弁護士には将来性がないという話を聞き、資格取得へのチャレンジを躊躇している人もいるのではないでしょうか。確かに不安要素はあるものの、弁護士はまだまだ十分な将来性がある職業です。弁護士の将来性やAIによる代替可能性について解説します。
弁護士には将来性がないといわれる理由
弁護士は将来性のない職業だといわれるのには、いくつかの理由があります。弁護士業界の特徴や現状を確認しながら、将来性がないとされる主な理由を見ていきましょう。
司法試験の合格者数が増えているから
2006年に新司法試験制度が導入されて以降、司法試験の合格者数は増えています。これに伴って弁護士の数も増えているため、案件の奪い合いになっているのではないかと思われているのが、弁護士には将来性がないとされる理由の1つです。
新司法試験制度の導入を含む司法制度改革は、2000年頃から進められました。司法制度改革では、法曹界全体がバランスよく増えることが期待されていましたが、依然として合格者のうち弁護士になる割合が高いのが実情です。
司法試験の合格者数は2008年をピークに減ってきてはいるものの、いまだに制度導入前と同水準にあります。また、司法試験の合格者は裁判官や検察官にもなれますが、これらの職業を選択する人数は、新司法試験制度導入前からほとんど変わっていません。
弁護士には定年がないから
自由業である弁護士には定年の概念がありません。法律事務所に雇用されている弁護士も、基本的には本人が退職を希望しない限り、何歳でも働き続けられます。
2012年度以降の弁護士登録取り消し件数は、毎年500~600人程度です。司法試験の合格者数は毎年1,000人を超えているため、弁護士数は右肩上がりに増え続けています。
実際に、70~80代でも弁護士として活躍している人も少なくありません。このような状況が弁護士の供給過剰を引き起こし、弁護士には将来性がないといわれる理由の1つになっているのです。
他の士業の業務範囲が拡大しているから
弁護士・司法書士・行政書士は、これまでは業務のすみ分けができていました。司法書士の主な業務領域は登記手続き、行政書士の場合は官公署に提出する書類の作成です。
しかし昨今の法改正により、司法書士と行政書士の業務範囲が拡大しました。司法書士は一部の裁判手続き代理業務、行政書士は一部の紛争解決手続き業務ができるようになったのです。
これまで弁護士が独占していた業務の一部が他の士業にも解放されたため、弁護士1人当たりの取り扱い事件数が少なくなると考えられている点も、弁護士には将来性がないといわれる理由となっています。
弁護士には十分な将来性がある
さまざまな理由により弁護士には将来性がないとされますが、それでも弁護士にはまだ十分な需要があります。弁護士に将来性があることが分かる3つの理由を紹介します。
弁護士の独占業務は幅広い
司法書士と行政書士の業務範囲は弁護士が扱う領域にも及んでいるものの、その範囲は弁護士の業務範囲におけるほんの一部です。依然として弁護士は、幅広い業務を独占的に取り扱えます。
弁護士の代表的な独占業務は、民事事件に関しては法律相談・示談交渉や行政への不服申立、刑事事件については被疑者や被告人の弁護活動です。
民事事件こそ訴訟事件数は年々減っていますが、刑事訴訟に関してはいまだに一定の受付件数があります。独占業務の範囲が狭くならない限り、弁護士の独占業務がなくなるという状況にはならないでしょう。
参考:弁護士白書 2022年度版 P96 資料2-2-1-1
参考:弁護士白書 2022年度版 P69 資料2-1-1-4
企業内弁護士のニーズが高まっている
弁護士には十分な将来性があるといえる大きな理由の1つが、企業内弁護士の増加です。2012年の771人から年々増え続けており、2022年の企業内弁護士の数は2,965人に上がっています。
企業内弁護士とは、企業に所属しさまざまな問題を解決する弁護士のことです。主に大手企業や外資系企業に常駐し、コンプライアンス業務やM&A、外部の弁護士との調整役などを担当します。
コンプライアンスに対する意識が近年高まっていることや、グローバル化により国際的な取引が増えていることが、企業内弁護士のニーズが高まっている理由です。今後も企業内弁護士を求める企業は増えていくと想定されます。
景気に左右されない
弁護士の仕事は景気に影響を受けにくいといえます。弁護士が扱うのはビジネス関連の案件であり、ビジネスシーンでは好景気・不景気のいずれの時期にも、一定数の弁護士業務が発生するためです。
例えば、不景気になると企業の倒産が増えるため、企業や個人の破産・民事再生などの手続きが増えます。リストラによる労使間トラブルも多くなるでしょう。
一方、好景気の時期には起業・新規事業立ち上げや顧問依頼の案件が増加しやすくなります。このように、景気に左右されず常に一定の需要があるのが、弁護士の強みです。
弁護士の仕事はAIに取って代わられる?
AIが登場したことで、将来的には多くの職業がAIに取って代わられるといわれています。弁護士の仕事は、AIによりどのような影響を受けるのでしょうか。
AIはあくまでも業務を改善するためのもの
AIは既に弁護士の業務でも活用されています。弁護士の仕事のうちAIができる業務は、契約書のリーガルチェックや英文契約書の和訳、過去の判例から賠償金を算出するといった仕事です。
弁護士業務にAIを導入することで、仕事の質や業務効率の向上を図れます。事務作業にかかる時間を削減できるため、今後もAIを仕事に活用する弁護士は増えていくでしょう。
あくまでもAIは業務を改善するためのものであり、弁護士業務の全てをAIができるようになるわけではありません。人間にしかできない仕事をAIが代わりに行うのは困難なのです。
多くの弁護士業務がAIでは代替不可能
弁護士業務の根幹をなすのは、人間同士のコミュニケーションが重視される仕事です。相手方と駆け引きをし、状況に合わせて適切に判断・対応する作業は、AIではまだ代替不可能とされています。
今後の弁護士が意識すべきポイントはAIとの共存です。AIを有効活用すれば、時間や手間を取られていた定型業務の負担が軽減され、コア業務に専念できるようになります。
顧客と良好な関係を構築したり、新しいものを作り上げたりすることも、現在のAIには不可能です。弁護士の仕事がAIに取って代わられる可能性は低いと考えてよいでしょう。
活躍できる弁護士になるためには
弁護士には将来性があるとはいえ、自己研さんを怠っているとなかなか仕事にありつけないという状況にも陥りかねません。活躍できる弁護士になるために意識したいポイントを紹介します。
コミュニケーションスキルを鍛える
弁護士に求められる能力の1つに、コミュニケーションスキルが挙げられます。顧客の利益を最大化するためには、話を適切に引き出す傾聴力や質問力が不可欠です。
顧客の代理人となり相手方と交渉する際は、論理的に説得できる能力も発揮しなければなりません。難しい法律の知識を、分かりやすく顧客に説明する能力も求められます。
職場内で他のスタッフとスムーズに連携して業務を進めたり、自分で営業・宣伝活動を行ったりする際も、高いコミュニケーションスキルが不可欠です。
専門性を高める
法律の専門家である弁護士は、さまざまなジャンルの事件を扱います。ただし、幅広いジャンルに対応する弁護士は特徴を打ち出しにくくなるため、他の弁護士との差別化を図るのが困難です。
特定分野の専門性を高めれば付加価値も高まるため、安定的に仕事が舞い込んできやすくなります。その分野で集中して実績を積んでいけば、依頼者も安心して仕事を頼めるでしょう。
弁護士が担当する代表的なジャンルとしては、借金・離婚・相続・交通事故が挙げられます。これらのうちいずれかのスペシャリストを目指すのがおすすめです。
英語力を身に付ける
弁護士として働く上で、英語力は必須のスキルではありません。ただし、英語力を身に付けた弁護士は、業務の幅を広げられるでしょう。
例えば、近年増加中の企業内弁護士になる場合は、英語力を求められるケースがあります。企業内弁護士を雇うような大手・外資系企業では、海外とのやりとりが多いためです。
英語力を身に付けておけば、外国人が関わる案件も引き受けられるようになります。近年は外国人労働者も増えているため、英語力のある弁護士のニーズはますます高まっていくでしょう。
弁護士事務所や企業以外での働き方
弁護士に将来性がある理由の1つに、さまざまな働き方が可能である点も挙げられます。独立や異業種への挑戦など、弁護士事務所や企業以外での働き方について解説します。
独立する
弁護士として法律事務所や企業で実績を積んだら、独立する道が開けてきます。独立支援を用意している事務所に就職すれば、スムーズに独立できるでしょう。
組織の方針に縛られずに活動できる点や、業務の幅を自分で調整できる点が、独立する大きなメリットです。自由な時間を増やしたい人や、逆に時間が許す限り仕事をしたい人には、独立が向いています。
ただし、独立後は自分で仕事を見つける必要があるため、独立前に集客手段を確立しておくことが大切です。事業が軌道に乗るまでの生活費も確保する必要があるでしょう。
別の業種に挑戦する
弁護士の資格や経験を生かし、まったく別の業種にチャレンジすることも可能です。例えば、経営コンサルティング会社や特許事務所では、弁護士の法的知識が重宝されます。
企業や法律事務所で営業・マネジメントに関わっていた弁護士なら、それらの経験を生かして営業職やマネジメント職を目指すことも可能です。
どのような業種で働く場合も、弁護士資格は顧客や取引先との関係構築に役立ちます。難関資格を突破しているという事実が、相手に大きな信頼感を与えるためです。
弁護士はまだまだ将来性のある職業
弁護士には幅広い独占業務があるほか、好景気・不景気のいずれの時期でも一定の需要があります。企業内弁護士のニーズが高まっていることも、弁護士には将来性があるといえる理由の1つです。
多くの弁護士業務がAIでは代替不可能とされているため、しばらくは弁護士の仕事がAIに取って代わられる可能性も低いと考えられます。必要なスキルもチェックし、活躍できる弁護士を目指しましょう。