析は、腎不全など腎臓の機能が低下した患者に対する治療法です。腎不全の治療法は、透析と腎臓移植の2択ですが、移植するにもドナーが見つかるまでは透析が必要です。

透析患者がいる限り、治療に必要な機器を扱える臨床工学技士の仕事もなくなることはないでしょう。

参考:わが国の慢性透析療法の現況(2021 年 12 月 31 日現在|日本透析医学会)

臨床工学技士が抱きやすい将来への不安要素

医療機器を操作する

(出典) pixta.jp

臨床工学技士として働く人の中には、将来に不安を感じている人もいます。どのようなことが不安要素となっているのか、詳しく見ていきましょう。

ハードワークで生活のリズムが崩れる

臨床工学技士の多くは、シフト制で働いています。勤務先によっては当直もあるため、生活のリズムが崩れやすく、心身への負担を感じている人も多いようです。

また、当直でなくてもオンコールで呼び出されれば、勤務時間外でも対応しなければなりません。オンコール待機中は勤務時間ではないものの、呼び出しに迅速に対応するためには、飲酒や遠出を控えるなどの制限がかかります。

プライベートと仕事の切り替えが難しいため、長く続けられるかという不安につながる可能性があるでしょう。

他の技師に比べて給料が高くないことも多い

他の技師に比べて給料が低いケースが多いことも、将来への不安要素となっています。厚生労働省の調査を基にしたデータによると、2022年の臨床工学技士の平均年収は約443万3,000円でした。

同じ厚生労働省の調査結果によれば、診療放射線技師の平均年収は543万7,400円(※)、臨床検査技師の平均年収は508万9,200円(※)となっており、確かに臨床工学技士の収入は低めともいえるでしょう。

ただし、国税庁による2021年の統計調査によると、民間給与の平均は443万円なので、民間の平均給与とは大差ないことも分かります。ハードワークに対する収入としては、低く感じる人が多いといえるでしょう。

※年収は、厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」を元に、「きまって支給する現金給与額(企業規模計10人以上)」に12カ月を掛けた上で、「年間賞与その他特別給与額」を足して算出

参考:臨床工学技士 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
  :令和3年分 民間給与実態統計調査|国税庁
  :賃金構造基本統計調査 令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

業務独占資格ではない

臨床工学技士は国家資格ですが、「名称独占資格」に分類されます。「名称独占資格」とは、資格を取得した人だけが名乗れる資格のことです。

一方、医師や看護師のように、その資格を持った人しか担当できない業務がある資格は「業務独占資格」と呼ばれます。

つまり、臨床工学技士は業務独占資格ではないため、看護師やその他の医療スタッフでも、医療機器を操作できるということです。機器が故障した際の修理はメーカーでも対応できるので、臨床工学技士を置いていない病院もあります。

とはいえ、最先端の医療機器を扱うには、高度な知識・技術を身に付けた臨床工学技士の存在が不可欠です。特に救急病院や透析治療病院などでは需要が高く、さまざまな場面で活躍しています。

臨床工学技士が収入を上げる方法は?

医療機器を操作する

(出典) pixta.jp

臨床工学技士が収入を上げるには、3つの方法があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

他の資格も取得する

他の認定資格も取得すれば、手当などによって収入がアップする可能性があるでしょう。臨床工学技士がスキルアップするための認定制度には、大きく分けて日本臨床工学技士会によるものと、さまざまな学会が主催するものの2種類があります。

<日本臨床工学技士会認定制度>

  • 不整脈治療
  • 呼吸治療
  • 血液浄化
  • 手術関連
  • 高気圧酸素治療

<学会認定制度>

  • 透析技術認定士
  • 体外循環技術認定士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 臨床ME専門認定士
  • 臨床高気圧酸素治療装置操作技師
  • 日本アフェレシス学会認定技士

日本臨床工学技士会の認定制度は、臨床工学技士としての実務経験5年以上を受験要件としていることがほとんどです。一方、学会認定の場合は、早ければ実務経験2年以上から受験できるものもあります。

他の医療機関に転職する

臨床工学技士の給料が高い医療機関へ、転職するという方法もあります。病院は、規模が大きくなるほど給料も高くなる傾向です。病院の中でも、循環器系の部門は給料が高めに設定されていることが多いようです。

ただし大病院の場合、夜勤や残業も多くなるので、体力的にハードになることも覚悟しておいた方がよいでしょう。

また、キャリアを積んだ、ベテランの臨床工学技士が活躍している病院に転職するのもおすすめです。優れた臨床工学技士の元で技量を磨いて収入アップを目指せるほか、ベテランの発言力によって待遇改善が期待できるというメリットもあります。

このほか、透析クリニックも一般的な病院に比べると、高めの給料であることが少なくありません。

医療機器メーカーに転職する

医療機器メーカーに転職するのもおすすめです。医療機器メーカーの営業マンは専門家ではないため、専門知識を持っている臨床工学技士は重宝されます。収入面でも、医療機関に比べると高額になる傾向です。

臨床工学技士としてのスキルを生かせる職種には、医療機器を導入した医療機関で使い方などを説明する「アプリケーションスペシャリスト」のほか、「セールスエンジニア」「フィールドエンジニア」などがあります。

求人検索エンジン「スタンバイ」には、臨床工学技士のスキルを生かせる求人情報も数多く掲載されています。希望の給与額からも検索できるので、収入アップを希望しているのであればチェックしてみましょう。

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臨床工学技士は将来性のあるスペシャリスト

医療機器を操作する

(出典) pixta.jp

AIの導入などにより、医療機器はますます高度に進化するため、スペシャリストである臨床工学技士の需要もなくなることはありません。携われる業務範囲も拡大しており、今後も将来性のある仕事といってよいでしょう。

これから臨床工学技士を目指す人は、医療機器に関する専門知識を身に付けて、資格取得にチャレンジしましょう。すでに臨床工学士として活躍している人は、認定資格を取得するなど、さらなるスキルアップを目指すのがおすすめです。

中山美帆
【監修者】臨床工学技士・医療ライター・編集者中山美帆

「kakotto.」代表。臨床工学技士として大学病院等での勤務経験を活かし、2016年にライターに転身。現在は、医療・福祉・ヘルスケア中心のライター・編集者として活動している。「易しく、優しい文章を」をモットーに、難しい医療のことを分かりやすい解説を心がける。薬機チェックにも対応。

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