裁判所事務官の年収は?初任給や年齢別の給与・収入の上げ方を解説

裁判所事務官とは、裁判所内のさまざまな手続きや事務処理を担っている職種です。裁判所事務官を目指す人にとって、年収も気になるポイントの1つでしょう。裁判所事務官の年収や給与の仕組み、収入を上げるためのキャリアパスなどについて解説します。

裁判所事務官の年収はいくら?

裁判所

(出典) pixta.jp

国家公務員特別職となる裁判所事務官の年収は、国家公務員の給与を定める俸給表の「行政職俸給表(一)」を基に決められます。人事院のデータから、裁判所事務官の平均年収を見ていきましょう。

裁判所事務官の平均年収は約664万円

人事院が毎年発表している「国家公務員給与等実態調査報告書」によると、裁判所事務官が該当する行政職俸給表(一)の2022年の平均月収は40万5,049円、平均年収は628万4,916円※でした。

行政職俸給表(一)に該当するのは、行政職における一般職員となるため、必ずしも裁判所事務官だけを指すものではありません。また、総合職と一般職の違いや、職務の等級によって個人差も生じます。

とはいえ、2021年に国税庁が発表した民間の平均給与443万円と比べると、平均して収入の水準は高いといえるでしょう。

※行政職俸給表(一)の平均給与月額×12カ月+賞与(俸給額×4.4カ月分)で計算

参考:
令和4年国家公務員給与等実態調査報告書|I 調査結果の概要|職員数、平均年齢、平均経験年数及び平均給与月額
令和3年分 民間給与実態統計調査|国税庁

裁判所事務官の初任給

裁判所事務官は、一般職・総合職・最終学歴に応じて4つの区分に分かれています。それぞれの区分の初任給をまとめてみましょう。

【初任給(東京都特別区内に勤務の場合)】

  • 総合職試験(院卒者区分):25万5,600円(行政職俸給表(一)2級11号俸)
  • 総合職試験(大卒程度区分):22万4,040円(行政職俸給表(一)2級1号俸)
  • 一般職試験(大卒程度区分):21万8,640円(行政職俸給表(一)1級25号俸)
  • 一般職試験(高卒者区分):18万720円(行政職俸給表(一)1級5号俸)

同じ行政職俸給表(一)でも、最終学歴や職の違いによってスタート時の職務の号俸や級が異なり、初任給の額にも反映されていることが分かります。

参考:裁判所で活躍するProfessional | 裁判所

裁判所事務官の年齢別の給与月額

裁判所事務官が該当する行政職俸給表(一)の年齢別の平均給与月額を見てみましょう。

  • 20歳未満:16万5,231円
  • 20歳以上 24歳未満:20万3,892円
  • 24歳以上 28歳未満:24万5,928円
  • 28歳以上 32歳未満:28万9,917円
  • 32歳以上 36歳未満:33万6,253円
  • 36歳以上 40歳未満:38万4,631円
  • 40歳以上 44歳未満:42万2,268円
  • 44歳以上 48歳未満:45万2,621円
  • 48歳以上 52歳未満:47万8,441円
  • 52歳以上 56歳未満:49万8,669円
  • 56歳以上 60歳未満:50万5,889円

国家公務員の俸給は、年功序列で毎年上がっていく仕組みなので、年齢が上がるにつれて平均給与月額も増えていきます。

参考:令和4年国家公務員給与等実態調査報告書|〔参考1〕行政職俸給表(一)の年齢階層別、給与決定上の学歴別人員及び平均給与月額|

裁判所事務官の給与はどう決まる?

給料と封筒

(出典) pixta.jp

裁判所事務官を含む国家公務員の給与は、民間企業の基本給に当たる「俸給」に諸手当が加算されて決まります。それぞれの内容について詳しく説明していきます。

一般企業の基本給に当たる俸給

裁判所事務官の給与を決める俸給とは一般企業の基本給に当たるもので、職務の内容などによって、11種17表に分類されます。俸給は、勤務年数を序列化した「号俸」と、役職などを表す「級」を組み合わせて決まります。

号俸は、勤務年数や年齢などに応じて上がっていく仕組みです。また、上位の職務に昇進すると、その職務に該当する級へと昇格します。行政職俸給表(一)の場合、級は1~10、号俸は1~125となり、級の数は役職の数に準じています。

各種手当

裁判所事務官の毎月の月給には、俸給に加えて個人別に該当する手当が支給されます。国家公務員の主な手当の種類をまとめてみましょう。

【生活補助給的手当】

  • 扶養手当
  • 住居手当
  • 通勤手当
  • 単身赴任手当

【地域給的手当】

  • 地域手当
  • 広域異動手当
  • 寒冷地手当
    など

【時間外勤務等の手当】

  • 超過勤務手当
  • 夜勤手当
    など

【賞与等に相当する手当】

  • 期末手当
  • 勤勉手当

他にも、職務の内容に基づく「管理職員特別勤務手当」や、「高所作業手当」のように特殊な勤務に対して支払われるものも含め、多種多様な手当があります。

参考:国家公務員の諸手当の概要

裁判所事務官の業務内容

法律事務

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裁判所事務官の仕事は総合職と一般職で異なります。さらに、「裁判部門」と「司法行政部門」の2つの部署に分かれており、配属された部署によって裁判所事務官の業務内容も変わります。

裁判部に所属する裁判所事務官の仕事は、裁判に関する事務手続きなどです。事務局で働く裁判所事務官は主に裁判所の運営に携わります。それぞれの業務内容について、具体的に見ていきましょう。

裁判手続きなどの事務

裁判部に配属された裁判所事務官の役割は、主に裁判所書記官の補佐です。裁判部は、民事部・刑事部・家事部・少年部に分かれており、それぞれの部署が担当する裁判手続きなどの事務作業を任されます。

裁判所事務官は、弁護士や法律事務所職員などが持ってくる訴状の受け取りや、内容のチェックなどを担当します。裁判所への出頭要請の書類送付や、出頭の確認も裁判所事務官の仕事です。

裁判記録の整理や資料集めなど、地味な仕事ながら、裁判所書記官をサポートする重要な業務を担っています。

裁判員制度のサポート業務

一般市民が裁判員となる、「裁判員制度」をサポートするのも、裁判所事務官です。

裁判所事務官が裁判員を選任することはありませんが、選任手続きが始まるまでの進捗管理や候補者名簿の作成、候補者となった人からの郵送や電話による問い合わせ対応などを担当します。

裁判員に選ばれた人へのオリエンテーションなども、裁判所事務官の役割です。直接一般の人々と接するため、裁判所の代表という意識を持って取り組むことが求められる仕事です。

裁判所の運営業務

裁判所の運営業務は、事務局に配属された裁判所事務官の仕事です。一般企業と同様に、総務課・人事課・会計課などに分かれており、部署ごとに担当する業務が決まっています。

総務課の主な仕事は、備品の管理・調達や、職員の勤怠管理・健康診断の手配などです。一般企業の総務部や庶務部の仕事のほか、広報部などの役割も担っています。

人事課が担当するのは、人事異動・年末調整など、人事関連の仕事です。裁判所ごとに配置されているので、裁判所の規模や職員の数によって業務量が変わります。新卒採用に関する業務も、事務局で働く裁判所事務官の担当です。

会計課の裁判所事務官は、経費を管理するのが仕事です。給与支払いや経費精算などの一般的な会計業務のほか、保釈金の管理といった裁判所らしい仕事も含まれます。

裁判所事務官が年収を上げるには

法律の勉強をする

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裁判所事務官がさらに年収を上げるには、国家公務員としてキャリアアップしたり、裁判所での経験を生かして司法に関連する資格を取得したりなどの方法があります。詳しく解説していきます。

裁判所書記官にキャリアアップする

裁判所書記官になるには、裁判所事務官として一定期間勤務した後、裁判所職員総合研修所入所試験に合格し、さらに1~2年の研修を受けることが必要です。裁判所書記官になると、裁判への立ち会いや執行文の付与などの業務を担います。

裁判所書記官が立ち会わなければ法廷を開けないため、裁判所にとって欠かせない存在です。裁判所書記官になった後も、主任書記官・次席書記官・首席書記官などへのキャリアパスが開けています。

司法書士として開業する

裁判所事務官として10年以上実績を積むと、司法書士として登録できます。通常、司法書士の資格を取得するには、司法書士試験に合格しなければなりません。

しかし、裁判所事務官の場合、司法書士の試験が免除されるという公務員の優遇措置を受けられます。司法書士として登録した後は、法律事務所で働いたり、独立して開業したりなどの道があります。

司法書士として独立するには、司法書士会へ登録して開業届を出すだけなので、大きな初期費用もかかりません。司法書士として独立した人の中には、年収1,000万円以上稼いでいる人もいます。

裁判所事務官になるには

試験の様子

(出典) pixta.jp

裁判所事務官になるには、国家公務員試験を受けて合格しなければなりません。受験方法や試験内容などについて詳しく説明します。

試験の区分と受験資格

裁判所事務官の採用試験は、4つの区分に分かれています。各区分の内容と受験資格は以下のとおりです。

  • 総合職試験(院卒者区分):30歳未満で、大学院修了および修了見込み
  • 総合職試験(大卒程度区分):21歳以上30歳未満または21歳未満で、大学卒業および卒業見込み
  • 一般職試験(大卒程度区分):21歳以上30歳未満または21歳未満で、大学卒業および卒業見込み。または短大卒業および卒業見込み
  • 一般職試験(高卒者区分):高卒見込みおよび卒業後2年以内。または中学卒業後2年以上5年未満

試験科目

試験は、どの区分でも基本的に筆記試験と面接で実施されます。総合職は3次試験まで、一般職は2次試験までです。

【総合職(院卒者区分・大卒程度区分)】

  • 1次試験:基礎能力試験(多肢選択式)・専門試験(多肢選択式)
  • 2次試験:専門試験(憲法:記述式)・論文試験(小論文)・政策論文試験(記述式)・専門試験(民法・刑法・訴訟法:記述式)※訴訟法は院卒者区分のみ・人物試験(個別面接)
  • 3次試験:人物試験(集団討論および個別面接)

【一般職(大卒程度区分)】

  • 1次試験:基礎能力試験(多肢選択式)・専門試験(多肢選択式)
  • 2次試験:論文試験(小論文)・専門試験(憲法:記述式)・人物試験(人柄・資質・能力などについての個別面接)

【一般職(高卒者区分)】

  • 1次試験:基礎能力試験(多肢選択式)・作文試験(記述式)
  • 2次試験:人物試験(人柄・資質・能力などについての個別面接)

合格倍率

国家公務員試験は、資格試験とは違ってあらかじめ採用者数の目安が決まっています。合格者は成績上位者から決まっていくため、合格率ではなく「合格倍率」になります。2022年度に実施された試験の合格倍率を見てみましょう。

  • 総合職試験(院卒者区分):1次試験有効受験者数76人・最終合格者7人・倍率10.9倍
  • 総合職試験(大卒程度区分):1次試験有効受験者数344人・最終合格者9人・倍率38.2倍
  • 一般職試験(大卒程度区分):1次試験有効受験者数8,773人・最終合格者1,588人・倍率5.5倍
  • 一般職試験(高卒者区分):1次試験有効受験者数3,501人・最終合格者184人・倍率19.0倍

総合職試験(大卒程度区分)を筆頭に、どの区分でも倍率は高く、合格の難易度は高いといえるでしょう。

参考:
令和4年度実施結果 総合職試験(裁判所事務官、院卒者区分)
令和4年度実施結果 総合職試験(裁判所事務官、大卒程度区分)
令和4年度実施結果 一般職試験(裁判所事務官、大卒程度区分)
令和4年度実施結果 一般職試験(裁判所事務官、高卒者区分)

裁判所事務官の年収は国家公務員と同水準

裁判所の看板

(出典) pixta.jp

裁判所事務官は国家公務員特別職なので、国家公務員の行政職俸給表(一)に当たる給与が支給されます。民間企業の平均に比べると高水準ですが、業務内容も裁判に関わる重要な役割を果たすものです。

裁判所事務官になるには国家公務員試験に合格することが必要ですが、合格の倍率は高く、狭き門といえるでしょう。しかし、安定した収入や福利厚生とキャリアアップしやすい環境が整っているため、魅力のある職種です。

社会人からの挑戦も可能なので、裁判所事務官への道を検討してみる価値はあるでしょう。裁判所内のその他の職種や法律事務所などへの転職を考えている人は、求人サイトのスタンバイをチェックしてみてください。

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