理学療法士になるには、国家試験に合格する必要があります。「試験勉強が難しいのでは?」と感じて、取得を迷う人も多いでしょう。理学療法士国家試験の、受験資格の取り方や、効果的な試験対策について分かりやすく解説します。
理学療法士になるのは難しい?
国家試験は、大学や高校などの入学試験と違い、定員がありません。定められた合格基準点に達した人は、すべて合格できます。そのため、試験の難易度は、倍率や偏差値ではなく、合格率が1つの目安となります。まずは理学療法士国家試験の合格率と難易度を見ていきましょう。
理学療法士の国家試験の合格率
厚生労働省の発表によると、2022年に実施された理学療法士国家試験の受験者数は1万2,685人・合格者数は10,096人でした。合格率は79.6%で、約5人中4人が合格したことが分かります。
合格率が79.6%と聞くと、易しいイメージを抱くかもしれませんが、実はそうでもありません。理学療法士の受験資格を得るためには、養成校で3年以上学習する必要があります。
第57回理学療法士国家試験での新卒者の合格率が88.1%と高く、専門的な教育を受けた上で試験に臨む以上は、合格率が高くなるのも当然です。実際に、一般的に難しいといわれている医師国家試験(2022年度・新卒者含む)の合格率は91.7%、第111回看護師国家試験の合格率も91.3%と高い水準にあります。
医師や看護師に比べると理学療法士の合格率79.6%は決して高いとはいえず、むしろ難しいレベルにあると考えてもよいでしょう。
参考:
第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について|厚生労働省
第116回医師国家試験の合格発表について|厚生労働省
第108回保健師国家試験、第105回助産師国家試験及び第111回看護師国家試験の合格発表|厚生労働省
理学療法士の国家試験の難易度
前述の通り、理学療法士の国家試験を受けるためには、養成校に入学し規定のカリキュラムを修了しなくてはなりません。
そのため、まずは養成校の入試に合格できるだけの学力が必要です。偏差値の高い養成校の場合は、入学そのものが難しいといえるでしょう。
また、理学療法士国家試験の出題範囲は広く、合格点に到達するためには、さまざまな知識を習得する必要があります。養成校で必修単位を取得するだけではなく、計画的に学習を進める能力や、各カリキュラムを深く理解する力が求められます。
理学療法士の国家試験の内容
理学療法士国家試験は、どのように行われるのでしょうか?配点や出題傾向など、試験の内容を見ていきましょう。
一般問題
試験では、一般問題160問、実地問題40問の計200問が出題されます。配点は、一般問題が1問・1点、実地問題が1問・3点と決まっています。いずれも5つの選択肢から、1つまたは2つの答えを選び、マークシート方式で回答します。
一般問題は「解剖学・生理学・運動学・病理学概論・臨床心理学・リハビリテーション医学・臨床医学大要及び理学療法」から出題されます。
養成校で学ぶ内容に加えて、時事的な内容を含む問題が出ることもあります。医療関係のニュースは、常にチェックしておくとよいでしょう。
実地問題
実地問題では、リハビリ現場で想定される具体的な状況から、自分で考えて回答を導く問題が出題されます。イラストや図表・写真を見て答える問題が多いのも特徴です。出題範囲は「運動学・臨床心理学・リハビリテーション医学・臨床医学大要及び理学療法」です。
なお、2022年の合格基準点は「総得点164点以上かつ実地問題40点以上取得」となっています。実地問題の得点が低いと、一般問題でどれだけ高得点を取っても合格は厳しいと考えられます。配点も1問3点のため、実地問題対策をしっかりと行うのが合格への近道といえます。
口述試験及び実技試験
口述試験及び実技試験は、一定の要件を満たした重度視力障害者のために用意された試験です。例年、筆記試験の翌日に実施されています。
一般問題を点字・読み上げ・点字と読み上げの併用のいずれかで行い、実地問題の代わりに実技試験が課されます。なお出題範囲は一般の筆記試験と同じです。
理学療法士になるまでの流れは?
理学療法士が難しいと感じる原因の1つに、資格取得までの「道のりの長さ」が挙げられます。養成校での勉強に加え、規定の実習や国家試験合格を経て、ようやく就職できます。養成校入学から、理学療法士として働くまでの流れを見ていきましょう。
養成校で勉強する
理学療法士養成校には、以下の種類があります。
- 短期大学(3年)
- 大学(4年)
- 専門学校(3~4年)
- 特別支援学校(高等学校卒業以上の視覚障害が対象)
専門学校の中には、働きながら通える夜間制を設けている学校もあります。また、3年制と4年制でカリキュラムに大差はありません。早く資格を取得したい人は3年制、一般教養なども含めてじっくりと学びたい人は4年制と、自身の都合に合わせて選ぶとよいでしょう。
なお、海外の養成校を卒業した人や、理学療法士に相当する免許を取得した人は、厚生労働大臣の認定を受ければ、受験資格を得られます。
実習・就職活動をする
養成校の最終学年になったら、実習と就職活動が始まります。基本的には、在学中に内定を獲得した上で、2月の国家試験を受験すると覚えておきましょう。
就職活動は、実習がすべて終わる秋頃から本格的に始まります。ただし、大規模な施設や人気の高い施設では、実習が終わる前に募集を締め切るケースもあるようです。
最終学年は、大変多忙となることが予想されるため、就職先の情報収集や試験対策などは、できるだけ早めに行いましょう。
国家試験を受験し資格取得する
養成校を卒業見込みの人は、必要な書類を添えて出願します。出願期間は12月中旬から1月初旬なので、遅れないように準備しましょう。
出願時に提出する書類は以下の通りです。
- 受験願書
- 写真
- 返信用封筒
- 養成校が発行するカリキュラム修了を証明する書類(修業証明書・修業見込証明書・卒業証明書・卒業見込証明書)
手続き方法の詳細は、学校の事務室や厚生労働省のホームページで確認しましょう。
理学療法士のキャリアアップ
理学療法士は、働きながらほかの資格を取得して、キャリアアップすることも可能です。たとえば、日本理学療法士協会では、専門性を高めたい人のために「認定理学療法士」や「専門理学療法士」といった資格制度を設けています。
資格の取得は必須ではありませんが、持っていると資格手当が支給されたり、転職に有利になったりするメリットがあります。
心臓リハビリテーション指導士・呼吸療法認定士・認知症ケア専門士も、理学療法士がチャレンジしやすい資格です。このような資格を取り、仕事の幅を広げていくのも1つの方法です。
理学療法士の資格をスムーズに取得するポイント
理学療法士の資格をスムーズに取得するには、養成校選びと試験対策が重要です。それぞれのポイントを見ていきましょう。
理学療法士の学校選び
日本理学療法士協会によると、理学療法士養成校は2022年3月15日時点で、279校あります。そのうち16校が募集停止中ですので、これから入学できるのは263校です。
たくさんある養成校の中から、資格取得がスムーズな学校を選び出すポイントは、以下の2点です。
- 実習メニューや国家試験対策が充実している
- 働きながら通える環境が整っている
実習が充実している学校なら、実地問題を解く際に有利になると考えられます。また、夜間や週末を利用して通える環境があると、アルバイトや本業で忙しい人でも必要なカリキュラムをこなせるでしょう。
なお、大学と専門学校は、どちらを卒業しても理学療法士としての給料や待遇が大きく変わるという心配はありません。入学試験の難易度・学費・自宅からの通いやすさなども加味して決めるとよいでしょう。
参考:養成校一覧|理学療法士を知る|公益社団法人 日本理学療法士協会
理学療法士の試験対策
国家試験に合格するには、養成校を卒業することはもちろん、自宅での学習も欠かせません。とはいえ、仕事と通学に時間を取られ、なかなか自宅での学習時間を確保できない人も多いのではないでしょうか。
試験対策は、解けない問題を少しでも減らすことが基本です。すでに理解しているジャンルは後回しにし、苦手なジャンルを優先的に学習すると、少ない時間でも効率よく学習を進められます。
また「いつまでにどの範囲を学習するのか」を決めておくと、遅れが生じたときに、臨機応変な対応ができます。試験日から逆算して、細かな学習計画表を作成しておくとよいでしょう。
理学療法士の仕事の難しさ
理学療法士は現場に出てからも、仕事が難しいと感じるケースもあるようです。多くの人が難しさを感じる理由を2つ紹介します。
継続した知識の追求
国家試験の合格は、あくまでも理学療法士として働く資格を得ただけに過ぎません。医療関連の技術は進化を続けており、リハビリの知識・技能・使用する機器も時代とともに変化しています。現場に立てば、養成校では習わなかった症状に遭遇することも珍しくないでしょう。
そのため、理学療法士には、資格を取得した後も、常に最新の知識を学び続ける姿勢が求められます。勤務時間外に講習会や勉強会に参加したり、論文や専門書を読んだりしなければならないケースも多く、仕事と学習の両立が難しいと感じる人もいます。
高いコミュニケーション能力
理学療法士には、高いコミュニケーション能力も必要です。リハビリテーションを受ける人の多くは、痛みや思うように体を動かせない不安で、精神的にも参っていると考えられます。そのため、施術の際には、患者の気持ちに寄り添った、共感や励ましの声掛けが欠かせません。
患者の立場で考えても、無言で施術されるよりも、明るく話しかけてもらったほうが、気持ちが晴れると想像できます。また、施術プランや生活指導をスムーズに進めるためには、患者の家族・担当医師・看護師との連携も重要です。
さまざまな人と、心を通じ合わせながら調整する必要があるため、もともとコミュニケーションが苦手な人は、仕事を難しいと感じるかもしれません。
しっかり試験対策をして理学療法士を目指そう
理学療法士を目指す人には、国家試験合格という大きな壁があります。養成校に3年以上通学し、実習や就職活動の合間を縫って試験対策をしなくてはなりません。
晴れて資格を取得した後も、知識や技能の向上に努め、コミュニケーションスキルを磨く必要があります。とはいえ、理学療法士の資格があれば、安定した職に就け、キャリアアップの道も開かれます。
働きながらの通学や試験対策は難しいかもしれませんが、しっかりと対策して合格を目指しましょう。
訪問・通所・回復期など幅広い分野を経験した理学療法士。ブログ「リハウルフ」とYouTube「リハウルフ」などで訪問リハビリや訪問看護、介護保険制度などの情報を発信している。著書に「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」がある。
プロフィール:
https://www.ryosuke-sugiura.com/
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監修者のコメント
多くの人は高校生の時に理学療法士を志して養成校に入学すると思います。しかし、途中で理学療法士になることを諦めたり、合わないと感じたり、実習が大変で退学してしまう人も少なくありません。そんななかでも、努力すれば必ず理学療法士になれると思いますので、資格取得に向けて頑張ってください。