土地家屋調査士になるにはどうする?詳しい業務内容とキャリアパス

土地家屋調査士とは

不動産

(出典) photo-ac.com

土地家屋調査士は、不動産の測量と表題登記に関する専門家です。

不動産の登記は、土地や建物の形や大きさを明らかにするための「表題部(表題登記)」と、その所有権など権利関係を明らかにするための「権利部(権利登記)」の2つで構成されています。土地家屋調査士は、依頼を受けて不動産の「表題部」の登記に関する手続きを代理できる唯一の国家資格です。

登記の専門家というと司法書士が思い浮かぶかもしれませんが、司法書士は、不動産登記については「権利部」の登記に関する手続きを代理できる専門家です。土地家屋調査士とは業務範囲が異なります。

表題登記や土地の境界特定のために必要になる測量も、土地家屋調査士の業務です。測量に関する国家資格には「測量士」もありますが、測量士はあくまで建設や開発のために測量を行う専門家であり、登記のために測量することは認められません。一方で土地家屋調査士は、表題登記や土地を境界特定するための測量はできますが、それ以外を目的とした測量はできないという違いがあります。

具体的な業務内容

土地家屋調査士は、不動産の測量と表題登記に関する以下の業務を実施できます。

表題登記に必要な土地・建物の調査・測量

売買や遺産分割で所有地を分ける場合(分筆)や建物を新築した場合などでは、不動産の形や大きさが変化します。そこで必要となるのが、表題登記の変更や新規作成です。土地家屋調査士は、その表題部の登記に不動産の新たな状況を反映するための調査や測量を受任できます。

土地の分筆の場合、土地家屋調査士はまず既存の登記書類や登記所に備え付けられた公的な地図を調査したあと、現地に赴いて実際の状況を確認します。既存の登記書類に記載されている境界線が実際の土地の状況から明確でない場合は、隣接所有者からの聞き取り調査などを実施したうえで境界線を確認し、測量することもあります。

表題登記の申請手続きの代理

土地家屋調査士は、不動産の持ち主などから依頼を受けて表題登記の申請を代理できます。

もちろん正確な図面を用意できれば、不動産の持ち主が自ら表題登記を申請することも可能です(本人申請)。しかし、例えば「建築確認の床面積求積図から建物図面や各階平面図を作成する」といった作業は専門知識がない場合は難しいため、表題登記はほとんどが土地家屋調査士の手で代理申請されます。

代理を受任した場合は、CAD(コンピュータを使った設計支援ツール)を利用した図面の制作から、最終的に登記を法務局に届け出る作業まで一貫して請け負います。

表題登記の審査請求手続きの代理

表題登記を申請すると登記官が受理の可否を判断しますが、「隣の土地との境界線が不明確」といった理由で却下されてしまうこともあります。そのような場合、処分を下した登記官が所属する地方法務局の局長に対して、不服を申し立てる審査請求が可能です。その手続きも、土地家屋調査士が代理できます。

却下は頻繁に起こることではないため、土地家屋調査士の業務において大きな割合を占めるとはいえませんが、申請者の権利を守るための重要な仕事の一つです。

筆界特定の手続きの代理

土地が登記された際に隣地との境界として定められた線(筆界)の場所が不明確な場合に、筆界はどこなのかを判断するために申請するのが「筆界特定」の手続きです。土地家屋調査士は、不動産の持ち主などの代理として筆界特定の手続きを申請できます。申請後は登記官のほか、筆界調査委員が土地の調査や測量によって筆界の位置を判断するという流れです。

筆界が不明確である原因としては、明治にまでさかのぼるような古い時代に行われた測量の不備や、書類作成のミス、境界を示す杭がなくなってしまったことなどが挙げられます。筆界特定は頻繁に発生する業務ではありませんが、土地の区画に関するトラブルを裁判になる前に防ぐために重要な業務です。

土地の筆界に関する裁判外紛争解決手続き(ADR)の代理

裁判になる前に民間人同士の話し合いで紛争を収めようというのが、「裁判外紛争解決手続き(ADR)」です。費用や期間が裁判に比べ大幅に低減されるメリットがあり、少しずつ利用件数が増えています。



法務大臣から「ADR認定土地家屋調査士」と認定された土地家屋調査士は、弁護士との共同受任を条件に、土地の筆界に関する裁判外紛争解決手続き(ADR)の代理人となることができます。

土地家屋調査士の1日の流れ

測量

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土地家屋調査士の仕事は、測量・調査などのフィールドワークと、申請書作成をはじめとしたデスクワークがあります。1日のスケジュールは抱えている案件の状況・内容により左右されるため、毎日同じになるとは限りません。

以下は、日本土地家屋調査士会連合会が紹介している、ある土地家屋調査士の1日です。

  • 9:00~11:00:測量・調査などの現場作業
  • 12:00~13:00:休憩
  • 13:00~16:00:申請書・図面などの作成
  • 16:00~17:00:資料調査・申請作業

土地家屋調査士の仕事は、受託から納品まで一気通貫で行われるのが一般的です。スケジュールには自分の裁量で進められる余地があり、マイペースに働きやすいといえます。

とはいえ複数の案件を並行して遂行する場合は、徹底したスケジュール管理が欠かせません。効率良く仕事をこなしていくためには、事前準備や細やかな進捗管理も必須です。

キャリアパス

土地家屋調査士は、事業会社や土地家屋調査士事務所に勤務するほか、独立開業して事務所を構えることもできる職業です。

勤務する場合は、土地家屋調査士事務所のほか、建設会社や不動産販売会社など、不動産を扱っていて表題登記に関わりのある事業会社が選択肢となります。

独立開業を目指す場合であっても、まずは土地家屋調査士事務所などに勤務して必要な技術と経験を身につけてから開業するとよいでしょう。

特に測量は、場数を踏み、実践的な知識を蓄えることが重要です。測量経験ない状態で試験に合格しても、その後すぐに開業すると実務で苦労することになるでしょう。試験合格直後に開業を目指す場合は、資格予備校が開講している測量の実践研修を活用するのも手かもしれません。

開業後には行政書士や司法書士資格の取得を目指したり、それらの有資格者を雇用したりするケースも見られます。土地家屋調査士の業務である表題登記のほかに、行政書士の独占業務である「建築確認申請」や司法書士の独占業務である「権利登記」ができるようになれば、不動産関係の申請や登記にワンストップで対応可能になるためです。

ただし1人が複数の資格を保有して開業すると、各資格の職域団体(土地家屋調査士会、司法書士会など)に支払う登録料のため、開業当初の費用負担が大きくなる可能性があります。初期コストを抑えるため、開業当初は自分で各資格を取得するのではなく、他士業の資格保有者と仕事を回し合うのも戦略の一つです。

土地家屋調査士になるには

測量と街並み

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法務省職員を経験後に法務大臣認定を受ける手段もありますが、多くの場合は国家試験である「土地家屋調査士試験」を受けます。試験合格後は、土地家屋調査士会への登録が必要です。

土地家屋調査士試験の概要

土地家屋調査士試験は、択一式・記述式で出題される筆記試験と、筆記試験の合格者のみが受けられる口述試験で構成されています。試験の実施時期は筆記試験が例年10月第3日曜、口述試験が1月中旬です。

受験資格に制限はありませんが、測量士や一級建築士の資格保有者は筆記試験の一部が免除されます。

2021年度試験では、受験者3859名のうち404名が合格しました。合格率10.47%と、ここ数年間では最も高い数値です。

しかしこれは、受験者数の減少が影響しているためとも考えられます。土地家屋調査士試験の難易度が高いことには変わりなく、しっかりと準備をしたうえで試験に臨む姿勢が必要です。

土地家屋調査士の年収

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成

土地家屋調査士の求人の給与情報から、土地家屋調査士の年収帯を独自に集計しました。以上のグラフの通り、年収400万円台が約25%、500万円台が34%を占めます。日本人の平均年収は男性が532万円、女性が293万円、男女を合わせると433万円(2020年分「民間給与実態統計調査」より)なので、土地家屋調査士は給与水準が平均よりも高い職業といえるでしょう。

ただし、このデータは求人の給与情報をもとに算出されているため、開業して自ら事務所を経営している土地家屋調査士の年収は反映されていません。さらに年収の高い土地家屋調査士も存在すると考えられます。

土地家屋調査士の求人傾向

2人の測量士

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土地家屋調査士事務所のほかに、司法書士法人・事務所など他士業の事務所からの求人も多いのが特徴です。ただし、他士業の事務所は即戦力の土地家屋調査士を求める傾向が強く、実務未経験者だと応募が難しいケースもあるようです。土地家屋調査士事務所では、実務未経験者でも応募可能な場合が多い傾向にあります。

事業会社の求人には、不動産販売会社、不動産管理会社が多く見られます。土地家屋調査士の資格保有が必須ではなく「歓迎条件」であるケースや、実務未経験者を歓迎しているケースも見られます。

※文中に記載の各種数値は、2022年5月時点のものになります。

出典:
日本土地家屋調査士会連合会