宇宙飛行士は誰もが憧れる職業ですが、具体的な年収や仕事内容はよく分からないという人も多いでしょう。難易度が高い上、常に募集しているわけではないことも特徴です。宇宙飛行士の平均年収や業務内容、宇宙飛行士になる方法を紹介します。
宇宙飛行士の年収
宇宙飛行士は選抜試験の難易度がとても高い割に、年収はそれほど高くありません。ただし、宇宙飛行士ならではの手当が手厚く、福利厚生も充実しています。
JAXAの常勤職員の平均年収は約869万円
日本における宇宙飛行士は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の常勤職員の研究職に該当する職業です。2018年度におけるJAXAの研究職の平均年間給与額は約869万円となっており、宇宙飛行士の平均年収も同等と考えられます。
国税庁が公表している「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、2021年の労働者全体の平均年間給与額は約443万円です。宇宙飛行士の年収は一般の会社員よりは高めですが、意外と低い印象を受ける人も多いでしょう。
なお、JAXAで働く人の給与額は、最終学歴や実務経験年数を考慮して決定されます。JAXAの採用情報ページでは、条件ごとの年収の目安を試算することが可能です。
参考:
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の役職員の報酬・給与等について | JAXA
令和3年分 民間給与実態統計調査 P15 | 国税庁
JAXA | 年収試算
宇宙飛行士は手当が大きい
宇宙飛行士は、本給以外に手当ももらえます。手当の月額の計算式は「本給月額×75%×業務ごとの割合」です。手当が付く主な業務とそれぞれの割合を紹介します。
- スペースシャトルや宇宙ステーションでの業務:100%
- 宇宙飛行士に必要な知識・語学・訓練に関わる業務:50%
- 宇宙飛行士の資格維持に必要な最低限の訓練に関わる業務:20%
宇宙への移動中や宇宙滞在中はさまざまなリスクが存在するため、手当を厚くしていると考えられます。ただし、宇宙飛行士といえども頻繁に宇宙へ行くわけではありません。
福利厚生も充実
「2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項」を見ると、福利厚生として科学技術健康保険組合・労災保険・雇用保険・厚生年金・科学技術企業年金基金・共済会の記載があります。
勤務時間は原則として9:30~17:45です。訓練中やミッション中以外は、テレワーク勤務制度とフレックスタイム制度を利用できます。
休日は完全週休2日制で祝日や年末年始も休めるほか、年次有給休暇・慶弔休暇・ワークライフバランス休暇・産前産後休暇・育児休業・介護休業などの制度もあります。
未就学の子どもがいる場合は、筑波宇宙センターと調布航空宇宙センターにある事業所内保育園に預けることが可能です。
参考:
2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項 P7 | JAXA
働き方・福利厚生 | JAXA 新卒採用サイト
宇宙飛行士はどんな仕事をしている?
宇宙飛行士は、宇宙と地上のそれぞれで重要な任務を行います。宇宙に行く回数は少ないため、地上での仕事が圧倒的に多くなるのが実情です。
宇宙での仕事
現在の宇宙飛行士が宇宙空間で行う主な仕事は、国際宇宙ステーション(ISS)での各種実験や運用業務です。JAXA宇宙飛行士は、ISS最大の実験室である日本実験棟「きぼう」で実験に取り組みます。
物理学・医学・生物学など、ISSで行われる実験のテーマはさまざまです。微小重力や高真空といった、宇宙空間特有の環境を生かした実験が行われます。
ISSやきぼうでの主な運用業務は、施設の修理・保全やシステムの管理です。ロボットアームを用いた作業のほか、宇宙服を着て船外活動も行います。
地上での仕事
JAXAの宇宙飛行士がミッションに参加して宇宙へ行く頻度は、5~10年に1回です。宇宙へ行った際には数カ月~半年程度滞在しますが、それ以外の期間は地上で働くことになります。
宇宙飛行士が地上で行う主な仕事は、宇宙にいる飛行士のサポートやISSで使う実験装置の開発、運用計画の企画・立案です。各飛行士の得意分野で業務に取り組みます。
自身の体験の広報活動も宇宙飛行士の重要な業務です。全国で開催される宇宙関連の講演会・イベントに参加したり、メディア対応を行ったりします。
宇宙でのミッションが近くなると、長期訓練に参加しなければなりません。ケガによりミッションに参加できなくなることを防ぐため、フライトの1年前から危険な活動が禁止されたり、8カ月前からは野球・バスケットボールなどのスポーツも禁止されたりします。
宇宙飛行士になるには
13年ぶりの宇宙飛行士候補者の募集が2021年に開始され、2023年2月には新たに2人の宇宙飛行士候補者が決まりました。このときの募集要項を参考に、宇宙飛行士のなり方を紹介します。
求められる知識や経験を身に付ける
宇宙飛行士はさまざまな国のメンバーと一緒に活動を行うため、コミュニケーション能力が不可欠です。多様性を尊重する意識や自己管理能力も求められます。
未知の領域で柔軟かつ的確な判断・行動を行えることも、宇宙飛行士に必要な資質です。これからは月探索を見越した宇宙飛行士の募集が進むと考えられているため、環境適応能力はより重視されるでしょう。
外部に伝える表現力や発信力も求められます。宇宙飛行士として得た経験を世の中の人々に広く伝え、人類の発展に貢献する責務があるのです。
参考:JAXA宇宙飛行士候補者選抜レポート 2022-2023 | JAXA 宇宙飛行士候補者募集 特設サイト Hello! EXPLORERS PROJECT
選抜試験を受ける
宇宙飛行士になるためには、宇宙飛行士候補者の選抜試験を受けなければなりません。以前は学歴や専門性の条件が設けられていましたが、2021年の募集ではこれらの条件が撤廃され、より多くの人に門戸が開かれています。
最初の書類選抜を通過したら、第0次選抜から第3次選抜まで段階を踏んで試験を受けることになります。第0次選抜は英語試験です。
第1次選抜から第3次選抜までは、医学検査や特性検査を行いながら、プレゼンテーション試験・運用技量試験・面接試験などが実施されます。書類選抜から第3次選抜までの期間は約1年です。
参考:2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項 P4 | JAXA
訓練業務を行う
全ての試験をクリアして宇宙飛行士候補者に選抜されても、すぐに宇宙飛行士になれるわけではありません。さらに約2年間の基礎訓練を受ける必要があります。基礎訓練の主な内容は以下の通りです。
- 宇宙飛行士に必要な科学・技術の知識の習得
- ISS・きぼうのシステムの学習
- 英語・ロシア語の習得
- 航空機操縦訓練
- 無重力体感訓練
- サバイバル訓練
基礎訓練の結果が評価されれば、JAXA宇宙飛行士に認定されます。
参考:2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項 P2 | JAXA
宇宙飛行士以外で宇宙に関われる仕事
2023年に決定した宇宙飛行士候補者は、応募者4,127人の中から選ばれた2人です。宇宙飛行士になるのは簡単ではないため、宇宙が好きなら宇宙飛行士以外で宇宙に関われる仕事も探してみましょう。
JAXAの職員
宇宙飛行士が在籍するJAXAでは、宇宙飛行士以外にもさまざまな職種があり、各職務でキャリア採用という形で経験者を募集しています。
JAXAの職員は約7割が技術系ですが、事務系職員も約2割を占めています。事務系の業務は総務・事業系と資金系に分かれており、文系出身者でも目指すことが可能です。
JAXAで働ければ、自分の得意分野を通して日本の宇宙開発に貢献できます。キャリア採用の応募は随時受け付けているため、気になる募集があれば応募を検討してみましょう。
宇宙開発技術者
かつて宇宙開発事業は国主導で進められていましたが、近年は民間企業も宇宙開発ビジネスに乗り出してきています。
宇宙開発企業が行う事業は企業によりさまざまです。打ち上げロケットや衛星に関連する機器の製造だけでなく、宇宙のデータ分析や宇宙開発に役立つシステムの開発なども行われています。
宇宙開発の分野はITとの関連性も強いため、宇宙開発技術者として生かせるITスキルを習得していれば、転職先の幅も広がるでしょう。
天文台職員
宇宙に関わる仕事がしたいなら、天文台の職員を目指すのもおすすめです。天文台では、主に宇宙や星の観測・研究を行っています。
天文台の仕事は研究職・技術職・事務職に分かれており、転職希望者が目指しやすいのは技術職と事務職です。海外とやりとりする機会も多いため、語学力を求められることもあります。
研究目的の天文台は、公立の施設であることが一般的です。公務員試験に合格し、天文台勤務を希望した人の中から選抜されます。
宇宙飛行士はやりがい重視の仕事
宇宙飛行士は非常に狭き門であるにもかかわらず、年収は意外と低めです。高収入を求めて目指す職業ではなく、やりがい重視の仕事だといえます。宇宙への夢を捨てきれない人は、宇宙飛行士以外で宇宙に関われる仕事を探してみましょう。
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