残業は月45時間が上限って本当?超過する場合の対処法をチェック

今の会社で残業が多いと感じているなら、残業に関する法律を把握することが大切です。残業時間が月45時間を超えている場合は、違法に働かされているかもしれません。法律で定められている残業の上限や、超過している場合の対処法を知っておきましょう。

残業は月45時間までって本当?

時計とデスク

(出典) photo-ac.com

残業時間に関しては法律で明確に規定されています。労働基準法で認められている残業時間や36協定の意味、違反した場合の罰則について解説します。

原則として月45時間・年360時間まで

残業時間(時間外労働時間)は原則として『月45時間・年360時間』を上限とすることが、労働基準法により定められています。月20日働く場合、1日あたりの平均の時間外労働は2時間15分です。臨時的に発生した特別な理由がない限り、会社は上限を超えて従業員に残業をさせられません。

以前は残業時間の上限が法律ではなく行政指導で示されているだけでした。しかし法改正が行われたことにより、現在は残業の上限が罰則つきで労働基準法に定められています。残業時間の上限規制は、大企業が2019年4月、中小企業は2020年4月から始まっています。

なお、法律で定められている労働時間の上限(法定労働時間)は「1日8時間かつ1週40時間」です。毎週最低でも1日は休まなければならないことも法律で規定されています。ただし、従業員が10人未満の職場(店舗・営業所単位など)で、営業面での独立性など一定の要件を満たした商業、映画、保健衛生業、接待娯楽業の場合は、1週44時間まで労働させることができます。休日は毎週最低でも毎週1日もしくは4週間を通じて4日以上は与えなければならないことも法律で規定されています。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省

36協定との関係

そもそも労働基準法においては残業そのものが例外です。原則としては法定労働時間の「1日8時間及び1週40時間」を超えて働かせてはならないとしています。

ただし、会社と従業員との間で合意があれば、「月45時間・年360時間」を上限として残業が認められます。従業員に残業をしてもらうために結ぶ協定が「時間外・休日労働に関する協定」です。

この協定は労働基準法第36条に基づいて結ぶことから、36協定(さぶろくきょうてい)と呼ばれています。法定労働時間を超えて従業員に働いてもらう会社は、必ず36協定を結んでおかなければなりません。

残業時間を超過した場合の罰則

36協定を締結せずに残業をさせた場合や、36協定で定めた時間を超えて残業をさせた場合には、労働基準法違反により罰則の対象となります。

残業規制に関する違反の罰則は『6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金』です。悪質な違反の場合は、厚生労働省によりネット上に企業名が公表される可能性もあります。

罰則を科されるだけでなく、労働基準監督署の監視対象にもなりかねません。状況の改善や違反の有無などについて、厳しいチェックを受けることになるでしょう。

原則の時間外労働上限を超えることができるケース

時間外労働の資料

(出典) photo-ac.com

36協定による原則の残業時間の上限を超えられるケースがあります。自社の残業が長すぎると感じる場合は、特別な労使協定が締結されているかもしれません。

年間で最大720時間まで残業できる

会社と労働者との間で36協定を締結しても、残業の上限は『月45時間・年360時間』を守らなければなりません。ただし、特例として特別条項付きの36協定を結んだ場合は次の限度内で時間外労働をさせることができます。

  • 年720時間以内
  • 2~6カ月平均がすべて1月当たり80時間以内(法定休日労働を含む)
  • 月100時間未満(法定休日労働を含む)
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月まで

特別条項とは

臨時的な特別な事情がある場合に原則の時間外労働を超えて残業をさせることを可能とする労使協定です。臨時的かつ特別な事情と認められるケースには次のようなものがあります。

  • 予算・決算業務
  • 大規模クレームへの対応
  • ボーナス商戦にともなう業務の繁忙
  • 機械トラブルへの対応

特別な理由もなく、単に業務が忙しかったり人手が足りなかったりする場合は、臨時的かつ特別な事情とはみなされません。

100時間未満の残業が可能な月は、労働日数が20日のケースで1日5時間近く残業できることになるため、残業が長すぎると感じやすくなるでしょう。

36協定が適用されない人

パソコンを操作する男性

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残業が発生する人でも、36協定が適用されないケースがあります。36協定について例外的な扱いを受ける主な例を紹介します。

国家公務員

労働基準法は雇用者と労働者の関係について定めた法律です。一部の例外を除き、国家公務員には労働基準法が適用されません。

国家公務員の勤務時間や休日は『一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律』で規定されています。労働時間は週38時間45分、休日は週2日となるのが原則です。

地方公務員

基本的に労働基準法が適用されない国家公務員とは異なり、地方公務員に関しては、部分的に労働基準法が適用されます。臨時の公務がある場合は残業や休日出勤をさせることが可能です。ただし、36協定の締結に関する手続きは必要なしとされています。

公立教員

地方公務員の一種である公立教員は、例外的に36協定が適用されません。『公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)』により、時間外勤務や休日出勤についての規定があるためです。

給特法では、主に『生徒実習』『学校行事』『職員会議』『災害時の対応』を特殊な業務と位置づけ、月給の4%が教職調整額として残業代や休日手当の代わりに支払われます。

本来であれば上記4項目に限り教職調整額の対象とすべきです。しかし、実際には4項目以外の残業も『教員の自発的行為』とみなされ、教職調整額で残業代をカバーすることになっています。いくら長く働いても残業代をもらえないのが公立教員の実情です。

同居の親族・家事使用人

労働基準法では、「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については適用しない。」と定められています。ただし、同居の親族でも次の条件に当てはまる人には労働基準法が適用されます。

  • 事業主の指揮命令に従っていることが明確な場合
  • 就労の実態と賃金が他の労働者と同様の場合

管理職

労働者の中でも「管理監督者(管理者)」と呼ばれる人は、36協定の適用外となります。『月45時間・年360時間』の上限時間を超えて残業しても違法にはなりません。

ただし、企業によっては特定の労働者を名ばかりの管理職とし、不当に残業をさせているケースもあります。労働基準法における「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断されます。

  • 経営会議のような企業運営に関する意思決定の場に参加していたり、部門全体を統括しているなど、重要な職務内容を有している
  • 労働条件の決定、その他労務管理について、経営者から重要な責任と権限を委ねられている
  • 自分で仕事量や労働時間を調整できる
  • 賃金面や待遇面で優遇されている

上記4つの基準を満たさない人が管理職として扱われている場合、上限時間を超えて残業をさせると違法とみなされることがあります。

その他

農林水産従事者、監視・断続的労働従事者、宿日直勤務者が該当します。

残業が多すぎる場合の対処法

時計とタスクリスト

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どうしても残業が多くなってしまう場合は、仕事量を減らす方向で考えることがポイントです。残業が多すぎる人におすすめの対処法を紹介します。

仕事の効率化を考える

仕事を抱えすぎて残業が多くなっている場合は、仕事の効率化を図ってみましょう。業務量を減らせないのなら、仕事自体をより早く終わらせることを考える必要があります。

仕事を細かく分けて優先順位をつけ、重要な仕事や緊急性の高い仕事から着手すれば、効率よく業務を進めることが可能です。次の日に回せる仕事があるなら、その日の残業時間も減らせるでしょう。

無駄な作業を行っていないか、日々の業務を見直してみるのもおすすめです。ビジネス向けアプリを導入したり、キーボードのショートカットキーを覚えたりすれば、仕事が早く終わるようになる可能性があります。

他の人に頼る

任された仕事をすべて自分でこなそうとする人は、残業が多くなる傾向があります。他の人を頼って仕事を割り振ることも、業務をスムーズに進めるための重要な考え方です。

ただし、何も考えずに周囲を頼ってしまうと、逆に効率が悪くなってしまう恐れもあります。自分でやったほうがよい仕事と他人でもできる仕事を見極めた上で、適切に割り振るのがポイントです。

他人に頼みごとをするのが苦手な場合は、仕事以外でもちょっとした頼みごとをする機会を増やしてみれば、他人を頼ることへの抵抗感がなくなっていくでしょう。

自分が抱えている仕事が停滞すると、周囲にも迷惑をかけてしまいかねません。全体がスムーズに動くためには、仕事を人に任せる方法もあることを覚えておきましょう。

上司に仕事量を調整してもらう

自分の仕事量が多すぎると感じたら、上司に相談して仕事量を調整してもらうのも1つの方法です。上司を通して他の人に仕事を回してもらえる可能性があります。

上司に相談する際は、あらかじめ自分の業務を洗い出しておきましょう。効率よく作業を進めても時間がかかることを、上司にきちんと説明できるようにしておくことが重要です。

単に『早く帰りたい』『仕事を減らしてほしい』と伝えるだけでは、やる気のなさを疑われて信頼関係が崩れかねません。上司を納得させられる説明を考えた上で、残業できない理由と併せて仕事量の調整をお願いしてみましょう。

相談しても残業が減らない場合の対処法

デスクワークする男性

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法律上の上限を超えて残業していることが分かった場合、まずは職場で解決できないか相談するのが正しい順序です。違法であることを職場に指摘しても問題が解決しないのなら、労働基準監督署に相談するか転職を検討しましょう。

労働局・労働基準監督署に相談する

労働基準監督署とは、会社が労働関係の法律を正しく守っているか監督する公的機関です。厚生労働省が管轄しており、各都道府県や地域に複数存在します。

会社から違法な残業を強いられているのなら、管轄の労働基準監督署に相談してみましょう。労働基準監督署が調査や指導をしてくれる可能性があります。残業を証明できる証拠があるなら提示するのがおすすめです。

実際に労働基準法に違反しているため、会社に改善を求めることを後ろめたく思う必要はありません。違法な残業であることを会社に訴えても対処してもらえない場合は、思い切って覚悟を決めて労働基準監督署を頼りましょう。また、労働局に設置されている総合労働相談コーナーを利用することもできます。

転職を考える

労働基準監督署に相談しても、残業問題が必ず解決するとは限りません。企業が注意に従わなかったり、証拠不十分で労働基準監督署が対応してくれなかったりすることもあります。

さまざまな手を尽くしても残業が減らないのなら、現在の会社を辞めて転職するのも1つの方法です。会社側に法律を順守する意識がない場合、今後も改善は見込めないでしょう。

我慢して今の職場に在籍し続けても、残業を苦に感じるのであれば、いずれ心身に支障をきたしかねません。体を壊してしまう前に退職し、転職に向けて動きましょう。

多すぎる残業にはきちんと声をあげよう!

デスクワークをする女性

(出典) photo-ac.com

残業時間の上限は月45時間・年360時間が原則です。ただし、会社によっては年間720時間まで残業しても違法にならないケースがあります。

いずれにしても残業の上限は法律で決まっているため、自分が働きすぎていると感じたら、会社や労働基準監督署に相談して改善を図りましょう。あらゆる手を尽くしても残業が減らない場合は、残業が少ない会社へ転職するのがおすすめです。

長友秀樹
【監修者】All About 社会保険労務士試験ガイド長友秀樹

医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
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