不動産鑑定士の将来性は?現状や今後の動向、仕事内容について解説

不動産鑑定士は、土地や建物の取引ニーズに対応し、当該不動産の適正価値を鑑定する専門家です。国家資格としても有名なので、取得を目指している人も多いでしょう。不動産鑑定士を目指す人は、仕事の現状や将来性、仕事内容などを把握するのがおすすめです。

不動産鑑定士の現状について

不動産鑑定士

(出典) pixta.jp

不動産鑑定士は不動産の価値を算定するプロフェッショナルであり、不動産の利用に関してコンサルティングや助言なども行う仕事です。適正な不動産取引には欠かせない存在ですが、近年は仕事が減っているといった声もあります。

まずは、不動産鑑定士の現状について押さえておきましょう。

仕事が減っているのは本当か?

不動産鑑定士の将来性に関しては多くの専門家が言及しており、全体として仕事が減っている点はよく指摘されます。

事実、日本国内では長引く不況で、2000年代に入ってから不動産の取引が減少傾向にあり、それに伴って、不動産鑑定士の関わる案件も減っている状況です。

不動産鑑定士は1950年代半ばから1970年代初めの高度成長期に誕生した資格で、当時は人口の増加とともに不動産取引の数も増えていました。

不動産鑑定士も多くの案件を抱えていましたが、近年はすでに「家余り」と呼ばれる状態にもあり、今後はさらに少子高齢化が進み、住宅ニーズも減少し続けるでしょう。市場規模の縮小が進んでいるため、不動産鑑定士の将来を危ぶむ声は少なくありません。

試験難易度の高さが鑑定士減少の背景に

市場規模自体が縮小傾向にあるのに加えて、不動産鑑定士の資格試験はとりわけ難易度が高いといわれており、受験者数が減少傾向にあります。結果として、不動産鑑定士になる人も減っている状況です。

近年の受験者数はおよそ1,400~1,700人で、合格率は短答式試験で約32%、論文式試験で約14%となっており、他の資格試験に比べても狭き門であることが分かります。

さらに、試験の難易度が原因で受験を断念する人が多いのに加えて、上記のように業界全体で仕事が減っているので、将来性を疑問視して受験を取りやめる人もいます。

資格難易度と収入が見合わないという声も

難易度の高い資格試験を突破し、晴れて不動産鑑定士として働けるようになったとしても、さほど高収入は期待できず、資格取得に要する手間や時間と収入が見合わないといった声も目立ちます。

不動産鑑定士の収入は人によって大きく異なるため、参考とするデータによって結果に大きな差が出ます。しかし全体としてみれば約580万円が平均年収とされており、同じ国家資格である弁護士や公認会計士、税理士などと比較しても、それほど高い水準にはありません。

一方、日本人全体の平均給与は年間で約497万円です。不動産鑑定士の試験全体を通じての合格率が4~5%程度である点を考えれば、数年かけて勉強して資格を取得する労力に対して、十分なリターンがあるのか疑問を抱く人がいるのも不思議ではないでしょう。

参考:不動産鑑定士 - 職業詳細 | job tag「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」

参考:賃金構造基本統計調査 令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業大分類 1 学歴、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額 (産業計・産業別) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

不動産鑑定士の仕事内容

不動産業者

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不動産鑑定士の具体的な仕事内容も押さえておきましょう。大きく分けて不動産鑑定評価書の作成業務と、コンサルティング業務に分かれます。

不動産鑑定評価書の作成業務

不動産鑑定士にとって、取引の対象となる不動産の地理的状況や市場価値などを考慮して、「不動産鑑定評価書」を作成するのが代表的な仕事です。

これは不動産鑑定士の独占業務とされており、不動産の鑑定評価基準に基づき、原価法や取引事例比較法、収益還元法といった手法を用いて適正評価額を算出します。

不動産鑑定評価書は不動産取引に関する公的な手続きに必要な書類であり、裁判でも利用される信頼性の高いものです。そのため公的な不動産取引では、必ず不動産鑑定士により当該不動産の鑑定評価書が作成されます。

コンサルティング業務

不動産の取引に関するさまざまな相談に応じたりコンサルティングを行ったりする業務も、不動産鑑定士の仕事の1つです。

クライアントから土地や建物の売買や貸借に関する相談を受けるケースも多く、要望に応じて対象となる不動産の価値を判断したり、相手にとって効果的な利用法を提案したりする場合もあります。

本格的な不動産鑑定評価書の作成には至らなくても、専門家の見地から、クライアントに有効なアドバイスをするケースは珍しくありません。法人がクライアントの場合、海外の不動産取引に関して助言を求められる場合もあります。

不動産鑑定士は将来性がない?

不動産

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不動産鑑定士は市場規模の縮小や収入面などから、将来性がないと考える人もいるのは事実です。

ただし、少子高齢化によって今後は相続に関する案件が増えたり、広く不動産に関する相談に応じたりと、不動産取引に関して悩みを抱える人の受け皿になるチャンスもあります。

相続に関する案件が増える可能性

国内の少子高齢化を背景として、今後は相続に関する案件が増えることは間違いないでしょう。不動産関連の相続案件も増えると考えられるので、その面では不動産鑑定士の役割は増えると予想できます。

将来の相続にまつわるトラブルを避けたい人は多いため、不動産の専門家という見地から有益な調査やアドバイスができれば、クライアントのニーズをつかめるでしょう。

また、不動産自体の数や取引が減少したとしても、既存の不動産の活用に関して、調査が必要とされる場面もあります。不動産投資に積極的、または都市開発に注力する企業などは、専門家のサポートを必要としているケースが少なくありません。

相談・コンサルティング業務の比重が増す

高度成長期に比べて、不動産鑑定に関する案件はかなり減少しているので、より業務範囲を広げて、相談業務やコンサルティングに軸足を移している不動産鑑定士が目立ちます。

これらの分野は上記の通り相続案件の増加もあり、今後需要が増す可能性があるでしょう。不動産の取引だけでなく、相続や投資、管理運用などの分野でも積極的に相談を受けるようにすれば、活躍の場を広げられます。

不動産鑑定士の世代交代も必要に

受験者数が減っている関係もあり、不動産鑑定士の平均年齢が高くなってきています。不動産鑑定士の有資格者で最も多いのが40代で、次いで60代、50代の順です。70代以降の有資格者もかなり多いのが現状といえます。

少子高齢化で今後さらに若い世代の不動産鑑定士が少なくなる可能性があるので、20~30代の世代にとっては、資格の希少性を打ち出せるチャンスともいえます。

将来、不動産鑑定士としての地位を確立するために、早いうちから資格を取得して、営業活動を始めるのもよいでしょう。

AIの台頭による影響は?

不動産ビジネス

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近年はAI(人工知能)の発展が著しく、AIに仕事を奪われると危惧する人も増えています。不動産業界でもAIの活用が進んでいますが、不動産鑑定士への影響はどうなのでしょうか?

AIの特性を理解して生かすことが重要

AIの台頭は不動産業界のみならず、あらゆる方面に影響を与えています。不動産鑑定士の仕事に関しても、定型業務や不動産の評価に関する一部の作業が、AIに代替される可能性は高いでしょう。

しかし、不動産の鑑定は独占業務であり、鑑定書の作成やコンサルティング業務に関して、完全に仕事を奪われる可能性はまず考えられません。

むしろAIをうまく活用して、業務効率化や生産性の向上に努めることで、クライアントにより高い価値を提供できるようになるでしょう。そのためには、AIの特性を理解して活用できるようになるのに加えて、自らの専門性を高める努力が求められます。

不動産鑑定士として活躍するには?

不動産診断

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不動産鑑定士として活躍するには、まず資格の取得を目指す必要があります。不動産鑑定士の仕事に就くためのルートや、主な就職・転職先について知っておきましょう。

資格の取得と実務修習が必要

まずは短答式試験と論文式試験の不動産鑑定士資格試験に合格し、その後に国土交通大臣の登録を受けている機関において、1年あるいは2年の実務修習を修了する必要があります。

実務修習の修了考査で修了が確認できれば、国土交通大臣の確認手続きが行われ、その結果の通知後に不動産鑑定士として登録が可能です。実務修習は現状、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会でのみ可能となっています。

不動産鑑定士資格の試験概要

不相談鑑定士の資格試験は択一式の短答式試験と論文式試験で構成されており、誰でも受験が可能です。例年、短答式試験は5月、論文式試験は8月に実施され、不動産に関する行政法規や鑑定評価に関する内容が出題されます。

論文式試験には、民法や経済学、会計学などの知識も必要です。詳しい試験内容については、国土交通省の公式サイトで確認しておきましょう。

参考:不動産鑑定士試験 - 国土交通省

不動産鑑定士の就職・転職先

不動産鑑定士の勤め先としては、不動産会社や不動産鑑定事務所、コンサルティング会社などが挙げられます。不動産物件に関する評価はもちろん、相談業務も担当できるので、企業内鑑定士として活躍している人も多いのです。

また、金融機関からの融資のために担保物件を評価したり、不動産運用のアドバイスをしたりといった仕事に従事する不動産鑑定士も少なくありません。不動産の専門家として位置づけられているので、幅広い分野で活躍できます。

将来的に独立・開業する道もある

不動産の価値算定が独占業務である点を生かして、独立・開業する道もあります。

資格取得後すぐに不動産鑑定事務所を開業する人もいますが、まずは企業内鑑定士として経験と実績を積んでから独立し、それまでの人脈を生かして営業活動を進める人も多いのです。

税理士や弁護士など、他の士業と協力しながら案件を請けるのもよいでしょう。どういった選択をするにせよ、独立・開業すれば収入は自分次第なので、万全な計画を立てた上で準備を進めることが重要です。

将来性を見据えて不動産鑑定士の道を選ぼう

不動産業者のイメージ

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不動産鑑定士は不動産鑑定評価書の作成やコンサルティングが仕事で、不動産市場の縮小などを理由に、将来性を危ぶむ声も聞かれます。

しかし、今後は相続に関する案件が増える見込みであるのに加えて、コンサルティング業務の領域も広がっているため、工夫次第で安定した収入を得ることも可能です。自分なりに将来性を見据えた上で、資格試験に臨むべきか判断しましょう。

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