家庭内に子どもや親などの扶養親族がいる場合、税法上の扶養控除が受けられます。納税者や扶養親族に、年収制限はあるのでしょうか?配偶者控除との違いや、社会保険料や税金の支払いで働き損をしないコツも解説します。
扶養には大きく2種類ある
パートやアルバイトなどで収入を得る場合、その年収が「扶養の範囲内に収まるかどうか」「扶養控除の対象になるかどうか」を気にする人は少なくありません。
扶養とは、自力した生活が難しい親族を経済的に援助することを意味します。「社会保険上の扶養」と「税法上の扶養」に大別され、それぞれ適用される制度や条件が異なります。
社会保険上の扶養
社会保険上の扶養とは、生計を立てるのが困難な親族の代わりに、社会保険に加入する仕組みのことを指します。扶養する側は「扶養者(被保険者)」、扶養される側は「被扶養者」と呼ばれることも覚えておきましょう。
夫が一家の大黒柱で、妻が専業主婦やパートで生活を支えている場合、一定の条件を満たせば、妻は夫の社会保険の扶養に入れます。自分で年金保険料や健康保険料を支払わずとも、夫とほぼ同様の社会保険を享受できるのです。
被扶養者になれるのは、扶養者の直系親族・配偶者・子・きょうだいなどです。後ほど詳しく説明しますが、社会保険上の扶養に入るには、被扶養者の年収を一定範囲内に収める必要があります。
税法上の扶養
税法上の扶養は「扶養控除」と呼ばれています。具体的には、家計を支えている納税者に扶養する親族がいる場合、その所得から一定額が控除できるというものです。所得控除※の一種であり、適用されると所得税・住民税の負担が軽減されます。
例えば、16歳以上19歳未満の子どもがいる家庭では、扶養者(親)に38万円の扶養控除が適用となる可能性があります。
社会保険上では、扶養される側は被扶養者と呼ばれますが、税法上では「扶養親族」と呼ばれる点に留意しましょう。
※所得控除:所得税額を計算する際、個人の事情を加味して、所得から一定の金額を差し引くこと。基礎控除や扶養控除をはじめ、計15種類がある。
社会保険上の扶養で意識すべき年収の壁
子どもや配偶者などが社会保険上の被扶養者になるには、年間収入が一定額以下でなければなりません。一定額を超えると扶養から外れてしまうため、俗に「年収の壁」と呼ばれています。
「手取りを少しでも多くしたい」「社会保険料の負担を減らしたい」という人は、以下の2つの壁を意識しましょう。
130万円の壁
加入する健康保険団体にもよりますが、日本最大の保険者でもある全国健康保険協会(協会けんぽ)では、対象者の年間収入が130万円未満、かつ被保険者の年間収入の1/2未満でなければ、被扶養者にはなれません。
社会保険上の扶養は、各種手当を含めた年収で判断するのが原則です。よって、交通費を含む年間収入がコンスタントに130万円を超える人は、扶養の対象から外れてしまいます。
扶養の対象外となった場合、自分で年金保険料や健康保険料を納める必要があります。
106万円の壁
「106万円の壁」とは、年収が106万円を超えると社会保険への加入義務が生じることを意味します。対象となる従業員の要件は以下の通りです。
- 週の所定労働時間が週20時間以上
- 1カ月の賃金が年106万円(月額8万8,000円)を超える
- 雇用期間の見込みが1年以上
- 学生ではない
2022年10月以前は、従業員数(社会保険の被保険者数)が501人以上の大企業のみが対象でしたが、2022年10月以降は「101人以上の従業員のいる事業所」にまで社会保険の適用範囲が広がりました。
現状、100人以下の事業所で働く人は、106万円の壁を気にする必要はありません。しかし、2024年には51~100人の事業所にも義務的適用がなされる見通しです。
税法上の扶養控除に年収制限はある?
扶養親族がいる場合、収入から一定の所得控除が受けられます。控除額は38~63万円と大きく、親族の扶養による金銭的負担が軽減されるのが利点です。扶養控除に年収制限はあるのでしょうか?
扶養者に年収制限はない
配偶者控除や配偶者特別控除は、扶養者に年収制限が設けられていますが、扶養控除に年収制限はありません。要件に当てはまる親族を養っていれば、高所得者であっても、扶養控除が適用となります。
扶養控除額も被扶養者の年収とは関係がなく、扶養親族の年齢や同居の有無によって金額が決定されます。
- 一般の控除対象扶養親族(16歳以上):38万円
- 特定扶養親族(19歳以上23歳未満):63万円
- 老人扶養親族(70歳以上):同居老親等は58万円、それ以外は48万円
扶養親族は年収103万円以下
扶養親族の要件を満たすには「年間の合計所得金額が48万円以下」でなければなりません。合計所得金額とは、給与所得や事業所得などの各種所得を合計した金額です。
給与所得者の場合、収入に応じた「給与所得控除」が適用となります。つまり、その年の給与収入が103万円以下であれば、給与所得控除額は55万円となり、扶養控除の適用要件(103万円-55万円=48万円)を満たします。
なお、白色申告者の事業専従者や青色申告者の事業専従者で、給与の支払いを受けている人は対象外です。
年収には交通費を含めない
税法上、交通費や通勤手当は所得と見なされないため、年収に含めずに計算します(非課税分)。ただし、交通費や通勤手当の金額が1カ月あたり15万円を超える場合、超えた分は給与の扱いとなり、所得税が課せられる点に注意しましょう。
- 社会保険の扶養:交通費・通勤手当を含めて計算
- 税法上の扶養:交通費・通勤手当を含めずに計算(非課税限度額15万円/月)
扶養控除を受けるときの注意点
扶養控除を受けるには、複数の適用要件を満たさなければなりません。注意すべきポイントをピックアップして解説します。
生計を一にする必要がある
扶養親族の前提条件として、扶養者と扶養親族は生計を一にする必要があります。生計を一にするとは、同居しているかどうかに関係なく「日々の生活の財源が同じであること」を意味します。
同居していても、それぞれが自分のお金で生活をしている場合は、生計を一にしているとはいえません。
逆に別居でも、生活費や学資金・療養費などの送金が常に行われている状況であれば、生計を一にしているものと見なされます。
重複しての扶養控除はNG
夫婦が共働きの家庭では「重複控除」に注意が必要です。例えば、扶養親族の要件を満たす子どもが1人いる場合、子どもは夫婦それぞれの扶養親族になれません。夫か妻のいずれかの扶養親族として申請するのが原則です。
子どもが2人いる場合は、子どもAを父親の扶養親族にし、子どもBを母親の扶養親族にするという方法を取ります。重複しない限り、誰の扶養親族にするかは自由に決めて構いません。
16歳未満の子どもと配偶者は対象外
税法上、扶養親族に該当するのは「配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)」「里子」「市町村長から養護を委託された老人」です。
配偶者は扶養親族に該当しませんが、納税者に一定の要件を満たす配偶者がいる場合、配偶者控除や配偶者特別控除が適用となります。
また、子ども手当(現:児童手当)が新たに創設されたことにより、2012年以降は16歳未満の子どもに対する扶養控除が廃止されています。
配偶者控除と年収の関係性
配偶者控除は「配偶者控除」と「配偶者特別控除」に区分され、配偶者や納税者の年収によって控除額が変わります。
ここでは、夫(納税者)が給与所得のみの会社員、その妻(配偶者)がパート勤務と仮定して説明を進めていきます。
配偶者の年収が103万円以下の場合
配偶者である妻の年収が103万円以下(年間の合計所得金額が48万円以下)の場合、納税者である夫は「配偶者控除」が受けられます。
妻の収入が103万円を超えると、妻は超えた分に対して所得税を支払わなければならず、夫も配偶者控除が受けられなくなります。俗に「103万円の壁」といわれるのは、税金が増える年収のボーダーラインが103万円であるためです。
控除額は夫の給与収入によって以下のように変わります。※( )内は合計所得金額
- 年収1,095万円以下(900万円以下):38万円
- 年収1,095万円超1,145万円以下(900万円超950万円以下):26万円
- 年収1,145万円超1,195万円以下(950万円超1,000万円以下):13万円
参考:No.2672 年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるとき|国税庁
配偶者の年収が150万円以下の場合
配偶者の年収が103万円超150万円以下(合計所得金額が48万円超95万円以下)の場合は「配偶者特別控除」が適用となり、満額での控除が受けられます。
夫の年収が1,095万円以下(合計所得金額が900万円以下)の場合において、妻の年収が150万円以下であれば、配偶者控除と同じ38万円の控除が適用されるのです。
年収150万円を超えると、控除額が段階的に減額されていくため、一般的には「150万円の壁」と呼ばれています。
配偶者の年収が201万円以下の場合
配偶者の年収が150万円を超えても、年収201万5,999円以下(合計所得金額が133万円以下)に収まっていれば、配偶者特別控除の対象です。前述した通り、配偶者の年収に反比例して控除額が少なくなっていきます。
参考までに、配偶者の年収が197万1,999円超201万5,999円以下(合計所得金額が130万円超133万円以下)の控除額は3万円です。
年収201万円を超えると、配偶者特別控除の適用外となります。納税者本人の手取り額が大きく変わる上、配偶者本人もより多くの所得税を納めなければなりません。
2018年以降は納税者本人の年収要件が追加
2018年以降は、控除を受ける納税者本人に対して年収要件が追加されました。配偶者の年収が201万円以下であっても、納税者本人の年収が一定ラインを超えていれば、配偶者控除や配偶者特別控除は受けられません。
具体的には、年収1,120万円(合計所得金額が900万円)から徐々に控除額が減額されていき、年収1,195万円(合計所得金額が1,000万円)を超えた場合は、控除の対象外となります。
税金・社会保険料で損しない働き方のポイント
共働きで世帯収入が増えたとしても、収入に対する所得税や社会保険料の割合が高くなれば、働き損になってしまいます。税金・社会保険料の支払いで損をしないためのポイントをチェックしましょう。
子どもは「年収が多い方」の扶養にする
扶養控除を受けるにあたり「子どもを誰の扶養親族にするか」で悩む共働き夫婦は多いはずです。
日本の所得税では超過累進税率が採用されており、収入が多い人ほど所得税が多くなる仕組みです。年収が多い方の扶養親族にした方が、税法上ではメリットが大きいといえるでしょう。
社会保険の扶養も年収が多い方の扶養にするのが基本です。夫婦の収入が大きく変わらない場合は、健康保険の給付が手厚い方に入れる方法もあります。
扶養を抜けるなら170万円以上を目指す
「〇〇円の壁」は、働くほどに手取りが少なくなる一種のボーダーラインです。働き損をしないという点では、扶養の範囲で働くのが得策ですが、長い目で見ると収入アップを目指す方がよいケースもあります。
社会保険に加入すれば、手厚い保険制度が利用できますし、労働時間を増やせば、その分だけスキルや知識も身に付きます。目先の収入を増やすことよりも、キャリアアップできるかどうかも視野に入れましょう。
扶養から外れるのであれば、年収170万円以上を目指して働くのが理想です。年収170万円以上を超えると、社会保険料を支払っても手取り額が増えていきます。
制度をうまく活用して損のない働き方を!
扶養控除や配偶者控除は、扶養する親族や配偶者がいる人に対する所得控除です。世帯収入に占める社会保険料や税金の割合が高いと「働いても働いても手取りが増えない」という状態になってしまいます。控除の仕組みを理解した上で、損のない働き方を模索しましょう。
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