健康診断を入社前に行うのはなぜ?対象者や内容、タイミングを解説

入社前の健康診断は、条件を満たすと受診が必要です。入社前後に行われる「雇入時の健康診断」について解説します。定期健診との違いや対象者、受診内容を見ていきましょう。受診前に確認したいポイントや、注意点も解説します。

入社前に行う健康診断とは?

健康診断のイメージ

(出典) pixta.jp

転職などで会社に入社する際は、健康診断が行われます。入社前健康診断がなぜ行われるのか、定期健診とは何が違うのか見ていきましょう。

健康診断の実施は企業の義務

「雇入時の健康診断」は、必ず実施するよう企業に義務付けられた健康診断です。労働安全衛生規則の第43条では、入社前健康診断の実施と項目が定められています。

内容は11項目で、ひととおりの健康状態を検査します。血液検査や尿検査も含まれ、働く上で体に問題がないかのチェックが可能です。

入社前に必要項目を満たす診断を受け、結果を会社に提出します。項目は最低限のものですが、会社によって項目が増えるケースもあるでしょう。

参考:労働安全衛生規則 第四十三条|e-Gov法令検索

定期健診との違い

定期健診は、入社後定期的に行われる健康診断です。入社前の健康診断と入社後の定期健診は、診断項目が一部異なります。

基本的には入社前の健康診断とほぼ同じですが、「胸部エックス線検査」が「胸部エックス線検査および喀痰検査」に変わっていることが特徴です。

なお、定期健診では一部項目の省略が可能です。医師が必要ないと判断した場合、以下の項目は省略されます。

  • 身長
  • 腹囲
  • 胸部エックス線検査および喀痰検査
  • 貧血検査
  • 肝機能検査
  • 血糖検査
  • 心電図検査
  • 血中脂質検査

入社前の健康診断より項目が増えているとはいえ、喀痰検査は胸部エックス線検査で異常が出なかった場合は省略されることが多く、内容はほとんど変わりません。

入社前健康診断の受診対象者

入社前の健康診断は、雇用形態を問わず実施されます。正社員だけでなく、契約社員・パート・アルバイトも対象です。

ただし、入社前健康診断は「常時使用する労働者」が対象になっており、一定の条件を満たす従業員に限ります。

条件は複数あり、どれかに該当すれば対象です。主な条件は、以下のとおりです。

  • 契約期間に定めがない
  • 期間の定めがある場合は、1年以上の使用が予定される(特定業務従事者は6カ月以上)
  • 通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上労働する
入社日の3カ月以内に受診した場合は対象外

転職前の会社または自分で健康診断を受け、入社日の時点で3カ月が経過していない場合は、診断書を提出すると入社前健康診断の対象外になります。

ただし、健康診断の内容が異なる場合や、必要項目を満たしていない場合は判断が変わってくるでしょう。定期健診では省略可能な項目であっても、入社前の健康診断では必須となっているものもあるためです。

直近で健康診断を受けており、省略を希望する場合は転職先の会社に相談しましょう。内容や診断書の形式によっては、健康診断の手間を省けます。

入社前健康診断の受診内容とタイミング

健康診断

(出典) pixta.jp

入社前の健康診断では、何を診断するのでしょうか?具体的な受診内容と、健康診断を受ける場所やタイミングを解説します。

入社前健康診断の受診内容

入社前の健康診断では、以下の検査を実施します。

  • 既往歴および業務歴の調査
  • 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  • 身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査
  • 胸部エックス線検査
  • 血圧の測定
  • 貧血検査
  • 肝機能検査
  • 血中脂質検査
  • 血糖検査
  • 尿検査
  • 心電図検査

定期健診とは異なり、基本的に省略は認められません。全体的な検査を行うため、定期健診よりも項目が多いと感じる人もいるでしょう。

従業員側が省略したいと考えても、会社には健康診断を受けさせる義務があります。就業規則で健康診断の受診を義務付けているケースも多いため、入社前の健康診断は必ず受けるようにしましょう。

入社前健康診断の受診のタイミング

入社前の健康診断は、基本的に内定が出てから入社日までに行います。しかし、転職の場合は内定から入社日まで間もないケースもあり、入社直後でも問題はないようです。

雇入時の健康状態を把握するため、入社の3カ月前から入社日までに受診するのが一般的です。会社側から日程を指定された場合は、指示に従いましょう。

基本的には速やかに実施するよう義務付けられていますが、新型コロナウイルスの影響など、例外的なケースでは健康診断の遅れも認められています。状況によって会社に判断をあおぎましょう。

入社前健康診断の受診場所

入社前の健康診断は、基本的に会社の指定があればその病院で行います。指定がない場合、都合のよい病院・クリニックでの受診が可能です。

自由といっても、医療機関によっては健康診断に対応していないこともあります。予約が求められるケースもあり、会社や医療機関に確認が必要です。

指定がなく、自分で医療機関を選ぶ場合は、必要項目の診断が可能なのかしっかり調査しておきましょう。会社が求める診断項目を満たしていない場合、追加で検査を行うことになり手間がかかります。

入社前健康診断の受診時に確認すべきこと

手帳を確認する男性

(出典) photo-ac.com

入社前の健康診断を受ける前に、いくつか確認しておきたいことがあります。指定外の医療機関で健康診断を受ける場合は、特に注意が必要です。健康診断前に確認しておきたいポイントを紹介します。

おおよその受診料と領収書

健康診断にかかる費用は、1~2万円程度が一般的です。まずは、会社のルールを確認しましょう。会社の指定医療機関であれば一時的な費用負担もなく、無料で受けられることが大半です。

自分で医療機関を決める場合、一時的な立て替えが必要になることもあります。費用の上限や、提出しなければならない書類も確認しておきましょう。受診後は会社のルールで定められている書類を提出します。診断書や領収書が一般的です。

健康診断の費用は、法律上事業者に対して「労働者に健康診断を受けさせる義務」があることから、事業者負担が当然であるとされています。しかし、健康診断費用の上限設定や労働者が希望するオプション費用などもあり、一部自己負担となる可能性はあるでしょう。

参考:健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?|厚生労働省

受診結果が届く時期

健康診断の結果は、医療機関によって通知の時期が異なります。混み合う時期は受診結果が届くまで時間がかかるケースもあり、会社への提出期限がある場合は注意が必要です。

特に入社前健康診断の必要項目は多く、結果通知までに数週間~1カ月程度かかることも考えておきましょう。

早めに結果を知りたい場合は、あらかじめ医療機関に通知時期を確認した上で、結果を早く受け取る方法についても調べておきましょう。医療機関の中には、有料で即日・翌日に結果を通知してくれるところもあります。

入社前健康診断の注意点

健康診断

(出典) pixta.jp

入社前の健康診断を受けるときは、金額の計算方法についても注意が必要です。健康診断費用を立て替える場合、費用が高額になりがちな理由と注意点を解説します。

入社前健康診断は保険適用外

健康診断は入社前、定期健診を問わず保険適用外です。病気やケガによる受診ではなく予防的な意味での診断になることから、保険が利用できません。

健康診断費用の立て替えが必要な場合、全額自己負担で当日支払いが求められます。保険適用の金額ではなく、全額自己負担で計算しておきましょう。

保険証は使えませんが、本人確認書類として提示を求められることがあります。転職時は保険の切り替えタイミングで、一時的に保険証が手元にないケースも考えられるでしょう。保険証が必要といわれた場合は、保険の切り替えをスムーズに進めるか別の本人確認書類で代用できないか確認しておくことも必要です。

入社前健康診断は忘れずに行おう

さわやかな男性社員

(出典) pixta.jp

入社前の健康診断は、法律で事業者に義務付けられています。雇用期間の予定や、1週間の労働時間の条件を満たすと受診が必要です。

自分で医療機関を決める場合は、健康診断費用の負担先や上限、結果の提出をいつまでにすればよいか確認しておきましょう。受診したい医療機関が健康診断に対応しているかも、問い合わせが必要です。