特別支援学校とは、心身にさまざまな障害を抱えた児童・生徒の自立や、社会参加を支援するための学校です。特別支援学校の教員は、自治体の教員試験に合格すると地方公務員として採用されます。特別支援学校教員の年収や仕事内容について、詳しく解説します。
特別支援学校教員の年収はいくら?
特別支援学校には、大きく分けて公立と私立の2種類があります。特別支援学校教員の年収はいくらになるのか、具体的に解説します。
自治体によって年収は異なる
公立の特別支援学校の場合、教員は地方公務員であるため、給与の額は自治体によって異なります。
文部科学省の「学校教員統計調査」(2019年度)によると、全国の公立・私立・国立を含めた特別支援学校教員の平均給料月額は、33万5,600円でした。公立の特別支援学校に絞ったデータでも、全体の平均給料月額は同じく33万5,600円です。
公立の自治体別データでは新潟県が37万9,000円で最も高く、最も低かったのは大阪府の31万1,900円でした。
新潟と大阪では6万7,100円の差があり、自治体によって給料の月額に違いがあることは明白です。また、東京の平均給料月額は32万8,300円で、全国平均より低いことが分かります。
特別支援学校教員の場合、首都圏・三大都市圏であれば必ずしも給料水準が高いとはいえません。
東京都に採用された場合の平均年収は約656万円
特別支援学校教員の年収は自治体によって異なるため、例として東京都に採用された場合について詳しく見てみましょう。
文部科学省の「学校教員統計調査」(2019年度)によると、東京都の特別支援学校教員(公立)の平均給料月額は32万8,300円です。総務省の「令和3年4月1日地方公務員給与実態調査結果」を見ると、月ごとに支払われる諸手当の月額平均は約6万3,000円です。
東京都の発表によれば、2022年の1人当たりの賞与(特別給)平均支給額は、年間約186万円でした。調査の年度は違いますが、これらのデータを目安として計算すると、都職員として働く特別支援学校教員の平均年収は656万円ほどと推定されます。
国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査」の結果では、日本の給与所得者全体の平均年収は443万円でした。特別支援学校教員の年収は高水準だといえるでしょう。
参考:
特別支援学校教員が年収を上げるには
特別支援学校の教員が年収を上げるためには、主に2つの方法があります。それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
年功序列による昇給
特別支援学校教員の年収を上げるには、勤続年数を伸ばして昇給する方法があります。地方公務員として働く特別支援学校教員の場合、給料の額は自治体の給料表に基づいて定められ、号給と職務の級の組み合わせで変わります。
地方公務員の給料は、職務経験年数が増えるにつれて号給が上がって昇給する年功序列が基本です。勤続年数が長くなるほど号給も上がり、給料も増えていきます。
号給の昇給幅は勤務年数や成績によって設定されており、原則毎年4号給ずつ、数千円増える仕組みです。
管理職になる
特別支援学校の教員が年収を上げるには、管理職になるのも1つの方法です。管理職に昇格すると職務の級が上がるのに従って、給与が上がります。管理職になると「管理職員特別勤務手当」もプラスされるので、毎月の給与はさらに増えるでしょう。
文部科学省の「学校教員統計調査」(2019年度)の職名別の平均給料月額によれば、「教諭」は33万2,400円、「主幹教諭」41万5,800円、「校長」47万2,400円です。役職が上がるにつれて昇給していくことが分かります。
賞与にも管理職加算額がプラスされるので、勤続年数が長く管理職に就いていると、自治体によっては平均年収が1,000万円近くなるケースもあるようです。
参考:学校教員統計調査 令和元年度 第1部 高等学校以下の学校及び専修学校,各種学校の部 教員個人調査 特別支援学校 77 給料月額別 職名別 教員構成 | 政府統計の総合窓口
特別支援学校教員の仕事内容
特別支援学校の教員の主な仕事は、さまざまな障害を抱えた子どもたちの教育や生活の支援です。具体的な仕事内容を3つ紹介します。
教育支援計画や指導計画の作成
特別支援学校では、児童・生徒1人1人に対して個別の教育支援計画と指導計画の作成が義務付けられています。
個別の教育支援計画は、障害のある児童・生徒を乳幼児期から学校卒業まで継続的に支援する体制を整えるために作成するものです。教育・医療・福祉などの関係機関が協力・連携して支援するために必要な計画で、学校が中心となって作成します。
個別の指導計画は、個々の児童や生徒の実態に応じてきめ細かく支援するために、教育課程や指導方法を具体的に作成するものです。
教科の授業
特別支援学校では、子どもの学齢に応じた授業も行います。個々の児童・生徒の特性に配慮しながら、普通学級で行われる授業を分かりやすく工夫して指導することが必要です。
また、特別支援学校では、在籍する児童・生徒の人数や障害の内容・指導目標によって、さまざまな形態で指導を行います。
代表的な指導形態は、マンツーマンによる個別指導・グループ別指導・集団指導・通級指導などです。状況に応じて、これらの指導形態を組み合わせながら授業を進めていきます。
成長と自立のサポート
児童や生徒が障害による困難を克服し、自立できるようサポートするのも特別支援学校の教員の仕事です。特別支援学校に通っている児童・生徒の発達の度合いや障害の程度は、1人1人異なります。
障害種も、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由・知的障害・発達障害などさまざまです。そのため、1人1人の状況を把握し、どのようなサポートが必要なのかを理解しておかなければなりません。
また、児童・生徒のライフステージに応じて、進学や就労などの移行支援や指導も行います。
特別支援学校教員に向いている人
特別支援学校の教員には、どのような人が向いているのでしょうか。向いている人の特徴を2つ紹介します。
コミュニケーション力がある
特別支援学校の教員には、日頃からさまざまな人とコミュニケーションを取るのが苦にならない人が向いています。
1人1人の児童・生徒の性格や発達状況を知るには、子どもたちと向き合い、積極的に関わりを持つことが必要です。保護者とも密にコミュニケーションを取り、悩みに寄り添いながらサポートすることが求められます。
校内のほかの教諭や、学校外の医療機関・地域の福祉施設などの関連各所と協力・連携することも多いため、円滑なコミュニケーションを取れる力は不可欠といえるでしょう。
根気がある人
子どもたちの成長を長い目で見守る根気強さがある人も、特別支援学校の教員に向いています。障害を抱えた児童や生徒は、教えたことをすぐに理解できないこともあるので、毎日繰り返し指導していかなければなりません。
一般の学校の生徒なら問題なくできる日常的な習慣も、障害の程度によってはできるようになるまでに長い時間がかかります。そういった児童や生徒に気長に向き合い、結果が出るまで根気よく教え続けることが必要です。
特別支援学校教員のやりがい・メリット
特別支援学校の教員は、一般の学校の教員に比べて苦労や大変なことも多いものです。しかし、その分やりがいやメリットもある仕事ともいえます。詳しく見ていきましょう。
生徒の成長を感じられる
特別支援学校の教員にとって、児童や生徒の成長を感じる瞬間は大きなやりがいといえるでしょう。障害のある子どもたちに繰り返し指導を続けるうちに、少しずつできることが増えていく姿を見るのは、大きな喜びにつながります。
保護者などとも協力・連携して支援を続けてきた結果が現れたときは、指導に苦労したことも忘れるほど、達成感ややりがいを感じられるものです。これらのやりがいや達成感は、子どもたちと長く関わるほど、大きなものになるでしょう。
通常の教員より待遇が良い
特別支援学校の教員は、一般の学校の教員より待遇が良い点もメリットです。自治体によって異なるものの、通常の教員より給料が高く設定されていることもあります。
1人1人を丁寧にサポート動きが求められますが、基本的に受け持つ生徒の人数は少ないため、大量のテストを採点したり宿題を用意したりする必要もありません。
部活が少ない学校が多いので、顧問を引き受けて放課後や土日祝日に生徒を見る機会もほとんどないでしょう。部活がある学校は、小学校では10%以下にとどまっています。その分、サポートや授業の準備に時間が使えます。
参考:特別支援学校における運動部活動・クラブ活動の状況|文部科学省
特別支援学校の教員になるには?
特別支援学校の教員になるには、教員免許状の取得や教員採用試験に合格することが必要です。特別支援学校の教員になる方法を解説します。
特別支援学校教諭免許状が必要
特別支援学校の教員になるには、通常の教員免許に加えて、特別支援学校教諭免許状が必要となるのが原則です。
しかし、教育職員免許法の附則第16項には、幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教諭免許状があれば、「当分の間」特別支援学校の相当する部の教諭になれるという記載もあります。
実際、文部科学省が特別支援学校教員の免許保有状況を調査した結果を見ると、2022年度の特別支援学校教諭免許状の保有者割合は87.2%にとどまりました。
ただし、合格後一定の期間に特別支援学校教諭免許状を取得することを条件としているのが一般的です。
参考:
教育職員免許法 | e-Gov法令検索
令和4年度特別支援学校教員の特別支援学校 教諭等免許状保有状況等調査結果の概要|文部科学省
都道府県や私立の教員採用試験に合格する
教員免許を取得したら、都道府県の教員試験に合格することが必要です。私立の特別支援学校に勤務する場合は、各学校の採用試験を受験します。
内容や問題は自治体によって異なりますが、1次は一般教養や論文など、2次は面接などの試験をするのが一般的です。東京都の場合、音楽・美術・保健体育・英語の受験者には、2次で実技試験も行います。
東京都の特別支援学校教員の教員試験には、東京教師養成塾生や、スポーツ・文化・芸術などで優秀な実績を残した人を対象にした特別選考区分があります。
特別支援学校教員試験の難易度
特別支援学校の教員試験の難易度も、自治体によって異なります。教員試験は採用人数があらかじめ決まっているため、難易度は合格率ではなく合格倍率で示されます。
東京都の2023年度特別支援学校教員試験の結果を見ると、一般選考区分での合格倍率は1.4倍でした。過去5年間の合格倍率は以下の通りです。
- 2023年度:1.4倍
- 2022年度:2.8倍
- 2021年度:3.1倍
- 2020年度:3.2倍
- 2019年度:2.9倍
特別支援学校教員の年収は高めの傾向
特別支援学校の教員の平均年収は、日本の給与所得者全体の平均に比べると高めです。通常の教員の待遇と比較しても優遇されている面があります。ただ、仕事の内容は決して楽なものではありません。
障害を抱えた子どもに向き合い、根気よく指導を続けながら生活面や学習面を支援することが求められます。しかし、一般の学校で感じる以上に子どもの成長を実感でき、大きなやりがいを感じられる仕事ともいえるでしょう。
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