ジェンダーハラスメントとは、性別を理由にした不当な仕事の割り振りや、差別的な発言などの行為を指します。個人が被害を受けるだけでなく、企業にも悪影響を及ぼすため、防止策を知っておくことが重要です。具体的な事例や原因を併せて解説します。
ジェンダーハラスメントの定義とは?
ジェンダーハラスメントは、職場で問題となる不当な行為の1つです。どのように定義されているものなのか、詳しく解説します。
性別に対する固定観念に基づくハラスメント
ジェンダーとは、英語の「gender(性・性別)」に由来する言葉です。ジェンダーハラスメントとは、性別に関して持たれる個人の固定観念に基づく嫌がらせを指します。
具体的には、性別を理由に不当な要求などをする行為です。2021年に日本労働組合総連合会が行った調査によると、「ジェンダーハラスメントを受けたことがある人」は全体の4.2%で、職場のハラスメントのうち、パワーハラスメト・セクシャルハラスメントに次ぐ結果でした。
受けた側に心理的なストレスや仕事のモチベーション低下をもたらすだけでなく、離職率の上昇や組織のパフォーマンス低下など、企業にとっても悪影響を及ぼすものです。また、加害者側が無意識のうちにしているケースが多いという問題もあります。
仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021|日本労働組合総連合会
セクシャルハラスメントとの違い
セクシャルハラスメントも性的な事柄に関する嫌がらせです。どちらも性別に関係するハラスメントという点で、混同されやすい場面もありますが、厳密には違いがあります。
セクシャルハラスメントは、業務には関係ない性的な話をしたり、必要がないのに体を直接触ったりする行為です。例えば「足がきれい」など、褒め言葉のつもりで発言した内容も、相手が性的に不快だと感じればセクシャルハラスメントに該当します。
女性だけでなく男性も対象となり得る
女性だけでなく男性も被害者になる可能性があります。性別に対する固定観念は、女性に対してのみ存在するわけではありません。
日本労働組合総連合会の実態調査では、20~50代の男性のうち、20代と40代でジェンダーハラスメントを受けたと回答している人が多いと分かりました。
調査の対象となった全ての世代において女性の割合が高いものの、男性に対する先入観や思い込みによって、不当な扱いを受けた経験のある人が一定数いるのです。
仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021|日本労働組合総連合会
ジェンダーハラスメントの具体的な事例
職場では、どのようなケースがジェンダーハラスメントに当たるのでしょうか。具体的な事例を挙げて説明します。
性別に基づく仕事の割り振り
性別を理由に仕事を一方的に割り振ると、ジェンダーハラスメントに該当する可能性があります。具体的には以下のような事例です。
- お茶くみやコピーは女性の仕事だと決め付ける
- 力仕事は男性がすべきだと一方的に重労働を割り振る
- メインの仕事は男性で女性は補助的な業務と決め付ける
- 男性なら家庭より仕事を優先するべきと残業を強要する
どのケースも、本人の能力や意思にかかわらず、性別に対する固定観念や偏見によって業務内容を決め付けられている点が問題です。
キャリアに関する性差別
性別によって昇進が阻まれるなど、キャリアに関する性差別は、比較的女性が受けがちです。具体的には以下のような事例があります。
- 女性は出産・育児などがあるから管理職になれないと発言する
- 会議などで女性の意見より男性の意見が通りやすい
- 同じ学歴・勤務年数なのに女性の方が賃金が低い
- 女性はキャリアアップする必要がないなどの発言をする
たとえ明確に性差別する発言などがなくても、明らかに性別によってキャリアが阻まれていると判断される場合は、ジェンダーハラスメントに該当する可能性があります。
男らしさや女らしさの強要
「男のくせに」「女だから」など、性別に対する偏見による発言や思い込みによる行動も、ジェンダーハラスメントに該当する可能性があります。例えば以下のような事例です。
- 「女性はスカートをはいた方がよい」「男がそんな格好をするな」など、見た目や容姿に関する発言をする
- 「女性だからお茶くみして」と偏見による女らしさを強要する
- 「男らしくしっかりしろ」と先入観や思い込みによる発言をする
男らしさや女らしさの強要は、LGBTQへの差別にもつながります。LGBTの人の中には、自認する性別との違いに苦しんでいる人も少なくありません。性別に関する思い込みや偏見によって、一般的な人に対する以上の苦痛を与えてしまいます。
ジェンダーハラスメントはなぜ起こる?
ジェンダーハラスメントが起こる主な原因は、性別に関する意識の低さです。また、職場の男女比によっても起こりやすくなります。原因についても詳しく見ていきましょう。
ジェンダーに関する意識の低さ
ジェンダーハラスメントが起こる原因の1つとして、性別に関する意識の低さが考えられます。子どもの頃から、「男らしく」「女らしく」という概念にとらわれた教育を受けてきた世代は、性別に対する意識も低くなりがちです。
多様性が認められる時代に社会人となった世代との間で認識の齟齬が生まれ、ハラスメントを起こしてしまう結果につながります。
世界経済フォーラムが2022年に発表した各国のジェンダー・ギャップ(男女格差)指数を見ると、日本では性別に対する意識が低いことも分かります。
調査によると、日本のジェンダー・ギャップ指数は0.650で、世界146カ国中116位でした。特に経済参画や政治参画において、男女の格差が大きい傾向にあります。
ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2022年 | 内閣府男女共同参画局
従業員の男女比の偏り
従業員の男女比に偏りがある職場でも、起こりやすくなります。例えば、女性看護師の比率が高い医療機関や、女性保育士が多い保育園などで、力仕事や重労働は男性の職員がやるものと決め付けられるといったケースです。
反対に、男性の従業員が多い職場では、お茶くみやコピーなどは暗黙のうちに女性の仕事と決められてしまう事例もあります。
どちらのケースも、比率が高い方が抱いている固定観念によって、少数の性別に対して差別的な行為が行われやすくなります。
ジェンダーハラスメントを防ぐ対策
ジェンダーハラスメントは、個人のキャリアやメンタルヘルスへの悪影響だけでなく、企業にも不利益をもたらす可能性のある問題です。起こさないための対策や、発生した場合の対応などについても確認しておきましょう。
社内教育による周知
研修などを実施して、ハラスメントについての社員教育を徹底することが重要です。一斉に実施するのが難しい場合は、eラーニングを活用するのもよいでしょう。管理職と一般従業員の間で共通認識を持つことが大切です。
また、ジェンダーハラスメントは性別に対する無意識の偏見から起こるケースも多いため、個々の従業員が自分の偏見や固定観念を自覚する必要があります。
偏見を完全になくすのは難しくても、自分の発言や行動が相手にとって不当な行為に該当しないか考えることが大切です。
社内ルールの整備
ハラスメントに関する社内ルールが定まっていない場合は、早急に整備を進めましょう。性差別や不当な扱いに当たる具体的な事例を交えて定義や適用範囲を示すほか、報告手続きや制裁措置などを明示したガイドラインを作るのが有効です。
また、被害者が相談できる窓口も設置します。窓口の担当者は、守秘義務を守れる・男性女性どちらも置く・人権問題に知識があるといった点に留意した上での人選が必要です。弁護士など、社外の人間を入れるのもよいでしょう。
ハラスメントが起きたときの対応
ハラスメントが発生したら、迅速かつ適切に対応することが必要です。事実確認・被害者へのフォロー・加害者の処分などを行いますが、プライバシーに十分配慮して進めなければなりません。
ジェンダーハラスメントは、当事者だけでなく、会社全体の問題として対応する姿勢が重要です。改めて社内にガイドラインを周知するなど、再発防止にも努めなければなりません。
また、被害者が相談したことによって受ける可能性のある、セカンドハラスメントの予防も重要です。
ジェンダーハラスメントへの認識を深めよう
ジェンダーハラスメントは、男女の性別に関する固定観念や偏見などによって起こるものです。性別に対する意識は世代によって異なるため、世代間の認識の違いによっても起こる可能性があります。
不当な性差別を防ぐには、個人の意識改革とともに、社内のガイドラインの整備なども必要です。社内の窓口に被害を相談しても解決できない場合は、外部の専門家に相談するほか、転職を検討してみるという方法もあります。
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