残業手当は、何をベースに決定されているのでしょうか?計算方法が分かれば、残業代がいくらになるのか判断できます。残業代の計算方法や割増率とともに、みなし残業制度・フレックスタイム制・裁量労働制などの働き方による違いも見ていきましょう。
残業代のベースとなるもの
残業代は、1時間当たりの賃金(基礎賃金)×残業時間に、一定の条件下では割増賃金をプラスして計算されます。まずは、残業代のベースとなる基礎賃金と残業時間の考え方について見ていきましょう。
基礎賃金
残業代の計算に使われるのが、1時間当たりの賃金(基礎賃金)です。1時間当たりの賃金は、基本給に役職手当や資格手当などを加えた額を1か月の平均所定労働時間数で割って算出します。
基本給は残業や手当を含まないものなので、給与明細を見れば簡単に判断できるでしょう。なお、基礎賃金には家族手当・扶養手当・通勤手当(一律支給を除く)など例外的な手当は含めません。
1時間当たりの賃金を導き出すには、まず1か月の平均所定労働時間数を算出します。1年間の所定出勤日数に1日当たりの所定労働時間をかけ、12で割りましょう。1年間のうち240日出勤し、8時間労働だった場合は「240日×8時間÷12=160時間」が月の平均所定労働時間です。
導き出された1カ月当たりの平均所定労働時間数で基礎賃金に含める所定賃金(基本給+手当)の額を割ると、1時間当たりの賃金が分かります。基礎賃金に含める所定賃金が24万円であれば、「24万円÷160時間=1,500円」が1時間当たりの賃金です。
残業時間
1日に働いている時間が7時間で1時間の残業があったとしても、1日8時間に収まる法定内残業しか発生していないため、割増賃金も加算されません。一方、原則として実働時間が1日8時間・週40時間を超えた分は法外残業(法定時間外労働)となり、割増賃金がプラスされる決まりです。
実働時間には、昼休憩・遅刻・早退・有給休暇を含めずに計算します。実働7時間で2時間の残業をすると、1時間は法内残業(法定時間内残業)、残りの1時間が法定外残業です。
雇う側に割増賃金の支払い義務があるのは、法外残業に限ります。1日の勤務時間が8時間を超えた段階で、割増賃金が加算されると考えましょう。
1時間当たりの基礎賃金に残業時間をかけ、1日8時間を超えた分には割増賃金をプラスして残業代を計算します。
残業代の計算方法
残業代の計算には、1時間当たりの賃金・残業時間の他に割増賃金率も利用します。具体的な計算方法と、定められている割増賃金率を見ていきましょう。シフト制の場合、何か違いがあるのかも解説します。
割増賃金率を出す
1時間当たりの賃金に割増賃金率をかけたものが、1時間当たりの割増賃金です。割増賃金率は、時間外労働・深夜労働・休日労働(法定休日労働)でそれぞれ設定されています。
1日8時間・週40時間を超えて働く場合、基本的に割増賃金率は25%です。ただし、月の残業が一定時間(60時間)を超えると割増賃金率が高くなるよう設定されています。
なお、深夜労働(午後10時から翌5時まで)の割増賃金率は25%と決まっており、法外残業が深夜労働(午後10時から翌5時)に該当する場合、「法定時間外労働分の25%+深夜労働分の25%」を合わせた50%が割増賃金率となります。
残業時間に割増賃金率をかける
割増賃金率が分かったら、1時間当たりの賃金・残業時間・割増賃金率をかけて残業代を計算しましょう。
例えば、1時間当たりの基礎賃金が1,500円で、20時間の残業をしたと仮定します。20時間のうち全てが法外残業(法定時間外労働)であれば計算は単純です。「1,500円×20時間×1.25=3万7,500円」がその月にもらえる残業代の最低額となります。
一方、10時間は法内残業(法定時間内労働)・残り10時間が法外残業であれば、割増賃金の支払義務があるのは10時間分だけです。法内残業分は「1,500円×10時間×1=1万5,000円」・法外残業分は「1,500円×10時間×1.25=1万8,750円」となり、残業代の合計は最低「3万3,750円」です。
深夜労働が含まれている場合、深夜労働分にはさらに25%の割増賃金率が上乗せされます。時間外労働分+深夜労働分の50%が上乗せされる金額です。仮に残業した20時間が全て深夜労働(午後10時から翌5時まで)に該当するなら、最低でも4万5,000円が残業代として支払われます。
シフト制の場合は?
シフト制であっても、残業代の仕組みは同じルールです。原則として1日8時間・週40時間を超えると割増賃金が発生します。
ただ、「変形労働時間制」を取っている場合は、一定期間の平均労働時間数が法定労働時間内に収まっていれば、特定の日に時間外労働があってもただちに割増賃金が発生しません。
企業によって「一定期間」のルールはさまざまです。1カ月・1年単位といった期間を決めて期間内の総労働時間から平均を割り出し、1日8時間・週40時間に収まっていればよいとされます。
変形労働制を採用しているシフト制の場合、割増賃金が発生する基準が違うと覚えておきましょう。
残業手当を計算するときの注意点
残業代を計算する場合、いくつか割増賃金率に例外があることに注意しましょう。また、歩合制の残業代は計算方法が異なります。未払いの残業代を請求するときの注意点も知っておきましょう。
法定休日は割増率が「35%」
日本では、法定休日として1週間に1日(または4週に4回の休み)の休みが義務付けられています。法定休日に出勤した場合の割増賃金率は、25%ではなく35%です。
法定休日の場合、勤務時間が8時間を超えても割増賃金率は35%と同率です。別途25%が加算されるわけではないため、注意しましょう。深夜労働が含まれる場合は、その時間については深夜割増分として最低25%が加算され、割増率は合計60%となります。
また、法定外休日の割増賃金率は、通常の時間外の割増賃金と同様に25%です。法定外休日とは、1週間に1日の休みとは別に契約上休日となっている日を指します。
月60時間超の残業なら「50%」上乗せ
長時間労働の抑制を目的に労働基準法が改正され、月60時間超の法定時間外労働の割増賃金率が通常の25%から50%に変更になります。
60時間までの残業には25%、60時間を超えた分のみ50%の割増賃金が加算されます。
なお深夜労働に対する割増賃金は、深夜時間という時間帯の労働に対して発生するものなので、1時間でも深夜労働をした場合は、1時間分の深夜割増賃金が必要です。
歩合制の場合は計算方法に注意
成果報酬型の給与形態である歩合制では、残業代の計算方法が異なります。歩合給として支払われる給与は時間外労働に対する基礎賃金(働いた時間分の賃金)を含んで計算されるため、割増分のみ加算するのが特徴です。
残業代の支給額は、残業時間数×25%の割増率で計算されます。基礎賃金1,500円なら、1時間当たりの残業代は25%分の375円ということです。
20時間の法定外残業をしたとき、通常なら基礎賃金分の3万円と合わせて3万7,500円の残業代が支払われます。歩合給なら残業代は割増分の7,500円のみです。歩合給の仕事で法定内残業しかなかった場合は、残業代が支払われません。
未払い分の請求には根拠が必要
残業代の未払いは、労働者に請求する権利があります。しかし、実際に残業をしていたことが分かるデータや書類がなければ請求することは難しいでしょう。
残業をしているにもかかわらず残業代が支払われないときは、出退勤記録やパソコンのログイン記録などの証拠を集めることが重要です。残業の実態が認められなければ、支給の対象にはなりません。
また、契約上残業代がどこまで含まれているのかを確認するために、契約書を準備しておくとよいでしょう。
個人での対応が難しい場合、弁護士や労働基準監督署に相談するのも1つの方法です。弁護士は有料ですが、成果報酬型であれば支払いは実際に残業代が支払われてからとなります。
労働基準監督署は無料で利用できるものの、打ち合わせや書類の準備を個人で対応する必要があるでしょう。
みなし残業制度の残業代は?
月給の中に一定時間分の残業代が含まれている「みなし残業制度」は、どのように計算されているのでしょうか?残業時間が予定を上回った場合についても解説します。
みなし残業(固定残業)制度とは
みなし残業制度は、給与の中に一定の残業代が含まれている仕組みのことで、固定残業制度とも呼ばれています。例えば、10時間のみなし残業がある場合、10時間までは残業代が発生しません。
月の残業が5時間であっても給与は減額されず、15時間の残業があればみなし残業時間の10時間を引いた5時間分の残業代だけが支払われます。
残業を一定時間内で収めると残業代の計算が不要となり、残業が少ない場合でも一定時間分の残業代が受け取れることがメリットです。
みなし残業(固定残業)制度を採用するには、固定残業代の部分と、固定残業代を除いた基本給の部分を明確に峻別しておく必要がありますので、就業規則などで確認しておくとよいでしょう。
残業時間が規定を上回った分は請求できる
みなし残業であっても、固定残業時間として指定されている時間を上回った場合、残業代を請求できます。
割増賃金は一般的な残業代の計算と同じです。未払いが起こった場合は、残業の事実を証拠として残しておきましょう。
参考:固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします|厚生労働省
勤務スタイルによる残業代の違い
フレックスタイム制や裁量労働制は、一般の働き方と勤務スタイルが異なります。1週間の労働時間が40時間を超えることもあるでしょう。他の日に調整ができる働き方では、残業代の計算はどうなるのでしょうか?
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制は、働く人が自分の裁量で勤務時間(始業・終業時刻)を決定できるシステムです。一定期間を「清算期間」として定め、その期間内の総労働時間(清算期間における所定労働時間)を決めておきます。清算期間の上限は3か月です。
例えば、清算期間1か月とし、総労働時間を155時間と設定されている場合、最終的にその期間内に155時間を達成すれば1日当たりの勤務時間は自由です。
企業によっては必ず勤務しなければならないコアタイムと自由に出退勤が設定できるフレキシブルタイムがあり、メリハリのある働き方ができます。
フレックスタイム制における時間外労働は、清算期間内の実労働時間が総労働時間数を超えた時点から発生します。ただし割増賃金の対象となるのは、清算期間ごとの法定労働時間の総枠を超えた時間です。
なお、清算期間の設定が1か月を超える場合は、1か月ごとに週平均50時間を超えた時間から割増賃金が必要です。
参考:効率的な働き方に向けてフレックスタイム制の導入 フレックスタイム制における時間外労働|厚生労働省
裁量労働制の場合
裁量労働制とは、あらかじめ設定した「みなし労働時間」を働いた時間と考える仕組みです。みなし労働時間が8時間であれば、実働時間が9時間・10時間でも残業代は発生しません。
ただし、成果が出ていれば仕事を終了する時間は自由です。早く仕事が終われば、8時間未満の労働で帰ることもできるでしょう。
裁量労働制で残業代が発生するケースは、休日に設定された日の出勤や深夜労働が含まれる場合です。
また、「みなし労働時間」が9時間といったケースなど、みなし労働時間そのものが8時間を超えていれば法定時間外労働として割増賃金が発生します。
自分の残業手当を正しく把握しよう
時間外労働・休日労働・深夜労働など状況によって、残業代の割増賃金率が変化します。月60時間を超える残業では高い割増賃金率が設定され、残業が多い人は通常時の勤務より多くの賃金が得られる仕組みです。
基本的に、法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えると割増賃金が残業代に含まれます。フレックスタイム制・歩合制・裁量労働制など計算方法が異なる働き方もありますが、それぞれのルールに沿って設定した労働時間を超えていれば残業代の支給対象です。
残業代がどのくらい支払われているのか気になったときは、1時間当たりの賃金や残業時間を計算し、支払われるべき残業代を確認しましょう。
あした葉経営労務研究所代表。特定社会保険労務士。法政大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同政策創造研究科博士課程満期修了。人事・労務・採用に関するコンサルティングに一貫して従事。マネジメント向けの研修やeラーニングの監修も行う。
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