介護離職とは、介護が必要な近親者のケアのため、勤めている会社を辞めてしまうことをいいます。超高齢社会に突入している日本では、介護負担の増大に苦しむ現役世代が少なくありません。介護離職の現状を知り、仕事と介護を両立できる方法を探しましょう。
介護離職とは?
介護離職は、誰にでも起こり得る身近な問題です。日本の現状について紹介します。
介護のために離職すること
介護離職とは、「介護のために仕事を辞めること」です。被介護者は、親だったり配偶者だったりとさまざまなケースがあります。近年は「高齢の親を子が介護する」というケースが増えており、中高年世代の介護離職が顕著です。
企業にとっては経験豊富な社員を失うダメージがあり、離職した本人にとっても収入源を断たれることによる経済的なダメージがあります。超高齢社会の日本を象徴する、深刻な社会問題といえるでしょう。
介護による離職率
総務省統計局が2017年度にまとめた「就業構造基本調査結果の概要」では、2016年10月~2017年9月の1年間で介護や看護を理由に離職した人は男女合わせて9万9,000人に上ります。これは、過去1年間に前職を離職した人の1.8%に相当する数字です。
1.8%というとさほど多くないように見えますが、介護離職せざるを得ない人が9万人以上も存在することは大きな社会問題といえます。国は「介護離職ゼロ」に直結する緊急対策として、「介護休業・介護休暇を取得しやすい職場環境の整備」「健康寿命の延伸に向けた機能強化」などを実施しています。
参考:2017年度 就業構造基本調査結果の概要|総務省統計局
介護離職の原因・背景
介護離職に至る原因や背景は人それぞれです。介護をしている人がどのようなことを負担に感じて離職しているのか、具体的に見ていきましょう。
肉体的・精神的な負担
まず多いのが、肉体的・精神的な介護負担が増えて離職につながるケースです。
被介護者の介護度が高くなるほど、介護に休みがなく、仕事との両立が物理的に難しくなって離職を選択してしまうのです。
また介護休業・休暇制度が利用できるとはいえ、職場の雰囲気によっては利用しづらいことや、取得可能な日数が限られています。介護のための休暇や遅刻・早退が増えれば、「会社に居づらい」と感じることもあるでしょう。
辞めたくない気持ちがありつつも、介護者は離職を選択せざるを得なくなってしまうのです。
自宅での介護を望む声から
内閣府の「平成28年版高齢社会白書」によると、男女ともに「自宅で介護を受けたい」と答えた人の割合が最も多いことが分かりました。最期を迎える場所についても「自宅」を希望する人が多く、被介護者になっても施設への入居を拒む人が少なくありません。
また、施設への入居を希望している場合でも、金銭的な問題から施設に入所できなかったり、空きがなかったりというケースが多々あります。介護を任せられる人がいない場合、身近な人が付きっきりで介護するしかありません。
その他に近年増えているのが、要介護度の不足(認定されないこと)により在宅介護をせざるを得ないケースです。一般に、特別養護老人ホームの新規入居要件は「要介護度3以上」となっています。入居できる条件が整わなければ、家族の誰かが介護するしかありません。
介護で離職をしないための方法は?
介護離職してしまうと、生計を立てる手段が断たれてしまいます。まずは外部の助けを借りることを検討し、離職を避ける方法を探しましょう。
国の制度を利用する
介護離職ゼロを目指す日本では、仕事と介護を両立できるようさまざまな支援が行われています。仕事と介護の両立がつらいと感じたときは、以下の制度の利用を検討しましょう。
- 介護休業:要介護の家族1人につき3回を上限として分割して休業を取得できる(通算93日まで)
- 介護休暇:年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日または時間単位で介護休暇を取得できる
- 所定外労働の制限(残業免除):介護終了まで残業を免除できる
- 時間外労働の制限:1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限できる
その他「所定労働時間短縮等の措置」という制度もあります。これは、事業主が介護に携わる社員に対し、「短時間勤務」「フレックスタイム制」などの措置を講じなければならないという制度です(利用開始の日から連続する3年以上の期間で、2回以上利用可能)。
また介護休業中の経済支援として、「介護給付金」の利用も可能です。要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した人は、一定要件を満たせば、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%を介護休業給付金として受け取れます。
参考:
介護で仕事を辞める前にご相談ください (2021年改訂)|厚生労働省
ハローワークインターネットサービス雇用継続給付|厚生労働省
会社の支援制度を確認
国が積極的に支援を始めたことで、仕事と介護を両立するための環境整備を進めている企業は増えています。仕事と介護に悩んだら、まずは上司や人事労務担当に現状を相談してみましょう。
フルタイム労働が難しい場合は労働時間の調整、出社が難しい場合は在宅勤務など、企業が独自に設定した支援プランを受けられるかもしれません。
また、国が提案する介護プランを作成して介護離職防止への取り組みを行っている企業は、都道府県の労働局が支給する「両立支援等助成金」を受けることが可能です。
参考:
令和4年度両立支援等助成金の概要|厚生労働省
企業のための仕事と介護の両立支援ガイド|厚生労働省
相談窓口を知っておく
介護について悩んだときは、公的機関の相談先があることも理解しておくべきです。
- 自治体・社会福祉協議会などの総合窓口
- 医療機関
- 地域包括支援センター
自治体や社会福祉協議会では、介護相談専門の窓口を設けているケースがあります。医療行為を伴う介護であれば、医療機関での相談も可能です。
地域包括センターは、高齢者が必要なサービスを受けるための総合窓口のようなものです。こちらでは、ケアマネジャーを探したり要介護認定審査を受けたりできます。被介護者が65歳以上であれば、ここに相談するのが手っ取り早いでしょう。
よいケアマネジャーが見つかれば、介護の支援を受けやすくなります。介護の負担が大きくても、離職せずに済む方法が見つかるはずです。
老人ホーム・介護施設の検討
審査を受けて要介護度が出れば、レベルに応じた介護保険サービスを受けられます。老人ホームや介護施設のサービスで、ニーズにマッチするものがあれば利用しましょう。例えばデイサービスや訪問介護などを取り入れるだけでも、介護者の負担は軽減できます。
また要介護度3以上の場合は、特別養護老人ホームへの入居も可能です。場所・入居費等で折り合いをつけるところが見つかったら、ひとまず申し込んでおきましょう。
地域や施設にもよりますが、特別養護老人ホームは入居希望者が多く、申し込みから入居までに長い時間がかかります。申請だけでも済ませておき、ゆっくりと被介護者を説得していくことが効率的です。
施設選びや申請のタイミングに迷う場合は、ケアマネジャーと相談しながら進めましょう。
安定した職に就いておくこともポイント
仕事と介護の負担を軽減するなら、安定した職に就いておくことも大切です。正社員として働いていたり、介護に理解のある会社にいたりすることの重要性を説明します。
いざというときの保障が充実
正社員には、給料だけでなく交通費補助・昇給・賞与などさまざまな待遇があります。収入面で安定しやすく、生活に不安を感じることなく暮らせます。
介護保険サービスが利用できるといっても、介護費用がゼロになるわけではありません。老人ホームに入居するならまとまったお金も必要となるため、安定した収入源は確保しておくべきです。
会社にもよりますが、パート社員が受けられるのは、法律で定められた「法定福利厚生」のみの場合がほとんどです。会社が独自に設定する「法定外福利厚生」は、対象外となるケースが多いでしょう。
せっかく会社によい制度があっても、利用できなければ意味がありません。
転職先は自分と向き合って決めよう
現在の働き方に不安があったり、介護に理解を得られない会社だったりする場合は、転職も視野に入れましょう。福利厚生がしっかりしている会社なら、仕事と介護の両立も難しくはありません。
転職先を探すときのポイントは、自分の強みと苦手なことをしっかりと把握しておくことです。これまで携わってきた仕事や周囲からの評価を振り返れば、アピールポイントが見えてきます。
希望の職種や業種が見つかったら、国内最大級の求人プラットフォーム「スタンバイ」をチェックしてみましょう。地域や条件を絞って検索をかけることで、ニーズにマッチする仕事をピックアップできます。
検索はスマホからでも可能なため、転職活動の時間がない人にもおすすめです。
将来のために備えておくことが重要
介護の負担が大きいからといって、離職を選択するのは望ましくありません。困ったときは会社や家族・親族、公的機関に相談すれば、介護と仕事を両立するための方法が見つかるはずです。
超高齢社会に突入している日本では、介護離職ゼロのための制度がさまざまあります。利用できるものは全て利用して、離職を防ぐことが大切です。
まずはどのような制度が利用できるのか、どこに相談できるのかをきちんと把握しておきましょう。