歯科衛生士は、歯科医師の指示のもとで診療を補助する仕事で、歯石除去・口腔ケアなども担当する国家資格です。結婚・出産後も続けられる仕事として人気がありますが、将来性はどうなのでしょうか?歯科衛生士の現状や活躍できる場とともに解説します。
歯科衛生士に将来性はある?
歯科衛生士が活躍できる場は全国にあり、国家資格ということで、安定して働ける職種の1つとして知られています。現状でもとても人気のある仕事ですが、将来性はあるのでしょうか?
高齢化社会に欠かせない職業
日本は少子高齢化が急速に進んでおり、今後の高齢化社会において、歯科衛生士の仕事はますます重要性を増します。
2023年に内閣府が発表した「令和5年版高齢社会白書」によれば、2022年10月時点で、日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は29%です。さらに、2070年には2.6人に1人が65歳以上、4人に1人は70歳以上になると試算されています。
また、2017年に日本歯科衛生士会が発表した「歯科衛生士の人材確保・復職支援等に関する検討会 報告書」によれば、歯科衛生士には子どものむし歯予防だけではなく、高齢者の口腔ケアも求められるようになっています。
これらのデータを見る限り、高齢化が進む将来において、歯科衛生士が活躍できる場は増えると考えられるでしょう。
参考:令和4年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況(令和5年版高齢社会白書)|内閣府
参考:歯科衛生士の人材確保・復職支援等に関する検討会 報告書|日本歯科衛生士会
生涯有効な国家資格
歯科衛生士は国家資格であり、1度取得すると生涯にわたって活躍できる点も、将来性があるとされる理由の1つです。
口腔の健康は人間の健康に不可欠な分野であり、高い専門性が必要とされるので、1度資格を取得すれば、年齢や出産・結婚などのブランクに関係なく、長く働けるのが特徴です。
実際、結婚・出産後に歯科衛生士として活躍している人は多く、配偶者の転勤などにより居住地が変わっても、転居先の地域にある歯科医院で働く人も珍しくありません。自分のライフスタイル・人生設計などに応じて、柔軟にキャリアを築けるのが魅力です。
歯科衛生士の現状も確認
歯科衛生士は、今後も長く活躍できることが見込める職種ですが、歯科業界における現状はどうなのでしょうか?転職市場では人手不足から求人数が多い一方で、離職率も高い傾向があります。
人手不足で求人が多く、選択肢が広い
厚生労働省の「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によれば、2021年度における全国の歯科診療所の数は6万7,899軒です。
過去20年の施設数の推移を見るとほぼ横ばいであり、今後大幅に減るとは考えにくいので、就職・転職先は豊富にあると考えて差し支えないでしょう。
また、全国歯科衛生士教育協議会の「令和5年度 調査報告」では、2021年度の歯科衛生士の求人倍率は22.6倍と報告されています。
業界全体として人手不足の状況であり、人材に対する需要は高いことが分かります。歯科医院は全国各地にあるので、勤め先の選択肢が広い職種ともいえるでしょう。
参考:令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況|厚生労働省
離職率は高い傾向
歯科衛生士は職場の選択肢が多い一方で、職場への定着率が低い傾向にあり、離職率も高めなのが実態です。
2020年に発表された日本歯科衛生士会の「歯科衛生士の勤務実態調査報告書(第9回)」によれば、歯科衛生士の勤務先の変更経験として、「勤務先を変わったことはない」という回答が22.2%でした。
一方、勤務先を1度でも変えた経験のある人は全体の76.4%であり、多くの歯科衛生士が職場を変えていることが分かります。
さらに、日本歯科衛生士会の「歯科衛生士の人材確保・復職支援等に関する検討会 報告書」(2017年発表)も注目に値するでしょう。
名古屋市歯科医師会附属歯科衛生士専門学校が、卒業生を対象に実施したアンケート調査では、2年以内に離職した歯科衛生士が挙げた退職理由として、職場環境・労働条件・採用後のミスマッチなどが挙げられています。
他の職種と同様に、職場環境・労働条件などを理由として、多くの人が職場を変えているのです。ただし、歯科業界に関しては、国が「復職支援・離職防止等推進事業」などを実施しており、今後の待遇改善に期待が持てる点も知っておきましょう。
参考:歯科衛生士の勤務実態調査報告書(第9回)|日本歯科衛生士会
参考:歯科衛生士の人材確保・復職支援等に関する検討会 報告書|日本歯科衛生士会
参考:令和5年度 歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業 実施団体公募要領|厚生労働省
歯科衛生士が活躍できる場所は?
歯科衛生士は全国で活躍できる仕事ですが、具体的にどういった場所が勤務先の候補なのでしょうか?歯科医院はもちろん、病院・介護福祉施設、さらに企業の商品開発や講師といった分野でも仕事ができる可能性があります。
歯科医院
歯科衛生士といえば、歯科医院で歯科医師のサポートをする仕事として知られています。全国各地にある歯科医院で働ける可能性があり、子どものむし歯予防処置のためのフッ素塗布、歯周病の予防や治療のための、歯のクリーニングや、ブラッシング指導など、さまざまな役割を担っています。
歯科医院は一般歯科をはじめ、矯正歯科・小児歯科など、特定分野に特化したところも多く、個人で開業している医院がほとんどです。
人手不足で常にスタッフを募集している医院もあるので、条件が合えばスムーズに就職・転職できる可能性があります。
病院
個人開業医より少ないですが、総合病院や、大学が運営している病院内の歯科・口腔外科なども、歯科衛生士の勤務先の1つです。
一般的な歯科医院と同様、仕事内容は歯科医師のサポートや患者の口腔ケアなどですが、より治療が難しい症状の患者の処置を経験する場合も少なくありません。
また、口の中のみならず、病気のケアを求められるケースもあります。幅広い分野の知識や、薬に関する知識も求められるでしょう。本格的な医療現場で働きたい人にとっては、やりがいのある職場といえます。
介護福祉施設
高齢者の増加に伴い、介護福祉施設に勤務する歯科衛生士も絶対数としては少ないですが、以前よりも増加傾向にあります。高齢者の栄養補給において、口腔ケアは非常に重要です。
摂食・咀嚼・嚥下(えんげ)といったリハビリテーションの領域においても、歯科衛生士の知識・技能が求められる機会が増えています。
歯科衛生士のほかにケアマネージャーなど、福祉関連の資格を取得する人も多いようです。広く高齢者介護に携わりたいと考えている人は、さらに活躍できる可能性が高いでしょう。
商品開発や講師という道も
全体としてはかなり少数ではありますが、各地域の保健センターなどの行政機関で、公務員として歯科衛生に関わる仕事をしている人もいます。仕事内容としては、乳幼児の歯科検診・歯磨き指導をはじめ、高齢者への介護予防事業や、地域の保健活動などを行います。
また、一般企業やメーカーなどで医療機器や生活用品などの開発に携わる人や、歯科衛生分野の講演・セミナーの講師として働く人もいます。
歯科衛生士の魅力ややりがいは?
歯科衛生士として働く魅力としては、社会への貢献度が高い点や専門分野でスキルアップを目指せる点、プライベートを充実させられる点などが挙げられます。それぞれ見ていきましょう。
社会への貢献度が高い
歯科衛生士は、患者の口腔内の健康維持に携わるので、社会貢献度の高い専門職といえます。人間の生活に欠かせない分野であり、治療・ケアを通じて患者から直接感謝される場面も多く、仕事のやりがいにつながるでしょう。
日本歯科衛生士会の調査によると、9割以上の歯科衛生士が「人や社会に貢献できる」「人の命や健康を守る仕事である」点をやりがいと考えています。
参考:歯科衛生士の勤務実態調査報告書(第9回)|日本歯科衛生士会
専門分野を伸ばしてスキルアップを目指せる
経験を積んで努力することでスキルアップが目指せる点も、歯科衛生士の魅力の1つです。
歯科衛生士は国家資格であり、今後さらに活躍の場が広がる可能性のある専門職です。口腔衛生の分野にもさまざまな領域があり、自分の興味・関心に従って、専門分野の技能を伸ばせます。
また歯科衛生士の資格に加えて、介護領域の資格の取得をする人も増えており、独自の立ち位置で社会貢献ができる可能性がある点も、仕事としてのやりがいにつながるでしょう。
プライベートを大切にできる
歯科衛生士が活躍することの多い歯科医院は、病院に比べて夜勤がなく、プライベートも充実させやすい傾向にあります。一部には夜間も対応している歯科医院もありますが、多くは19時には診療を終えるので、夜間は自分の時間を作れるでしょう。
また、日曜・祝日にしっかり休める医院が多いため、生活リズムを作りやすく、家族との時間も大切にできます。さらに有給休暇を利用すれば、連休を取得できる場合も多いでしょう。家庭・プライベートと両立しながら活躍できる仕事です。
歯科衛生士の主なキャリアパス
歯科衛生士のキャリアパスとしては、歯科医院でキャリアを積む道と、新たに資格を取得するなどして専門性を高める道があります。すでに歯科衛生士として働いている人はもちろん、これから目指す人も自分に合ったキャリアを考えてみましょう。
歯科医院でキャリアを積む
歯科医院で歯科衛生士として働く場合、経験を積むことで、さまざまな分野にチャレンジできます。歯科衛生士に任される仕事は増えているので、患者のさまざまな治療に貢献できる可能性があり、専門家として頼られる存在として活躍できるでしょう。
また、歯科衛生士は管理職を任されるケースも多いので、チーフや主任としての立場を目指すのもよい方法です。管理職としての経験を積んでおけば、他の歯科医院・病院などに転職する際にも、優遇される可能性があります。
資格を取得して専門性を高める
ケアマネージャー(介護支援専門員)の資格を取得し、ダブルライセンス保持者として、介護施設で活躍するといったキャリアも考えられます。
ほかにも、福祉関連の資格をはじめ、歯科衛生士の資格と親和性の高い資格は多いので、複数の資格を取得して独自の立ち位置で活躍するのもよいでしょう。
また、歯科衛生士としての経験を積んだ上で、さらに「認定歯科衛生士」の資格を取得すれば、専門性がより高まり仕事の幅も広がります。
近年は、ホワイトニング・インプラントなどの分野のニーズも高まっているので、こうした領域で活躍するのもおすすめです。
歯科衛生士は将来的にも活躍できる仕事
少子高齢化が進む日本では、高齢者の口腔ケアなど、歯科衛生士が活躍できる領域が広がっています。
現状において人手不足の傾向もあるので、安定した仕事に就きたい人にとっては、歯科衛生士は有望な選択肢の1つといえます。社会への貢献度が高く、プライベートも充実させやすいので、この機会に資格の取得を目指してみましょう。
歯科衛生士として就職・転職を目指すならば、歯科業界の求人を豊富に掲載している「スタンバイ」の利用がおすすめです。勤務地や雇用形態をはじめ、さまざまな条件で検索でき、転職に関する有益な情報も得られるでしょう。
東京医科歯科大学歯学部附属歯科衛生士学校卒。早稲田大学大学院創造理工学研究科修了。歯科衛生士として歯科医療の品質、効率化向上の新手法を追求。噛む重要性を訴え、表情筋エクササイズや口もとの美の提案に尽力。全国での講演、ミスユニバースセミナー担当、NHK「朝イチ」や「きれいの魔法」等メディア出演多数。
著書:
顔の老化は咀嚼で止められる
監修者のコメント
歯科衛生士は、人の健康を生涯にわたって支えることができる仕事です。働く場所は、個人開業医が全体の8割ほどですが、病院歯科や企業、行政などもあります。高齢化社会においては、訪問歯科での口腔ケアの需要も高まっています。女性が活躍する職業ですが、男性歯科衛生士も活躍しています。歯科衛生士の資格に興味のある方は、一度専門学校や大学などを見学することをおすすめします。