押印・捺印という言葉は知っていても、具体的な違いについてよく分からない人も多いのではないでしょうか。どちらの用語も印鑑を押す行為を指す言葉ですが、厳密には違いがあります。それぞれの法的効力の違いや、契約書への押し方について解説します。
押印と捺印の違いとは?
まず、それぞれの用語の違いについて見ていきましょう。印鑑を押す書類や、法的な効力について説明します。
どちらも印鑑を押すこと
どちらの用語も、印鑑を押すという動作を指す言葉です。基本的には同じ意味でも、厳密にはどのような書類に押すかという点で違いがあります。
押印は、記名(自筆以外の記し方も含む)のある書類に押すときに用いられる言葉です。一方の捺印は、自筆で署名した書類に押すときに使われます。
しかし、現在では捺印のことも押印と表記するケースが多く、商法でも署名した書面に印鑑を押すことを「押印」という言葉で表記されています(商法第546条)。
実際には厳密な違いがあるものの、一般的には両者の区別が曖昧になっているといってよいでしょう。
押印と捺印の法的効力の違い
民事訴訟法第228条第4項には、「本人か代理人の署名または押印があれば、その私文書は真正に成立したものである」という旨の条文が記されています。そのため、どちらにも法的効力はあるといえるでしょう。
しかし、同じく民事訴訟法第229条には、「筆跡または印影の対象によっても文書の真否を証明できる」という内容も記載されています。つまり、自署による署名は、本人であると証明するための証拠力が高いということです。
どちらも法的には有効であるものの、署名と共に押される捺印の方が、より効力が高いといえるでしょう。
出典:民事訴訟法 第228条第4項・第229条|e-Gov法令検索
契約書に押印・捺印は必ず必要?
契約書を作成する際、特に疑問も持たず印鑑を押している人も多いのではないでしょうか?しかし、契約者の印がなくても有効な場合があります。詳しく見ていきましょう。
証拠能力や「二段の推定」の効果がある
上述のように民事訴訟法第228条第4項によって、契約書に押印または捺印をすることで、その契約は「真正に成立した」ものであると証明できます。
さらに、契約者の印があれば、二段の推定の効果もあります。二段の推定とは、契約者本人の意思によって作成された契約書だと、証明するための考え方です。
押印があれば、「本人の意志により印が押されたこと」が推定でき、すなわち「契約が真正に成立したこと」も推定できるため、契約書の信頼性が高まるとされています。
押印がなくても有効な場合もある
契約書に印鑑を押さなくても、契約自体は有効です。原則として当事者間の合意があり、契約書の作成者を立証できれば、押印は必ずしも必要とされていません。
ただし、訴訟などのように法的な手続きが必要な場面では、証拠としての力が弱くなる可能性もあります。なぜなら、押印がないと、契約者の意思によって真正に成立した契約だと証明するのが、困難なためです。
契約書に押印しない場合は、当事者双方の合意であることや、契約書の作成者を立証できるようにしておくことが大切です。
電子印鑑でも基本的にはOK
契約書への押印は、電子印鑑を使用しても問題はありません。そもそも、押印がなくても契約書として成立するため、物理的な印鑑だけでなく、印影を画像データにした電子印鑑を用いても基本的にはOKです。
電子印鑑には、単に印影の画像だけのものと、押印者の識別情報が入った電子署名付きの2種類があります。セキュリティーの観点から、契約書のような重要書類に電子印鑑を使用する場合は、電子署名付きのものを用いるのが望ましいでしょう。
契約書に押印・捺印する主な場所は?
契約書には、押印・捺印する場所がいくつかあります。押印する場所や、意味について確認しておきましょう。
署名欄
署名欄は、契約者本人が合意したことを意思表示するために押す場所です。契約書の中でも、特に重要な部分といってもよいでしょう。印鑑の押し方は、書類と共に印鑑証明書の提出が必要か不要かによって異なります。
印鑑証明書が必要な書類に押す場合は、名前などの文字と重ならないように押しましょう。印鑑証明書の印影と、比較・判別をしやすくするためです。
印鑑証明証書が不要な書類の場合は、名前に重ねるように押すことがポイントです。こうすることで、印鑑の偽造・コピーを防げます。
契印
契約書が2ページ以上ある場合は、契印が必要になります。契印とは、複数枚ある契約書に対し、ページの差し替え・抜き取りが行われていないことを示すためのものです。
契印は、署名欄に押したものと同じ印鑑を使います。押印する際は、全てのページの見開き部分にまたがるように押しましょう。契印には、契約者双方による押印が必要です。
なお、契約書のページ数が多い場合には、契約書を製本用のテープで袋とじし、テープと紙面をまたぐように押印する方法もあります。
割印
控えなども含めて、契約書が複数あるときは、基本的に割印が必要です。割印とは、同一の契約書が複数あることを示すもので、内容の改ざんなどの不正防止を目的としています。割印の部分をつなげて確認することで、契約書の同一性の証明が可能です。
契約書同士をずらして重ね、両方の紙面に印影が残るようにまたいで押印します。割印にも、契約者双方の押印が必要です。3部以上あるときも、同様の手順で押印しましょう。
なお、割印の場合は、署名欄に用いたものと違う印鑑を使っても構いません。
契約書に押印・捺印する印鑑の種類
契約書に押印・捺印する印鑑の種類についても、知っておくと役立ちます。代表的な3種類の印鑑を確認しましょう。
実印
実印には、個人実印と会社実印の2種類があります。個人実印とは、個人が地方自治体で登録した公的な印鑑のことです。
実印として届け出ると、地方自治体から「印鑑登録証」が発行されます。この登録証を基に、必要に応じて「印鑑登録証明書」を発行してもらうことができます。実印は、不動産の売買契約書や自動車の登録といった重要な書類への押印に用いられます。
一方、会社実印は代表印とも呼ばれ、企業が法人登記する際に法務局に登録する印鑑です。一般的に印影は丸形で、円に沿って企業名・役職名が彫られているため、法人実印とも呼ばれます。
銀行印
銀行印とは、銀行口座を開設する際に、金融機関に届け出る印鑑のことを指します。印影の原本は銀行で保管され、窓口での預貯金の払い戻し・振り込み依頼・融資などの際の、本人確認用に使用されるものです。
しかし、近年ではインターネットバンキングの普及や手続きの簡素化により、銀行印なしでも口座開設ができる「印鑑レス」の銀行も増えています。
銀行印は、100円ショップなどで購入した印鑑での登録も可能なため、セキュリティー面から考えても、印鑑レスの流れは進んでいくと見てよいでしょう。
社印
社印は、会社の日常的な業務で使われる印鑑のことで、角印とも呼ばれます。会社名が彫られていますが、会社実印(丸印)とは違い、法務局に届け出る必要はありません。
個人にとっての認印と同じ使われ方をするもので、請求書・領収書・社内文書などへの押印に用いられます。公的なものではないものの、契約書にも押せるため、社内での保管には注意が必要です。
ただし、株式や不動産などの重要な取引に関する契約書には、社印ではなく会社実印を押印します。
押印と捺印の違いについて知っておこう
押印・捺印は、どちらも印鑑を押す動作を指す言葉です。厳密には、記名書類に押すのは押印、署名書類に押す場合は捺印という違いがありますが、近年では呼び方や表記の区別が曖昧になっています。
とはいえ、民事訴訟法により「私文書は署名または押印のあるときに真正に成立する」とされており、署名と共に押す捺印の方が法的な効力は高いといえるでしょう。
ビジネスシーンでは、社内文書や取引先との契約書作成などで印鑑を押す場面が多々あります。押印と捺印の違いについて、正しく理解しておきましょう。