ホワイト企業も固定残業代制を導入してる?正当性のポイントも紹介

固定残業代制度は、ホワイト企業でも導入されているのでしょうか? ブラック企業のイメージが強い理由や、制度のメリットを見ていきましょう。制度が正しく運用されているかチェックするための方法と、ホワイト企業を見分けるコツを紹介します。

ホワイト企業でも固定残業代制度はある?

壁時計

(出典) photo-ac.com

毎月、一定時間の残業代を基本給と合わせて支払う「固定残業代制度」は、ホワイト企業で導入されているのでしょうか? 一般的な仕組みと、ホワイト企業での取り扱いについて見ていきましょう。

基本は導入されないことが多い

固定残業代制度は、「みなし残業」とも呼ばれています。会社が定めた一定時間の残業代が給与に含まれている制度です。

一見すると給与が高く見えることや、固定残業時間を超えても残業代を支払わない企業があったことから、悪いイメージを持つ人もいます。ホワイト企業を目指す企業であれば、イメージ的な問題から導入を見送ることもあるでしょう。

ホワイト企業であれば、設定された給与に残業代を上乗せすることが一般的なので、導入のメリットが少ないとも言えそうです。

超過分の残業代が支払われるか否か

固定残業代制度導入の有無だけで、ホワイト企業かブラック企業かを見極めることはできません。超過分の残業代が支払われ、過度な残業がなければ、労働者にとってメリットの多い仕組みでもあります。企業の運用方法によって、印象が変わる制度であると考えておきましょう。

ホワイト企業が固定残業代制度を導入している場合、労働者にとって多くのメリットがあります。固定残業分の賃金は必ず支払われ、超過した場合は残業代が上乗せされるためです。企業にとっては残業代を計算する手間が大きく省けるので、業務効率化にもつながります。

ブラック企業に多い制度だといわれる理由

給与明細

(出典) photo-ac.com

固定残業代制度はブラック企業に多い制度だといわれる理由について解説します。悪い印象が根付いてしまった原因と現在の状況について、あわせてチェックしてみましょう。

固定残業代制度をブラック企業が悪用

固定残業代制度に悪い印象があるのは、ブラック企業が制度を悪用していたためです。ブラック企業は、残業時間が多くなっても超過分を支払いません。その結果、安い賃金で過重労働を強いられます。

固定残業代を含んだ給与が安い、固定残業時間が極端に多いなど、ブラック企業が制度を悪用するケースはさまざまです。特に固定残業時間が月45時間超の場合、一般的な時間外労働の上限を超えるため、ブラック企業に該当する可能性があります。

現在では厚生労働省が「基本給」「残業代の計算方法」「割増賃金の有無」を明示するよう指導しているため、以前よりブラック企業を見分けやすくなりました。

参考:
時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省

労働者にとっての固定残業代制度のメリット

パソコンで作業をしている

(出典) photo-ac.com

固定残業代制度は、本来労働者側にもメリットがある制度です。正しい運用が行われた場合のメリットを見ていきましょう。求める働き方によっては、固定残業代制度を導入する企業を選ぶ選択肢もあります。

残業をしていなくても支払われる

固定残業代制度のメリットは、残業が0時間でも固定残業代が支払われることです。業務時間内に仕事が終われば、基本的に残業の義務はありません。

定時で帰宅できるよう業務のスケジュールを組めるなら、残業をしなくても固定残業代を全額受け取れます。働く時間が少ないほど時間給が増えることになり、労働者にとっては有利です。

ただし、固定残業代制度を導入している以上、企業側は「残業が必要」と考えています。残業が想定される業務量であることは意識しておきましょう。効率的に作業が進められる人ほど有利です。

業務効率を上げることにつながる

固定残業代制度を導入している企業では、労働者の業務効率化の意識が高まります。残業をしなくても給与が同じであれば、あえて残業をしたい人は少数派でしょう。全員が残業を減らそうと努力することで、仕事が終わればすぐに帰る雰囲気が生まれます。

効率を考えて作業を進めればプライベートが充実し、ワーク・ライフ・バランスが整うでしょう。「業務を早く終わらせれば帰宅できる」と意識することで、業務中のモチベーションも上がるはずです。

効率化を進めるには能力アップが欠かせません。残業をしないための努力をすることで、自然とスキルが向上していきます。

月々の給料が安定する

一般的な残業制度では、毎月の給料は変動します。残業のある月とない月で、変動が大きくなる企業も多いでしょう。しかし、固定残業代制度を導入している企業は、見込み時間を超えない限り給料が一定です。

残業代は基本給に加算されているため、月々の給料が安定します。残業をしてでも安定した給料が欲しいと考えている人には、メリットの大きい制度です。

基本給が低く設定されている企業では、残業がない月に家計が苦しくなることもあります。残業の有無にかかわらず安定した給料を得たい人は、固定残業代制度を導入している企業が向いているでしょう。

固定残業代の正当性をチェック!

資料をチェックする

(出典) photo-ac.com

固定残業代制度が正しく運用されているかチェックするには、給料の内訳と残業時間数の確認が必要です。基本的な仕組みと、確認方法を知っておきましょう。万が一計算して違和感がある場合は、企業の窓口や労働基準監督署へ相談が必要です。

残業代を抜いた基本給がいくらか

固定残業代制度を導入している場合、残業代を含んだ金額が給料として記載されています。額面上の給料ではなく、基本給と見込み残業代がそれぞれいくらに設定されているのか確認しましょう。

金額と見込み残業時間数がはっきりしない場合、超過分の残業代が計算できない可能性があります。求人票や採用前の条件提示で内訳が記載されていないときは、詳しく確認が必要です。

基本給と残業代の内訳が分かれば、それぞれの時間給を計算し、最低賃金を上回っているかチェックできます。万が一最低賃金を下回っていれば、ブラック企業の疑いを持った方がいいでしょう。

固定残業代に割り増しがついているか

固定残業代には、時間外労働の割増賃金が加算されます。割増賃金について記載があれば、簡単にチェックできるでしょう。

基本給・固定残業代・固定残業時間数がそれぞれ分かれば、自分で計算が可能です。まずは、基本給を定められた労働時間数で割ります。計算した金額が、1時間あたりの時間給です。

次に固定残業代を、固定残業時間数で割ります。計算した金額は、時間外労働の1時間あたりの時間給です。それぞれの時間給を計算し見比べると、割増賃金が加算されているかが分かります。

超過分が支払われるかの確認

残業時間が固定残業時間を超えた場合、超過分が支払われるかは重要なポイントです。固定残業時間以上の残業を認めていない企業では、サービス残業を強いられる可能性があります。

求人票や面談時の待遇確認で、条件をしっかり確認しておきましょう。募集要項や面談では実態が分からないこともあるため、企業の口コミをチェックするのも有効です。

口コミで「残業代が支払われない」「固定残業時間以上の残業は禁止」と書かれている場合は要注意です。口コミが真実かどうか見極める必要はあるものの、ある程度参考にはなるでしょう。

固定残業の時間をチェック

固定残業がある場合、月の残業時間数をチェックしておくのも大切です。給料が高いように見えても、残業時間が長いと過酷な労働になります。

原則、月の残業時間数は45時間以内が基本です。20日働くとすると、1日あたり2時間15分になります。

もし残業時間数が80時間であれば、20日働いたとき、1日あたりの残業時間は4時間です。8時間労働に休憩1時間と残業4時間が加算されると、13時間拘束されます。

長い残業時間が設定されている場合、過酷な労働が常態化している可能性も考えておきましょう。

固定残業代以外でホワイト企業を見分ける方法

パソコンを見ている

(出典) photo-ac.com

ホワイト企業は、導入している制度や公表されている数値で見分けがつきます。固定残業代制度以外でホワイト企業を見分けるポイントと、主な制度を見ていきましょう。ただし制度の有無だけでなく、いろいろな角度から確認する必要があります。

離職率の低さ

離職率の低い企業は、働きやすいホワイト企業と考えられます。辞める人が少ないということは、居心地がよい証拠です。給与や労働環境が整っていると推測できます。

離職率は基本的に非公開です。しかし「就職四季報」掲載の会社で、離職率が公開されています。書籍以外にインターネットの口コミでも予想ができるでしょう。

業界によって離職率の目安は異なるため、厚生労働省が発表する産業別データが参考になります。離職者が多い業界では、会社の体質や福利厚生をチェックし、働きやすい環境になっているかをしっかり確認しておきましょう。

参考:令和3年上半期雇用動向調査結果の概況|厚生労働省

研修制度・福利厚生の充実

ホワイト企業には、新卒・中途入社向けの研修制度があります。入社後の研修が充実していれば、業務について学んだ上で働けるでしょう。

研修中のうちは先輩や同僚がしっかりサポートしてくれるため、安心感があります。研修の有無や、内容を確認しておきましょう。

福利厚生の充実も、ホワイト企業の特徴です。企業年金・退職金・有給休暇の取得率・独自のサポート制度など、福利厚生について調べておきましょう。入社前の条件確認で、ある程度のことが分かるはずです。

女性の働きやすさもポイント

ホワイト企業は、女性の社会進出や働きやすさに配慮していることが多いという特徴もあります。産休・育休制度の充実や、短時間勤務の導入など、女性のライフスタイルに合わせた制度があるか確認してみましょう。

女性に対する制度が充実しているということは、労働者全体に対する福利厚生の充実も期待できます。男性であっても、働きやすい企業といえるでしょう。

実際に制度を利用している割合が公表されていれば、ホワイト企業である可能性は高くなります。公表できるということは、利用者が多いと考えられるためです。

制度を適切に利用できているか確認しよう!

パソコンで作業をする男性

(出典) photo-ac.com

固定残業代制度は、企業が定めた「固定残業時間」を給料に加算する制度です。毎月の給与が高くなり、安定した賃金を得られます。

残業の有無にかかわらず、固定残業時間分の賃金は支払われます。残業がないように業務を進められれば、残業代をもらった上で定時の帰宅も可能です。

ただし、固定残業代制度を悪用しているブラック企業もあります。ホワイト企業でも導入している可能性はありますが、制度の運用実態を確認することが大切です。

和田雅彦
【監修者】All About 社会保険労務士/年金ガイド和田雅彦

大学卒業後、銀行勤務を経て社会保険労務士資格を取得し独立開業。上場企業をはじめ数多くの企業の人事労務管理の相談指導、給与計算業務等に携わる。また年金問題についての執筆、講演も多数。
All Aboutプロフィールページ