理学療法士として働く中で、自分の年収が妥当なのか疑問に思っている人もいるでしょう。給与だけが仕事の価値ではありませんが、できるだけ多くの収入を得たいと思うのは自然です。理学療法士の平均年収から、収入をアップさせる方法まで解説します。
理学療法士の平均年収はいくら?
理学療法士として働く人たちは、平均してどの程度の年収を得ているのでしょうか?現在の給与が妥当なのかを判断する材料になるよう、理学療法士全体の平均年収や年代別の年収を紹介します。
※「賃金構造基本統計調査」の各データは企業規模10人以上・一般労働者(フルタイム)・役職者以外のものを使用し、平均年収は「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出
平均年齢は33.7歳、平均年収は約405万円
2021年の賃金構造基本統計調査によれば、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士の全体を見ると、平均年齢は33.7歳、平均給与は約405万円です。
同じ前提で男女別に見れば、男性は約417万円、女性は約393万円と男性の方が平均年収がやや高くなっています。
国税庁の「民間給与実態統計調査(2021年分)」によると、全ての職種における給与所得者の平均年収は443万円です。男性は545万円、女性は302万円でした。
理学療法士が属する職種群の平均年収は、一般の平均に比べてやや低いという結果です。ただし同じ条件でも女性に限れば、職種全体よりも平均して高い年収を得ていることになります。
参考:
賃金構造基本統計調査 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表3 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
20~50代の年齢別年収推移
働いている人の年齢によっても、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士の年収は異なります。年代によってどの程度の差があるのかを見ていきましょう。
2021年の賃金構造基本統計調査によれば、作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士の年代別年収は、20〜50代で以下の通りです。
- 20~24歳:約329万円
- 25〜29歳:約380万円
- 30~34歳:約414万円
- 35〜39歳:約437万円
- 40~44歳:約487万円
- 45〜49歳:約516万円
- 50~54歳:約539万円
- 55〜59歳:約575万円
30代ごろに日本の平均年収に近づくことが分かります。40代後半になると平均年収が500万円を超える結果です。あくまで平均値なので、この通りに年収が上がるとは限りませんが、キャリアプランを立てる際の目安になるでしょう。
参考:賃金構造基本統計調査 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表5 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
施設規模によっても平均年収が異なる
給与は施設ごとに異なりますが、2021年の賃金構造基本統計調査によると、1,000人以上の人が働く大規模な事業所に勤務している理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士は、役職者でなくても得られる年収が高い傾向です。
- 1,000人以上:約435万円(うち「年間賞与その他特別給与額」が約78万円)
- 100〜999人:約398万円(うち「年間賞与その他特別給与額」が約65万円)
- 10〜99人:約400万円(うち「年間賞与その他特別給与額」が約57万円)
施設の規模が小さいからといって必ずしも年収が低いとは限りませんが、賞与をはじめ基本給や毎月の手当以外の平均額は規模に比例して大きくなっています。
基本給や賞与は職場によって異なるので、応募の際は待遇面をよく確認しましょう。不明点があれば、応募時や面接の段階で質問するのが確実です。
参考:賃金構造基本統計調査 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表3 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
理学療法士が年収を伸ばす方法
同じ理学療法士であっても、職場や働き方によって年収はさまざまです。中には平均よりも多くの給与をもらっている人もいます。どうすれば年収アップを狙えるのでしょうか?
昇進を目指し1つの施設で長く働く
どのような職業でも、同じ場所で長く働いて年齢を重ねるほど、給与がアップしていくのが基本です。初任給は低くても、勤続年数を重ねるごとに増えていくため、目先の収入だけにとらわれすぎない方がよいでしょう。
いたずらに転職を繰り返すと、思ったように給与が上がらない原因につながります。昇給の条件は勤務先によって違いますが、スキル・経験だけでなく、仕事に対する熱意や前向きな姿勢、勤務態度の真面目さといった数字に表れにくい要素も評価の対象です。
管理職になると役職手当が付き、昇給も見込めます。ただ、先輩・同期に優秀な人が多い場合は競争率が高くなるので、周囲から認められるために一層の努力が必要です。
専門性や高いスキルを身に付ける
理学療法士が昇給を目指すなら、専門性や高いスキルがある人材だと認めてもらえるような行動が必要です。
例えば、専門知識を究めた理学療法士を目指し、ほかの同僚と差別化できれば給与アップにつながります。専門的な知識を客観的に評価してもらうには、「認定理学療法士」や「専門理学療法士」といった資格の取得がおすすめです。
どちらの資格も、日本理学療法士協会に登録している理学療法士を対象にしています。より専門性の高い知識・技能の獲得を目指せるでしょう。
ただし、2つとも資格を取得した後は5年ごとに更新が必要なので、勉強を続ける努力が求められます。
参考:認定・専門理学療法士制度について|生涯学習|公益社団法人 日本理学療法士協会
少しでも年収が高い求人に応募する
理学療法士は勤務先によって給与に差があるので、年収にこだわるのであれば、できるだけ待遇がよい職場を選びましょう。
実際に自由に使えるお金を増やすことを考えて、転職先を選ぶときは福利厚生も細かくチェックするのが賢明です。例えば、仕事に必要な衣類のクリーニング代金を補助してもらえた方が、ほかの用途に使える収入が増えます。
求人検索エンジンのスタンバイでは、給与だけでなく福利厚生の条件からも、求人情報の絞り込みが可能です。待遇がよい転職先を探している人は、積極的に活用しましょう。
理学療法士として収入を伸ばせる仕事は?
理学療法士の働き方は、医療施設や介護施設で雇用されるばかりではありません。理学療法士として経験を積んだ後、資格・知識を生かして違う働き方にチャレンジする道もあります。中でも収入を伸ばしやすい仕事を見ていきましょう。
自費診療の独立開業
理学療法士に開業権はありませんが、自費診療の整体院や福祉用具の販売などで起業すれば、年収を伸ばせる可能性があります。
パーソナルトレーナーも、理学療法士の知識・経験を生かせる仕事です。マンツーマンでの指導になるので、広い場所を用意しなくても事業を始められます。
ただし、独立開業にはリスクもあることを押さえておきましょう。経営に失敗すれば、借金を抱えたまま廃業することになるケースもあり得ます。事前に十分リサーチした上で、綿密な事業計画を立てましょう。
セミナー講師
専門性を生かしたセミナーの講師になって報酬を得るのもキャリアの1つです。セミナーの主な内容は、理学療法士としての実務経験で培った治療技術や知識に加えて、独立開業の経営方法や、特定の症例や悩みに特化したセミナーなど、アイデア次第です。
経験者のアドバイスを聞きたい理学療法士になったばかりの若手、腰痛に悩む人など、自分の強みと聞く側の需要があるテーマを見つけることができれば、大きく成長する可能性もあります。
対面でセミナーをする場合は会場を借りる必要がありますが、オンラインセミナーなら一度に多くの人にサービスを提供できます。
とはいえ、人気講師になれば収入を大きく伸ばせる可能性があるものの、集客は簡単ではありません。SNSで情報を発信したり、広告を使って人を集めたりする工夫が必要です。
理学療法士の将来性
キャリアを考えるとき、現在の仕事に将来性があるのかどうかを気にする人は多いでしょう。将来性を期待できる仕事の方が、長く安定的に働きやすいといえます。理学療法士の今後はどうなるのでしょうか?
理学療法士の数は増加傾向にある
理学療法士は、合格率がおおむね70%台後半から80%台後半で推移しています。2022年以前の10年間だけ見ても、理学療法士は1年に約1万人も増えており、2040年ごろには供給数が需要数の約1.5倍にまで達する見込みです。
このまま供給が増えていくと、待遇アップを狙って転職しようとしても、高年収の求人は競争率が高くなると予想されます。
理学療法士が飽和しても待遇のよい仕事を手にするには、勉強を続けて確かな技能を身に付けたり、専門性を高めたりする努力が求められるでしょう。
参考:
統計情報|協会の取り組み|公益社団法人 日本理学療法士協会
理学療法士・作業療法士の需給推計について|厚生労働省
介護分野での需要は増していく見込み
総務省統計局が2022年9月15日に推計したデータによると、日本では65歳以上の高齢者人口は3,627万人と過去最多を記録しました。2040年には、3,921万人が65歳以上になると予想されています。
超高齢社会に突入した日本では、介護分野で理学療法士が活躍する場面は今後も増えていく見込みです。健康でいられる体を維持していくために必要な職業は、これからの日本でますます重要視されるようになるでしょう。
病気と向き合いながら生活の質の維持・向上を図る必要性が高まる今後、理学療法士が活躍できるチャンスは将来的にも十分にあるといえます。
参考:
医療と介護の一体的な改革|厚生労働省
統計局ホームページ/令和4年/統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口
理学療法士は資格を生かした年収アップも
理学療法士を含む職種群の平均年収は、日本の一般的な人の平均年収よりもやや低いことが分かりました。
年収を増やすには、少しでもよい条件の求人に応募し、管理職を目指したり専門性を高めたりする方法がおすすめです。給与だけでなく福利厚生も含めて、条件のよい求人を探してみましょう。
理学療法士として現場での経験を積めば独立開業や講師として活躍するチャンスもあり、取り組み方次第でキャリアが広がる職業だといえます。将来的に活躍していける理学療法士を目指して、自分のキャリアプランを描いていきましょう。
訪問・通所・回復期など幅広い分野を経験した理学療法士。ブログ「リハウルフ」とYouTube「リハウルフ」などで訪問リハビリや訪問看護、介護保険制度などの情報を発信している。著書に「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」がある。
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