中小企業診断士は、中小企業の経営に関する専門知識が身に付く国家資格です。しかし、将来性がない資格ともいわれています。中小企業診断士の将来性や今後需要が増える分野のほか、収入アップに結び付ける方法について確認しましょう。
中小企業診断士は将来性なしといわれる理由
中小企業診断士とは、中小企業の経営に関して診断・助言を行う専門家です。しかし、将来性がないという意見を聞いたことがある人もいるかもしれません。なぜ将来性がないとされるのか、理由を3つ紹介します。
国家資格だが独占業務がない
中小企業診断士には将来性がないとされる理由の1つは、国家資格ではあるものの、独占業務がない点です。独占業務とは、資格を取得していなければできない仕事を指します。
例えば、医師や弁護士などの資格は、取得していなければその業務には携われません。公認会計士や宅建士などの資格にも、独占業務が定められています。
しかし、中小企業診断士には独占業務が存在しないため、資格を取得していなくても業務に携わることが可能です。そのため、資格に希少価値がなく、取得する意味があまりないと考える人が多い可能性があります。
資格を取得するだけでは十分に稼げない
中小企業診断士の資格を取得するだけでは、収入に結び付かないという理由もあります。中小企業診断士の資格を生かして収入を得るには、企業内の経営部門で活躍するか、中小企業向けのコンサルタントとして独立するというのが代表的な方法です。
しかし、自社の経営診断には外部のコンサルタントを求める経営者が多いため、企業内で活躍したい会社員にとっては、収入アップというメリットがほとんどありません。独立する場合も、営業力が必要となるなど、+αのスキルが求められます。
このように、資格を取得してもそれだけではすぐに生かせない点が、将来性がないという意見につながるのでしょう。
就職に直接役立ちにくい
資格を取得しても就職活動に直接役立たない点も、将来性のない理由として考えられます。中小企業診断士は、特定の分野の専門性を極めるというより、経営に関する汎用的な知識を身に付けるといった側面のある資格です。
そのため、取得していると圧倒的に就職活動で有利になるというより、ビジネスパーソンとしてのスキルアップに役立つ資格といえます。
資格を生かした職業への転職など、将来的に役立つ可能性はありますが、取得自体が仕事に直結するわけではないのがネックです。
公認会計士や宅建士のように、資格取得が条件となる職種がない点が、将来性のなさにつながっている可能性があるでしょう。
中小企業診断士に将来性がある理由
中小企業診断士には将来性がないといわれる一方で、需要はなくならないという意見もあります。将来性があると考えられる理由についても確認しましょう。
AIに代替されにくい
中小企業診断士の仕事はAIに代替されにくいというのが、理由の1つといえるでしょう。中小企業診断士の資格を生かせるのは、企業の経営企画・マーケティング戦略・財務・人事・労務管理などに関する、コンサルティング業務です。
コンサルティングの仕事においても、AIによって自動化できる部分は存在します。しかし、クライアントとのコミュニケーションや、数字以外の要素の読み取りなど、人間だからこそできる思考が求められる業務も多いでしょう。
そのため、すべてがAIに代替される可能性は低いといえます。AIが進化しても、生き残る可能性のある資格です。
コンサルティングの需要はなくならない
コンサルティングの需要そのものがなくならないというのも、将来性がある理由です。一般社団法人中小企業診断協会の「データでみる中小企業診断士2016」によると、今後のコンサルティング需要について「伸びると思う」と答えた中小企業診断士は25.9%でした。
「徐々に伸びると思う」の36.1%を合わせると、約60%の中小企業診断士がコンサルティングの需要拡大を見込んでいます。
新規事業・新分野進出などに関する支援のニーズが増えると予想されるほか、コロナ禍を境に業務改革が必要になった企業が増えている点も背景にあるでしょう。
また、中小企業においてもDXが進んでおり、IT分野でのコンサルティングも今後増えていくと予想されます。
専門性が高い
中小企業診断士の専門性の高さも、将来性に関係します。中小企業診断士の業務は、企業の経営状況を診断し、適切な助言をすることです。
独占業務がないため、資格がなくてもできる仕事ではあるものの、企業経営に関する専門的な知識・経験は必要とされます。DXなどのIT化に関するコンサルティングでは、経済の見通しだけでなく、ITに関する知識も必要です。
中小企業診断士は、資格取得の際にさまざまな専門知識を習得します。専門知識を生かして企業の成長戦略を支援できるのは、経営のスペシャリストである中小企業診断士の強みといえるでしょう。
また、資格取得が難しく参入障壁も高いことから、競合が少ないというメリットもあります。
中小企業診断士の需要が伸びる2つの分野
中小企業診断士は、将来性が期待できる資格です。特に今後需要が伸びると考えられる分野を、2つ紹介します。
DX・IT化
DX・IT化に関するコンサルティングにおいて、今後も中小企業診断士の需要は増えていくと考えてよいでしょう。
中小企業診断士が持っている経営戦略や、ITなどに関する幅広い知識は、DXによるビジネスモデルの変容・企業文化の改革などと親和性が高いのが理由です。
中小企業の経営者はITリテラシーが身に付いている人ばかりではないため、DX・IT化の必要性は感じているものの、どこから手を付けてよいか分からないというケースも少なくありません。
ITに関する専門知識をアップデートしておくことで、DX・IT化の分野にも業務範囲を広げていけるでしょう。
M&A・事業承継
事業承継は、中小企業の経営者が直面する課題の1つです。中小企業の場合、経営者の親族や従業員が事業を引き継ぐ事例もありますが、後継者が見つからず廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。
事業承継の課題は、一企業の存続だけでなく、優れた技術・ノウハウの継承にも関わる問題です。行政もさまざまな支援策を打ち出しており、事業承継のためにM&Aを選択する企業もあります。
とはいえ、M&Aによる事業承継を考えている企業でも、どのように進めてよいか分からないというケースも多いでしょう。行政・金融機関と中小企業をつなぐパイプ役になれる中小企業診断士は、M&Aの領域においても専門知識を生かした活躍が期待されます。
中小企業診断士を取得するメリット
中小企業診断士の資格を取得すると、具体的にどのようなメリットがあるのか気になる人も多いでしょう。主なメリットを3つ紹介します。
経営に関する知識が身に付く
中小企業診断士の資格を取得する過程で、経営に関する専門知識を体系的に学べます。経済学・財務・企業経営理論・運営管理・経営法務などに関する幅広い知識を得られるので、経営コンサルタントとして活躍したい人にはおすすめです。
会社を経営している場合は、自社の経営状況の診断・事業戦略の策定などを客観的に行えます。企業に所属している会社員も、身に付けた知識を業務改善・組織全体の課題解決に生かせるでしょう。起業する人へのアドバイスや手続き代行なども可能です。
活躍の場が広がる
財務会計・法律・人事・IT・生産管理などに関する幅広い知識が身に付くため、社内のあらゆるフィールドに活躍の場が広がります。新規プロジェクトで責任者を務めたり、社内の経営部門などの仕事を任されたりする可能性もあるでしょう。
特に管理職や経営者を目指している人には、おすすめの資格です。専門性の高い国家資格なので、コンサルタントを職業としている人にとっては、信頼感・安心感を持って仕事を任されるというメリットもあります。
これから独立を考えている人にも役立つ資格といえるでしょう。
人脈形成につながる
中小企業診断士の資格を取得すると、人脈を広げられるというメリットもあります。中小企業診断士として業務にあたるためには、資格取得後に実務補習を受けなければなりません。実務補習はグループで行うので、中小企業診断士の人脈形成につながります。
中小企業診断士として協会に加入すれば、会社員をしているだけでは接点を持てない職種・業種にも、人脈を広げていけるでしょう。社外の人脈を構築しておくと、転職・独立の際に役立ちます。
中小企業診断士の資格を通して新たにつながった人が、仕事のパートナーや共同経営者になる可能性もあるでしょう。
中小企業診断士が収入アップを狙うには?
中小企業診断士の資格で収入アップを狙うには、どのような方法があるのでしょうか?最後に、おすすめの方法を2つ紹介します。
ダブルライセンスで差別化を目指す
中小企業診断士のほかに、別の関連資格も取得してダブルライセンスを実現するのもおすすめです。ダブルライセンスにより、追加で取得した資格の領域にも活躍の場を広げられるというメリットがあります。
ダブルライセンスを検討する場合は、中小企業診断士と親和性の高い資格を選ぶのがポイントです。
中小企業診断士とのダブルライセンスとして、宅建士・公認会計士・行政書士・社会保険労務士などが選択肢として挙げられます。自分が強化したい領域の資格を取得するとよいでしょう。
副業で稼ぐ
会社が許可しているのであれば、副業にチャレンジしてみるのもおすすめです。中小企業診断士の資格を取得している人の中には、本業で会社員をしながら副業で稼いでいる人も数多く存在します。
ただし、副業による収入が年間20万円を超えると確定申告をしなければならないため、会社に内緒で副業をする場合は注意が必要です。
中小企業診断士の資格を生かせる副業には、コンサルティング業務のほか、補助金・助成金の申請支援やセミナー講師、記事・動画による発信など、さまざまな選択肢が考えられます。
副業を通してある程度の実績・人脈をつくってから、コンサルタントとして独立するのもよいでしょう。
中小企業診断士は将来的にニーズのある資格
中小企業診断士は、資格を取得しても仕事に直結しない場合が多いため、将来性がないと考える人もいるでしょう。しかし、資格取得で身に付けた専門的な知識は、企業経営やコンサルティングなどの業務に携わる人にとって非常に有益です。
DXや事業承継などの課題を抱える中小企業は多く、経営に関して助言できる中小企業診断士のニーズは、将来的にもなくならないと考えてよいでしょう。
中小企業診断士の資格を生かした仕事への転職を考えている人は、求人検索エンジン「スタンバイ」を活用するのがおすすめです。スマホからも手軽に検索できるので、通勤などの隙間時間を使ってチェックしてみるとよいでしょう。