運送業の労働時間は長い?その理由と働き方改革で変わることを知ろう

運送業は長い時間働かなければいけない、というイメージを多くの人が持っているかもしれません。それはなぜなのか、また現状の制度と働き方改革による今後の制度の違いについても解説します。運送業への転職を考えている人は参考にしてみてください。

運送業の労働時間はどのくらい?

複数台のトラック

(出典) photo-ac.com

運送業は労働時間が長いとよくいわれます。実際にトラックの運転手の労働時間はどのくらいなのか、データに基づいて見ていきましょう。

トラック運転手の平均労働時間

2015年に厚生労働省と国土交通省が行った実態調査によると、トラック運転手の平均労働時間は1カ月で200時間を超えています。

日帰りか泊付きかでも変わってきますが、日帰りの場合でも平均210時間ほど、泊付きだと250時間ほどが多いという結果がでています。さらに残業時間も1カ月あたり日帰りで平均45時間、泊付きの場合は60時間を超えます。

仮に1カ月のうち22日間が勤務日だったとして、1日あたりで換算すれば9時間半を超える勤務時間です。実際はここに休憩を含めた拘束時間も含まれるため、さらに自由時間は減ってしまうでしょう。

参考:ドライバーの労働時間の実態(平成27年7月実績)|厚生労働省 国土交通省

運送業の労働時間は法の上限規制の適用外

労働基準法では労働時間が定められており、時間を超える場合にはあらかじめ「時間外や休日時間外・休日労働に関する協定(通称36協定)」を労使で合意し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。

しかし運送業は運転時間・拘束時間が分かれており、他の業種とは勤務の内容が異なるため、時間外労働の上限規制が適用されません。

「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」による上限自体はありますが、他の業種とは制限内容が違ってくる点に注意が必要です。具体的には運転時間と拘束時間それぞれに上限があり、前者は2日平均で9時間、後者は1日13時間と定められています。

参考:
労働基準法 | e-Gov法令検索
・自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(◆平成01年02月09日労働省告示第7号)

拘束時間が長くなる理由とは?

高速道路を走るトラック

(出典) photo-ac.com

なぜ運送業はそれほど拘束時間が長くなってしまうのでしょうか。運送業という業界の特殊性から解説していきます。

交通状況

運送業は、勤務時間の大半を運転しながら過ごしますが、道路は常に同じ状態とは限りません。事故が起きれば渋滞が発生したり通行止めになったりしますし、天気が荒れれば道路が冠水することもあります。冬であれば道路が凍ってスピードが出せない場合もあるでしょう。

通常より時間がかかってしまったからといって続きは明日にと荷物を残したまま勤務を終えることはできないため、拘束時間は長くなりがちです。

手待ち時間

荷物を運ぶということは、荷物の積み下ろしが必ず発生します。その時間は運転手は待機していなければならず、いわゆる「手待ち時間」(荷待ち時間)が拘束時間として生じてしまいます。

国土交通省が2015年に調査した内容によると、平均で1時間45分の手待ち時間が1回の運行で発生していることが分かります。1時間程度と聞くとそこまでの時間ではないように思えますが、1カ月で見ると30時間を超えることを考えるとかなりの時間でしょう。

参考:ドライバーの労働時間の実態(平成27年7月実績)|厚生労働省 国土交通省

人手不足

運送業はネガティブなイメージもあってか、人がなかなか集まらず不足しがちです。働き手が足りていないため、今いる働き手の負担が大きく、結果として拘束時間も長くなります。

業界側もそのことに対しての対策は行っており、例えば資格取得制度を設ける、労働環境を改善するといったことに取り組んでいます。

近年は特に、働き方改革として労働環境が見直されている現場が多いです。拘束時間の長さも、改革によって変わってくる可能性が高いでしょう。

2024年働き方改革でどう変わる?

作業着の男性

(出典) photo-ac.com

働き方改革によって、運送業の拘束時間は具体的にどのように改善されていくのでしょうか。2024年以降の展望を、残業や休憩時間にフォーカスしてまとめました。

残業時間の上限規制

全日本トラック協会では、2018年から「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を策定しました。2024年4月からは、運送業における残業時間の上限規制が設けられるようになります。

これまで上限がなかった残業時間ですが、2024年4月からは年間で960時間へと制限されるようになり、月単位では、平均80時間という規制もあります。

一般的な中小企業での時間外は年間360時間(特殊な事情があっても最大720時間)・月平均45時間なので、まだ開きがありますが、将来的にはこの数値と同等の規制を目標に掲げているようです。

参考:トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン(解説書)|公益社団法人全日本トラック協会

上限違反業者には罰則が

この規制を会社側が違反すると罰則が与えられ、具体的には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

そのことにより、ブラック企業と呼ばれ長い残業や拘束時間を労働者に強制してきた会社には、行政処分が下され経営に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。

労働者に権利が与えられ、さらには悪質な企業に対して罰則を与えることで、運送業界のイメージはクリーンなものへと変わっていくことが期待されます。

休息期間

1日の休息期間は、勤務終了後に継続8時間以上取る必要があります。例えば8時から勤務を開始して21時に終了した場合、翌朝5時までは勤務してはいけません。

継続8時間なので、4時間休息した後に勤務を再開し、また4時間休息を取るといったことも認められません。あくまでまとまった8時間以上の休息が条件です。

仮に会社の指示でこの条件が満たされていない場合は違反となるため、弁護士に相談するなどの対応を取るべきでしょう。

参考:トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省労働基準局

よい運送業者を選ぶポイント

面接する作業着の男性

(出典) photo-ac.com

運送業者にもよし悪しがあり、転職の際はなるべく優良な企業を選んで入ることが望ましいです。どのようなポイントを重点的に見るべきかを解説します。

トラックの洗車・整備などを行っている

可能であれば、あらかじめ応募先の運送会社を下見に行って、車両置き場をチェックするとよいでしょう。

もし使われているトラックに汚れが目立つようであれば、洗車がこまめにされていないことになります。なぜそれをチェックするのかというと、仕事道具であるトラックの洗車時間すらないほど労働時間が長いと予想できるからです。

またドライブレコーダーがしっかり搭載されているか、衝突被害軽減ブレーキが装備されているかも、確認できるのであればしておきましょう。それに関しては下見での確認が難しいですが、車両の外観をメンテナンスできていない会社は整備も疎かになっている、と考えるのが妥当です。

福利厚生が充実している

求人票に記載されている給与が高くても、安易に飛びつくのは控えましょう。給与面だけでなく、福利厚生が充実しているかも長く働く上では欠かせません。

住宅・資格などさまざまな手当があれば、仮に基本給がそこまで高くなくても、安定して長く働けて昇給も見込めます。

寮が完備されている職場であれば、家賃が大幅に抑えられ生活費が節約できます。中には食堂やまかない付きの求人もあるので、給与以外の条件も必ず確認しておきましょう。

運送業の労働時間はおおむね長め

大型トラック

(出典) photo-ac.com

運送業は交通事情や荷物の積み下ろし時間待ちなどで拘束される時間が長く、自由時間が少ないというイメージを持たれがちです。

実際にそういった運送会社も多くあり、中にはブラック企業と呼ばれる会社も存在しています。会社の車両や求人広告の福利厚生情報などである程度は判別できますが、入社してからブラックと気付かされることもあるでしょう。

しかし2024年4月からは、働き方改革により残業時間の上限規制ができます。それにより今後の運送業界の職場環境は、改善されていくと期待されています。