薬剤師になるには資格が必須!試験の概要と知識を学ぶルートとは?

薬剤師は、医薬品に関する知識や調剤技能を持った薬の専門家です。薬剤師の職務や資格は薬剤師法によって規定されています。人命に関わるため責任が重い仕事である一方、患者の治療や人々の健康に貢献できる、やりがいのある仕事でもあります。

薬剤師は主に薬局や病院・診療所に勤務し、医師が出す処方箋に基づいて調剤、服薬指導などを行います。ほかに患者とのコミュニケーションや、新しい医薬品に関する知識を得ることも大切な仕事です。

また、薬剤師の男女比率は、おおむね女性6:男性4となっています。多様な働き方や職場が選べることもあり、家庭の事情に影響されやすい女性にも人気があるようです。

薬剤師になるには

薬剤師の女性

(出典) photo-ac.com

薬剤師になるには国家資格が必要です。6年制の薬科大学や大学の薬学部などで学び、薬剤師国家試験に合格する必要があります。

6年制の薬学部には国公立大学と私立大学がありますが、私立大学の学費は6年間で1,200万円以上かかることが多く、国公立大学の約350万円と比べて非常に高額です。そのため、国公立大学の薬学部は人気が高く、難易度も高い傾向があるようです。大学を選ぶ際は、各大学が出している国家試験合格率も参考にしましょう。

大学では一般的に1~4年次で薬学に関する専門知識を学び、4年次の終わりに全国共通の試験である薬学共用試験を受けます。共用試験に合格すると、5年次に病院と薬局でそれぞれ11週間の実務実習が行われる流れです。6年次は卒業研究に取り組み、薬剤師国家試験の準備をしたうえで受験に臨みます。

薬剤師国家試験に合格後、厚生労働省に薬剤師免許の交付を申請し、薬剤師名簿に登録されると薬剤師として仕事ができるようになります。

薬剤師の仕事内容

処方箋とおくすり手帳

(出典) photo-ac.com

薬剤師の仕事内容は職場によって異なります。

厚生労働省の調査では、薬剤師の58.7%が薬局、19.3%が病院・診療所、13.2%が医薬品関係企業で働いています(2020年12月31日時点)。職場ごとの主な仕事内容は以下の通りです。

薬局

調剤薬局で薬剤師が行うのは、以下のような仕事がメインです。

  • 医師が出した処方箋に基づいて薬を調合する「調剤業務」
  • 薬の情報や飲み方の説明、アドバイスなどを行う「服薬指導」
  • 薬の重複や、飲み合わせによる副作用などを防ぐため、患者が服用した薬やアレルギーの有無などを確認する「薬歴管理」
  • 処方箋の内容について疑問がある場合に、発行した医師に問い合わせる「疑義照会」が主な仕事です。

このほかに、医薬品の在庫管理なども薬剤師が行います。また、患者1人1人とコミュニケーションをとって薬の服用による体調の変化や副作用の有無などを聞き取り、記録していくことも大事な仕事です。

ドラッグストア

ドラッグストアの場合は、お客様の症状や要望に合ったOTC医薬品(医師の処方箋がなくても購入できる一般用医薬品)の提案や説明、販売を行います。調剤薬局と異なる点としては、接客やレジ打ち、品出し、棚卸などの業務があることです。店舗の売上を伸ばすために、さまざまな工夫も求められます。

病院・診療所

外来患者や入院患者を対象とした調剤業務、服薬指導、薬歴管理、疑義照会のほかに、注射や点滴の調剤や管理なども行います。

また、医療機関勤務では、医師や看護師などほかの医療スタッフとコミュニケーションをとりながら連携するシーンも少なくありません。病院勤務の薬剤師には、チームとして患者の治療にあたっていく意識が求められます。

医薬品関連企業

医薬品を販売・製造する企業の場合、薬剤師は次のような業務を担当します。

  • 医薬品の研究や開発
  • 新薬の臨床試験である治験に関する説明や相談
  • 医師や薬剤師への医薬品の情報提供
  • 医薬品に関するデータの管理や資料の作成

そのほかにも公務員として保健所や研究所で働く人や、中には麻薬取締官として働く人もおり、薬剤師の活躍の場は多岐にわたります。近年では高齢化の進行により、老人介護施設や在宅医療などに関わる薬剤師も増えているのが現状です。

また、漢方や生薬など、薬剤師に関連した分野にはさまざまな認定や専門資格があります。専門性を高めるために研修などを受けて資格を取得し、各分野に特化した職場で仕事をするのもキャリアパスのひとつです。

薬剤師の1日の流れ

薬を処方する男性

(出典) photo-ac.com

「薬に関する業務全般」が薬剤師の仕事ということは共通していますが、1日のスケジュールは勤務先によって異なります。調剤薬局・病院・ドラッグストアそれぞれで働く薬剤師の1日を見てみましょう。

調剤薬局の薬剤師の1日

調剤薬局は正式名称を「保険薬局」といい、病院や診療所と連携して調剤業務を行うのが一般的です。営業時間は病院・診療所の診察時間に準じているため、開局・閉局時間は薬局ごとに異なります。

薬剤師のスケジュールは勤務場所によってさまざまですが、以下のようなパターンで動くケースが多いでしょう。

  • 8:30~9:00:出勤・開局準備
  • 9:00~12:00:診察後の患者が持参する処方箋に基づいて調剤。服薬指導・薬歴管理記録も実施
  • 12:00~14:00:昼休み
  • 14:00~18:00:調剤業務
  • 18:00:閉局後の清掃・整理整頓、調剤器具・機器の掃除
  • 退勤

薬局によっては、在宅訪問の仕事を担当することもあるかもしれません。医師や看護師、ケアマネジャーと連携し、患者宅や施設を訪問して服薬指導を行ったりといった業務も発生します。

「かかりつけ薬剤師」として登録している薬剤師の場合、24時間体制で患者のコールに応じなければなりません。閉局後でも緊急業務の対応が入る場合もあるでしょう。

病院薬剤師の1日

病院に勤務する薬剤師は、医療チームの一員として薬物療法を担当するのが一般的です。夜勤がある病院も多く、現場と密接に関わりながら働くこととなるでしょう。

1日の流れは病院によってさまざまですが、次のようなスケジュールが考えられます。

  • 8:30~9:00:出勤・朝礼
  • 9:00~12:00:薬剤管理指導・服薬指導・情報共有など
  • 12:00~13:00:昼休み
  • 13:00~17:00:薬剤管理指導・服薬指導・情報共有など
  • 17:00:退勤

病院薬剤師の勤務時間の多くは、入院中の患者や、退院・新規入院患者に薬剤管理指導・服薬指導を行うことに費やされます。自身の業務に関係する医療会議があれば、参加を求められるケースもあるでしょう。

また夜勤制の病院なら、17:00頃から出勤して仕事をし、翌朝9:00頃に退勤というシフトもあり得ます。

夜勤中には、入院患者の容体が変わったり患者が緊急搬送されてきたりするケースも少なくありません。医師や看護師と連携して、対応にあたる必要があります。

医療品販売店の薬剤師の1日

ドラッグストアをはじめ医療品販売店に勤務する薬剤師の勤務時間は、店舗の営業時間に準じます。早番・遅番があるうえ、土日祝日出勤となるケースも少なくありません。

医療品販売店に勤務する薬剤師の1日は、以下のような流れが考えられます。

  • 9:00:出勤
  • 9:00~12:00:調剤業務・OTC医薬品販売対応など
  • 12:00~13:00:休憩
  • 13:00~17:00:調剤業務・OTC医薬品販売対応など
  • 17:00~18:00:在庫管理・引き継ぎなど
  • 18:00:退勤

遅番のシフトで13:00頃に出勤した場合は、22:00頃に退勤となるケースが多いでしょう。

ドラッグストアの薬剤師の仕事には、調剤業務のほかに顧客対応業務も含まれます。処方箋が不要の「OTC医薬品」を購入する顧客に対し、服用の注意や服用方法を伝えたり相談を受けたりするのも大切な仕事です。

また、顧客が大量に押し寄せてきたときは、薬剤師がレジ業務を担当したり商品の品出しを手伝ったりするケースが少なくありません。

調剤薬局や病院での勤務と違って、「薬に関する仕事のみ」ではなく販売員としての戦力も求められます。

薬剤師のやりがい

カルテを手にした白衣の女性

(出典) photo-ac.com

薬剤師としてのやりがいは、勤務場所や形態によってさまざまです。薬剤師として働く人は、どのような部分にやりがいを感じているのでしょうか。

調剤薬局の薬剤師のやりがい

調剤薬局は、薬剤師が主体となって展開する職場です。病院や医療品販売店よりも薬剤師の意見が反映されやすく、仕事に関わる喜びを見いだしやすいといわれます。

特に処方箋調剤は薬剤師の独占業務で、医師や看護師も関わることはできません。「唯一無二の仕事をしている」という誇りが生まれやすく、やりがいを感じます。

また調剤薬局は、患者との距離が近いのも魅力です。患者と密なコミュニケーションをとれるため、信頼関係が芽生えやすいでしょう。患者から笑顔で「ありがとう」と声をかけられれば、地域医療に貢献していると深く実感できるはずです。

病院薬剤師のやりがい

病院薬剤師は、主に入院患者を対象に調剤業務・服薬指導を行います。1人1人にゆっくりと時間をかけられ、患者と良好な関係を築きやすいのが魅力です。医師・看護師との連携治療によって患者の病状が好転すれば、このうえない喜びを得られるでしょう。

また病院薬剤師は、薬局や店舗よりも深刻度が高い「命の現場」で働くことになります。高度な知識・スキルが求められるケースも多く、困難を感じる場面が多いかもしれません。しかし、困難を乗り越えたときの達成感はほかと比べられないほど大きく、「人を助ける喜び」がそのまま薬剤師業務のやりがいとなるでしょう。

医療品販売店の薬剤師のやりがい

医療品販売店に勤務する薬剤師は、「何でも相談できる薬屋さん」として働くことが可能です。

顧客の中には、薬の知識ゼロで来店する人も少なくありません。OTC医薬品(処方箋なしで購入できる医薬品)やサプリメントの種類は多く、専門的なアドバイスを求めている人と多く関わることになります。

市販の薬品やサプリメントに関して的確なアドバイスができるのは、店舗にいる薬剤師です。薬のプロとして頼られたり相談されたりすれば、人の役に立っていると実感できます。「ありがとう」の言葉をもらうたび、この仕事をしていてよかったと思えるはずです。

薬剤師の年収

データと電卓

(出典) photo-ac.com

薬剤師の年収は、勤務先によって大きく異なります。年収を重視して働きたい場合は、職場ごとの違いについて理解しておきましょう。職場ごとの薬剤師の年収を、厚生労働省のデータ(2018年時点)をもとに紹介します。

調剤薬局(保険薬局)

厚生労働省の資料によると、調剤薬局(保険薬局)に勤務する薬剤師の平均年収は、474万2,000円とされています。このうち、平均給料年度額は416万8,000円・賞与は57万4,000円です。

また各調剤薬局の責任者である「管理調剤師」になると、平均年収は754万4.000円と大きくアップします。平均給料年度額は678万4,000円・賞与は75万9,000円です。

薬剤師として大きく収入を伸ばしたいのであれば、管理者を目指しましょう。

病院

病院勤務の薬剤師の場合、「一般病院」「一般診療所(入院施設を持たないまたは19人以下の入院施設を有する施設)」で年収額は異なります。

一般病院でも「医療法人」「国立」「公立」によって金額に若干の差があるため、勤務先を探すときは注意が必要です。

まず、「医療法人」の一般病院に勤める薬剤師の平均年収は、524万6,000円です。このうち平均給料年度額は440万円・賞与は84万6,000円となっています。

一方、「国立」の一般病院では、平均年収が565万3,000円です。平均給料年度額は440万3,000円、賞与は124万9,000円となっています。

「公立」は一般病院の中では最も平均年収が高く、595万9,000円となっています。平均給料年度額は458万6,000円・賞与は137万3,000円です。

一般診療所だと、一般病院よりもより高額な年収を得られる傾向にあります。平均年収は1,005万4,000円で、平均給料年度額は934万8,000円・賞与は70万5,000円です。

医療品販売店

医療品販売店に勤務する薬剤師は、勤務先企業の規模や給与規定によって金額が大きく異なります。

例えば、全国展開のドラッグストア「マツモトキヨシ」では、以下の条件で薬剤師を募集しています。

  • 転居あり:年俸505万5,000円(月額42万1,250円)希望勤務地を考慮して決定
  • 転居なし:年俸482万455円(月額40万1,705円)東京・神奈川・千葉・愛知・大阪限定
  • 転居なし:年俸467万9,726円(月額38万9,978円)埼玉・茨城・静岡・三重・滋賀・兵庫・京都限定
  • 転居なし:年俸458万5,910円(月額38万2,160円)岐阜・奈良・和歌山限定

※固定残業代に相当する残業はなし
※薬剤師免許の登録後、年俸制に移行

医療品販売店での勤務を希望する場合は、賞与や待遇・手当についてきちんと理解し、納得したうえで応募しましょう。

薬剤師の求人傾向

薬剤師の女性

(出典) photo-ac.com

薬剤師の求人は、社員以外にアルバイトやパートの募集も多いため、柔軟な働き方ができることが特徴です。薬局は数が多く、全国で約5万9,613軒(2018年時点)にも上ります。

自宅や駅の近く、ドラッグストアやショッピングセンター内など、職場の選択肢は非常に豊かといえるでしょう。自分のライフスタイルに合わせて職場を選びやすい仕事です。

病院の求人では、実務経験がなくても薬剤師資格だけが条件の場合が多くあります。ブランクがあっても応募できる求人が多いようです。

OTC医薬品の販売を中心とするドラッグストアの求人も豊富です。ほかの職場と比較して接客業務が多くなるため、人と接することが好きな人にはおすすめです。地域によっては英語対応をしている店舗もあり、英語力を生かした働き方もできます。

また、製薬会社で学術職や治験に関わる場合は、業務で英語の文献を使用したり海外の企業と専門的な内容をやりとりしたりする必要があります。研究の道に進みたいなら、英語力を鍛えておくに越したことはないでしょう。

出典:
薬剤師法
広島国際大学 薬学部
東京理科大学 薬学部
東京薬科大学
千葉大学
令和2 (2020) 年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
薬局数 厚生労働省
公益社団法人 日本薬剤師会
一般社団法人 東京都病院薬剤師会
薬学共用試験センター
薬剤師に関する基礎資料|厚生労働省

高垣育
【監修者】薬剤師・ライター高垣育

調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、2012年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行う。

著書:
犬の介護に役立つ本(山と渓谷社)

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