精神保健福祉士は、福祉系の国家資格の1つです。近年さまざまな場で活躍が期待されている一方で、将来性がないという意見を聞いたことがある人もいるかもしれません。精神保健福祉士には将来性がないといわれる理由や、今後の需要について解説します。
精神保健福祉士の将来性が不安視される理由は?
精神保健福祉士は、福祉の仕事に関わる人の中では知名度の高い資格です。しかし一部には、将来性について不安視する人も少なくありません。精神保健福祉士に将来性がないとされる主な理由を、2つ解説します。
業務独占資格ではない
精神保健福祉士は名称独占資格のため、資格の取得が必須となる独占業務がない点が、将来性のない理由とされています。精神保健福祉士の主な仕事は、精神的な疾患を抱えている人・メンタルケアが必要な人への相談援助・支援です。
ところが、これらの業務は精神保健福祉士だけが担える仕事ではありません。社会福祉士・臨床心理士など、他の専門家でも対応できます。
そのため、資格を保有していることに大きな価値を見いだせず、あえて取得する必要がないと考える人もいるのです。
精神的な負担が大きく続けられない人も多い
精神的な負担が大きい仕事のため、離職してしまう人が多いのも理由の1つとして考えられます。精神的な障害を抱える人とのコミュニケーションに、難しさを感じている精神保健福祉士は少なくありません。
相談者のネガティブな思考に引きずられたり、意思疎通がうまく進まず暴言を吐かれたりする可能性もあります。良好な関係を築こうと努力しても、スムーズに実現しない場合もあるでしょう。
覚悟を持って取り組まなければならない仕事だと理解して始めたとしても、負担の大きさに諦めてしまう人は数多くいるのです。
精神保健福祉士の現状
精神保健福祉士は、本当に将来性のない仕事なのでしょうか?登録者数や年収などから、精神保健福祉士の現状を確認しましょう。
登録者数は全国で約10万人と少なめ
「公益財団法人 社会福祉振興・試験センター」が発表している2023年7月末のデータによると、精神保健福祉士の登録者数は全国で10万3,799人です。
その他の福祉系資格を見ると、社会福祉士は28万6,841人、介護福祉士は193万9,388人となっており、精神保健福祉士の数は少ないことが分かります。また、1999年からの登録者数の推移を見ても、3つの資格の中で常に一番少ない結果になっています。
しかし今後、精神保健福祉による支援の需要は高まると見られており、現在の登録者数では人手が足りなくなる可能性があるでしょう。
参考:[資格登録]登録者数の状況:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
平均年収は働く分野で変わる
社会福祉振興・試験センターの「令和2年度就労状況調査結果」によると、調査対象となった精神保健福祉士のうち、福祉・介護・医療の分野で働く人の平均年収は404万円でした。
しかし年収の額は、勤務する施設や事業所などのほか、働いている分野によっても大きく異なる可能性があることも読み取れます。
例えば同調査によると、福祉・介護・医療の資格者を養成する学校等で働く人の平均年収は552万円となっており、福祉・介護・医療分野に比べて高額です。
この額は、国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査」による、民間給与の平均443万円と比べても高いことが分かります。これらの結果から、精神保健福祉士は就業先の選び方によって、高年収を得られる可能性のある仕事といえるでしょう。
参考:[資格登録]令和2年度就労状況調査結果:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
精神保健福祉士に将来性がある理由
精神保健福祉士の需要は、今後も高まると見込まれています。主な理由を2つ確認しましょう。
精神疾患を有する患者数が増えている
精神疾患を抱える患者数が増えている点は、精神保健福祉士の需要が高まると思われる理由の1つです。厚生労働省が2022年に発表した「第7次医療計画の指標に係る現状について」によると、精神疾患を有する総患者数は2017年時点で約419万3,000人でした。
それまでの15年間で、入院患者数は減少しつつあるものの、躁うつ病を含む気分障害やストレス関連による障害などの疾病数は増えており、外来患者の数も増加傾向にあります。
また、厚生労働省が行った医療計画の見直しにより、2013年度の第6次医療計画から、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4大疾病に、精神疾患が追加されました。
今後、精神疾患を抱える患者への対応のニーズは増えると予想されるため、精神保健福祉士の需要も高まると考えられるでしょう。
AIに代替されにくい仕事
精神保健福祉士の仕事はAIで自動化されにくいのも、将来性がある理由とされます。医療の中でも、精神医学は特に業務内容が複雑です。1人ずつ異なる患者の心をケアするには、相手の心に寄り添い、理解することが求められます。
精神疾患の症状は人によって異なるため、マニュアル化することは困難です。患者の特性や周囲の環境などによっても、適切な支援の方法は異なります。
さまざまな面において定型化されにくい業務なので、AIによる代替は難しく、将来的にも人の手が必要となると考えてよいでしょう。
精神保健福祉士の活躍が期待される主な場所
社会福祉振興・試験センターの「精神保健福祉士就労状況調査結果報告書」によると、精神科病院などの医療機関、障害福祉・介護関係の施設・事業所などが、精神保健福祉士の主な就業先です。
しかし、今後はさらに多くの場で、精神保健福祉士の活躍が期待されています。主な活躍の場を2つ確認しましょう。
参考:精神保健福祉士就労状況調査結果報告書|社会福祉振興・試験センター
一般企業
今後は、一般企業で活躍する精神保健福祉士も増えていくでしょう。近年、仕事のストレスに起因するメンタルの不調を訴える人は少なくありません。
そのため、従業員のメンタルヘルスを管理する専門家として、精神保健福祉士をソーシャルワーカーとして雇用する企業も増えています。
また、厚生労働省が打ち出した障害者雇用対策により、一般企業で障害者の雇用が推進されている点も、ニーズが高まっている理由の1つです。
民間企業には、従業員数の2.3%に相当する障害者を雇用する義務があります。従業員の障害に対する理解を深め、障害者が円滑に就業するためには、精神保健福祉士のサポートが必要です。
災害派遣精神医療チーム(DPAT)
災害派遣の場でも、精神保健福祉士の活躍が期待されています。2013年から、災害・犯罪などの被災者・被害者のメンタルをフォローする「災害派遣精神医療チーム(DPAT)」が組織されました。
DPATは、精神科医・看護師・業務調整員などの職種によって構成されており、被災地のニーズに応じて、精神保健福祉士などの専門家も派遣されます。
DPATとして派遣されると、災害拠点の病院・精神科病院・保健所などで支援するのが原則です。災害発生直後の急性期の対応だけでなく、中長期的なケアをしていくケースもあります。
精神保健福祉士のスキルアップに役立つ資格
精神保健福祉士としてスキルアップするには、他の資格も取得するのがおすすめです。精神保健福祉士の仕事に役立つ資格を3つ紹介します。
社会福祉士
社会福祉士は、精神保健福祉士とのダブルライセンスとして、多く選ばれている国家資格です。社会福祉士は精神保健福祉士と業務の領域が重なるため、試験の際に共通科目が免除になるというメリットがあります。
さらに、精神保健福祉士として1年以上の実務経験があれば、養成課程における実習科目も免除になる可能性があるでしょう。
社会福祉士も、生活が困難な人を支援するのが仕事です。しかし、精神的な疾患を抱えている人以外も対象としているため、資格を取得することで活躍の場がさらに広がります。
[社会福祉士国家試験]:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
介護福祉士
介護福祉士も、精神保健福祉士と同様に、身体または精神に障害を抱えている人の支援に携わる仕事です。ただし介護福祉士は、主に障害を抱えている人の介護や、本人・家族への介護に関する指導などを行う点が、精神保健福祉士とは異なります。
介護福祉士の資格は、介護が必要な人の支援をしたい人におすすめです。介護に関する専門知識も身に付くため、認知症の人の支援や、特別養護老人ホーム・身体障害者施設などで介護業務に携わる場合に役立つでしょう。
[介護福祉士国家試験]:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
心理カウンセラー
相談者のカウンセリング・治療に関わりたい人は、心理カウンセラーの資格を取得するとよいでしょう。心理カウンセラーは民間資格も多く、取得しやすいのが特徴です。
ただし勤務先によっては、臨床心理士・公認心理師などの資格が必要になる場合も少なくありません。心理カウンセラーの資格の中でも、精神保健福祉士の仕事と関連が深いのは「臨床心理士」です。
臨床心理士は国家資格ではありませんが、臨床心理学の専門家として、さまざまな場所で心の問題に取り組んでいます。臨床心理士として認定されるには、指定大学院・専門職大学院を修了することが必要です。
精神保健福祉士は将来性のある国家資格
精神保健福祉士の仕事は、社会福祉士・臨床心理士など、他の資格を取得している人でもできるため、将来性がないといわれるケースが少なくありません。
しかし、ストレスによるメンタル不調や、精神疾患に対する注目度が高まっている近年において、今後ますます精神保健福祉士の需要は増すと考えられます。
また、医療・福祉の場を越えて活躍のフィールドが広がっていることからも、将来性のある資格といえるでしょう。
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