銀行員への転職は、経験者優遇の狭き門のように思われがちですが、未経験者にもチャンスはあります。しかし、転職成功率を高めるには業界への理解を深めるなどの事前準備が必要です。銀行員に求められる知識やスキルに加え、具体的な対策を解説します。
この記事のポイント
- 銀行業界の採用状況
- 銀行員の中途採用は経験者が中心となるものの、地方銀行や信用金庫、ネット銀行は未経験者を受け入れる傾向にあります。
- 銀行員の業務内容
- 銀行の三大業務は、お金を預かり管理する「預金業務」、企業や個人に資金を貸し出す「融資業務」、顧客の依頼に基づきお金を受け渡しする「為替業務」です。
- 銀行員求められるスキル
- 経理や財務に関する知識、コミュニケーション能力、対応力は、未経験者からの転職に有利となります。
銀行員は未経験でも転職できる?
銀行員に転職するには、金融業界での勤務経験が必要というイメージがあるかもしれません。しかし、未経験者であっても条件がそろえば転職は可能です。まずは、銀行業界の採用状況と、未経験者でも転職できる理由を見ていきましょう。
未経験者の転職は難しいが可能
銀行員の一般職採用は新卒が中心となるため、中途採用の募集は多くが経験者です。そのため未経験者の転職は比較的難易度が高く、メガバンクや都市銀行となるとさらにそのハードルが高くなる傾向があります。
しかし、地方銀行やネット銀行は未経験者を受け入れているケースもあるため、転職できる可能性がまったくないというわけではありません。
銀行によっては、異業種の知識や経験を積極的に取り入れようとする動きもあります。例えば、法人営業経験やマネジメント経験、財務・経理経験です。
銀行はさまざまな業界の人と接する機会が多いため、金融に関わっていないとしても過去の経歴が役に立つこともあります。未経験であっても、銀行が求めるスキルや経験を理解し、適切な準備を行うことで転職の可能性を広げられます。
20代はポテンシャル採用の可能性がある
銀行は経験者を求める傾向にありますが、20代はポテンシャル採用により転職の可能性が高まります。ポテンシャル採用は、スキルや経験よりも応募者本人の人柄や潜在能力を重視した採用手法で、主に第二新卒をターゲットとしています。
20代をポテンシャル採用するメリットは、吸収力の高さと柔軟性から育成しやすいことです。銀行員としてのスキルはないとしても、これから成長していくであろう可能性は20代だからこその魅力といえるでしょう。
銀行では、営業や顧客対応など、コミュニケーション能力が求められる傾向にあります。ポテンシャル採用を狙って転職を目指すのであれば、これらを磨き、積極的にアピールすることをおすすめします。
未経験者を中途採用する理由とは
銀行が未経験者の中途採用を行う主な理由は、以下の3つです。
- 少子高齢化による人手不足
- 転職が一般化したことによる人員不足
- 他業界の経験を活かせる業務が多い
少子高齢化による人手不足は、金融業界にも大きな影響を与えています。金融業界は、リーマンショック以降統廃合や人員圧縮などが行われ、大きく変化しました。
若手人口が減る中進む金融業界の変化により、応募者数そのものも減っています。他業種などへの転職による離職率も増え、業界全体で人手不足が問題となっています。
銀行が未経験者を採用するのは、単に人手が足りないからという理由だけではありません。銀行はさまざまな人が訪れることから、金融業界以外での経験が活かせます。
中でも、法人営業などの営業経験は喜ばれる傾向にあるため、金融とは無縁のキャリアであっても採用の可能性を広げられるでしょう。
銀行員の主な業務
銀行員の業務は銀行により変化しますが、どの銀行にも共通するのが「預金業務」「融資業務」「為替業務」の銀行三大業務です。
これらは銀行員の基本業務となるため、大まかな内容を確認しておきましょう。ここでは、銀行三大業務の内容を解説します。
預金業務
預金業務は、個人や法人からお金を預かり、管理する業務です。普通預金や当座預金、貯蓄預金、定期預金など、さまざまな預金種目を扱います。預金業務は、窓口での対応を行うテラー業務と、預金の処理や管理を行う後方事務に分かれます。
テラー業務の主な内容は、顧客の入出金や口座開設の手続き、預金商品の案内などです。銀行の顔ともなることから、金融の知識や商品の知識に加え、礼儀正しさなどの接客スキルも求められます。
後方事務の主な内容は、テラーが受け付けた伝票の処理や、預金残高の管理などです。電話対応以外の接客はありませんが、正確で迅速な伝票処理が求められます。
融資業務
融資業務は、企業や個人に資金を貸し出す業務です。融資と聞くと法人の運転資金や開業資金をイメージしますが、個人の住宅ローンやマイカーローン、カードローンなども融資業務に該当します。
融資業務では、資金を要する顧客から用途や金額などをヒアリングし、それらの情報を基に審査資料や稟議書を作成します。また、顧客の事業計画や財務状況を分析し、適切な融資プランを提案するのも融資業務の1つです。
融資後のフォローアップに加え、融資先が返済困難になった場合には債権回収を行うこともあります。預金業務と同じく商品知識や接客スキルを求められますが、それ以上に財務・経理の知識と財務分析力、法律に関する知識が必要です。
為替業務
為替業務は、顧客の依頼に基づきお金の受け渡しをする業務です。為替業務には国内の資金移動を行う内国為替と、海外との資金移動を行う外国為替があり、内国為替は日本円のみ、外国為替は日本円と外貨を取り扱います。
内国為替では公共料金や給料の口座振替、振り込みによる送金などを行います。銀行口座間で資金を移動させるため、現金でのやりとりはありません。
外国為替では、海外への送金、輸出入の決済などを行います。内国為替と同じく現金の移動はありませんが、外国為替は送金小切手や為替手形で決済を行う点が大きな違いです。このほか、外貨両替や外貨預金、インパクトローンも為替業務に含まれます。
銀行員に転職するために必要なスキル
銀行員に求められる主なスキルは、以下の3つです。
- 経理や財務に関する知識
- コミュニケーション能力
- 対応力
経理や財務に関する知識は、主に融資業務で求められます。公認会計士とまではいかなくても、日商簿記2級程度の知識があるとよいでしょう。保険商品や投資信託なども取り扱っているため、資産形成や保険などに関する知識があればアピールポイントとなります。
また、銀行員はさまざまな顧客と接することから、コミュニケーション能力も求められます。ヒアリング力や提案力があると、高く評価されやすくなるでしょう。
銀行では、金融に関する規制の変更などによって商品の販売方法や、ルールなども変化します。業務自体に大きな変化があっても、冷静かつ柔軟に対処する力が必要です。
銀行員に転職するときに有利な資格
未経験から銀行員への転職を目指すのであれば、関連する資格の取得をおすすめします。金融に関する資格はさまざまありますが、積極的に取得したいのがファイナンシャルプランナー・簿記検定・銀行業務検定・外務員資格の4つです。
ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー(FP)は、個人の資産設計やライフプランニングをサポートする国家資格です。資格を得るには、一般社団法人金融財政事情研究会とNPO法人日本FP協会が実施する「ファイナンシャル・プランニング技能検定」に合格する必要があります。
試験には1級・2級・3級があり、それぞれ学科試験と実技試験の両方を受験します。2級は3級の合格、2年以上の実務経験が必要となるため、まずは3級の取得を目指しましょう。
3級の試験内容は、学科試験が金融資産運用・相続・事業承継などの6科目、資産設計提案業務の実技試験です。試験時間は学科試験が90分、実技試験は60分となります。日本FP協会が実施した2024年4月〜9月の合格率は、学科試験が86.2%、実技試験が85.8%です。
出典:ファイナンシャル・プランニング技能検定|一般社団法人金融財政事情研究会
出典:FP技能士の取得者数及び試験結果データ|日本FP協会
簿記検定
簿記検定は、会計処理能力を証明する資格です。簿記の知識があると財務諸表の分析や、経営状況を把握がしやすくなるため、融資業務を目指す人は積極的に取得しましょう。
簿記検定は「日商簿記」「全商簿記」「全経簿記」の3つに分けられます。これらの違いは試験内容に加え、受験対象者にあります。
日商簿記は大学生・社会人、全経簿記は専門学校生、全商簿記は高校生を主な対象者としています。転職で有利になるのは日商簿記です。全経簿記や全商簿記も簿記の基礎知識があることを証明できますが、実践力という点では日商簿記に及びません。
日商簿記は2級より工業簿記が加わります。工業簿記は原価を軸とした会計処理のため、損益中心の商業簿記とは異なる部分が多々あります。
簿記初心者は商業簿記のみの3級を取得し、その後に2級の取得を目指しましょう。商業簿記の知識がある人は、工業簿記を勉強した上で2級の試験に挑みましょう。2024年11月開催の統一試験の合格率は、3級が29.5%、2級が28.8%です。
出典:簿記|商工会議所の検定試験
出典:簿記 受験者データ|商工会議所の検定試験
銀行業務検定
銀行業務検定は、銀行業務に関する知識や技能を測るための検定試験です。銀行・保険・証券などの行職員を対象としていますが、金融業界以外で働く人も受験できます。
銀行業務検定は法務・財務・税務・外国為替・金融経済・証券・信託実務など、23系統36種目あり、種目によって2級〜4級の等級が設けられています。
出題形式は試験ごとに変わり、マークシート式・記述式・選択式のいずれか、もしくは記述式・選択式の両方です。
2024年10月開催の検定合格率を一部紹介します。法務は3級が32.6%、2級が21.3%、財務の2級が31.9%、税務の3級が45.3%です。金融業界で働く人を対象としていることから、種目や等級によっては十分な学習時間が必要となるでしょう。
出典:銀行業務検定協会
出典:事務局報|銀行業務検定協会
外務員資格
外務員資格は、有価証券の販売や勧誘を行うために必要な資格です。一種外務員と二種外務員があり、どちらの資格を取得するかで携われる業務の範囲が変わります。
一種外務員は、公社債・投資信託の取引、株式の現物など外務員職務の全てが行えます。一方の二種外務員は株式・国債・公社債・投資信託などの現物のみとなり、信用取引などリスクの高い取引は行えません。
受験資格は設けられていないため、誰でも受験できます。また、一種外務員試験を受けるには二種外務員資格の取得が必要という条件もないため、好きなものを自由に受験できます。2023年度の合格率は、一種外務員試験が71.3%、二種外務員試験が65.6%です。
未経験で銀行員に転職するための対策とは
未経験から銀行員への転職を成功させるには、事前の準備と対策が不可欠です。ここでは、具体的な対策として「未経験者の募集している銀行を探すこと」「これまでのスキルや実績をアピールすること」の2つを解説します。
未経験者を募集している銀行を探す
メガバンクや都市銀行の中途採用は経験者が中心となるため、未経験者の採用はそこまで期待できません。一方、地方銀行や信用金庫は未経験者を歓迎する傾向にあることから、メガバンクや都市銀行よりも採用の可能性が高くなります。
地方銀行や信用金庫が未経験者を歓迎する理由は、新しい考え方や視点を取り入れ、より多くの顧客ニーズへ対応するためです。
地方銀行や信用金庫は、メガバンクや都市銀行よりも地域経済の活性化や顧客との信頼関係を大切にしています。そのため、周辺地域に詳しい地域住民であれば、より期待してもらえるでしょう。
未経験から銀行員を目指す場合は、いきなり大手の銀行を狙うのではなく、未経験者が働きやすい環境を整える地方銀行や信用金庫を狙いましょう。
これまでのスキルや実績をアピールする
転職では、前職で培った知識とスキルのアピールが大切です。銀行業務に関係ないだろうと諦めず、自信を持って積極的に伝えていきましょう。
銀行で歓迎される知識やスキルは、営業経験やITスキル、語学力などです。営業経験は顧客とのコミュニケーションや、商品の提案に活かせます。
近年は金融DXやフィンテックの急成長により、プログラミングやAI、IoTなどのITスキルも求められるようになりました。ITスキルを持っている人は、銀行のシステム開発やリスク管理に活かせるでしょう。
少子高齢化や低金利政策などを受け、海外拠点を広げている銀行も増えています。英語や中国語といった語学力は、海外取引が多い銀行で重宝されるでしょう。
未経験で銀行に転職する際の志望動機と例文
未経験者が銀行へ転職する際の志望動機で大切になるのは、次の3つです。
- 今いる業界を離れ、銀行を選んだ理由
- 応募先の銀行を選んだ理由
- 自分のスキルや知識がどう活かせるか
採用担当者は、志望動機からなぜ銀行で働きたいのか、どのような活躍が期待できるかを見極めます。応募した理由、応募に至った背景、意気込みの順で簡潔にまとめましょう。
以下は、志望動機の例文です。
「地域の人々や中小企業を金銭面でサポートできる仕事をしたいと考え、貴行に応募いたしました。
現在は、不動産会社にて個人と中小企業を中心に不動産営業を行っております。住宅ローンの案内をする中で銀行の営業職に興味を持ち、より地域に根付いた業務に携わりたいと思うようになりました。
地域の中小企業への融資を積極的に行う貴行なら、不動産営業で培った経験を活かし、今まで以上に地域貢献できると考えております。」
銀行員への転職は資格取得と対策が重要
未経験からの銀行への転職は難易度が高いものの、未経験者も受け入れている地方銀行や信用金庫であればチャンスは十分にあります。
銀行業務を理解し、簿記やファイナンシャルプランナーといった業務に活かせる資格を取得し、準備を整えた上で挑戦してみましょう。
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