嘱託社員とは?正社員との違い、労働条件や保険内容について

雇用形態の1つである「嘱託社員」は、ほかの働き方とどう違うのでしょうか? 嘱託社員の基本的な意味や、ほかの雇用形態との主な違いを解説します。嘱託社員として働くメリットや注意点、労働条件も見ていきましょう。

「嘱託社員」とは

資料を手にしている男性

(出典) photo-ac.com

まずは嘱託社員の定義や、正社員・契約社員との違い、どのようなケースで雇用されるのかを解説します。

実は明確な定義はない

嘱託社員は、非正規職員です。法的な定義などは設けられていないため、じつは契約社員・アルバイト・パートとの明確な区別はありません。それぞれ違いはあるものの、その扱いは会社によって異なるケースもあります。

嘱託社員として一般的に知られているのは、定年後の再雇用でしょう。慣れた職場で、定年後も働き続けられるのがメリットです。

嘱託社員は、フルタイム勤務・パートタイム勤務どちらの働き方もありえます。正規職員よりも、自由な働き方ができる雇用形態です。

嘱託社員として働くケース

嘱託社員は、有期雇用で働きます。「専門的な資格・技術を提供するための有期雇用」と「定年後の再雇用」が主なケースです。

弁護士・医師などの専門職は、「嘱託弁護士」「嘱託医」として働くことがあります。専門職を正社員として雇う余裕がない会社でも、労働時間を柔軟に設定できる嘱託社員なら雇用しやすいためです。

柔軟な働き方が可能で、契約日数によっては複数の会社で働くこともできます。

定年後の再雇用は、元社員の経験やスキルを生かす場として活用されています。一定の年齢まで有期雇用を結び、その後は状況によって雇用を延長するスタイルが多いでしょう。

働き方の違いについて

ネクタイを締める男性

(出典) photo-ac.com

上でも解説したとおり、嘱託社員には明確な定義はありません。しかし、正社員・契約社員・派遣社員・アルバイト・パートとは呼び方が違います。それぞれの働き方と、嘱託社員の違いは何なのでしょうか? 嘱託社員の特徴と、ほかの働き方の違いを解説します。

正社員との違い

嘱託社員は、正社員と異なる点がいくつかあります。正社員は原則無期雇用ですが、有期雇用で勤務するのが特徴です。

勤務時間が異なるケースもあります。会社のルールや本人の希望で、勤務時間が短いことも多いでしょう。この場合、時間が短くなった分だけ、給料が低くなる可能性もあります。

ボーナスや退職金などの待遇も、通常の正社員とルールが異なるはずです。嘱託社員として働く場合は、会社側に待遇と条件を確認しておきましょう。

契約社員との違い

嘱託社員は、契約社員と同じ有期雇用です。似たような雇用形態ですが、主な違いは勤務時間でしょう。

契約社員は一般的に、フルタイム勤務が求められます。嘱託社員には定年後の再雇用や臨時職員なども含まれており、勤務時間を個別に設定できるのが特徴です。ただし、嘱託社員でもフルタイムで働くケースがあるので、すべての企業で勤務時間が契約社員と違うとは限りません。

そのほか、嘱託社員には専門的な知識・スキルを生かす目的があります。ベテランの嘱託社員なら経験豊富であり、若手社員との円滑なコミュニケーションも期待できます。

会社によっては、契約社員と嘱託社員で待遇の違いが設けられている可能性もあります。個別の条件を確認することが大切です。

派遣社員との違い

派遣社員と嘱託社員の違いは、所属先です。派遣社員の雇用主は「派遣元の会社」で、実際に勤務している会社とは雇用関係がありません。嘱託社員は直接雇用のため、雇用主は勤務先です。

給与の形態や金額が異なるケースも多いでしょう。派遣社員は、派遣元の会社から給与をもらいます。勤務先の会社が派遣元に給与を支払い、手数料を差し引く形が一般的です。

嘱託社員は、雇用している会社が直接給与を支払います。会社のルールによっては、ボーナス・寸志の対象となることもあるでしょう。

業務委託との違い

業務委託と嘱託社員の違いは、雇用関係の有無です。業務委託は会社と雇用を結ばず、依頼を受けた業務に対応します。会社と対等な立場で契約を結ぶのが、業務委託の特徴です。

雇用関係があると、一定条件を満たした場合に社会保険・雇用保険・労災保険などの加入義務があります。業務内容が同じでも、嘱託社員は保険に加入し、業務委託は加入できません。

嘱託社員として働く場合は、会社との雇用関係も確認しておきましょう。雇用関係が発生しない場合、便宜上「嘱託社員」と呼んでいても業務委託を指している可能性があります。

アルバイト・パートとの違い

アルバイト・パートは、会社に直接雇用されている非正規職員です。嘱託社員も正社員とは異なるため、アルバイト・パートと似たところがあります。

アルバイト・パートは時給制で、嘱託社員は月給制が多いことは主な違いといえるでしょう。

パートは正社員より労働時間が短い労働者を指しますが、「フルタイムパート」や「フリーター」など、労働時間が長い非正規職員も存在します。

嘱託社員もフルタイムとパートタイムが混在し、アルバイト・パートと明確な違いはほとんどありません。会社によって定義が異なり、一定のルールのもと呼び方を変えていると考えましょう。

嘱託社員として働くメリット

働く社員

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嘱託社員として働くメリットは、何なのでしょうか? 定年後の再雇用や専門スキルを生かして働くなどパターンによっても多少変わりますが、主なメリットを紹介します。

ワーク・ライフ・バランスをとりやすい

嘱託社員は、フルタイム勤務が基本の正社員と異なり休暇が取りやすいのが特徴です。比較的自分の希望を反映させられます。

特に、定年後に働く場合は本人の体力面も考慮され、ワーク・ライフ・バランスをとりやすいのがメリットです。

プライベートを充実させたい人は、嘱託社員としての働き方が向いています。本人の希望と会社の事情が合えば、フルタイム勤務もできるでしょう。

慣れた仕事を続けられる

定年後の再雇用では、長年働いてきた環境で慣れた仕事を続けられます。仕事の全体像が分かっている分、部署や業務内容が変わっても順応しやすいはずです。

新しい仕事を探すのに比べて、精神的な負担は少ないでしょう。

役職からは外れ、給料は低くなることが基本ですが、良好な人間関係を築いていればストレスなく仕事を続けられます。

特に定年後は、年齢制限のある求人募集にほとんど応募ができません。自社で定年後の再雇用を行っている場合は、嘱託社員として働く道も検討しましょう。

知識やスキルを発揮できる

多くの場合、嘱託社員は専門的なスキルや経験を持っています。定年後の再雇用では、現役時代に発揮していた力を生かせるはずです。

会社側にとっても、ベテランとして働いてきた社員を維持できるのはメリットがあります。後進の育成や複雑な業務の対応など、幅広い分野で活躍できるでしょう。

専門資格を持ち、嘱託社員として雇用される場合も知識やスキルを生かせます。知識がない未経験の分野で働くよりも、業務に対応しやすいのが特徴です。

嘱託社員として働く際の注意点

パソコンに向かって考え事をする男性

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嘱託社員として働く場合、正社員とは異なる注意点があります。契約期間や待遇の差を知っておきましょう。嘱託社員の扱いや条件は会社によっても変わるため、特に契約期間と待遇についてはチェックすることが重要です。

必ず契約が更新されるとは限らない

嘱託社員は、有期雇用で働きます。期間は会社のルールによりますが、契約期間の満了後に更新されるとは限りません。

定年後の再雇用では、60~65歳の間に勤務できるよう制度を設けていることが多くなっています。65歳まで必ず働けるわけではなく、1年ごとに更新されるパターンもあるでしょう。

専門スキルを持ち、臨時職員として働く場合も同様です。会社の都合により契約が更新されなくなると、新しい職を探す必要があります。

本人の能力や会社の都合によって更新の有無が変わるため、無期雇用の正社員と比べると安定しない働き方といえます。

待遇に満足できないケースも

これまで正社員として働いてきた場合、嘱託社員の待遇に納得できないこともあります。会社によって待遇が異なり、社員よりもパートに近いケースも考えられるでしょう。

勤務時間が減り、役職から外れると給与やボーナスは減ります。嘱託社員がボーナスの対象になるかは会社のルールによるため、大幅な賃金カットも考えられるでしょう。

仕事内容がまったく同じであれば正社員と同等の賃金を支払う必要がありますが、ほとんどの場合、任される仕事は比較的責任の少ないものになります。

フルタイムでしっかり働き、責任のある仕事をしたいと考える人は正社員の職を探す方がよいかもしれません。

嘱託社員の労働条件

給与明細と現金

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嘱託社員の労働条件は、会社や本人の希望によって大きく変わります。しかし、ある程度の方向性は想定できるでしょう。労働条件がどのように設定されるのか、一般的なパターンを紹介します。

給与・福利厚生

嘱託社員の給与とボーナスは、仕事内容と責任によって決まります。正社員・嘱託社員の差ではなく、内容が重要です。

正社員と同じ業務を同程度の責任で行う場合、給与に差はつきません。しかし、多くの場合、嘱託社員は勤務時間や仕事内容が異なるため、正社員より給与が低いことが一般的です。

福利厚生のルールも、会社によって異なります。保険や年金の加入は法律上のルールに基づき決まりますが、会社独自の福利厚生は正社員限定のところも多いでしょう。

労働時間

嘱託社員は、正社員に比べると労働時間が柔軟に設定できます。会社の都合やルールによるため、契約時に労働時間数を確認しておきましょう。正社員は原則フルタイム勤務が求められますが、嘱託社員であれば希望を聞いてもらえる可能性があります。

残業の有無も、会社によって変わります。業務量によっては、正社員と同様に残業が発生するケースもあるでしょう。嘱託社員は原則残業なしと決めている会社もあるため、個別のルールを聞いておくことが大切です。

残業が発生した場合、「みなし残業制度」が導入されていなければ時間外労働分の賃金が追加で支払われます。

有給休暇

嘱託社員は、有給休暇の取得が可能です。労働基準法第39条により、「企業は労働者に有給休暇を与える義務がある」とされています。

継続して6カ月勤務し、労働日数の8割以上勤務していると有給休暇の対象です。定年後の再雇用では再雇用前の勤続年数も含まれるため、有給休暇の権利があります。

有給休暇の付与日数は勤務時間や日数によって変わるため、フルタイム勤務でない場合は正社員のときと日数が変わる点に注意しましょう。

参考:労働基準法第39条 | e-Gov法令検索

ボーナス

嘱託社員のボーナスは、会社によって異なります。契約前に労働条件を確認しておきましょう。ボーナスの有無は、就業規則に書かれています。定年後の再雇用なら、事前に就業規則を確認しておくと対象が分かるはずです。

一般的に、嘱託社員はボーナスの支給対象外とされることが多くなっています。会社の扱いによって変わりますが、仕事内容や責任がアルバイト・パートと同程度であれば支給される可能性は低いでしょう。

ボーナスがあったとしても、正社員と労働時間・仕事内容が違うと金額が下がります。過度な期待を持たず、ボーナスが欲しい場合は正社員を目指すのが得策です。

嘱託社員の保険について

パソコンを見せる男性

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嘱託社員は、労働条件によって加入する保険が異なります。健康保険・厚生年金保険など、保険加入にルールはあるのでしょうか? 基本的なポイントを解説します。

健康保険

会社に勤める従業員は、一定の要件を満たすと健康保険の加入義務があります。労働時間が週20時間以上で、月の賃金が8万8,000円以上が主な要件です。

対象の事業所規模・勤務期間は2022年10月より改正され、従業員100人以上、継続して2カ月以上雇用される見込みのある者となっています。学生以外の社会人は、嘱託社員・アルバイト・パートなどの区別なく、加入の対象です。

月の賃金や事業所規模などの条件を満たしていない場合は、基本的に国民健康保険に加入する必要があるでしょう。なお、企業規模を満たしていない場合でも、労使の合意があれば健康保険の加入は可能です。

参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

厚生年金保険

厚生年金保険の加入条件は、健康保険と同一です。労働時間が週20時間以上、月の賃金が8万8,000円以上が基本的な条件となります。2022年10月より、学生以外で企業規模が従業員100人以上、継続して2カ月以上雇用される見込みであれば加入義務の対象です。

嘱託社員として働く場合も、厚生年金保険に加入できる人は多いでしょう。保険に加入したい場合は条件を満たす労働契約を結ぶだけで、対象になります。

ただし、定年後の再雇用の場合、加入義務があるのは70歳になるまでです。70歳になると厚生年金保険の資格を喪失しますが、年金の受給資格を満たしていない人は任意で継続も可能です。

参考:70歳以上の方が厚生年金保険に加入するとき(高齢任意加入)の手続き|日本年金機構

雇用保険・労災保険

雇用保険・労災保険は「労働保険」と呼ばれ、特定の一部事業所を除いて加入が義務付けられています。嘱託社員も、加入の対象です。

雇用保険は、失業時に役立ちます。何らかの事情で働けなくなったとき、雇用促進と生活の安定のため、失業給付が受けられる保険です。

労災保険は、勤務時間・通勤時間中の事故を保障します。業務による負傷や死亡の際、給付の受け取りが可能です。どちらの保険も、給付の対象となったときは積極的に活用しましょう。

参考:労働保険(労災保険・雇用保険)への加入手続きはお済みですか?|厚生労働省

介護保険

介護保険は、40歳以上になると加入義務が発生します。社会保険の被扶養者や生活保護者以外は全員に加入義務があるため、嘱託社員も加入が必須です。

社会保険・国民健康保険どちらであっても、対象年齢になると介護保険料が加算されます。定年後の再雇用でも同様です。

嘱託社員の場合、賃金や労働時間が社会保険の加入対象となることが多いため、基本的には会社で加入することとなるでしょう。

嘱託社員から正社員になれる?

考え事をするスーツの男性

(出典) photo-ac.com

嘱託社員から正社員になることは可能なのでしょうか? 基本的には定年後の再雇用や、短時間勤務の高度専門職が一般的なので、正社員への移行は考えにくいはずです。嘱託社員を含む、法律上の制度について解説します。

無期転換ルールの特例制度

有期雇用で働いている人は、改正労働契約法によって5年を超えて雇用されると無期雇用の申し込みが可能です。申し込みをすると会社側は受け入れる義務があり、有期雇用が無期雇用に変わります。

しかし、一定の条件を満たす高度専門職と定年後の再雇用は、無期転換ルールの対象外です。なお、定年後に別の会社で雇用され、条件を満たした場合には無期雇用の申し込みができます。

定年後に正社員または無期雇用で働きたいときには、別の会社への転職も視野に入れましょう。高度専門職の場合は、嘱託社員ではなく別の形態で雇用を結びなおす必要があります。

参考:高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について|厚生労働省

豊富にある働き方の種類を知っておこう

パソコンを前に作業する人

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会社で働くときは、正社員だけでなく多様な雇用形態から合うものを選べます。比較的自由で、知識や経験を生かす働き方をしたいなら、嘱託社員も選択肢の1つです。ワーク・ライフ・バランスを維持しながら、知識や経験を生かせます。

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