退職・転職後に確定申告が必要になる条件とは。必要な手続きを解説

全ての人に当てはまるわけではありませんが、退職後に確定申告が必要になるケースもあります。どんな場合に、自分で確定申告をしなければならないのでしょうか?申告漏れを防ぐために、申告が必要になる条件から手続きの方法まで紹介します。

退職後でも年末調整を受けられる?

年末調整の書類と印鑑

(出典) photo-ac.com

会社を退職すると、これまで受けていた年末調整を受けられなくなり、場合によって確定申告をする必要が出てきます。まずは年末調整の基本や、年末調整の対象にならないケースについて理解を深めましょう。

そもそも年末調整とは

会社は、会社員が毎月受け取る給与から、所得税の額を計算して天引きする必要があります。これを「源泉徴収」といいます。

年末調整とは、会社が給与所得者(従業員)から1年間に源泉徴収した所得税の額を計算して、本来納めるべき額との過不足を調整することです。

なぜ過不足を調整する必要があるかというと、毎月の給与から天引きされる所得税の額は月給や賞与などをもとに概算で計算されたもので、正確な納税額ではないからです。最終的な所得や受けられる控除が決定する年末に、源泉徴収しすぎている人には還付を、足りていない人からは追加で徴収を行う必要があります。

年末調整の対象者は、原則として当年の年末にその会社に在籍していて、年末調整の必要書類(給与所得者の扶養控除等(異動)申告書)を会社に提出している人です。年の途中で採用された人も対象となります。

ただし、その年1年間の給与総額が2000万円を超えていたり、掛け持ちしている別の会社に年末調整の必要書類を提出していたりする人は対象になりません。

参考:No.2665 年末調整の対象となる人|国税庁

退職すると原則年末調整の対象にはならない

年の途中で勤めていた会社を辞めて『当年の年末に会社に在籍していなかった人』は、原則として年末調整の対象外です。

ただ、年末までに再就職する場合は、退職した会社から受け取った源泉徴収票を提出すれば、新しい勤め先で年末調整をしてもらえます。

会社を辞めた年も、本来納めるべき所得税の額を確定して正しく納税する必要があります。年末調整の対象とならなかった場合は、原則として自分で確定申告をしなければなりません。

参考:No.2020 確定申告|国税庁

退職後に確定申告が必要になる条件

確定申告の書類

(出典) photo-ac.com

退職後に確定申告が必要かどうかは、「年内の再就職の有無」のほか「退職所得の受給に関する申告書の提出の有無」によっても変わります。確定申告をしなければならない条件2つについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

12月までに再就職しない場合

年の途中で退職した後、「その年の12月までに再就職しなかった人」は、翌年の3月15日までに自分で確定申告をしなければなりません。

退職した年に再就職しない場合、年末調整が行われないことになるため、以前の会社で源泉徴収されていた所得税の過不足が精算されていない状態になっています。このため、確定申告をしなければ、その年の所得税を払いすぎていても、不足していても、正しい納税額に修正できなくなるのです。

なお、年の途中で国外に転勤になり国内に住所がなくなった場合や、死亡によって退職した人などは、例外的に年の途中であっても年末調整の対象になります。

退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合

退職金で得た所得は「退職所得」と呼ばれ、給与や賞与と同じく所得税の課税対象です。退職金には「退職所得控除」が設けられており、会社から受け取った退職金額から退職所得控除額を差し引いた金額が退職所得とされ、この部分のみが課税対象となります。また、納税者の負担が大きくなりすぎないようにほかの所得と区別して所得税が課税されます。

通常は、退職金から納める所得税を会社が計算して源泉徴収します。その源泉徴収の計算方法は、会社に対して「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかで異なります。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、正確な納税額が計算されて源泉徴収されるので改めて翌年の確定申告をする必要はありません。しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は概算で源泉徴収されるため、翌年の確定申告を行って正しい納税額を確定しなければなりません。この場合、通常は正しい納税額より多く源泉徴収されているため、確定申告をしておかないと損することになるでしょう。

また、何らかの事情で会社が源泉徴収をしてくれない場合も、自分で確定申告をすることが必要です。

退職金から源泉徴収された場合、会社から『退職所得の源泉徴収票』が発行されます。手元にあるか確認してみましょう。

参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

退職後の確定申告の手順

確定申告に関係する複数枚の書類

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基本的に会社員は自分で確定申告しないので、一度も自分で申告したことがない人は多いでしょう。確定申告の手続き方法を覚えておくと、退職して年末調整の対象から外れてしまったときに役立ちます。

確定申告書と必要書類を用意

確定申告をするには「申告書」と「源泉徴収票」、そのほか必要に応じて「医療費の領収書等」、「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」、「生命保険料等の控除証明書」などを用意します。申告書にはAとBの2種類あり、どちらを使うかは自分で選べますが、給与所得しか収入がないなら「申告書A」が便利です。

紙の申告書は、税務署や確定申告会場で入手できます。

副業をしている場合には、契約先の会社等から発行される「支払調書」(その報酬に対する源泉徴収票)も必要です。副業先に支払調書の発行をお願いしておくとよいでしょう。

ちなみに前職の源泉徴収票は、退職後1カ月程度で郵送されるケースが一般的です。会社によって送られてくるタイミングが異なるので、退職前に確認しておくと安心です。

提出期間に管轄の税務署へ申告

確定申告の提出期間は例年「2月16日から3月15日」で、提出期間の開始日や終了日が土・日・祝日に該当する場合は、次の月曜日が期限です。

納めすぎた税金を還付してもらうための「還付申告」だけでよい場合は、1月1日から申告できます。期限は申告可能になった日から5年以内です。

申告書は、住民票がある地域の税務署に直接提出するほか郵送でも受け付けています。国税庁の電子申告システムe-Taxに設けられた「確定申告書等作成コーナー」で、web上で申告書を作成する方法もおすすめです。必要事項を入力するだけなので、手軽に申告できます。

最近はマイナンバーとスマホがあれば、スマホのアプリ(マイナポータルアプリ)を使って申告することもでき、さらに簡単になっています。

参考:
No.2030 還付申告|国税庁
確定申告書等作成コーナー/e-Tax(国税電子申告・納税システム)|国税庁
申告手続の流れ|国税庁

源泉徴収票をもらえない場合の対処法

源泉徴収票は退職後に前職の勤務先から送られてきますが、何らかのトラブルが起きて送られてこないケースがあります。担当者が送付し忘れている場合もあれば、突然の倒産で連絡が取れないといったトラブルに見舞われることもあるでしょう。

以前の勤務先にお願いしても源泉徴収票を交付してもらえないときや、会社と連絡が取れない状態になってしまったときは、管轄の税務署へ行き「源泉徴収票不交付の届出書」を提出します。

税務署からの指導が入れば、源泉徴収票が送られてくるはずです。倒産して会社が存在しないケースでは、これまでに受け取った給与明細書を使用して支払額を証明することになります。

参考:[手続名]源泉徴収票不交付の届出手続|国税庁

確定申告により還付を受けられることも

退職した年に再就職の予定がない場合は、確定申告しないと納めすぎた所得税の還付を受けられません。会社員であれば年末調整によって納めすぎた分が戻ってきますが、退職後に再就職しないと納めすぎた状態のままになってしまっているからです。

そして、納めすぎた分があったとしても確定申告をしなければ戻ってこないので、申告した方がお得です。

また、年内で再就職した場合でも、前職の退職時に受け取った源泉徴収票を再就職先に提出しなかった場合、以前の勤務先で源泉徴収されていた分の年末調整はされません。この場合も、自分で確定申告を行い、払いすぎた分の還付を受けましょう。

参考:No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき|国税庁

長友秀樹
【監修者】All About 社会保険労務士試験ガイド長友秀樹

医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
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