無期雇用派遣に転換するメリット・デメリットとは?正社員との違いも

派遣社員として働き続けることが不安なら、無期雇用への転換を検討するのも1つの方法です。メリット・デメリットを理解すれば、将来の働き方を考えやすくなるでしょう。無期雇用派遣の特徴や正社員との違い、派遣社員から正社員へのなりかたも解説します。

無期雇用とは?

印鑑を押す男性の手元

(出典) photo-ac.com

一定の条件を満たす派遣社員は、無期雇用へ転換できます。まずは、無期雇用の概要を理解し、有期雇用や正社員との違いも押さえておきましょう。

雇用期間に制限がないこと

無期雇用とは、雇用期間を定めない労働形態のことです。派遣や請負など柔軟な働き方を維持しながら、期間の制限を受けずに安定して仕事を続けられます。

無期雇用は、2013年4月の労働契約法改正により定められた制度です。有期雇用労働者として一定の条件を満たせば、無期雇用への転換を申請できる権利を獲得できます。

無期雇用制度は、非正規労働者に対する雇い止めを抑制する目的で設けられました。無期雇用へ転換すれば雇い止めのリスクがなくなるため、労働者が将来を考えやすくなります。

参考:労働契約法 第十八条 | e-Gov法令検索

有期雇用との違い

有期雇用とは、雇用期間に制限がある労働形態です。派遣社員以外では、契約社員・準社員・パート・アルバイトなども有期雇用労働者に該当します。

派遣元と有期雇用契約を結んでいる労働者は、派遣先での就業が終わると、派遣元との契約も終了します。

一方で、無期雇用の場合も雇用契約は派遣元と締結しますが、派遣先の就業が終了しても派遣元との契約は終わりません。

有期雇用では契約期間中のみ給料をもらえるのに対し、無期雇用なら給料は常時支給されます。有期雇用派遣の場合、派遣先での仕事が終わると収入が途切れてしまうリスクがあるのです。

正社員との違い

無期雇用派遣と正社員は、雇用主が異なります。正社員が勤務先から直接雇用されるのに対し、無期雇用派遣社員は派遣会社から雇用されるスタイルです。

無期雇用派遣と正社員のいずれも、雇用期間に制限はありません。ただし、無期雇用派遣は派遣先ではあくまでも派遣社員であり、派遣先の正社員になれるわけではないのです。

ボーナス・各種手当・福利厚生についても、無期雇用では派遣先の労働条件は適用されません。派遣会社における、無期雇用転換前の労働条件を引き継ぐのが一般的です。

有期雇用派遣から無期雇用派遣になる方法

就業規則

(出典) photo-ac.com

無期雇用派遣になるには、一定の条件をクリアする必要があります。有期雇用から無期雇用になるためのルールを、確認しておきましょう。

無期転換ルールについて

労働契約法第十八条では、無期転換ルールを定めています。有期雇用派遣から無期雇用派遣になるためには、以下の条件を満たしていなければなりません。

  • 有期雇用契約の通算期間が5年を超えている
  • 契約の更新が最低1回行われている
  • 同一使用者との間で契約を更新している

有期雇用派遣社員として働いている場合、契約期間が1年なら5回目の更新後1年間に無期転換の申込権が発生します。契約期間が3年の場合は、1回目の更新後に無期転換の申し込みが可能です。

転換の申し込みは、派遣会社に対して行う必要があります。無期労働契約は申し込みを行うだけで成立し、派遣会社は申し込みを拒否できません。

参考:労働契約法 第十八条 | e-Gov法令検索

参考:無期転換の概要 契約社員、アルバイトなどの方 | 有期契約労働者の無期転換サイト

無期雇用派遣で働くメリット

社員証をつけた女性

(出典) photo-ac.com

無期雇用派遣社員として働くことには、どのようなメリットがあるのでしょうか?有期雇用と比較した場合の、主なメリットを紹介します。

長期にわたって同じ職場で働ける

無期雇用派遣社員になると契約期間の縛りがなくなり、同じ職場で長期間働けるようになることがメリットです。

1年や3年ごとに職場を変えると、新たに人間関係を構築しなければなりません。しかし、無期雇用で働けば同じ環境で仕事をし続けられるため、人間関係を築き直さずに済みます。

また職場を転々とすると、毎回新たな仕事を覚えなければなりません。しかし無期雇用派遣なら短期間での業務変更は起こりにくいため、安心して仕事に集中できるでしょう。

収入が途切れる心配が少ない

無期雇用派遣で働くメリットとしては、収入が途切れるリスクを回避できる点も挙げられます。無期雇用派遣であれば、契約先となる派遣会社から給料をもらい続けることが可能です。

有期雇用の場合、派遣先の就業が終わると、次の派遣先が決まるまで収入を得られません。引き続き同じ職場で働きたくても、雇い止めにあえば契約を更新できない恐れがあります。

一方の無期雇用では、雇い止めのリスクを予防できるため、無収入の期間が発生することへの不安がありません。派遣先が決まらない待機期間中も、派遣会社からの給料が保証されます。

基本的に月給制になる

無期雇用派遣では、月給制になるのが基本です。派遣先が決まっていない間も派遣会社から月給をもらえるため、収入が安定して生活の見通しを立てやすくなります。

一方の有期雇用派遣社員は、時給制で働くのが一般的です。時給制では労働時間により給料が変動するため、毎月の収入が安定しにくいリスクがあります。

また、月給とは別に交通費が支給されることも、無期雇用派遣の強みです。有期雇用の場合は、交通費が時給に含まれていることが多いため、交通費分も所得税の課税対象となります。

しかし、交通費として受け取れば月15万円までは非課税となるため、手取りが増える可能性があります。

有期雇用より業務の幅を広げられる

有期雇用派遣社員は、派遣先で任される仕事が限られやすくなります。派遣先から「数年後にいなくなる人に、重要な仕事は任せられない」と思われてしまうためです。

しかし、労働期間を限定しない無期雇用派遣なら、長期就業を見越した仕事を任されやすくなるでしょう。責任のある重要な業務にも、取り組める可能性が高くなります。

業務の幅が広がればモチベーションアップにつながり、現在の仕事にもより強いやりがいを持てるようになります。着実なキャリアアップも望めるでしょう。

無期雇用派遣で働くデメリット

事務作業をする女性会社員

(出典) photo-ac.com

無期雇用派遣にはメリットだけでなく、デメリットやリスクもあります。転換のチャンスが訪れても安易に決めず、メリット・デメリットの両方を理解した上で、慎重に検討することが大切です。

採用試験や面接が必要になる

有期雇用派遣と異なり、無期雇用派遣社員として働くためには、採用試験や面接を受けなければなりません。試験や面接に通過しなければ、無期雇用契約を結べないことがデメリットです。

派遣先にとって無期雇用派遣社員は、正社員と似たような扱いになります。責任のある仕事を任せることになるため、派遣社員だからといって無条件に受け入れるわけにはいかないのです。

なお、無期雇用派遣の採用試験や面接は、派遣先企業ではなく派遣会社が実施します。面接に関しては正社員の場合と同様に、二次面接や最終面接まで行われることもあるでしょう。

派遣先を自由に選びにくくなる

有期雇用派遣のメリットは、希望する労働条件で働きやすいことです。基本的には、ライフスタイルやキャリアビジョンに合わせて仕事を選べます。

一方の無期雇用派遣では、派遣会社からの業務命令により、決まった派遣先で働かなければなりません。ある程度の希望は聞いてもらえるものの、有期雇用派遣と比べると派遣先選びの自由度は低くなってしまいます。

また、派遣先が変わる可能性があることもデメリットです。派遣会社から職場変更を指示された場合は、従わなければなりません。せっかく慣れた職場を離れることになれば、やる気が下がってしまうこともあるでしょう。

辞めにくくなるリスクも

無期雇用派遣で働くデメリットの1つに、派遣先を辞めにくくなることが挙げられます。自分には合わない職場だと感じても、自分の意志だけで簡単には辞められません。

どうしても派遣先を辞めたい場合は、『自己都合退職』として辞めざるを得なくなり、次の転職活動時に不利になるでしょう。派遣会社に頼んで、派遣先を変えてもらうことも困難です。

有期雇用派遣なら契約期間が決まっているため、自分に合わない会社で働いていても、契約期間中に我慢すれば契約満了を理由に辞められます。

派遣社員から正社員になる方法

手帳にメモを取る男性社員

(出典) photo-ac.com

派遣社員として働いている人の中には、いずれ正社員になりたいと考えている人も多いでしょう。派遣社員から正社員へのステップアップを、成功させる方法について解説します。

派遣先の企業で正社員を目指す

現在の派遣先で正社員登用制度が設けられている場合は、派遣先の正社員を目指せます。制度の仕組みを調べた上で、派遣先企業と交渉してみましょう。

また、派遣先で正社員になれないか、派遣会社に相談する方法もあります。この場合も、派遣先企業に正社員登用制度があることが条件です。

派遣先の正社員登用制度を確認する際は、応募できる時期・条件をチェックしておきましょう。上長の承認を必要とするケースや、登用人数が限定されているケースもあるため、詳細が分からなければ派遣先に直接聞いてみるのもおすすめです。

紹介予定派遣で正社員を目指す

派遣の形態の中には、『紹介予定派遣』と呼ばれるものがあります。紹介予定派遣とは、派遣契約後に派遣先での正社員を目指せる働き方です。

紹介予定派遣の派遣期間は、『最長6カ月』と決まっています。派遣先企業は派遣社員に短期間働いてもらい、正社員として登用しても大丈夫か見定めるのです。

契約満了後に派遣先・派遣社員の両者が合意すれば、正社員として採用してもらえます。ただし、正社員ではなく契約社員として採用されるケースもあるため、事前に確認しておきましょう。

派遣会社以外で転職を目指す

派遣先に正社員登用制度がない場合や、紹介予定派遣で正社員を目指したい企業が見つからない場合は、派遣会社以外で転職を目指す方法もあります。

転職先を探す際は、転職サイトや転職エージェントなどのサービスを利用するのがおすすめです。転職サービスごとに得意分野があるため、自分に合ったサービスを利用しましょう。

派遣社員として働いた実績をアピールできる転職先が見つかれば、応募の際に有利になります。スキル・実績を生かしながら、やりがいを持って働けそうな仕事を探してみましょう。

派遣社員から正社員に登用されやすい人の特徴

バインダーの資料に記入する男性の手元

(出典) photo-ac.com

派遣社員から正社員になれる人には、共通の特徴があります。主な特徴を知り、自分の資質や働き方を見直す参考にしましょう。

正社員として働く意味を理解している

正社員は、派遣社員より責任が重くなります。「正社員になれば、給料や待遇がよくなる」とばかり考えていると、実際に正社員として仕事をするときに苦労するでしょう。

派遣社員から正社員に登用されやすい人は、正社員として働く意味をきちんと理解しています。派遣社員時代よりも責任が重くなることへの、覚悟ができているのです。

正社員になりたい理由や目的が明確でなければ、責任のある仕事をしっかりとこなしていくのは難しいでしょう。そのため、正社員として働く意味をしっかりと考えておくことが重要です。

したいこと・できることを把握している

企業が正社員を募集する場合、できるだけ優秀な人材を集めるために、採用のハードルを上げます。応募書類や面接で自分のことを効果的にアピールするためには、自己分析をしっかりと行っておくことが重要です。

自己分析により、自分のしたいこと・できることを把握し、企業に貢献できるスキル・強い入社意欲をアピールできれば、書類選考や面接で好印象を与えられるでしょう。

また、自分が本当にしたいこと・できることを分析することで、入社後のミスマッチも防げます。自分自身の分析がうまくできないなら、家族や友人に聞いてみるのもおすすめです。

前向きでポジティブであることもポイント

派遣社員から正社員に登用されやすい人は、前向きでポジティブな傾向があります。何事に対しても自発的に動ける人は、高い評価を得やすいためです。

書類選考や面接の際も、ポジティブな気持ちで臨めばやる気をアピールできます。入社後に活躍してくれそうな印象も、与えやすくなるでしょう。

派遣社員であることをネガティブに感じていたり、正社員として働くことに自信がなかったりする人は、ステップアップのために動くこともできません。できるだけポジティブに物事を考えるようにしましょう。

段階を踏んで正社員を目指してみよう

資料を運ぶ女性社員

(出典) photo-ac.com

有期雇用派遣社員として一定期間働いているなら、無期雇用に転換できます。収入が途切れる心配がないことや業務の幅を広げられることが、無期雇用派遣の主なメリットです。

また派遣先の企業で頑張って仕事を続けていれば、正社員に登用してもらえる可能性もあります。派遣社員から正社員になる方法を理解し、段階を踏みながら正社員を目指してみましょう。

中野裕哲
【監修者】All About 起業・独立のノウハウガイド中野裕哲

起業コンサルタント、税理士、行政書士、特定社労士。年間約300件の起業無料相談受託。起業準備から経営までまるごと支援。税理士法人V-Spirits (経済産業省経営革新等認定支援機関) グループ代表。
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著書:
0からわかる! 起業超入門 相談件数No.1のプロが教える失敗しない起業55の法則
一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」