人事異動を拒否したら解雇?拒否できるケースやリスクを解説

人事異動は、今後の人生を左右しかねないイベントです。「会社から人事異動を伝えられたけれど、仕事や家庭の事情で難しい」と悩む人も少なくないでしょう。人事異動は拒否できるかどうかから拒めるケース、受け入れられないときの対応まで紹介します。

人事異動は拒否できる?

考え事をする男性

(出典) photo-ac.com

企業に勤めていると、人事異動を命じられることがあります。しかし、移動先での業務やプライベートの事情によっては、受け入れにくいと感じるケースもあるでしょう。人事異動は拒否できるのでしょうか?

基本的には拒否できない

従業員は、人事異動を通達されたら拒否できないのが基本です。会社に就職する際、会社と従業員の間では雇用契約が結ばれます。

配置転換(社内での異動)や解雇など、労働者の処遇について記載がある労働条件通知書や就業規則が明示された上で入社した従業員は、その内容に同意したと見なされるのです。

雇用契約書や労働条件通知書・就業規則に採用・配置・昇給・解雇などの人事権が会社にある旨が書かれていた場合、正当な理由があるケースでなければ、人事異動を拒否できないと覚えておきましょう。

内示の段階では交渉の余地がある場合も

人事異動は辞令として伝えられます。ただ、辞令の1カ月から1週間前には、本人や上司など限られた人に内示があるのが一般的です。

業務命令である辞令に比べ、内示の段階ではまだ正式な命令ではないため、会社によっては交渉できる可能性もあります。

しかし、内示は異動の準備期間としての目的がメインとなるケースが大半です。基本的には内示であっても、よほどの理由がなければ受け入れざるを得ないと思っておいた方がよいでしょう。

特に「何となく異動先が嫌だから」といったあいまいな理由での拒否が受け入れられることは、まずないと考えるのが賢明です。交渉するに当たっては、自身のキャリアビジョンや異動できない明確な理由が求められます。

人事異動を拒否したら解雇される?

スーツの男性の後姿

(出典) photo-ac.com

人事異動を拒否したことが原因で、リスクを負いたくないと思う人も多いでしょう。会社から解雇される可能性があるのかどうか、退職がどのような扱いになるのかについて解説します。受け入れない理由によって、扱いが変わることを理解しておきましょう。

人事異動の拒否は解雇の理由になる

会社からの辞令を正当な理由なく拒否することは、業務命令違反に当たります。会社側には、業務命令違反を犯した従業員に対して懲戒処分を与える権限があります。

懲戒処分には降格や減給・解雇などの種類があり、中でも懲戒解雇は最も重い処分です。会社としてもできる限り穏便に済ませたいと考えるため、いきなり懲戒解雇になるケースは多くありません。

とはいえ、正当な理由もなく拒否し続けたり話し合いをしてもらちが明かなかったりすれば、懲戒解雇とされる可能性も十分にあるでしょう。

退職する場合は自己都合?会社都合?

雇用契約書や労働条件通知書・就業規則に、人事異動の規定について記載がありながら、会社からの辞令を受け入れず退職することになった場合は、基本的には「自己都合退職」の扱いです。

ただし、正当な理由があるにもかかわらず会社側に聞き入れてもらえなかったり、一方的に労働契約を解除されるなど会社側に過失があったりする場合には、会社都合と判断されるケースもあります。

自己都合・会社都合どちらの扱いになるかの判断を最終的に下すのはハローワークです。必要書類をハローワークに持っていって、判断を仰ぐことになります。

仮に自ら辞めるのではなく懲戒解雇と会社から告げられた場合は、まず懲戒解雇の処分自体が有効なのかどうかから確認した方がよいでしょう。処分に正当性がなければ、普通退職になるか、場合によっては会社都合になるケースもあります。

懲戒解雇となると、退職金の給付時期や転職への影響など辞めた人に大きな不利益が出てしまいます。

人事異動を拒否できる正当な理由

手帳に記入する女性

(出典) photo-ac.com

人事異動は原則として拒めませんが、正当な理由がある場合に限っては拒むことも可能です。人事異動を拒めるケースや事情を4つ見てみましょう。

雇用契約で職種や勤務地が限定されている

入社時の雇用契約で職種や勤務地が限定されているなら、その条件で採用が成立しているということです。職種や勤務地を変えなければならない異動を受け入れる必要はありません。

むしろ会社が従業員に対して契約外の職種や勤務地に異動するよう辞令を出すのは、契約違反に当たる可能性があります。

望まない人事異動の辞令を受けた場合は、まず雇用契約書や労働条件通知書に職種や勤務地を限定するという内容がないか確認してみましょう。

やむを得ない事情がある

自分・家族の病気や要介護の家族がいるなど、やむを得ない事情があれば、異動を拒否してよい見なされるケースもあります。

この場合の判断基準は、異動によって本人もしくは家族に重大な不利益が生じるかどうかという点です。

例えば、特定の病院でしか治療ができないようなケースが当てはまりますが、「子どもが小さく、学校の送り迎えが大変になるから」など誰にでも共通するような理由では認められないことがほとんどです。

また、重大な不利益に値するかどうかの最終的な判断は会社が行うため、診断書をはじめ説得力のある交渉材料を用意しておくとよいでしょう。

異動に不当な目的や動機がある

従業員への嫌がらせやパワハラ、辞めさせたいからといった不当な目的・動機がある場合も異動を拒否できるケースです。この場合は会社の権利濫用と見なされ、異動の辞令は無効となります。

ただし、本人が嫌がらせやパワハラと感じただけでは、辞令を受け入れない正当な理由と主張するのは難しいでしょう。

例えば異動命令と同時に退職を促された事実が録音データ・文書で残っていることをはじめ、第三者から見ても明らかに悪意がある異動だと証明できる証拠が必要です。

このケースで拒否の正当性を立証するのは難しいかもしれません。

異動によって賃金が下がる

賃金については雇用契約で取り決めがされているため、会社側が従業員の同意なく賃金を下げることは違法です。

異動によって基本給はもちろん各種手当などを含めて減給になる場合は、異動を拒む正当な理由となります。会社には異動を命じる人事権はあっても、異動を理由に賃金を下げる権利はありません。

仮に「地方は本社よりも基本給が安いのが基本だし、生活費も安く済むため生活レベルは変わらない」などと言われたとしても、一方的な減給には応じないようにしましょう。

ただ、異動に伴う一方的な賃金ダウンは違法でも、異動の辞令自体は別に考えて有効とされるケースもあります。配置転換や出向で賃金が下がってしまうとしても、必ずしも辞令を拒めるとは限りません。

参考:労働基準判例検索-全情報 ID番号:07980

どうしても異動したくない場合は?

打ち合わせをする2人

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どうしても異動を受け入れられない場合、その後の道として2つの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを考慮し、自分・家族にとってベストな選択をしましょう。

辞令を機に転職する

どうしても異動できない理由があるのに拒否が受け入れられない場合には、転職するのも1つの手段です。

人事異動を受け入れられないからと退職するのは従業員の自由であり、会社が退職を拒否することはできません。

異動によって望むキャリアが築けなくなったり、家庭の事情や体調の都合などで異動が難しかったりするなら、転職を視野に入れましょう。

ただし、会社側としては異動候補者に退職されると大きなダメージを受けます。会社や同僚に迷惑をかけないよう、就業規則に従ってスムーズに退職するのは最低限のマナーです。

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懲戒処分を受け入れて働き続ける

雇用契約書や労働条件通知書・就業規則に規定の記載があるにもかかわらず、従業員側が正当な理由なく人事異動を拒否した場合は、懲戒処分の対象となる可能性が高いでしょう。

解雇は免れて会社で働き続けられたとしても、厳重注意や減給・出勤停止・降格などの処分が下される場合があることは覚悟しておきましょう。

また、異動を拒否すると、基本的に会社からの期待度・信頼度は下がります。懲戒処分や会社からの評価が下がるリスクを考えても転職はしたくないという場合は、マイナス面を受け入れて働き続けるのも選択肢の1つです。

人事異動を通達されたら熟慮してベストな選択を

資料を運ぶ女性社員

(出典) photo-ac.com

環境が大きく変わることが多い人事異動は、会社にとっても従業員にとってもある程度覚悟のいる決断となります。

会社側はチャンスを与えたつもりで命じた辞令だったとしても、辞令を受けた側からするとキャリアプランや家庭の事情に合わず、すんなり決断できないケースも少なくありません。

今後のキャリアや自身・家族の人生にとってベストな選択ができるよう、異動した場合と拒否した場合、両方のパターンをじっくり比較して進むべき道を決めましょう。