保育士には、処遇改善を目的に「キャリアアップ研修制度」が設けられています。キャリアアップを目指す保育士が受けられる研修の内容と、新設された役職の特徴を見ていきましょう。研修制度についてのよくある疑問と解答も紹介します。
保育士のキャリアアップ研修制度とは
多くの保育士が能力を発揮し、働きに応じた収入を得られるよう、厚生労働省はキャリアアップ研修制度の取り組みを開始しています。まずは、キャリアアップ研修制度の概要や目的について確認しましょう。
処遇改善を目的とした取り組みの1つ
キャリアアップ研修は、主に保育士の処遇改善を目的として作られた制度です。保育士がキャリアを築いていく上で、一定の目標設定は欠かせません。
主に中堅の保育士向けに研修を実施し、目標達成の進度に応じて収入を上げることがキャリアアップ研修の主な目的です。研修を受け、条件を満たせば一定の手当が毎月支給されます。
順調なキャリア育成によって離職を防ぎ、保育士の人材を確保することも目的の1つとされています。収入が上がって能力を認められる機会があれば、やりがいも生まれるでしょう。
参考:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について |こども家庭庁
研修できるのは8分野
保育士のキャリアアップ研修が実施されているのは、専門的な対応が必要な6分野に、マネジメントと保育実践を加えた8分野です。保育に関する専門分野とマネジメント研修・保育実践に分かれます。それぞれ研修の内容や対象者が異なるため、概要を押さえておきましょう。
参考:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について |こども家庭庁
保育に関する6の専門分野
キャリアアップ研修の専門分野は、以下の6種類に分かれています。
- 乳児保育
- 幼児保育
- 障害児保育
- 食育・アレルギー対応
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
専門分野の研修は、各専門分野でリーダーとしての役割を担う人が対象となっています。好きな分野を選択するのではなく、対象者が関わる分野を学び、業務に役立てるのが目的です。
乳児保育は主に0歳から3歳未満、幼児保育は3歳以上の子どもとなっており、それぞれ年齢に合わせた保育のために研修が実施されます。障害児保育は、主に障害を持つ子どもが通う施設で適切な保育を提供するための研修です。
一段上の知識を身につける「マネジメント」
マネジメント研修は、中間管理職のような役割を果たす「副主任保育士」を目指す層が対象です。
キャリアを重ねていくと、施設の運営・経営に関わるマネジメント能力が求められるようになります。マネジメントの基礎や、施設全体の目標設定について学ぶのが研修の目的です。
いずれ主任保育士へのキャリアアップを目指す上で欠かせないリーダーシップについても、マネジメント研修で学びます。
管理職を目指す上で必要な内容を盛り込み、順を追ってキャリアを積むために行われる研修です。
保育内容の理解を深める「保育実践」
保育実践は、さまざまな遊びを通して子どもへの理解を深め、保育に必要な環境について学ぶためのものです。未経験の資格保有者やブランクのある保育士に向けた研修として行われます。
保育士がどのように子どもに向き合うのか、具体的な保育の実践を通して学ぶことが目的です。
保育士としての経験が浅い人向けのキャリアアップ研修を設けることで、資格を保有しているにもかかわらず保育士として働いていない層の復職も促します。実践的な研修により、保育現場で必要な感覚を取り戻すきっかけになるでしょう。
キャリアアップ研修制度で新設された役職
キャリアアップ研修制度の実施に伴い、一般の保育士と主任保育士の間に分類される役職が新設されました。中堅の保育士が目指す役職が増えたことで、能力に応じた手当が支給されるのがメリットです。それぞれの役職の特徴を紹介します。
参考:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ|宮城労働局
職務分野別リーダー
職務分野別リーダーは、経験年数が目安として3年以上の保育士が対象です。自分が担当している職務分野の研修を修了し、リーダーになります。
研修分野は保育に関わる6種類で、マネジメントや保育実践は含まれません。1つの施設の中で、複数の保育士が同じ分野の職務分野別リーダーとなるケースもあります。
研修時間は1分野につき15時間以上です。役職に就くと、月5,000円以上の手当が支給されます。全体の責任を負う役職に就く前に、1つの専門分野を管理するリーダーとしてキャリアを積むのが主な目的です。
専門リーダー
専門リーダーは、経験年数が目安として7年以上の保育士が対象です。職務分野別リーダーの経験を経て、4つ以上の専門分野で研修を修了することが要件として定められています。
研修時間は1分野につき15時間以上です。必要な研修をすべて終えるには、60時間以上を確保しなければなりません。
専門リーダーの役職に就くと、支給される手当は最大で月4万円です。1つの専門分野だけでなく幅広い職務分野に対応するのが目的となっており、主任保育士に到達するまでに経験する役職として設定されています。
副主任保育士
副主任保育士は施設の運営に関わるマネジメント研修のほかに、3分野以上の専門分野研修を修了することが要件となっています。
職務分野別リーダーを経験した後、管理職としてマネジメントを学ぶのが特徴です。専門リーダーと同様に、経験年数概ね7年以上の保育士が対象とされます。
研修時間は職務分野別研修と同じで、各分野15時間以上です。副主任保育士になると、手当として月4万円が支給されます。現場をまとめる専門リーダーとは異なり、施設全体の運営を学ぶ点が副主任保育士の特徴です。
キャリアアップ制度に関するQ&A
キャリアアップ研修は、新しく始まった制度です。対象者や給料が上がるタイミングなど、気になる疑問をQ&A方式で解説します。疑問を解決し、研修制度をうまく活用しましょう。
研修の受講対象者は?
キャリアアップ研修は、対象者がそれぞれ異なります。専門の職務分野を学べるのは経験が約3年以上で、職務分野別リーダー・専門リーダー・副主任保育士を目指す保育士です。
マネジメント研修は管理職を目指す保育士が対象となり、経験年数が目安7年以上で、副主任保育士になる前の段階で受講します。
保育実践は、保育士未経験の資格保有者や潜在保育士が対象となる研修です。長く保育の分野に触れていなかった保育士が現場に戻るにあたり、実践的な研修を行います。
必ず手当を受け取れる?
キャリアアップ研修による手当は「処遇改善等加算2」と呼ばれており、施設や事業所によって加算対象人数が決められています。4万円加算の副主任保育士・専門リーダーは合わせて一般職員の1/3、5,000円加算の職務分野別リーダーは1/5です。
一般職員が15人いる保育園の場合、4万円の加算対象になるのは5人、5,000円の支給対象になるのは3人となります。園の状況によっては競争率が高くなり、対象に入らない可能性もあるでしょう。
さらに副主任保育士・専門リーダーの場合は対象者から1人以上に4万円を支給すれば、残りの加算額を主任保育士や職務分野別リーダーにも配分してよい決まりです。4分野の研修を受けて役職についても、必ずしも4万円もらえるとは限りません。
手当だけを目的とするより、今後のキャリアアップ・転職を考えるときのメリットを考えて制度の利用を検討した方がよいでしょう。
参考:
保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ|厚生労働省
公定価格の処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの一本化について|こども家庭庁
研修修了要件の段階適用って何?
キャリアアップ研修制度の修了要件は、2023年度から段階的に適用されます。
本来役職に就くためには、定められた研修を初年度中に終えなくてはなりません。しかし、2022年中に修了が必要なものは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で時間数の確保が難しくなりました。
しばらく影響が続く可能性から、以下のような段階的適用が決まっています。
- 職務分野別リーダー:2023年のうちは要件がなく、2024年から1分野15時間以上の要件が適用される
- 副主任保育士・専門リーダー:2023〜2027年に、毎年1分野ずつ研修が必要な専門分野が増えていく
役職に就く時期によっては、すぐにキャリアアップ研修が求められるわけではないことを覚えておきましょう。研修は状況によって、eラーニングでの受講も可能とされています。
参考:処遇改善等加算Ⅱ及び職員処遇改善費に係る研修修了要件について|横浜市
新たな研修制度を積極的に活用しよう
保育士が収入や働きやすさを維持し、やりがいを生み出せるよう新たな研修制度や役職が設けられました。現在勤務する施設でキャリアアップ研修制度が利用できる場合は、積極的に活用しましょう。
施設の規模や方針によっては昇進できる人数が少なく、制度をうまく活用できないケースも考えられます。今後昇進を希望するなら、転職を検討するのもよいでしょう。
スタンバイでは、さまざまな施設の保育士の求人を探せます。積極的にキャリアアップ研修制度を取り入れている施設を探してみましょう。