100時間越えの残業は違法?未払い残業代の請求方法や転職のコツも

残業が月100時間を超えているのなら、働きやすい企業への転職を検討しましょう。残業が違法になる基準や、残業が多い企業の辞め方についても詳しく解説します。あわせて残業が少ないホワイト企業の見極め方もチェックしましょう。

企業に根付いた過労死ラインの残業

タイムカード

(出典) photo-ac.com

日本では依然として長時間労働が大きな問題となっています。労働時間の削減に向けて国もさまざまな取り組みを行ってはいるものの、長時間残業が根付いた企業がいまだに一定数存在しているのが実情です。

公的なデータを参考に、残業時間の現状を解説します。残業100時間の場合の生活サイクルも確認しておきましょう。

7%の企業が過労死ライン以上の残業あり

厚生労働省がみずほ情報総研を通して2016年に行った調査によると、「最も長く残業した従業員で、月80時間以上時間外労働をしている」と回答した企業の割合は7%です。特にバーや喫茶店などの飲食事業が、高い割合を占めています。

平均的な月における、正規雇用者1人当たりの月間時間外労働時間が80時間を超える企業の割合も、1.8%となっています。

厚生労働省が過労死の労災認定基準として定めている「過労死ライン」は、2~6カ月連続した残業が80時間以上、1カ月間なら残業100時間以上です。過労死ライン以上の残業が存在する実態が、調査結果から浮き彫りになっています。

参考:平成 28 年度厚生労働省委託 過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業 P183~184|みずほ情報総研株式会社

残業100時間の人の生活サイクル

月の残業時間が100時間に達する場合、週5日・月間20日を所定の勤務日数とすると、1日当たり100時間÷20日=5時間の残業をしていることになります。

毎日5時間残業すれば、1日の所定労働時間を8時間とした場合、実際に働く時間は13時間です。休憩1時間・通勤2時間・睡眠6時間の人なら、プライベートの時間は2時間しかありません。

週2日休めるとはいえ、出勤日に自分の時間を2時間しか確保できない生活サイクルでは、心も体も休まらないのも無理はないでしょう。

平均残業時間は?現場と雇い主の認識のズレ

厚生労働省が実施している「毎月勤労統計調査」によると、2023年1月における一般労働者の月間所定外労働時間の速報値は、13.2時間となっています。完全週休2日制の場合、1カ月の労働日数は約22日です。1日当たりの残業時間は13.2時間÷約22日=約0.6時間となり、1時間に満たないことが分かります。

ただし、この調査結果はあくまでも会社が申告した数字に基づいているデータです。現場の肌感覚では、もっと残業しているように感じている人も多いでしょう。現場と雇い主の認識にズレが生じていることが考えられます。

参考:毎月勤労統計調査 令和5年1月分結果速報 第2表 | 厚生労働省

長時間の残業は違法になる?

時計

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残業時間が100時間に達した場合、法律的にはどのような扱いになるのでしょうか。長時間労働や残業代未払いに関する法律の解釈について解説します。

法改正により「月45時間」が上限に

労働基準法が改正された結果、特別な理由がない限り、残業時間の上限は月45時間・年360時間となりました。

特別な理由により労使協定で残業時間を規定する場合でも、時間外労働は年720時間以内としなければなりません。時間外労働+休日労働の時間も、月100時間未満・2~6カ月平均80時間以内とする必要があります。

いかなるケースにおいても、従業員に月100時間以上の残業をさせることは違法なのです。一般労働者だけでなく、管理監督者やみなし労働時間制で働く従業員も対象になります。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説 P2 | 厚生労働省

残業代未払いは違法

時間外労働が発生した場合、企業は対象の従業員に対して残業代を支払う必要があります。残業代未払いは労働基準法違反です。

労働基準法に反すると、行政からの制裁対象になります。是正勧告であれば法的な縛りはないものの、繰り返して行われる場合は刑事罰の対象にもなりかねません。

労働基準法第119条により、残業代の未払いに関する刑事罰は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」と定められています。

参考:労働基準法 第百十九条 | e-Gov法令検索

残業100時間超で生じる悪影響

働きすぎの女性

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残業時間が月100時間を超えた場合に考えられる悪影響を紹介します。取り返しがつかない状態になる前に、何らかの手を打たなければならないでしょう。

心身の不調

残業時間が月100時間に達した場合、体調不良を引き起こす恐れがあります。食欲不振・吐き気・頭痛・寝不足などの症状が考えられるでしょう。

長時間残業は精神面にも悪影響を及ぼしかねません。適応障害やうつ病を発症してしまうと、自分では働く意思があっても体が出勤を拒否するようになってしまいます。

体調不良や精神疾患の自覚がなくても、心身に疲れが蓄積している可能性は高いでしょう。残業が多い段階で、早めに対応を考えることが大切です。

最悪の場合、過労死の恐れ

厚生労働省が定めている残業の過労死ラインは、「1カ月に100時間超」または「2~6カ月間の1カ月平均が80時間超」です。

残業時間が100時間を超えれば、1カ月でも過労死の恐れがあるとしています。残業が100時間に満たなくても、平均80時間を超える残業が2カ月以上続けば、過労死する可能性が高まるのです。

さらに、2~6カ月間の1カ月平均が45時間を超える場合も、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとしている点に注意しましょう。

参考:血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について | 厚生労働省

効率が下がり残業が増える悪循環

残業の悪影響は心身の不調だけではありません。残業が続くと業務効率が下がるため、残業がさらに残業を呼ぶ悪循環に陥ってしまうのです。

残業時間が100時間を超え、1日4~5時間の残業時間を繰り返せば、残業中に集中力を保てる人はほとんどいないでしょう。作業が遅くなって仕事が終わらず、だらだらと残業を繰り返してしまう結果になります。

残業を苦痛に感じている場合は、そもそも残業中の業務に集中できるわけがありません。眠くなったりお腹がすいたりしてくると、集中力はさらに低下してしまいます。

残業が多いブラック企業の特徴

デスクワークをしている男性

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残業が多くなりがちな企業に見られる、共通の特徴を紹介します。自分の会社が1つでも当てはまるなら、ブラック企業である可能性が高いでしょう。

繁忙期が多い

残業が多い企業の特徴としては、繁忙期が多い点が挙げられます。定期的に忙しくなる企業は、どうしても繁忙期に残業が増えがちです。

労使協定を結んだ場合、企業は以下の条件で残業時間を設定できます。

  • 1カ月の上限:100時間未満
  • 複数月(2~6カ月)の平均:80時間以内(時間外労働+休日労働)

例えば1カ月の残業時間が70時間におよぶケースでは、月間労働日数を22日とすると、70時間÷22日=約3.2時間です。きつさを感じるのに十分な残業時間だといえるでしょう。

繁忙期に臨時で人員を雇い入れれば、既存従業員の負担は減らせます。しかし、ブラック企業は既存従業員に残業をさせて、人件費をできるだけ抑える方向で考えるのです。

企業の勤怠管理がおろそか

勤怠管理をおろそかにしている企業も、残業が多くなる傾向があります。従業員の労働時間を正確に把握しようとする意識が低いため、従業員がどのくらい残業しているのか分かっていないのです。

労働基準法で労働時間や休日に関する規定が設けられている以上、企業には一般従業員や管理監督者の労働時間を適切に把握・管理する責務があります。

サービス残業が多い企業や休日出勤を記録しない企業は、勤怠管理が整備されているとはいえません。月の残業時間が100時間を超えようが、そもそも企業側の意識が低過ぎるため、労働環境の改善を期待できないのです。

先に帰りにくい雰囲気

残業することを評価される企業も要注意です。定時を過ぎても働いている人が高い評価を受ける風潮がある場合、先に帰りにくい雰囲気になり、残業せざるを得なくなるでしょう。

日本の企業は、残業で長く働く人を高く評価する傾向がいまだにあります。このような企業では、定時に退社する人を「やる気がない」「非協力的」などとみなしてしまうのです。

先に帰りにくい雰囲気は、経営陣や管理職の価値観から生まれるため、従業員の努力だけで環境を改善するのは難しいでしょう。

残業が多い企業を辞めるポイント

退職届を書く

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残業時間が月100時間を超えてしまうような企業は、労働環境の早急な改善を見込めないため、体調の異変を感じたら無理をせず退職・転職を検討しましょう。残業が多い企業を辞める際のポイントを解説します。

会社都合退職にできる場合も

自ら会社を辞める場合は自己都合退職となり、雇用保険(基本手当)の給付制限がかかってしまいます。しかし、残業を理由に退職する場合は、会社都合退職にできるケースもあります。

退職前6カ月において以下のような条件に当てはまる場合は、特定受給資格者として有利に扱ってもらえる可能性があるでしょう。

  • 3カ月連続で残業が月45時間以上
  • いずれかの月の残業が100時間以上
  • 連続する2カ月以上の月平均残業時間が80時間超

上記の条件を満たしていることを証明するためには、証拠を残しておかなければなりません。タイムカードがない場合は、手書きのメモでも証拠になる可能性があります。

未払いの残業代を請求しよう

支払われていない残業代がある場合は、退職時にきちんと請求しましょう。2020年4月1日以降に支払日が来た残業代は3年の時効があるため、退職後も3年間は未払い分を請求できます。

未払いの残業代を請求する際は、残業や未払いを証明できる証拠が必要です。雇用契約書・就業規則・タイムカード・給与明細書などがあれば、強力な証拠になります。

タイムカードや就業規則など、会社を辞めた後には入手しにくくなる書類もあるため、証拠となる書類は会社を辞める前にそろえておきましょう。

余裕があれば労働基準監督署に申告を

違法な残業を放置している企業や残業代を払っていない企業については、労働基準監督署に申告すれば相応に処罰してくれる可能性があります。

労働基準監督署では残業の多さや残業代の未払いに関する相談もできますが、相談ではなく申告を行いましょう。違法な企業の存在を客観的に通報することになるため、インパクトをより強められます。

会社を辞める場合、労働基準監督署への申告は必須ではありません。しかし、残された同僚の労働環境の改善につながる可能性もあることから、余裕があるなら申告しておくのがおすすめです。

働きやすい転職先の見つけ方

パソコンで検索をする

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転職先でも過酷な残業で苦しまないようにするためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。働きやすい企業の探し方を解説します。

「ホワイト企業認定」がある企業は安心

残業で悩まない企業で働きたいのなら、「ホワイト企業認定」を受けている企業を探してみましょう。ホワイト企業認定は一般財団法人日本次世代企業普及機構が運営する制度です。

ホワイト企業認定を取得している企業は、労働法遵守やワークライフバランスなど、7つの認定指標における一定基準をクリアしています。ホワイト企業認定を受けているだけで、働きやすい企業であると判断できるのです。

細かい労働条件は企業ごとに異なるものの、少なくとも月の残業が100時間を超えることはないでしょう。ブラック企業から転職する場合は、労働環境が劇的に変わる可能性もあります。

法定外の福利厚生が充実している

法定外福利厚生が充実している企業も、働きやすい企業である可能性が高いといえます。法定外福利厚生とは、企業が任意で用意する福利厚生制度のことです。

交通費・住宅手当・家賃補助・昼食補助・育児休暇・施設利用割引制度・健康診断費といったものが、法定外福利厚生に該当します。

福利厚生の充実度は、企業が従業員のことをどれだけ考えてくれているかを判断できるバロメーターの1つです。転職先を選ぶ際は、法定外福利厚生の内容もチェックしましょう。

みなし残業がある企業は選ばない

求人票でみなし残業があることを確認できる企業には注意しましょう。みなし残業とは、おおまかな残業時間をあらかじめ設定し、その残業代を給与に組み込む制度です。

残業が発生しなくてもみなし残業代はもらえますが、みなし残業がある企業のほとんどで残業が発生します。みなし残業時間を超えて残業した場合、残業代をもらえないケースが多いのもポイントです。

そもそも大半のケースでは、みなし残業代を除く部分の給与がかなり低く設定されています。みなし残業がある企業はブラック企業である可能性が高いため、転職先に選ばない方が無難です。

長時間残業から解放されて新たな人生を

女性社員

(出典) photo-ac.com

残業が月100時間を超えているのは違法な状況です。体調不良や精神疾患につながりやすく、最悪の場合は過労死してしまうリスクもあります。

残業が多いブラック企業で働いているのなら、体の異変を感じる前に転職するのがおすすめです。求人検索サイト「スタンバイ」で豊富な求人情報の中から企業を探し、働きやすい職場で新たな人生をスタートさせましょう。

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本田和盛
【監修者】All About 企業の人材採用ガイド本田和盛

あした葉経営労務研究所代表。特定社会保険労務士。法政大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同政策創造研究科博士課程満期修了。人事・労務・採用に関するコンサルティングに一貫して従事。マネジメント向けの研修やeラーニングの監修も行う。
All Aboutプロフィールページ

著書:
厳選100項目で押さえる 管理職の基本と原則 精選100項目で押さえる 管理職の理論と実践