作業療法士と理学療法士は、どちらもリハビリの専門家とされる仕事です。共通点も多いため、どちらの資格を取得するか悩んでいる人も多いでしょう。それぞれの仕事に触れている法律から仕事内容を読み解き、作業療法士と理学療法士の違いを解説します。
作業療法士と理学療法士の定義を確認
作業療法士と理学療法士の違いを知りたいなら、それぞれの仕事の定義をはっきりと把握しておきましょう。法律の条文をもとに、まずは作業療法士と理学療法士がどのような仕事なのかを大まかに紹介します。
作業療法士とは
理学療法士及び作業療法士法によると、作業療法は次のように定義されています。
この法律で「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。
医師の指示に基づいてこのような作業療法を行うのが、作業療法士です。応用的動作能力とは、食事をしたり排泄をしたりするときにする日常的な動きを指します。
作業療法士について理解する上で重要なのが、「身体又は精神に障害のある者に対し」という部分です。作業療法士は体の障害だけでなく精神の障害も対象とします。
理学療法士とは
理学療法士及び作業療法士法では、理学療法について次のように定義しています。
この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
これらの理学療法を医師の指示の下で行うのが、理学療法士です。基本的動作能力とは、起き上がる・立ち上がる・歩くなどの動きを可能にする基礎的な力を指します。
精神の障害も対象になる作業療法と違い、理学療法は「身体に障害のある者に対し」とされていることに注目しましょう。理学療法士が担当するリハビリには、心へのアプローチは含まれません。
大きく異なるのはリハビリの内容
作業療法士と理学療法士の違いとして対象者のほかに大きいのは、患者に施すリハビリの内容です。作業療法士と理学療法士は、回復を目指す機能の種類が違うため、リハビリの中身も変わってきます。
作業療法「心身の回復で生活を改善する治療」
作業療法士の仕事は体や心にアプローチし、患者が自分らしい生活を送れるようリハビリを通じてサポートすることです。具体的には次のようなリハビリに携わります。
- ボールプールやペグボードなどを使用し、基本的な心身機能の回復を目指す
- 食事を取る・服を着る・お風呂に入るなどの生活に必要な作業を通して、快適な日常を取り戻せるようにサポートする
- 陶芸・工作・手芸などの創作活動を通じて、応用的な日常生活に必要な動作の改善を図る
作業療法士が行うリハビリの内容は、患者がどのような生活を送りたいかによって変わってきます。患者やその家族と話し合いながら、内容を決めていくのが一般的です。
幅広い障害を持つ人のサポートも
作業療法士は、身体的な障害だけでなく精神的な障害を持つ人に対してもアプローチします。
例えば発達障害を抱える子どもに対しては、本人のできること・できないことを見極めて適切な作業を与え、成功体験を積み上げる手伝いをします。「自分でできた」という自信を育むのが目的です。
精神障害の影響により健康的な日常生活を送れなくなった人に対しては、作業を通して安らぎや自信を取り戻せるようにサポートします。
加齢による認知機能や運動機能の低下が見られる人も、作業療法の対象です。作業を通して自力でできることを増やせるように支援します。
理学療法は「基本動作の回復を目指す治療」
体に障害を負った人に対して、歩く・立つ・起き上がるなどの身体的な基本動作ができるようリハビリをするのが理学療法士の仕事です。具体的には次のようなリハビリを担当します。
- 基本動作の訓練や関節の曲げ伸ばし訓練を通して、筋肉や関節の機能回復を目指す
- 赤外線・電気・超音波などを活用して患部に刺激を与え、痛みの軽減や血液循環の改善などを図る
- 自立した生活が送れるように、ベッドから起き上がる・自分で排泄するなどの動きができるように練習を促す
体の機能に着目してリハビリを実施するのが、理学療法士の仕事と覚えておきましょう。
活躍が期待される場所の違い
作業療法士と理学療法士には、総合病院や介護保険施設など共通する就職先だけでなく、それぞれに特有の活躍の場もあります。作業療法士・理学療法士だからこそ働ける場所には、何があるのでしょうか?
作業療法士は精神科病院や職業センター
作業療法士は、精神科病院や精神障害者支援センターでも活躍しています。心に対しても治療を施せる、作業療法士ならではの就職先といえるでしょう。
精神科病院では、統合失調症やうつ病をはじめとした精神疾患や発達障害・知的障害を持つ人を対象にリハビリをします。作業や他者との交流を通して、平穏な生活や社会とのつながりを取り戻すのが目的です。
ハローワークや就労支援事業施設などの職業センターも、作業療法士が活躍できる場所に挙げられます。障害を持つ人の就労支援で得た知識を生かして求職者のスキルを確認する業務が、仕事内容の例です。
理学療法士はスポーツ分野
体の機能に精通している理学療法士は、スポーツ分野での活躍が期待される職種です。スポーツ業界で働く理学療法士は、スポーツ医学専門医が在籍するクリニックに勤めたり、スポーツのプロチームに所属したりしてキャリアを積みます。
スポーツ分野に携わる理学療法士は、次のような仕事をしています。
- けがに対して応急処置を施す
- けがの予防を目的に動作の改善を提案する
- 故障からいち早く復帰できるようにリハビリを支援する
体のことを知り尽くしたプロとしてチームに貢献するのが、スポーツ分野で活躍する理学療法士の仕事です。
作業療法士と理学療法士の共通点
作業療法士と理学療法士の共通点もチェックしておくと、それぞれの仕事に対する理解が深まります。それぞれの仕事に共通するポイントを4つ見てみましょう。
どちらも国家資格
作業療法士と理学療法士の最大の共通点は、どちらも国家資格であることです。毎年2月に行われる国家試験に合格することで資格を得られます。
試験の受験資格も共通していて、文部科学大臣が指定した学校、もしくは都道府県知事が指定した養成施設に通い、3年以上療法士として必要な知識と技能を身に付けると受験できるようになります。
試験方法はどちらも筆記試験のみで行われ、一般問題と実地問題に分かれている点も共通です。出題される科目もほとんど同じで、解剖学・生理学・運動学などから幅広く問題が出されます。
参考:
作業療法士国家試験の施行|厚生労働省
理学療法士国家試験の施行|厚生労働省
国家試験の難易度
作業療法士と理学療法士は、国家試験の合格率も似通っています。2022年に実施された試験の合格率は、作業療法士が80.5%・理学療法士が79.6%でした。直近5年間の合格率を見ても、合格率は両者ともに80%前後で推移しています。
作業療法士と理学療法士の国家試験はどちらも、養成校入学当初から試験勉強を計画的に進めて知識を積み上げておけば、十分に合格が可能なレベルといえるでしょう。
ただし見方を変えれば、5人に1人は不合格になる試験ともいえます。合格率が高いからと甘く見ることなく、しっかり対策を立てておく意識が重要です。
参考:
第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について|厚生労働省
就職後の収入
作業療法士と理学療法士は、就職後の平均収入についても大きな差はないと考えられるでしょう。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、作業療法士と理学療法士は、言語聴覚士・視能訓練士とひとまとめにして賃金の統計が取られています。
「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、作業療法士・理学療法士を含む職種群の平均年収は約427万円でした。国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」で示された日本の給与所得者全体の平均年収443万より、やや低めの結果です。
ただ、働く場所やスキル・経験によっても作業療法士・理学療法士の年収は変わります。平均年収はあくまで参考程度にとどめ、詳しく知りたい場合は求人をチェックしてみましょう。
理学療法士の求人・仕事・採用|スタンバイでお仕事探し
作業療法士の求人・仕事・採用|スタンバイでお仕事探し
※賃金構造基本統計調査のデータは、一般労働者・企業規模10人以上のものを使用しています。
※作業療法士・理学療法士を含む職種群の平均年収は、賃金構造基本統計調査の「きまって支給する現金給与額」の12カ月分と「年間賞与その他特別給与額」を合計した金額です。
参考:賃金構造基本統計調査 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
令和3年分 民間給与実態統計調査|国税庁
将来的に飽和が予測されている
近い将来に供給が需要を大きく上回ると予測されている点も、作業療法士と理学療法士の共通点といえるでしょう。
どちらも2019年時点において、すでに供給過多な状態にありました。2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍に達すると試算されています。作業療法士と理学療法士は、働き口を見つけるのに苦労するようになる可能性が否定できません。
長く選ばれ続ける人材を目指すには、常に新しい知識やスキルを身に付け、自分の価値を高める姿勢が求められます。これから作業療法士や理学療法士を目指すなら、頭に入れておきましょう。
参考:理学療法士・作業療法士の需給推計について | 医療従事者の需給に関する検討会
第3回 理学療法士・作業療法士需給分科会
作業療法士と理学療法士どちらを選ぶ?
作業療法士と理学療法士は違う役割を持つ職種ですが、共通点も多くあります。どちらを目指すか悩んだときには、何を判断の軸にするとよいのでしょうか?選ぶときの考え方を紹介します。
どのような療法士を目指したいかで選ぶ
患者の心に寄り添ったリハビリを提供できる療法士になりたいのであれば、心のケアも行う作業療法士がおすすめです。
幅広いサポートで患者の自立や社会復帰を応援したいという人にも、さまざまな作業を通して機能の回復を図る作業療法士が適しています。
理学療法士が向いているのは、体の構造や機能について深掘りしたい人です。身体機能の回復に特化できる理学療法士なら、効率的に知識やスキルを習得できるでしょう。
サポートしたい人の属性で選ぶ
どのような人のサポートをしたいか考えるのも、作業療法士と理学療法士どちらを目指すか悩んだときに重要です。作業療法士と理学療法士はアプローチする対象が異なります。
子どもをサポートしたいなら、発達に関する支援に携われる作業療法士がよいでしょう。作業療法士は、日常的に行う動作や遊びを通して子どもが快適に生活できるよう手伝う仕事も担当します。
スポーツ選手と関わる仕事がしたい人なら、アスリートのパフォーマンス向上という選択肢もある理学療法士がおすすめです。
幅広い知識を得たいならダブルライセンス
療法士として差別化を図りたいなら、作業療法士と理学療法士のダブルライセンスを視野に入れましょう。ダブルライセンスを実現すれば、2つの視点から患者にアプローチできるだけでなく、就職や転職の際に優遇される可能性が高まります。
ただ、ダブルライセンスには、はじめにどちらかの資格を取得した後にまた養成校に通い、国家試験を突破する必要があります。また、両方の資格を持っていても、金銭的なインセンティブがあるケースはまれです。
時間的・金銭的に無理がなく、メリットが大きければ検討する方向がよいでしょう。
自分に合った資格を選んでキャリアを築こう
作業療法士と理学療法は、リハビリで体の基本機能回復のみを目指すか、心にもアプローチしつつ生活に必要な動作を身に付けるかという点で大きく違います。目指す資格を決めるときは、違いをしっかり理解した上で決めましょう。
目指す資格が決まったら、どのような求人があるのか具体的にチェックしておくと安心です。具体的な仕事内容をイメージできれば、勉強に対する意欲もわいてきます。
スタンバイの豊富な求人情報も活用しつつ、作業療法士・理学療法士どちらを目指すのかを考えてみましょう。
訪問・通所・回復期など幅広い分野を経験した理学療法士。ブログ「リハウルフ」とYouTube「リハウルフ」などで訪問リハビリや訪問看護、介護保険制度などの情報を発信している。著書に「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」がある。
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