雇用保険では、再就職した求職者に「再就職手当」を用意しています。再スタートを切るためのお祝い金ともいえる再就職手当に、デメリットはあるのでしょうか。受給の条件や失業保険との比較も含めて、再就職手当のデメリットとメリットを紹介します。
再就職手当はなぜ支給される?
再就職手当は、求職者が再就職したり起業したりした場合に支給されます。では、なぜ仕事に就くともらえるのか知っているでしょうか。再就職手当の目的や、求職中に支給される失業手当との違いを解説します。
参考:再就職手当のご案内|ハローワークインターネットサービス(厚生労働省)
早期の再就職を促すため
再就職手当は雇用保険が設けている「就業促進給付」の1つで、求職者に早めの就職を促すための手当です。
失業認定を受けて条件を満たすと、一定期間にわたり雇用保険から失業手当が支給されます。「失業手当をもらいながらゆっくり次の仕事を探せばよい」と思うかもしれませんが、支給額は離職前の給料よりも少ない金額です。
生活に足りない可能性が高いだけでなく、失業状態が長く続くと、就職への意思やモチベーションの低下にもつながりかねません。そこで期限を設けた再就職手当を用意することで、積極的な求職活動を促しているのです。
失業手当との違い
再就職手当は条件を満たした求職者が再就職した際に、雇用保険から支給される決まりです。「就職祝い金」とも呼ばれています。
一方で失業手当は、求職者が再就職するまでの失業状態において、生活支援を目的として支給される手当です。給付額や所定給付日数は、雇用保険の被保険者だった期間や離職理由・年齢によって異なります。
どちらも雇用保険から支給される点や、働く人を支えるための制度という点では同じです。しかし、失業状態についての受給条件は正反対といえます。もちろん両方を同時にもらうこともできません。
再就職手当にデメリットはある?
再就職手当は、求職者の積極的な仕事探しを促します。では、受給にあたってデメリットはあるのでしょうか。人によってはマイナスに思える可能性がある問題を、3つ見てみましょう。
残り期間の失業手当が打ち切りになる
「再就職手当をもらうと損になる」といわれるのは、所定給付日数の残り期間分の失業手当が打ち切りになるためと考えられるでしょう。
就職しなければ支給されるはずの失業手当が満額もらえないので、損をしたように感じる人もいるかもしれません。しかし、失業手当の給付を所定給付期間いっぱい受けるより、早めに再就職する方が経済的には安定するでしょう。
心身の不調をはじめとした事情や「休職期間中に資格を取りたい」「スキルを身に付けたい」といった目的がある人以外は、早期に仕事を見つけて再就職手当を受け取るデメリットは感じないでしょう。
早めの申請手続きが必要
再就職手当は自動的にもらえるわけではありません。再就職しても申請しなければ受け取れない点は、人によってデメリットに思えるでしょう。
再就職の翌日から原則として1カ月以内という申請期限もあります。再就職先に記入してもらう書類もあるため、早めの準備・申請が必要です。期限のある手続き自体を負担に感じる人にとっては、デメリットになり得ます。
とはいえ、期限を過ぎても2年以内(消滅時効が完成するまで)なら申請は可能です。任意のため、逆に申請しないことによるペナルティもありません。
受給条件を満たさないと受け取れない
再就職手当は、定められた条件をすべて満たさなければ受給できません。1つでも当てはまらなければ支給対象にならないので、あらかじめ確認が必要です。
内容は雇用保険に関する条件から再就職先について、再就職のタイミングやルートなど、多岐にわたります。
厚生労働省やハローワークのウェブサイトで受給条件を確認するだけでも大変です。その上で自分が当てはまるか1つずつチェックするのも、面倒に感じられる人にとってはデメリットかもしれません。
しかし受給条件を満たしていれば、少なくない金額を受け取れます。金銭面でのメリットは大きいので、確認だけでもしておきましょう。
再就職手当をもらうために満たすべき条件
再就職手当を受け取るためには、数多く設けられた条件をすべてクリアする必要があります。ただ、公式情報で1つ1つ確認していくのは、時間がかかるでしょう。条件を簡単に知りたい人に向け、受給条件を3ジャンルに分けて紹介します。
雇用保険の受給資格
再就職手当の受給条件としてまず挙げられるのが、雇用保険に関するものです。前職で雇用保険の被保険者だったことが大前提になります。
加入していても以下の条件すべてに該当していなければ、支給の対象になりません。自分が該当しているかチェックしておきましょう。
- ハローワークで求職の申し込みをした上で失業状態(本人に就職する意思や能力があり、ハローワークのサポートがあっても職が得られていない)にある
- 離職日から数えて過去2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算12カ月以上あった(倒産・解雇などで離職した特定受給資格者や特定理由離職者は、離職日から数えて過去1年間に通算6カ月以上あれば対象)
加入期間が分からないときは、ハローワークに出向いて問い合わせるのが確実です。
参考:ハローワークインターネットサービス よくあるご質問(雇用保険について)
再就職のタイミングに関する条件
失業手当の受給手続きから7日間は、「待期期間」とされています。この間に再就職した場合、再就職手当は申請できません。離職から手続きまでの間(失業認定を受けていない日)は、待期期間から除外されます。
また失業手当の受給資格を得る前に再就職した、すぐに起業した(開業届を出した)、離職時に次の就職先が決まっていたという人も対象外です。このように、再就職が早すぎると支給の対象になりません。
逆に求職活動が長引き、再就職のタイミングで失業手当の支給残日数が1/3を切っている場合も支給の対象外です。例えば、所定給付日数が120日の場合、待期期間満了から80日以内の再就職が条件になります。
ただし失業手当の支給残日数が1/3を切っていても、例外的に対象となるケースもあります。ハローワークに問い合わせてみましょう。
対象になる再就職ルートは時期によって変わる
自己都合による退職の場合、待期期間が満了した後1カ月間は、ハローワークまたは職業紹介事業者を経由しなければ、再就職手当の支給対象となりません。ほかのルートでは再就職手当の対象にならないことに注意しましょう。
ただし2カ月目からは、知人の紹介や転職サイト・SNSなどハローワーク・職業紹介事業者以外のルートで再就職した場合も対象になります。
一方、倒産や解雇による失業なら、ルートの制限はありません。7日間の待期期間を満了すれば、ハローワークや職業紹介事業者を介さなくても再就職手当の対象になります。
再就職先や再就職後の条件に関する条件
再就職手当には、新しい職場についての制限も設けられています。場合によっては再就職手当の対象外になるので注意しましょう。1つは再就職先と前職の間に関係がないという条件です。
退職した事業所はもちろん、グループ会社や子会社など資本や人事・取引上密接な関係がある事業所への再就職だと、再就職手当の支給対象になりません。再就職というより、配置転換や異動に近いと見なされるためです。
また、再就職先で1年以上の勤務が確定していない場合も、支給対象にならないことに注意しましょう。正社員はもちろん、パート・アルバイトでも、ほかの条件を満たした上で1年以上確実に勤務できると決まっている契約なら、対象となります。
再就職後に早期離職をするデメリット
再就職手当を受け取る条件を満たしていても、再就職先を早期離職した場合は別です。申請済みでも無効になってしまいます。次の転職を考えるときにも影響があるので、再就職手当に関する早期離職のデメリットを知っておきましょう。
支給決定の前に辞めると対象外に
支給額が多くなるからと、よく吟味しないまま再就職を決めるのはおすすめできません。再就職しても、仕事内容や社風が合わないと早期離職につながる恐れがあります。
また、再就職手当は支給が決定する前に離職した場合、支給されません。「支給決定日時点で再就職先に在職していること」という受給条件があるためです。すぐに離職することのないよう、求職活動は慎重かつ丁寧に進めましょう。
ただ、すぐ離職して再就職手当が受け取れない場合、失業手当の残り期間分が支給されるケースもあります。万が一再就職手当の支給が決まる前に離職する事態になった場合は、ハローワークに問い合わせてみましょう。
3年以内だと再就職手当を再び受け取れない
過去3年以内に再就職手当や常用職業支援手当を受給していないことも、支給条件の1つです。
再就職手当を受け取って就職した職場も3年以内で辞めた場合、また別の会社に再就職したとしても、支給対象になりません。度重なる転職・再就職は「安定した就職を促す」という目的から外れるためです。
求職活動は、できるだけ長く勤めることを念頭に置いて進めるのが賢明です。待期期間満了から1カ月経過すれば、ハローワークを経由した再就職でなくても支給対象になります。
再就職手当の給付を受けるには?
再就職手当をもらうまでには、さまざまな申請書類とある程度の時間が必要です。再就職先に記入してもらう事項もあるので、早めの準備・申請を心がけましょう。
再就職手当の支給申請方法
再就職手当を受け取るには、受給条件をすべて満たしていることが大前提です。1つでも満たしていない条件があると、申請そのものができません。しっかり確認しておきましょう。
再就職日の前日までにハローワークに行き、再就職することを届け出ます。以下の書類を準備しておきましょう。
- 採用証明書(再就職先に必要事項を記入してもらう)
- 雇用保険受給資格者証
- 失業認定申告書
手続きをすると、引き換えに再就職手当支給申請書が渡されます。再就職先が前職と関係がないことの証明と併せて、こちらも再就職先の記入が必要です。書類がそろったら雇用保険受給資格者証と併せて、ハローワークに提出します(郵送でも可)。
申請期限は、原則として再就職した日の翌日から1カ月以内です。
支給決定から受け取りまで
再就職手当の支給が決定して受け取るまでには、ある程度の時間がかかります。ハローワークで本人確認書類を提示して問い合わせれば、審査状況を確認できます。ただし個人情報保護のため、電話での問い合わせはできません。
申請が通れば再就職手当支給決定通知書が届いた後、指定の口座に振り込まれます。
支給決定前に再就職先を離職した場合は、対象外になることに注意しましょう。また、支給が決定した場合でも、不正受給防止のためにハローワークが再就職先に在籍確認を入れるケースがあります。
とはいて、再就職手当を受給した後にすぐ離職することになったとしても、返還義務やペナルティはありません。
参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~|厚生労働省
失業手当より再就職手当を狙いたい理由
再就職手当を狙って早めに仕事を見つけると、失業手当を満額もらえなくなる点をデメリットに感じる人は多いでしょう。しかし、再就職手当を狙った求職活動には、単純に手当金の額だけでは測れないメリットがあります。
求職活動を長引かせて失業手当を受け取り続けるより、再就職手当の受給を目指したい理由を見ていきましょう。
失業手当の金額は働いているときより少ない
失業手当の金額(基本手当日額)は、離職前の給料の50~80%(60~64歳については45~80%)にとどまります。
さらに支給額を算出する際に賞与は考慮されないので、離職前よりも1カ月あたりの収入が減ることは確実です。退職金をもらえたとしても、生活水準への影響は避けられません。
前職より著しく給与水準の低い仕事に就かない限り、再就職して働きに応じた給与を得た方が、失業手当を受け続けるよりも手に入る金額は多くなります。その上で再就職手当を受給すれば、生活に余裕ができるでしょう。
再就職手当を受け取る条件は、一定期間のうちに新しい職に就くことです。手当の受給を目指して早めに仕事を見つける努力をすることは、早期の経済的な安定につながります。
参考:雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ|厚生労働省
求職活動へのモチベーションが上がる
次の仕事が見つかっていない状態で退職すると、精神的に大きな負担がかかります。マイナス思考になってしまい、積極的な行動を取るためのモチベーションが足りなくなる人もいるでしょう。
なかなか採用に至らなかったり希望の求人に出会えなかったりすると、徐々にやる気を失って求職活動が長引く事態になりかねません。
再就職手当は、求職者の積極的な活動を目的に設けられたものです。新しい仕事を見つけることで金銭的なインセンティブを得られれば、モチベーションを維持できます。
また、再就職手当を狙うと決めたら、失業手当の支給期間の2/3までと短い期間での求職活動が必要です。期限を切ることでダラダラと行動するのを防げるため、効率的な仕事探しも期待できます。
再就職手当の計算方法
再就職手当が実際にどのくらいもらえるのかは気になるところです。支給される金額の算出には、いくつかの条件があります。例を挙げて算出してみましょう。
失業手当の支給残日数によって異なる
再就職手当の金額を算出する基準となるのが、失業手当の支給残日数です。次のように、早く就職すれば多くの額を受け取れるようになっています。
- 失業認定(受給手続き)後の基本手当支給残日数が2/3以上:残日数分の基本手当(失業手当)×70%
- 失業認定(受給手続き)後の基本手当支給残日数が1/3以上2/3未満:残日数分の基本手当(失業手当)×60%
もう1つの基準となるのが、「基本手当日額」です。基本手当日額とは離職した日の直前6カ月間に、毎月決まって支払われた賃金(賞与を除く)の合計を180で割り、既定の掛け率(50~80%)を掛けて算出したものです。
掛け率は賃金の低い人ほど高くなり、年齢区分ごとに上限も設けられています。
参考:再就職手当のご案内|ハローワークインターネットサービス(厚生労働省)
給付率の違いで受給額はどのくらい変わる?
実際に再就職手当の金額を計算してみましょう。ここでは所定給付日数90日・基本手当日額上限(6,835円)として、残日数35日(支給率60%)と55日(支給率70%)の場合の受給額を比較します。
- 残日数35日(支給率60%)の場合:6,835円×35日×60%=14万3,535円
- 残日数55日(支給率70%)の場合:6,835円×55日×70%=26万3,148円
- 差額:26万3,148円-14万3,535円=11万9,613円
支給残日数が20日違うだけで、支給額に約12万円の差が出ました。やはり早めの再就職を目指すのがおすすめといえるでしょう。
再就職を成功させるポイント
求職活動中は、再就職できるか・生活は大丈夫かなど、心配事が増えるものです。しかし、早く安心したいからと、職探しを急ぎすぎると後悔を招きかねません。再就職を成功させるために、押さえておきたいポイントを紹介します。
焦りすぎず自分に合う仕事を見極める
急いで再就職しても、すぐに離職することになると多くのデメリットが生じます。例えば再就職手当は、支給決定時に再就職先に在職していないと支給されません。支給が認められても、受け取れない結果になってしまいます。
再就職手当以外の面でも、次のようなデメリットがあることを覚えておきましょう。
- 履歴書に複数回の転職歴が残る
- 求職活動をしても「すぐ辞めるのではないか」というマイナスイメージを持たれる
- スキルを身に付けられない
制度をしっかり活用するためにも今後のキャリアを形成していくためにも、自分のスキルや得意不得意・好みを考慮して慎重に仕事を探しましょう。
自己分析や優先する条件の洗い出しは丁寧に
自分に合った仕事を見つけるには、まず自分自身を知ることが大切です。自分の強みや弱みを分析するとともに、給与やワークライフバランス・やりがいなど、仕事において何を優先するのか把握しておきましょう。
現時点でできることやチャレンジしたいこと、使命や目標としていることに向き合い、1つずつ考えを書き出すと整理しやすくなります。
自分がどのようなな仕事をしたいのか、何を重視するのかが明確になれば、定着しやすい仕事を選びやすくなるでしょう。
求人サイトをフル活用する
待期期間後1カ月以内に再就職して手当も受け取りたいといった希望が特になければ、仕事探しには求人サイトを活用するのがおすすめです。
1カ月が経過すれば、求人サイト経由の転職でも再就職手当の対象になります。利用するデメリットはほとんどありません。
ハローワークでも再就職先は探せますが、情報量はやはり求人サイトに軍配が上がります。自分のペースで求職活動ができるのもメリットです。ハローワークだとなかなか自分に合う仕事が見つからない人は、求人サイトをチェックしてみましょう。
豊富な求人数を誇る求人サイト・スタンバイなら、職種も求人数も豊富で効率的な仕事探しに役立ちます。「未経験OK」のようなこだわり条件からも細かく絞り込める上、利用料金はかかりません。
デメリットは気にせず再就職手当の活用を
再就職手当を申請・受給すると、失業手当が満額もらえないというデメリットは確かにあります。しかしそれ以上に、再就職で得られる金銭的・精神的な安定や安心感は大きいでしょう。
早期に再就職すれば、受け取れる再就職手当の金額も多くなります。デメリットは気にせず、ハローワークだけでなく求人サイトも活用して、早めの再就職を目指しましょう。