傷病手当金はもらわない方がいい?ささやかれる理由と法改正を解説!

何らかの傷病で休職を余儀なくされた場合、傷病手当金の制度を利用できます。もらわない方がよいともいわれますが、その理由は何なのでしょうか?敬遠される原因と、傷病手当金の制度概要を紹介します。メリットや、受給の注意点についても確認しましょう。

傷病手当金はもらわない方がいいの?

お札

(出典) pixta.jp

病気・けがによる休職の場合、条件を満たすと傷病手当金が受給できます。傷病手当金はもらわない方がよいといううわさもありますが、実際はどうなのでしょうか?

支給に期限がある

傷病手当金の制度は、2022年1月1日より改正されています。以前の制度では、同一の病気・けがによる最初の支給開始日から、最長1年6カ月となっていました。

再発や復帰を繰り返すと、本当に必要なときに受給期間が終了してしまう可能性があったため、もらわない方がよいのではないかという考え方もあったようです。

改正後には、同一の病気・けがの場合、通算1年6カ月の受給ができるように変わっています。休職と復帰を繰り返すケースでも、デメリットは少ないといえるでしょう。

出典:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省

生命保険に加入できないと誤解されている

傷病手当金を受給すると、生命保険に加入しにくくなるのではないかという誤解もあるようです。

しかし、一般的に生命保険の加入可否は、「特定の病気に罹患しているか」「過去に特定の病歴があるか」で判断されます。傷病手当金の受給状況と、生命保険については直接の関連性はありません。

何らかの病歴がある場合、生命保険に加入しにくくなる可能性はありますが、緩和型の保険も増えています。保険料が上がるケースも考えられるため、療養中の資金となる傷病手当金を受け取っておいた方が安心です。

転職に不利になるといううわさ

傷病手当金を受給すると、転職時に不利になるのではないかという考え方もありますが、実際には根拠のないうわさです。傷病手当金を受給していたかどうかを、転職時に告げる義務はないため、不安を感じる必要はないでしょう。

転職先が気にする可能性があるのは、休職の事実であることがほとんどです。傷病手当金の受給は、休職の事実とは直接関係がないため、利用可能な制度は適切に活用した方がよいといえます。

なお、転職後の源泉徴収票の提出や、病気の再発で傷病手当金を再度申請する場合は、過去の休職や受給状況が伝わってしまう可能性は考えられます。

求職時点で完治しているのであれば、原則的に申告の必要はありません。再発のリスクがあったり経過観察中であったりするのであれば、医師との相談の上、過去の状況を説明して体調面に問題がないことを伝えておく方が、採用後も安心して働けるでしょう。

そもそも傷病手当金とは

体調不良

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傷病手当金の制度は、何のために設けられているのでしょうか?概要や支給金額の計算方法、申請方法について解説します。

病気休業中の生活をサポートする制度

傷病手当金は、業務に関係のない病気・けがで働けなくなったときに、休職中の生活費・療養費の補填として手当を受給できる制度です。

療養期間が長くなると、有給休暇や企業独自のサポート、各自が加入する医療保険だけでは、生活資金が確保できない恐れもあります。

傷病手当金があることで、万が一長期で仕事を休むことになっても、金銭的なサポートを受けられるのです。

出典:傷病手当金 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

支給される金額について

傷病手当金の支給金額は、直近12カ月の標準報酬月額から計算できます。計算式は以下の通りです。

1日当たりの傷病手当金=直近12カ月の標準報酬月額を平均した金額÷30×2/3

直近12カ月の標準報酬月額の平均が28万円の場合、28万円を30で割ります。9,330円(10円未満四捨五入)に2/3を掛けた6,220円が1日当たりの支給額です。

待機期間や有給休暇取得日を除き、30日間休んだとすると18万6,600円が支給される計算になります。

出典:傷病手当金 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

申請方法

傷病手当金の申請には、申請書類の記入や提出が必要です。基本的には、会社に傷病手当金を受給したい旨を申し出て、手続きを進めてもらうケースが多いでしょう。

有給休暇や企業側の福利厚生があれば、傷病手当金よりも支給額が高くなる可能性もあるため、相談の上受給するかを決定できます。

待機期間となる3日間の休みを過ぎてから、書類の記入や提出を進めましょう。書類には、会社の担当者や医師が記入する欄もあり、1人で申請と提出ができるものではありません。

出典:協会けんぽの給付金の申請|協会けんぽ愛知支部

傷病手当金の支給対象になる4つの条件

手の怪我

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病気・けがで休んだとしても、条件を満たさない限り傷病手当金の支給対象にはなりません。制度を利用するための条件を、把握しておきましょう。4つ全ての条件を満たすと、傷病手当金を受給できます。

業務外で負った病気・けがによる療養である

傷病手当金は、仕事と無関係な傷病が対象です。業務や通勤中のトラブルが原因と認められる傷病は、労災保険の対象になります。

どちらが該当するかは、自分で選べるものではありません。状況や、原因によって判断されます。

また、病気・けがと無関係な休職は、傷病手当金の対象外です。家庭の都合や介護、出産などが関係している場合は、それぞれの状況で利用できる制度を確認しましょう。

働けない状態である

傷病手当金は、働けない人に支給されるものです。就労できる状態であれば、受給はできません。

たとえ病気・けがによって問題があったとしても、以前と同様に働ける状況では受給は難しいと考えられるでしょう。

受給できるかどうかは、病気・けがの程度や業務内容など、総合的に判断されます。基本的には病院に通い、医師から働けない状況であると診断書を出してもらう必要もあるでしょう。

3日間連続して休み、4日目以降も休んでいる

傷病手当金は、1日休んだだけで支給されるものではありません。3日間連続して休んだ後、4日目以降も休んでいる人に対して支給されます。最初の3日間は待機期間とされ、支給対象外です。

待機期間の3日間には、有給休暇取得日や土・日・祝日などの公休日も含まれるため、休みが連続してさえいれば対象になります。

例えば、風邪で3日間休んだケースや、2日間入院してすぐに仕事に復帰したケースでは、傷病手当金の受給はできません。病気の重さは関係がなく、就業できない状態が4日以上続く場合は、風邪やインフルエンザでも支給の対象です。

3日程度の休みで支給されるものではなく、ある程度長期の休職をサポートするものと考えておきましょう。

給与の支払いがない

病気休暇制度や有給休暇の利用など、仕事を休んでいても会社から給与・手当が出る場合は、傷病手当金の支給はされません。

もし、もらっている給与・手当が少ない場合は差額分が支給されますが、給与が満額出る場合は受け取れないと考えておきましょう。

あくまでも、企業からの支援が受けられない人や、長期の休職で企業の支援制度を使い切ってしまった人に対する公的な補償です。

まずは会社側が用意しているサポートを利用し、それでも療養が続く場合に傷病手当金を検討することになります。

傷病手当金のメリットと注意点

傷病手当

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傷病手当金を受け取る場合、メリットと注意点があります。どちらも理解した上で、受給を検討しましょう。受給前に確認しておきたいポイントを解説します。

傷病の治療に専念できる

金銭面でのサポートがあると、病気・けがの治療に専念できます。支給額が給与よりも少ないとはいえ、差額分を保険や貯蓄で備えておけば、手当を受けないときと比べると治療に専念しやすくなるでしょう。

療養が長期になると、何らかの福利厚生がなければ企業からの給与・手当の支給がストップしてしまうため、早いうちに受給できるか確認しておくことをおすすめします。

ただし、傷病手当金の支給は「療養」が条件です。完治したと判断されると、支給停止になります。

療養しながら少しでも働きたいと考えている場合は、支給停止の条件に該当しないか確認の上制度を利用しましょう。

受給中でも社会保険料は免除されない

会社に籍を置いた状態で傷病手当金を受給している場合、社会保険料を支払う義務があります。社会保険料は年1回、標準報酬月額によって決定されるため、休職中でも働いているときと金額は変わりません。

傷病手当金の支給額は給与よりも少ないため、以前と同じように社会保険料を支払うと、手元に残るお金は少なくなります。

また、傷病手当金自体は非課税ですが、社会保険料以外に住民税の支払いも必要です。住民税は前年度の収入によって金額が決まっているため、休職中でも働いていたときと同様の金額を支払います。

傷病手当金の支給対象外になるケース

お札と財布

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傷病手当金は、全ての人が受け取れる手当ではありません。受け取れる健康保険の種類や、他の手当の支給状況によって、支給の可否が判断されます。申請の前に、資格があるかを確認しておきましょう。

国民健康保険加入者は対象外

特例での給付がある場合を除いて、国民健康保険加入者は基本的に傷病手当金の支給対象外です。

長期にわたり仕事を休んだ場合でもサポートが受けられないため、自らの蓄えを活用するか、生活保護などの支援を検討する必要があります。

社会保険加入の対象外となる給与所得者については、雇用保険による傷病手当金が存在しますが、この制度の利用は求職中に限られる点に注意が必要です。

現職への復帰を目指す場合、金銭的な支援を受けることはできない点は留意しておきましょう。

傷病手当金以外の手当を受給している

傷病手当金は、他の手当と重複して受給はできません。障害厚生年金・労災保険・出産手当金など、他の手当の受給資格がある場合は、該当する手当をもらいましょう。

他の手当と傷病手当金の支給額を比較し、傷病手当金の方が高ければ、差額を受給できるケースもあります。両方に該当すると考えられるときは、会社に相談してみましょう。

なお、民間の保険に加入し、医療費分の補償や就業不能による手当を受け取っていても、傷病手当金は受け取れます。民間の保険は、本人や他の加入者が支払った掛け金によって運用され支払われるため、公的制度とは関係しません。

傷病手当金に関するQ&A

考える会社員

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病気・けがで傷病手当金の受給を検討している場合、有給休暇との違いや、退職したときの扱いが気になる人もいるでしょう。傷病手当金についての疑問を、Q&A方式で解説します。

有給休暇の申請とどっちがよい?

傷病手当金と有給休暇では、基本的に有給休暇の方が支給額が高くなります。計算方法は会社によって変わりますが、有給休暇を使う方が休職中の金銭的な負担は少なくなるでしょう。

有給休暇が残っているときは全て利用し、足りない分を傷病手当金で補うのもよい方法です。しかし、明確に短期間で完治すると分かっている場合や、復帰後に有給休暇を使いたいのであれば、傷病手当金を選択できる可能性もあります。

通常、病気・けがで休むとき、有給休暇を使いたいと申し出れば、会社は拒否できません。どちらを使うかは会社と相談の上、自分にとって有利な方を選択しましょう。

期限を満了しても治っていない場合は?

傷病手当金の期限である通算1年6カ月を過ぎると、同一の病気・けがでの支給はされなくなります。長期間病気・けがが治らず、働けないときには障害年金・生活保護・生活福祉資金貸付制度や、その他の支援を活用しましょう。

利用する制度によって、支給される金額や支給条件は異なります。資産や親族の支援状況、本人の病状に合わせて適した支援を選択しましょう。

復帰して時間が経過し、完治したものの再発したと見なされるときは別の病気として扱われ、再度傷病手当金の支給対象となる可能性もあります。しかし、基本的には同一の病気・けがでの支給は、通算1年6カ月で停止されると考えておきましょう。

出典:障害年金のご案内|日本年金機構

傷病手当金を受給中に退職したらどうなる?

復帰が難しい場合や、完治後に別の仕事をしようと考える場合、傷病手当金を受給中に退職を検討するケースもあります。

受給中の傷病手当金は、退職したとしても条件を満たしていれば継続して受給が可能です。基本的な条件として、以下のようなものがあります。

  • 退職日までに社会保険の被保険者期間が継続して1年以上あること(任意継続は除く)
  • 資格喪失までに傷病手当の受給資格を満たしているか、手当を受給していること
  • 退職日に出勤していないこと
  • 手当を受給する原因となった傷病で、退職日以降も就労が不可能であること

もし、無理をして退職日に出勤してしまうと、退職後の傷病手当金は受け取れません。片付けや引き継ぎだけだからと、出勤しないよう注意しましょう。

また、退職日以降に原因となった傷病が完治したときは、傷病手当金は打ち切りとなります。働ける状態になっていれば、失業給付や他の手当に切り替えが必要です。

出典:傷病手当金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

傷病手当金を活用してしっかり療養しよう

睡眠

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社会保険に加入していると、病気・けがで休むときに傷病手当金が受給できます。しかし、給与よりも支給額は少なく、長期で休職すると金銭面の不安も起こりがちです。

退職し、完治した後に再就職を目指すのであれば、傷病手当金以外に利用できる制度も調べておきましょう。

療養中に次の仕事について情報を集めたいときは、求人サイトが活用できます。「スタンバイ」を利用して、気になる求人をチェックしておきましょう。

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