管理栄養士は活躍できるフィールドが広く、自分の努力次第でキャリアアップが見込めます。健康志向の高まりや高齢化の進展により、今後はさらに注目度が増すでしょう。管理栄養士の将来性や求人倍率、相乗効果が期待できる資格などを解説します。
管理栄養士の将来性
管理栄養士は、栄養管理や栄養指導を通じて人々の健康をサポートする職業です。私たちの暮らしになくてはならない仕事ですが、近年は「管理栄養士の仕事がAIに奪われる」という話も聞かれます。管理栄養士に将来性はあるのでしょうか?
幅広いシーンで活躍する管理栄養士
将来性を不安視する声もありますが、管理栄養士の需要は拡大していくでしょう。その理由として、人々の健康に対する意識が高まっていることが挙げられます。
人生100年時代を豊かに生きていくためには、健康寿命をいかに延ばせるかを考えなけければなりません。
特に、栄養バランスの取れた食事は健康維持の基本であるため、食と健康のプロフェッショナルである管理栄養士の価値は高まっていくと考えられます。
給食の献立を作ったり、病院で栄養指導をしたりするイメージが強いですが、活躍場所は学校や病院に留まりません。食に関連するさまざまな施設で重宝されます。
高齢化社会も需要が高まる理由の1つ
日本は、65歳以上の人口が全人口の21%以上を占める超高齢化社会に突入しました。日本の総人口は減少しているのに対し、高齢者は右肩上がりに増えているのが現状です。
年齢を重ねると、低栄養や摂食嚥下といった食の問題が起こりやすくなります。管理栄養士は、高齢者の栄養状態を支える重要な役割を背負っており、高齢化が進展すればするほど重要度は高まると考えられます。
2021年の介護報酬改定では、栄養ケアを評価する各種加算が新設・拡充されました。これまで、施設系サービスの人員基準は「栄養士を1名以上配置すること」でしたが、改定後は「栄養士または管理栄養士を1名以上配置すること」が求められています。
参考:統計局ホームページ/令和4年/統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口
AIに管理栄養士の仕事は奪われる?
テクノロジーが発達すると、事務作業や定型業務はAIに代替される可能性があります。「AIに仕事が奪われる」という観測もありますが、管理栄養士の仕事が無機質なコンピューターに完全代替される可能性は低いでしょう。
AIが得意とするのは、データに基づいた分析や単純作業、推論などです。AIを活用すれば、栄養バランスの取れた献立を作ったり、SNS上でマニュアル通りの栄養指導をすることは可能ですが、嗜好や性格、その日の気分に応じた献立や栄養指導をすることは困難です。
AIと管理栄養士の大きな違いは、「食べる相手の気持ちに寄り添った提案ができるかどうか」といえます。
管理栄養士の現状
これから管理栄養士として働く人は、「求人倍率はどのくらいか」「勤め先は多いのか」といった就職・転職事情が気になるのではないでしょうか?近年の管理栄養士の就職率・求人倍率をチェックしましょう。
管理栄養士の就職率や求人倍率
全国栄養士養成施設協会では、栄養士養成施設の卒業生の就職実態を公開しています。2021年の栄養士・管理栄養士の就職率は90%で、栄養士・管理栄養士・関連業務に関する仕事の就職者は全体の約70%を占めています。
管理栄養士の就職先では病院、企業が多く、両者でほぼ半数を占めています。他では児童福祉施設、社会福祉施設、介護保険施設などとなっています。
厚生労働省が発表する「一般職業紹介状況(2023年4月分)」によると、栄養士を含むその他の保健医療従事者の有効求人倍率※は1.70倍で、前年同月比と比べて0.17ポイント増加しています。
1人の求職者に対し1.7件の求人があるため、就職・転職は売り手優勢と見てよいでしょう。
※常用・パートを含む。
参考:卒業生の就職率と就職先|栄養士・管理栄養士を目指す人をサポート|一般社団法人 全国栄養士養成施設協会
管理栄養士が活躍する場所
健康への意識が高まる中、管理栄養士の活躍場所が広がっています。代表的な就職先と仕事内容について理解を深めましょう。
学校や企業
保育園・幼稚園・小中学校・学校給食センター・企業に勤務する管理栄養士は、献立作りや食材の発注といった栄養管理全般に関わります。
学校給食の献立作りでは、成長期に必要な栄養素をバランスよく取り入れることが大切です。「野菜や魚が苦手」「食が細い」などの悩みを抱えた子どもたちも多いため、いかにおいしく・楽しく食べてもらえるかを考えなければなりません。
企業の社員食堂に勤務する栄養士は、他の調理師と連携しながら、生活習慣病の予防やカロリーに配慮したメニューを考えます。
最近では年齢を問わずアレルギー対応が必要な方が増えていますので、アレルギーに関する知識も必要です。
病院や福祉施設
病院や福祉施設に勤務する管理栄養士は、患者や入居者のために日々の献立を作成したり、栄養指導を行ったりします。
病気や加齢で食事がしづらくなった人たちに、食べる喜びを感じてもらうことが管理栄養士の使命といえるでしょう。
病院での仕事は、「給食部門」と「臨床部門」に大別されます。給食部門では一般食・治療食の献立作成に加え、調理指導・発注業者の選定・食事のアンケートなどを行うのが一般的です。食事は治療の一環であるため、患者の病状把握は欠かせません。
臨床部門では、栄養管理計画書の作成や栄養指導、栄養管理方法の提案などを行います。
医師や看護師、薬剤師などの他職種と連携した栄養サポートチームを設置する病院も増えていて、管理栄養士に求められる役割は多くなっています。
保健所などの公的機関
地方自治体や保健所、保健センターなどの行政機関で働く管理栄養士および栄養士は、「行政栄養士」と呼ばれます。公務員として勤務するため、管理栄養士国家試験と公務員試験の2つの試験に合格しなければなりません。
公務員の管理栄養士は採用枠が少ない上に募集時期が決まっていないため、就職難易度はかなり高くなると見てよいでしょう。
地域住民の健康を守ることが主な使命で、健康政策の企画立案や健康相談、講習会の開催などに携わります。
食品メーカーや製薬会社
食品メーカーや製薬会社で活躍する管理栄養士は、商品開発や研究に関わるのが一般的です。
お菓子・お弁当・離乳食・健康食品・ドリンクなどを製造している食品メーカーでは、豊富な栄養知識を生かしてメニューの企画・開発を行います。商品開発はプレッシャーが大きいですが、自分のアイデアが形になったときの喜びはひとしおです。
健康食品を取り扱う製薬会社や化粧品会社でも、商品の企画・開発に携わる機会があります。食や健康に関連する場所であれば、どこにでもニーズがあるといってよいでしょう。
求められる管理栄養士になるには
管理栄養士の需要は拡大が見込まれますが、資格さえ取得すれば安心というわけではありません。有資格者が増え続ければ飽和状態になり、活躍できる人とできない人の差が生まれるでしょう。
人々に求められる管理栄養士になるには、どのような努力が必要なのでしょうか?
相手に寄り添える管理栄養士を目指す
栄養の計算や献立の作成だけならAIにもできますが、相手に合わせたきめ細やかな配慮ができるのは人間だけです。食事をする喜びや幸せを感じてもらえるように、食べる相手に寄り添える心を養いましょう。
食や健康にまつわる仕事は、1人の力では完結できません。医療スタッフや介護職員、調理師などと関わり合いながら、チームプレーで職務を遂行します。どの職場でも、コミュニケーション力を備えた人材が求められるでしょう。
ただ単にコミュニケーションができるだけでなく、相手に指示を出したり、現場をうまくまとめたりする力も必要です。
関連資格を取得するのもおすすめ
キャリアアップの手段として、ダブルライセンスの取得が挙げられます。管理栄養士と相性のよい資格をいくつか取得しておけば、キャリアアップにつながるでしょう。
- 公認スポーツ栄養士
- 在宅訪問管理栄養士
- フードコーディネーター
- 食育健康アドバイザー
- 食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士
公認スポーツ栄養士の資格を取得すると、アスリートや競技者に対し、栄養面からの助言・提案を実施する上で、専門性や信頼性を高められます。
高齢者数の増加と栄養ケアサービスの需要拡大を見据えて、在宅療養者の疾患・病状・栄養状態に適した栄養食事指導(支援)ができる在宅訪問管理栄養士の資格を取得するのもおすすめです。
食の大切さや食べる喜びを伝えたい人は、フードコーディネーターや食育健康アドバイザーの資格に挑戦してみましょう。
近年は、食物アレルギー罹患率が増加傾向にあるため、食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士の資格を取得する人も多いようです。
公認スポーツ栄養士とは|特定非営利活動法人 日本スポーツ栄養学会
在宅訪問管理栄養士 認定制度について|一般社団法人 日本在宅栄養管理学会 訪栄研
フードコーディネーターとは | 特定非営利活動法人 日本フードコーディネーター協会
食育健康アドバイザー®資格認定試験 | 日本安全食料料理協会【JSFCA】
食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士 | 公益社団法人 日本栄養士会
人々の健康を守る管理栄養士
超高齢化社会にある日本では、管理栄養士の需要は着実に増えています。AIに代替されるといううわさも耳にしますが、現段階では仕事がなくなることはないでしょう。
応用性が高く、介護・スポーツ・ヘルスケア・美容といったさまざまなシーンで活躍が期待できます。変化する時代のニーズに応えるためにも、知識やスキルを鍛え高めていく必要があります。
就職・転職を考えている有資格者は、求人検索サイト「スタンバイ」で、活躍できる職場をチェックしてみましょう。
鎌倉女子大学を卒業後、管理栄養士国家資格を取得。食品メーカーでコンビニエンス向け商品の企画開発、営業を経験後、給食委託会社へ転職。給食事業の新規事業立ち上げ、エリアマネージャーを経験後、栄養士としての施設勤務を経て独立。おばんざいカフェ「おはしごはん」の主宰およびレシピ監修、セミナー講師など多岐にわたり活動中。
監修者のコメント
今までは病院や高齢者施設、学校給食で働くというイメージの強かった管理栄養士ですが、最近では健康志向の高まりも影響し、企業や飲食店、フリーランスなど活躍できるフィールドが増えています。乳幼児から高齢者まで、すべての年代で管理栄養士のサポートを必要としている方がいらっしゃいます。相手の感情や嗜好、癖などを考慮したオーダーメイドの栄養ケアはAIには出来ない仕事だと思いますので、管理栄養士として必要なコミュニケーションスキルを高めていただきたいと思います。