内定を承諾した後に「ほかの企業を検討したい」と悩んだ場合、内定の辞退はできるのでしょうか。法律上の見解や、損害賠償の可能性について解説します。承諾後に辞退する方法や、連絡する際のマナーも知っておきましょう。
転職の内定承諾後に入社辞退はできる?
転職の内定承諾後に気が変わった場合、入社の辞退は可能なのでしょうか。内定承諾書に何らかの拘束力があるのか、法的観点から見てみましょう。また、辞退する場合の注意点も解説します。
内定承諾書そのものに法的拘束力はない
内定承諾書を提出した後でも、基本的に辞退は可能です。辞退を認めないという法律はなく、事情を問わず辞退できます。
しかし内定承諾後には、企業側が入社に向けて準備を始めていると考えましょう。従業員を増やすにあたって業務に必要なものを購入し、経済的な損害が出ている可能性があります。
なお、内定承諾書の有無にかかわらず、口頭で入社の意思を伝えた場合も労働契約は成立します。入社の意思を伝えていて辞退する場合は、承諾書の提出前でも連絡が必要です。
承諾を待ってほしい場合は、意思確認の段階で安易に答えないようにしましょう。
誠意ある対応は不可欠
内定承諾後の辞退に原則違法性はありませんが、企業やほかの候補者に迷惑をかけてしまいます。やむを得ない事情がある場合は、すみやかに連絡して担当者に誠意を見せましょう。
時期によっては、企業側は最初から選考をやり直すことになります。時間と費用をかけて、入社してくれる候補者を選んでいるという事実を意識しましょう。
不誠実な対応でトラブルを大きくしないよう、連絡と謝罪は必須です。
辞退した企業に再チャレンジは難しい
内定を辞退をすると、当然相手からの信頼を失います。一方的な都合で入社意思を取り消した以上、内定辞退の撤回や再応募は難しいと考えましょう。
円満退職とは異なり、内定辞退は企業に損害を与えます。企業としても、すぐに辞める可能性がある人物に再び内定は出せません。
「やっぱり入社しておけばよかった」と後悔しないよう、よく考えた上で決断しましょう。
内定辞退で損害賠償を請求される可能性は?
内定辞退で損害賠償を請求されるケースは、限定的です。しかし、内定辞退にあたっての対応があまりに非常識な場合、企業側の損害賠償が認められる可能性もあります。労働者に内定辞退の権利があるとはいえ、誠実な対応を心がけましょう。
気をつけておきたいパターンを紹介します。
入社まで2週間を切っていたら要注意
正社員のような期限の決まりのない雇用契約の場合、契約解消は退職の意思を伝えてから2週間後に成立します。内定承諾も労働契約の一種です。
入社まで2週間を切ってから辞退した場合、労働者にとっては入社日までに雇用契約が解消されないリスクが伴います。
企業の採用関係者にとっても、選考のやり直しにかかる費用や内定者のために購入した備品の費用など、経済的なダメージが大きくなります。
損害賠償請求が認められる可能性は低いですが、入社日が近づくほど企業側の怒りは増すでしょう。トラブルに発展させないためにも、早めの連絡が大切です。
裁判を起こされる可能性も
労働者は職業選択の自由が保障されているとはいえ、相手を怒らせた場合、裁判にまで発展するケースもありうると考えておきましょう。
訴えること自体は、基本的に自由です。損害賠償の額を問わず訴えられる可能性はあります。
訴訟に踏み切るケースは稀ですが、万が一裁判を起こされると出廷を求められます。弁護士への相談が必要となり、経済的かつ精神的な負担を抱えることになるでしょう。
「内定者に重大な信義違反がある場合は損害賠償が認められる可能性がある」との裁判例もあり、対応には注意が必要です。
参考:労働基準判例検索-全情報
内定後のトラブルを避けるポイント
内定後に辞退する場合は、承諾の前後を問わず、トラブルに発展する可能性があります。トラブルを避けるためには、何に注意が必要なのでしょうか。企業に内定辞退を受け入れてもらうためのポイントを紹介します。
内定承諾書はよく考えてから提出する
辞退の可能性がある場合はすぐに返答するのではなく、一度考えた上で内定の承諾を行いましょう。
内定後、企業からは入社意思の確認が行われます。通常、企業側も内定を出したすべての候補者が承諾するとは考えていません。
内定の承諾には、企業ごとに期限が設けられています。分からない場合は、いつまでに返事をすればよいか確認が必要です。他社の合否を待っている場合は「〇日までお時間をいただけますか」と伝え、その場での返答は避けましょう。
辞退する場合はなるべく早く連絡する
内定をもらった後、辞退の意思が固まったら、できるだけ早く連絡しましょう。すでに内定者の入社に向けて準備が始まっている可能性が高いため、連絡が遅れるとトラブルにつながります。
ほかの候補者に不採用の連絡を入れてしまった後だと、選考のやり直しも考えられるでしょう。従業員向けの貸与物を発注し、キャンセルができないケースもありえます。
相手の都合を考えた上で、すみやかに辞退の旨を伝えるのが最低限のマナーです。早いうちに連絡することで、企業やほかの候補者に迷惑をかけるリスクが減ります。
迷っている間は研修などは受けない
入社を迷っている時点で内定を承諾しないのが基本ですが、他社からの内定通知など突発的な事情で辞退が発生する場合もあるでしょう。どちらを選ぶか分からない状態では、研修の参加を見送った方が無難です。
通常、研修費用を内定者に請求することはありませんが、他社の内定を受け入れながら辞退を申し出ないといった、不誠実な行動は避けましょう。内定者側に明らかな問題がみられると、損害賠償を求められる可能性があります。
企業側にコスト負担が発生する前に、内定辞退を決断しましょう。
辞退理由を聞かれたら正直に伝える
法律上、労働者は理由を問わず退職できます。内定辞退も同じで、理由を伝える義務はありません。しかし、企業から理由を聞かれた場合は、誠意を見せるためにも正直に伝えましょう。
転職活動の際、複数の企業から同時期に内定をもらうことは起こりえます。入社日まで余裕がある場合、法律的にも辞退は認められているため、「他社の内定を受けることにした」と正直に報告しても問題はありません。
ただし、辞退する企業を悪く言うことや、辞退が当然であるかのような態度は避けましょう。相手に迷惑をかけている点を認識し、謝罪の意思を見せることでトラブルを防げます。
内定承諾後の辞退方法
内定承諾後に辞退するには、連絡が必須です。電話とメールでの辞退方法や、連絡する際のポイントを解説します。どのような場合でも、無連絡での辞退はNGです。
電話で連絡する
辞退の意思は、まず電話で連絡を入れましょう。内定承諾後には、さまざまな準備が進められています。すぐに意思が伝わる電話の方が、採用担当者も行動しやすいでしょう。
電話では、声や雰囲気が分からないメールよりも謝罪の意思が伝わりやすくなります。連絡先は採用担当者です。内定辞退の意思を伝えるときは、『承諾後の辞退となってしまったこと』に対して謝罪の言葉を述べましょう。
辞退が受け入れられたときは、時間を割いてもらったことに対する感謝も伝えます。理由を聞かれる可能性も考えて、答えられるよう準備しておきましょう。
メールで連絡する上でのポイント
内定承諾後の辞退連絡は、電話の後に証拠として残るメールも送ることが理想です。内定承諾前の連絡はメールのみでも問題ないケースが大半ですが、承諾後の場合は企業に意思が早く伝わるよう配慮が必要です。
仕事の都合で営業時間中に電話をかけるのが難しい場合は、メールのみでも早めに連絡をしましょう。
採用担当者と連絡がつかない場合も、メール連絡が適しています。企業の内情によっては採用担当者以外でも対応できる可能性があるため、一言事情を伝えておきましょう。
電話やメールで内定辞退する手順
内定承諾後の辞退において、特に気をつけておきたい項目はあるのでしょうか。電話とメール、それぞれの連絡方法を具体的な例文つきで紹介します。内定承諾前の辞退とは異なり、大きな迷惑をかけている可能性も考慮して謝罪の意思を伝えましょう。
電話で連絡する手順と例文
内定辞退の連絡を入れる前に、連絡先を確認し、伝える内容をまとめましょう。具体的な例文を紹介します。
【例文】
「お世話になっております。先日提出した内定承諾書の件でお電話いたしました。○○と申します。採用担当の○○様はいらっしゃいますか?」
採用担当者に電話を代わってもらう。
「○○です。どのようなご用件でしょうか?」
「内定承諾書を提出した後で申し訳ございませんが、事情があり辞退させていただきたくご連絡いたしました」
「そうでしたか。残念です。どのようなご事情かおうかがいしてもよろしいでしょうか」
「他社から内定の連絡が入り、今後のことを考えた結果そちらの内定を受けようと考えています」
「分かりました。では、辞退ということで進めます」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。失礼いたします」
メールで内定を辞退する際の例文
メールで内定辞退の連絡をする場合は、『内容がすぐに分かる件名』と『簡潔な文章』を意識しましょう。電話がつながらなかったケースを例として伝え方を紹介します。
【例文】
件名:内定辞退のご連絡(氏名)
お世話になっております。先日、内定承諾書を提出した○○(氏名)です。
先程お電話をさせていただいたのですが、ご多忙のようでしたのでメールにて失礼いたします。承諾後に事情が変わり、内定の辞退をさせていただきたくご連絡いたしました。
入社の意思確認後に身勝手な申し出をしてしまい、大変申し訳ございません。ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。
署名(氏名・住所・連絡先など)
内定承諾後の辞退はすぐに連絡を
内定を承諾してしまってからの辞退は、トラブルにつながる可能性があります。できる限り早急な連絡を心がけ、謝罪の気持ちを伝えましょう。
入社日の2週間以上前であれば、自由に内定を辞退することが認められています。しかし悪質とみなされる場合は、損害賠償を求められる可能性もゼロではありません。企業やほかの候補者に迷惑をかけないよう、早めの対応が重要です。