CS(カスタマーサクセス)とは?具体的な仕事内容と注目される背景

SaaS・サブスクリプションの普及に伴い、CS(カスタマーサクセス)の必要性を認識する企業が増えています。従来のカスタマーサポートや営業との違いは、どこにあるのでしょうか?顧客の成功体験を追求する理由や仕事内容、必要なスキルを解説します。

CS(カスタマーサクセス)とは?

カスタマーサービス

(出典) pixta.jp

CS(カスタマーサクセス)とは、「Customer Success」の頭文字を取ったもので、日本語では「顧客の成功」と訳されます。顧客の成功とは、いったい何を指すのでしょうか?

CSの意味やカスタマーサポートとの違いについて、理解を深めましょう。

顧客の成功を支援する取り組み

CSとは、顧客の成功を支援する取り組み、またはその部門を指します。企業が利益を上げるには、自社の商品・サービスを顧客に使い続けてもらう必要があります。そのためには、自社の商品・サービスを通じて顧客が成功を収めることが不可欠です。

具体的には、導入支援・モニタリングなどを行い、顧客が望む結果を実現できるように導きます。

かつては、顧客からの要望に応える受動的な支援が一般的でした。しかし、CSでは顧客よりも先に課題解決に取り組んだり、小まめにヒアリングをしたりして、能動的に関わるのが特徴です。

カスタマーサポートとの違い

カスタマーサクセスと似た用語に、カスタマーサポートがあります。どちらも「CS」と表記されるため、同じものと勘違いする人が少なくありません。

両者の大きな違いは、アクションの仕方です。カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対応する業務、または部門を指します。顧客の問題解決・クレーム対応が主な役割で、どちらかというと受動的な要素が強いでしょう。

一方のカスタマーサクセスは、問い合わせへの対応だけでなく、顧客の成功実現に向けた能動的なアクションを取るのが特徴です。問題が解決したら終わりではなく、さらなる改善のための提案・レクチャーを継続的に実施します。

営業職との違い

営業とCSは、どちらも企業の利益を上げることが最終目的ですが、企業における役割・ポジションは似て非なるものです。

営業の主な役割は、契約数を増やすことです。マーケティング部門から顧客情報を引き継いだ後、顧客との信頼関係の構築に努めながら、自社の商品・サービスを売り込みます。

営業と違い、CSの仕事は「見込み客が顧客化した時点」からスタートします。既存顧客のフォローに特化した職種であり、新規顧客の開拓は行わないのが通例です。

顧客満足度の向上・運用の定着に努め、LTV(顧客から生涯にわたって得られる利益)の最大化を目指します。

CS(カスタマーサクセス)が重要視される理由

パソコンを見ている男女

(出典) pixta.jp

近年、ビジネスシーンで「CS」という用語を、よく見聞きするようになった人は多いはずです。CSに取り組む企業が増加している背景には、何があるのでしょうか?

ビジネスモデルの変化が大きな要因

CSが注目される大きな要因の1つが、SaaS・サブスクリプションの普及です。

SaaSとは、ベンダーが提供するソフトウェアを、インターネット経由で利用するサービスを指します。システムを自社で構築する必要がなく、必要な機能を必要な期間だけ利用できるのが利点です。

サブスクリプションとは、商品・サービスを一定期間利用できる利用権に対して、定額料金を支払うビジネスモデルです。一般的には「サブスク」と呼ばれることも少なくありません。

SaaS・サブスクリプションで企業が利益を上げる前提は、顧客の継続的な利用です。継続的に利用してもらうためには、自社の商品・サービスを通じた成功体験の創出が不可欠といえます。

CS(カスタマーサクセス)に必須のKPI

分析作業をする女性

(出典) pixta.jp

企業がCSを実行する上では、KPIの設定が重要です。KPI(Key Performance Indicator)とは、目標達成に向けた具体的な行動指標であり、プロセスにおける達成度・進捗状況を観測するために設定されます。

ここでは、CSで用いる代表的なKPIの例を見ていきましょう。

解約率の低減

解約率(チャーンレート)とは、契約中のサービスを解約した人の割合のことで、以下のように算出されます。

  • 解約率=期間内の解約者数÷期間内の総顧客数×100

SaaS・サブスクリプションにおいて、既存顧客の解約は利益の減少に直結します。新規顧客を開拓するコストは、既存顧客を維持するコストの約5倍といわれているため、解約率の低減が重要といえるでしょう。

解約率を下げるためには、顧客が解約に至る原因を分析した上で、改善策を講じる必要があります。

アップセル率・クロスセル率

利益向上の鍵は、顧客単価の上昇と売上数の増加です。とりわけ、自社の商品・サービスに複数のプランがある場合は、KPIに以下のようなアップセル率・クロスセル率を設定します。

  • アップセル率=期間内にアップセルした顧客数÷期間内の総顧客数×100
  • クロスセル率=期間内にクロスセルした顧客数÷期間内の総顧客数×100

アップセルとは、上位モデルへの切り替え・機能の追加などによって、既存顧客の単価を上げる方法です。クロスセルは、関連する別の商品・サービスを紹介し、契約追加を狙う方法を指します。

オンボーディング完了率

どんなに優れた商品・サービスを導入しても、真の価値や正しい使い方を理解できていなければ意味がありません。CSでは、顧客に対して導入支援を行い、サービスの基本的な使い方に慣れてもらいます。

オンボーディング完了とは、顧客がサポートなしで自社の商品・サービスを使いこなせる状態です。オンボーディング完了率は、以下のように算出します。

  • オンボーディング完了率=期間内にオンボーディングが完了した顧客数÷期間内の総顧客数×100

長期間オンボーディングが完了していない顧客は、完了した顧客に比べて解約リスクが高くなると考えられるでしょう。

NPS(ネットプロモータースコア)

NPS(Net Promoter Score)とは、自社の商品・サービスに対する顧客の愛着度を測る指標です。顧客ロイヤリティを数値化したものと考えると、わかりやすいでしょう。

NPSを測るには、「この商品・サービスを知人にどのくらいすすめたいか?」などの質問をし、0~10点で評価してもらいます。

回答の集計結果に基づき、顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」の3パターンに分類し、以下のようにNPSを算出します。

  • NPS=推奨者の割合(%)-批判者の割合(%)

「NPSのスコアが高い=顧客ロイヤリティが高い」と判断するのが一般的です。ただし、回答者の属性によってスコアに偏りが生じるため、数値だけで一喜一憂しないように注意しなければなりません。

NRR(売上継続率)

NRR(Net Retention Rate)とは、既存顧客からの売上が、前年と比べてどう動いているかを示す値です。SaaS・サブスクリプション型のビジネスモデルでは、NRRが100%を超えていれば、売上が安定している状態と判断できます。

NRRを計算するには、MRR(Monthly Recurring Revenue)と呼ばれる「月次経常収益」を算出する必要があります。その上で、以下のようにNRRを算出しましょう。

  • NRR=(月初のMRR+Expansion MRR※-Downgrade MRR※-Churn MRR※)÷月初のMRR×100

※Expansion MRR:上位プランへアップグレードした顧客のMRR

※Downgrade MRR:下位プランにダウングレードした顧客のMRR

※Churn MRR:解約した顧客から得たMRR

CS(カスタマーサクセス)の具体的な仕事内容

パソコンで作業をする女性

(出典) pixta.jp

CSの仕事は多岐にわたります。自社の商品・サービスを通じて、顧客が成果を上げるには、状況に応じた支援を提供しなければなりません。具体的な仕事内容を確認しましょう。

顧客データ・サービスを分析し理解を深める

CSは、問題が生じてから対応するのではなく、将来生じるであろう問題に先回りして対処します。能動的なアクションを取るためには、顧客データの収集・分析が不可欠です。

例えば、サービスのログイン率・利用率が低下している顧客は、導入後の活用がうまくできていない可能性があります。データから正しい仮説・根拠を導き出した上で、最適な対策を講じる必要があるでしょう。

マーケティング・営業などの他部署と情報共有できるように、顧客データは1つのデータベースで管理するのが理想です。

導入・継続利用のための支援

サービスの利用開始から定着までのプロセスは、「オンボーディング」と呼ばれます。オンボーディングでは手厚い導入支援を行い、顧客が1日でも早く自走できるようにサポートします。以下は支援内容の一例です。

  • ウェビナー・勉強会で操作方法をレクチャーする
  • 定期的なミーティングを設けて疑問点をヒアリングする
  • 活用方法をまとめたオリジナルの資料を配布する

オンボーディングが完了した顧客に対しては、継続利用を促進するための支援を行います。このプロセスは「アダプション」と呼ばれ、以下のような業務が含まれます。

  • サービスが継続的に活用されているかを分析する
  • ウェビナー・セミナーを開催し、成功体験につながる活用方法を提案する

CS(カスタマーサクセス)に必要なスキル

コールセンターで働く女性

(出典) pixta.jp

CSには顧客をゴールに導く伴走者としての役割があるため、数多くのスキルが求められます。中でも、業務遂行に欠かせない代表的なスキルを紹介します。

顧客と接する「コミュニケーション能力」

CSは常に顧客と接する立場にあるため、高いコミュニケーションスキルが求められます。

コミュニケーションというと、社交的で誰とでも打ち解けられる人というイメージがあるかもしれません。しかし、ビジネスにおいては「傾聴力」「伝える力」「本音を読み解く力」などが重視されます。

顧客の悩み・真のニーズをうまく引き出して言語化できる人は、顧客と良好な信頼関係を構築できるでしょう。マーケティング部・営業部など複数の部署と連携する場面が多いため、協調性・社会人としてのビジネススキルも求められます。

注意深さも必要「問題解決能力」

CSが顧客の問題に先回りしてアプローチするには、問題解決能力が必要です。具体的には、コミュニケーションを通じて顧客の現状を素早く把握し、問題・不満が生じる根本的原因とその解決方法を考えます。

顕在化している問題だけでなく、将来起こり得る潜在的な問題にもアプローチできると、顧客満足度は大きく向上します。解決までの具体的なアクションプランを立てられる人は、CSとして高く評価されるでしょう。

論理的な思考「分析力」

分析力とは、データ・事象を掘り下げて問題を抽出したり、新たな情報を引き出したりする能力です。物事を細分化する「虫の目」はもちろん、全体を俯瞰する「鳥の目」や時代の流れを読む「魚の目」も欠かせません。

分析力に優れている人は、顧客の現状・複雑な問題を正しく把握できるだけでなく、中長期的な将来予測が行えます。逆に分析力に欠けている人は、目先の情報に判断を左右されてしまい、隠れた問題・リスクを見落とすケースがあるでしょう。

CS(カスタマーサクセス)を成功させるには

カスタマーサポートのイメージ

(出典) pixta.jp

カスタマーサポートと異なり、CSには能動的なアプローチが求められます。単なるアフターフォロー・顧客対応で終わらせないためには、どのような心構え・行動が必要なのでしょうか?

顧客からの情報を積極的に集める

顧客に継続的に利用してもらうには、顧客の声を漏らさずくみ上げ、商品・サービスに反映させることが肝心です。

数値データを分析するだけでは、不満・要望といった顧客の本音はなかなか見えてきません。生の声ほど貴重な情報はないため、顧客との接触機会をできるだけ増やし、情報収集に努めましょう。

アンケート・ミーティングのほか、チャットを活用する方法も有用です。チャット・LINEなどのノンボイスのチャネルなら、「電話をするのが面倒」という顧客でも気軽に相談できるでしょう。

小まめなコミュニケーションは、信頼関係の構築にもつながります。

CS(カスタマーサクセス)の重要性を理解する

CSは近年になって広まった比較的新しい概念のため、マネジメント層を含めて重要性を理解している人が、まだそれほど多くないのが実情です。

カスタマーサポート同様、特定の部署の業務と見なされたり、他部署との従属関係があったりして、CSがうまく機能していない企業も少なくありません。社内のリソースが足りず、営業職がCSを兼ねているケースもあります。

CSはマーケティング・営業・開発など、複数の部署の連携によって成り立つものです。一部の担当者の業務と見なさず、社員全員に必要な行動指針として浸透させましょう。

KPIの分析を定常的に行えるように、顧客情報の蓄積・分析・共有がしやすい組織体制を構築することも重要です。

顧客の成功を自社の成功につなげよう

テレワーク

(出典) pixta.jp

CSは、SaaS・サブスクリプションモデルの普及により広まった取り組みです。根底にあるのは「顧客の成功は自社の成功」という考え方であり、新規顧客の開拓よりも既存顧客からの売上をキープすることに注力します。

近年はCS部門を新たに設ける企業が増えてきましたが、欧米に比べて日本のCSは未熟で、経営層・社員が重要性を理解していないケースも珍しくありません。

顧客の成功体験の創出は、社内のあらゆる部門の連携・協力によって実現します。CSがうまく機能する環境整備から、取り組む必要があるでしょう。