看護師が不足する理由とは?現場への影響や解消するための対策を解説

医療現場では、常に看護師の数が足りないといわれています。なぜ看護師は不足してしまうのでしょうか。人手不足となる理由を解説します。看護師不足を解消するために取り組まれている対策も紹介するので、復職を考えている人は参考にしましょう。

看護師はどのくらい不足している?

看護師たち

(出典) photo-ac.com

医療現場では、看護師の人手不足が問題となっています。現状はどのような状況になっているのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

看護師の有効求人倍率は約2倍

厚生労働省の一般職業紹介状況を見ると、2022年の看護師(保健師・助産師含む)の有効求人倍率は、年間を通して約1.9~2.5倍を推移しています。

過去10年間の年度別の平均を見ても、新型コロナウイルス感染症拡大以降に、やや下がったとはいうものの、ほぼ2倍を下回ることがありません。これは、募集に対して約半分か、それ以下の人数しか応募がないということです。

この数値を見ても、看護師は需要に対して供給が足りていない、いわゆる人手不足の状態になっていることが分かります。

参考:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 一般職業紹介状況 ~令和4年12月 長期時系列表 21 職業別労働市場関係指標(実数)(平成23年改定)(平成24年3月~) 月次 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 

政府によるさまざまな支援

深刻化する看護師の人手不足を受けて、政府もさまざまな支援プログラムや制度による対策を取っています。

例えば、各都道府県に設置されているナースセンターとハローワークの連携を強化させ、看護職の復職を支援しています。また、看護師の離職防止や定着促進対策として、各都道府県に医療勤務環境改善支援センターを設置しているのも、その一例です。

他にも、看護師資格取得をサポートする教育訓練給付制度金や、看護人材の確保促進や看護職の資質向上のために研修を実施する医療機関への基金提供なども行っています。

さらに、看護師の賃金の待遇改善として、収入を1%から3%程度まで段階的に引き上げていく方策を打ち出しました。

看護師が不足する理由は?

疲れた看護師

(出典) photo-ac.com

看護師が不足する理由には、さまざまな要因が絡んでいます。具体的に4つ挙げて説明します。

業務負担が大きい

看護師が不足する理由の1つには、業務量の多さや責任の重さなどが考えられます。日本医療労働組合連合会が2017年度に看護師らを対象に行った労働実態調査の結果では、74.9%の看護師が仕事を辞めたいと答えていました。

辞めたい理由として最多だったのが、人手不足による仕事のきつさで、47.7%の人が回答しています。

日本看護協会の「看護職員実態調査(2021年)」によると、2021年9月の1カ月間の看護師の平均超過勤務時間は17.4時間で、78.4%の看護師が超過勤務をしたとされていまます。業務量の多さが原因で看護師が辞めてしまい、それがさらなる負担増につながってしまうのでしょう。

参考:
日本医療労働組合連合会 「2017年 看護職員の労働実態調査結果(概要)」

2021年 看護職員実態調査|日本看護協会

勤務形態が不規則

不規則な勤務形態も、看護師不足の一因となっています。夜勤がある病棟勤務では、3交代制・2交代制のシフトが組まれていることが多く、そのほかに、長日勤、早出、遅出といった勤務も存在するため、生活リズムが不規則になりがちです。

2交代制の夜勤シフトは16:30~翌日9:00までの時間帯となることが多く、途中で休憩時間を挟むとはいえ、約16時間の長時間勤務となります。3交代制でも日勤・準夜勤・夜勤の、3つの勤務時間帯を組み合わせるため、プライベートの時間を持ちにくいのが現状です。

また、ライフスタイルによって、子育て中などは特に夜勤が難しい場合もあり、日勤中心のシフトを希望する人も少なくありません。夜勤帯で働く看護師の数が少なくなれば、それだけ夜勤する看護師の勤務形態に負担がかかってしまいます。

離職率が高い

看護師の離職率の高さも人手不足の原因といえるでしょう。公益社団法人日本看護協会の「2023年病院看護・助産実態調査報告書」の結果を見ると、2022年度には正規雇用の看護師の11.8%が離職しています。

内訳を見ると、新卒採用者は10.2%、既卒採用者は16.6%でした。有効求人倍率が平均2倍と、募集の半数しか応募がないことに加え、新しく採用しても、一定数の離職者がいれば人手不足は解消されません。

仕事量の多さ・業務負担の大きさに加えて、妊娠・出産などのライフイベントに柔軟に対応できないなど、福利厚生が整っていないことも離職率の高さにつながっていると考えられます。

参考:2023年病院看護実態調査 報告書|日本看護協会

看護需要が拡大

近年の看護需要の拡大も看護師の人手不足に拍車を掛けているといえるでしょう。総務省の統計では、2022年の65歳以上の人口は、前年に比べて約6万人増加しています。

高齢化が進むにつれ、医療機関での看護需要が増えることは必至です。しかし、それに対して看護師の供給が追いついていないのが現状です。

さらに、新型コロナウイルス感染症の流行によって、医療需要が一気に拡大し、看護の提供だけでなく、ワクチン接種などの業務も増えました。そのため、看護師の人手不足がますます深刻になっているといわれています。

参考:統計局ホームページ/令和4年/統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口

看護師不足による影響は?

疲れて眠る看護師

(出典) photo-ac.com

看護師不足は、医療現場にさまざまな影響を及ぼします。どのような影響があるのか具体的に見ていきましょう。

現場の負担がさらに増える

看護師が不足すれば、当然現場で働く人の業務負担は多くなります。病院での看護体制は、看護師1人に対して7人の患者(7対1)というように、1人の看護師が受け持つ入院患者の数は決められているのが基本です。

医療の必要度が低い患者の場合、1人で10人を受け持つなど、患者の重症度によって看護体制は異なります。

しかし、勤務している看護師の人数が少なくなれば、看護師1人当たりの負担は大きくなり、受け持つ患者の数が増える可能性もあるでしょう。

医療ミスのリスクが増える

看護師の数が少なくなれば、医療ミスなどのリスクは増え、患者の安全性も担保されにくくなる恐れがあります。

厚生労働省の「コメディカル不足に関して~看護師の人数と教育~」(2008年)でも、病床当たりの看護師数が多くなるほど患者の安全性が高まるとされています。

看護師が不足すれば、患者に対して手厚い看護を提供できなくなるだけでなく、疲労蓄積によるケアレスミスや、重大な医療事故を引き起こすリスクも増えてしまうでしょう。

参考:厚生労働省「コメディカル不足に関して~看護師の人数と教育~」

キャリアアップが難しくなる

人手が不足している現場では、看護師がキャリアアップしにくいという弊害も起こり得ます。ベテランの看護師が退職してしまうと、新卒看護師でも責任のあるポジションに就かされることがあり、給与などの待遇は新人並みなのに、任される業務だけベテランと変わらないという、アンバランスも起こり得ます。仕事への不満が重なって離職につながり、人手不足の悪循環が断ち切れないといえます。

また、このようなケースではスキルアップのための勉強時間が確保できなくなります。スキルが身に付かなければ、希望する病棟への異動ができないなど、キャリアアップも難しくなるでしょう。

看護師不足解消のための対策

パソコンを見ながら話し合う看護師

(出典) photo-ac.com

看護師の人手不足を解消するために、病院側もさまざまな対策を立てています。主な対策を見ていきましょう。

夜勤などの手当を充実させる

夜勤や残業などの手当を充実させたり、給料そのものをアップしたりして、業務の負担と報酬のバランスを取り、看護師の不満解消に努めている医療機関もあります。

病院側にとっては、収入面を充実させれば、他の医療機関と待遇面で差別化を図ることが可能です。結果的に、既存の看護師のモチベーションアップだけでなく、新規採用の看護師の確保にもつながるでしょう。

働く側としては、応募の際に待遇面をチェックすることによって、人手不足で労働環境が悪化している勤務先を避けられます。

育児休暇や介護休暇を取得しやすくする

妊娠・出産などのライフイベントによる看護師の離職数を削減するために、育児休暇や介護休暇を取得しやすくしたり、時短勤務を導入したりしている病院もあります。

福利厚生を整えることで、看護師が働きやすい職場となり、定着率を高める効果に期待できます。これまでライフスタイルの変化によって、キャリアを諦めなければならなかった看護師にとっても、長く働き続けられるのがメリットです。

院内託児所を設置して、出産後の早期復帰や、一度離職した看護師の復職をサポートしている病院もあります。

スキルアップをサポートする

看護師の離職を防ぐためには、スキルアップをサポートすることも重要です。そのため、資格取得やキャリア養成を支援する制度を導入したり、コメディカルスタッフを採用して専門性のある業務を任せたりしている病院もあります。

スキルが身に付けば、希望部署への異動など、キャリアアップも可能になり、看護師のモチベーション向上にもつながるでしょう。

新しい医療技術などの学習を支援するために、eラーニングを導入している病院なら、知識不足による不安で業務への自信を失うといったことも防げます。

デジタル機器を活用する

看護師の負担を軽減するために、カルテの記入や病棟管理など、看護以外の業務をデジタル化したり、医療ロボットなどの機器を導入したりしている病院も増えています。

効率化が図られている病院であれば、人手不足による業務負担も解消され、看護師が本来の看護業務に専念できるというメリットがあります。

講習会への参加など勉強時間も確保できて、スキルアップもしやすくなるでしょう。看護師のシフト管理業務を効率化させるために、クラウドのシフト管理システムを導入している病院もあるようです。

働きやすい環境づくりで看護師不足を解消

笑顔で会話する看護師たち

(出典) photo-ac.com

高齢化や新型コロナウイルス感染症の拡大によって、医療現場での人材需要が高まる一方、看護師の人手不足は続いているのが現状です。看護師が不足すれば、十分な医療体制を整えられないなど、さまざまな悪影響が起こり得ます。

看護師が不足する理由の多くは、業務負担の大きさや、キャリアアップしにくい職場環境などです。多くの病院では、これらの理由を解消するために、さまざまな対策が取られています。

離職後に看護師への復職を考えている人は、働きやすい環境が整っている病院を選ぶことがポイントです。職場選びには、看護師の求人数も豊富に掲載されているスタンバイの利用がおすすめです。

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古市菜緒
【監修者】バースコンサルタント代表、助産師・看護師・保健師古市菜緒

助産師として1万件以上の出産に携わり、8千人以上の方を対象に産前・産後のセミナー講師を務める。海外での生活を機にバースコンサルタントを起ち上げ、現在「妊娠・出産・育児」関連のサービスの提供、アドバイスを行う。関連記事の執筆・監修、商品・サービスの監修、産院のコンサルタント、国・自治体の母子保健関連施策などに従事。

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