個人事業主とは。法人との違いやメリット、開業の手続きなどを紹介

個人事業主とは、法人化せずに事業を行う人の総称です。法人と比較すると、開業に必要な手続きや費用、課せられる税の種類などが異なります。個人事業主の詳細に加え、法人との違いや個人事業主のメリット、さらには開業に必要な手続きを紹介します。

個人事業主とは

ビジネスマン

(出典) pixta.jp

個人事業主とは、どのような人を指すのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

個人で事業を営んでいる人のこと

個人事業主とは、法人化せず個人で事業を営む人を指します。「開業届を提出している個人」を指すのが一般的ですが、未提出でも個人事業主と名乗ることは可能です。個人といっても1人で事業を展開する必要はなく、家族などと複数人で仕事を受注している人もいます。

なおここでいう「事業」は、反復性・継続性・独立性の全てを満たすことが必須です。「フリマアプリでたまに不用品を売って収入を得ている人」「会社に所属して働く労働者」などは、収入の多少にかかわらず個人事業主には該当しません。

自営業やフリーランスとはどう違う?

自営業とは、自ら事業を営む人全般を指します。「組織や団体に所属せず事業を行う」点では個人事業主と同じですが、法人化しているか・していないかによって区別されることはありません。「法人も含まれる」という点が、個人事業主との大きな違いです。

フリーランスは、「雇用契約を結ばない」「働く場所・時間を問わない」といった自由な働き方をしている人を指します。法人化している個人も含まれるため、フリーランスと個人事業主もイコールではありません。

そもそも「個人事業主」とは、税務上設けられた区分です。ポイントは「法人化しているか否か」であり、事業スタイルや働き方を指す「自営業」「フリーランス」とは意味が異なります。

個人事業主と法人の違いとは

パソコンを操作する男性

(出典) pixta.jp

個人事業主と法人は、事業開始・廃業の手続きや税金などが異なります。両者の違いを詳しく見ていきましょう。

設立時の経費や税金などが異なる

個人事業主になるための資金は、特に必要ありません。開業時は開業届、廃業時は廃業届を提出するだけでよく、いずれも申請費は不要です。

一方法人成りする場合は、法定費用や手数料を踏まえると、株式会社で25万円以上、合同会社で10万円以上かかります。事業の廃止時には解散登記や解散の公告が必須となり、それぞれ5万円程度の実費が必要です。

また個人事業主には所得税が課せられるのに対し、法人には法人税が課せられます。所得税は所得額が増えるほど税率も高くなりますが、法人税率は資本金や所得の額ごとに一律の税率が適用される決まりです。

法人化する際の判断ポイント

個人事業主が法人化を検討するときのポイントは、収入額や今後の事業展開です。

所得税は超過累進課税のため、収入が増えるほど税額が上がります。所得税率よりも法人税率で計算した方が税金が安くなると見込まれるなら、法人化を検討するタイミングです。

また個人事業主よりも法人の方が、社会的信用度は高くなります。今後事業を拡大していきたい・取引先を増やしたいなどと考えるのであれば、法人化した方が有利です。

企業によっては「法人としか取引しない」というところもあり、法人化によって仕事を得やすくなるケースもあります。

個人事業主のメリット

ビジネスカジュアル

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個人事業主は、開業がしやすい・働き方の自由度が高い・高収入を得られる可能性があることがメリットです。それぞれについて詳しく紹介します。

法人化するよりも開業が簡単

個人事業主の開業は、事業所を管轄する税務署に「開業届」を提出するだけと簡単です。開業提出後に審査や調査が行われることもなく、書類に不備がなければ受理されます。

またマイナンバーカードを持っている人は、e-Taxによるオンライン申請も可能です。オンラインなら必要項目を入力するだけでよく、本人確認書類を添付する必要もありません。税務署に足を運ばずに、自宅で即日開業が可能です。

法人登記や定款の作成が必要な法人と比較すると、個人事業主の開業ハードルは低いといえます。

働く場所や時間が自由

個人事業主を選択すれば、働く場所を自分で決められます。休憩や休みの融通も利かせやすく、好きなときに働いて好きなときに休めます。

会社員として働けば、会社の規定・就業規則に従うことは必須です。始業時間・終業時間は厳密に定められており、勤務時間中は仕事にいそしまなければなりません。企業によっては突発的な休みが取りにくいところも多く、プライベートよりも仕事の比重が大きくなるケースも多いでしょう。

理想のワークライフバランスを実現するために、個人事業主に転身する人もいます。

収入がアップすることも

希少性・専門性の高いスキルを持つ個人事業主は、多くの需要があります。高単価の仕事を得やすく、開業後すぐにでも高収入を得ることが可能です。

また個人事業主なら、仕事の選択権は自分にあります。仕事量を増やす・単価の高い仕事を優先して請けるなどを意識すれば、効率よく収入が増えていくでしょう。

会社員はベースとなる給与が決まっている上、自分で仕事を選べません。スキルのある人でも大きく稼ぐのは難しく、収入アップまでに時間がかかります。需要の高いスキルを持っていて早く高収入を得たい人は、個人事業主を選択した方が有利といえます。

年齢を気にせず働ける

個人事業主なら、廃業のタイミングも自由です。一般的な企業は、雇用を「60歳まで」「65歳まで」とする定年制が採用されています。定年がくれば、スキルのある人・まだまだ働ける人も退職せざるを得ません。

老後の生活や家計に不安を覚える人も多く、定年後の働き方をどうするかは多くの会社員が持つ課題です。

個人事業主なら、自分が「辞めよう」と思うまでは、年齢を気にせずに働けます。老後の不安を抱える人が多い中、年金受給年齢になっても収入を確保できるのは、大きなメリットです。

個人事業主のデメリット

パソコンに向かう男性

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個人事業主のデメリットといわれるのが、収入の不安定さや税申告の手間の多さ・社会的な信用の低さなどです。それぞれについて、詳細を紹介します。

収入が不安定になる

個人事業主の収入は、仕事量に比例します。常に安定して稼げる保証がないのは、個人事業主のデメリットといえます。

また契約を結んで働いても、確実に報酬が支払われるとは限りません。報酬が振り込まれるまで気を抜けないのも、個人事業主の不安要素の1つです。

会社員なら、働いた分の給与は支払われます。労働の対価を受け取り損ねる心配が少なく、収入は常に安定した状態です。未払いリスクにおびえる必要がない分、収入面の不安・負担は少なくなります。

確定申告を自分で行う必要がある

個人事業主として一定額以上の収入を得た場合、確定申告期間中に所得税の申告・納税が必要です。1月1日から12月31日までの収入・経費・控除などを正しくまとめ、適切な納税額を算出しなければなりません。

青色申告で納税する場合は、複雑な複式簿記での帳簿付けや決算書などの添付が必要です。正しく納税を行うには税務や会計の知識を学ぶ必要もあり、日常の会計処理に多くの手間を取られます。

経理担当者が全ての税手続きを行ってくれる会社員と比較すると、個人事業主は税申告・納税の手間が大きいといえます。

参考:所得税の確定申告|国税庁

社会的な信用度が低い

法人と比較すると、個人事業主は信用の面で劣る傾向です。開業手続きが簡単な分「誰でも個人事業主になれる」というマイナスイメージを持たれることがあります。

特に一般顧客は、「個人の商品より、会社の商品の方が安心」と考える人が少なくありません。事業を展開する上で、個人事業主と名乗ることが不利になるケースもあります。

また融資では、法人よりも個人事業主への審査が厳しくなるのが一般的です。融資金額や条件面に制限が設けられるケースも多く、経営状態によっては希望にかなう資金調達を実現するのは難しくなります。

個人事業主になる前の準備

テレワークをする男性

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個人事業主としてスムーズに事業を開始するなら、開業届を出す前に下準備をしておきましょう。個人事業主になる前にやっておきたいことを紹介します。

許認可の取得

事業を開始するにあたり、どのような許認可を取得しておくべきか確認します。事業内容によっては、国や地方自治体・各種団体などの許認可が必要です。

許認可を受ける要件は、業務内容によって「特定の資格を有している人がいること」「設備や環境が適切に整っていること」「資金の基盤があること」などと異なります。中には開業前の取得を必須とするものもあり、早急な確認が必要です。

法的に必要とされる営業許可・認可を受けないまま開業してしまうと、無許可・無認可として罰則の対象となります。

住宅ローンやクレジットカードの申し込み

会社員から個人事業主への転身を考えている人は、住宅ローンやクレジットカードの申し込みをしておきましょう。個人事業主になった後に申請しても、審査が通りにくくなるためです。

住宅ローンやクレジットカードの審査では、安定した収入があるかどうかが重視されます。社会的信用度が低い人は不利になる傾向があり、融資額・利用額を制限されたり、審査に通らなかったりするケースが少なくありません。

収入が安定している会社員のうちに、必要な申請や手続きは済ませておくべきです。

開業資金を調達

開業にあたり、収入がなくても半年程度は不安なく過ごせる程度の資金を用意するのがおすすめです。

個人事業主となってすぐに仕事を受注できたとしても、報酬の入金は翌月の支払日を待たなければなりません。手持ちの資金が少ない状態で開業すると、すぐに困窮する恐れがあります。

事業にかかる月々の費用は、業種によって異なります。商品や原材料の仕入が必要な場合は、仕入代を含めて必要な資金を計算しましょう。また自宅外にオフィスを借りて事業を営む人は、賃料や光熱費・通信費・備品費などの準備も必要です。

個人事業主が利用できる補助金など

デスクワーク

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個人事業主として事業を展開する人には、さまざまな助成金や補助金が用意されています。小・中規模事業者が利用できる助成金や補助金を紹介します。なお情報は、いずれも2023年6月時点のものです。

創業助成金

新たに事業を始める人に向けて、多くの自治体が助成金・補助金を設定しています。名称は自治体によって「創業支援金」「創業補助金」などとさまざまです。居住地の自治体のホームページなどを確認し、利用できそうな助成金や補助金を探してみましょう。

例えば東京都には、「創業助成金」があります。これは「東京都中小企業振興公社」が実施する助成金で、対象は「都内で創業を予定している人」「創業後5年以内の中小企業者で、一定の要件を満たす人」です。

このほか東京都立川市の「創業資金A・B」、福岡県大牟田市の「起業家支援事業費補助金」など、全国各地にさまざまな助成金・補助金があります。

創業助成金(東京都中小企業振興公社)|融資・助成制度
創業資金A | 立川市
起業家支援事業費補助金 / 大牟田市

IT導入補助金

IT導入補助金とは、ITツールの導入やソフトウェアの購入などに利用できる補助金です。企業のDXを促進するための費用が対象とされ、ITツールやソフトウェアによって労働効率が上がる・事業の生産性が高まると見込める場合に支給されます。

IT導入補助金を利用するには、事業計画を策定すること・IT導入支援事業者と導入についての相談を行うことが必須です。

事業のDXに有益と思われる場合でも、認可を受けていない事業者やツールを選んだ場合は補助金の対象外となります。補助率は費用の1/2、補助金額の上限は最大450万円です。

トップページ | IT導入補助金2023

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者とは、従業員数が常時20人以下(商業・サービス業は5人以下)の事業者を対象とした補助金です。受給を希望する事業者は自ら経営計画書を作成し、適切に実施しなければなりません。経営計画の実施中に発生した各種費用が、補助の対象となります。

小規模事業者持続化補助金では、5つの枠があります。開業の資金として補助を受けたい場合は「創業枠」に申請しましょう。創業枠を利用した場合、補助率は2/3、補助上限額は200万円です。

小規模事業者持続化補助金(一般型)

個人事業主がするべきこと

開業届

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個人事業主になるためには、開業届の提出や年金・保険等への加入が必要です。どのような手続きがあるのか、見ていきましょう。

開業届の提出

開業届は、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。開業届には、「納税地」「個人事業主となる人の氏名・住所」「個人番号」のほか、個人事業主として従事する職業などを記載する決まりです。必要な項目を適切に記載したら、納税地を管轄する税務署に提出します。

開業届の作成で多くの人が迷うのが、職業欄の横にある屋号についてです。屋号とは、個人事業主として働く上で看板となる名前を指します。必ずしも記入の必要はありませんが、ビジネス用の名前を持ちたい人は事前に屋号を決めておきましょう。

開業届の提出は、対面・郵送・オンラインで可能です。オンライン以外で提出する場合は、マイナンバーが分かるもの・本人を確認できる書類の提示・添付が必要となります。

参考:[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続

青色申告承認申請書の提出

「青色申告承認申請書」を提出すると、青色申告を選択できます。

青色申告とは確定申告の申告方法の1つです。青色申告で確定申告を行うと、55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)または10万円の所得控除を受けられます。白色申告よりも所得金額を低く抑えられるため、節税に有益です。

青色申告承認申請書の提出期限は、「青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで」または「事業を開始した日から2カ月以内」と定められています。出しそびれることのないよう、開業届と併せて提出しましょう。

参考:[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|国税庁

確定申告の準備も忘れずに

前述の通り、個人事業主は自身で確定申告する必要があります。年間所得が基礎控除額の48万円を下回る場合は不要ですが、超えることを想定して、準備だけでもしておくとよいでしょう。

毎月の売上や経費を帳簿に付けたり、月ごとに領収書をまとめたりしておくと、申告書の作成が楽になります。

青色申告で55万円または65万円の控除を受けたい場合は、複雑な「複式簿記」での記帳が必須です。会計処理の負担が大きくなりそうなときは、仕訳まで自動で行ってくれる会計ツールの導入を検討しましょう。

国民健康保険、国民年金に加入

会社を辞めて個人事業主になる場合、健康保険や年金の加入手続きをします。健康保険には国民健康保険に入る方法と、会社の健康保険に継続して加入する方法があります。

国民健康保険を選択する場合は、退職日の翌日から14日以内に市区町村の国民健康保険担当窓口で手続きしましょう。

会社の健康保険を継続する場合は、退職の翌日から20日以内に加入手続きが必要です。加入できるのは原則2年で、2年を過ぎると国民健康保険に加入しなければなりません。

また会社を退職すると、国民年金「第1号」の被保険者となります。国民年金担当窓口で、切り替え手続きを行いましょう。国民健康保険に加入する人は、同日に手続きすればスムーズです。

参考:協会けんぽ任意継続被保険者の加入手続きの流れ|全国健康保険協会

参考:会社を退職した時の国民年金の手続き|日本年金機構

自分らしく働ける個人事業主

パソコンを操作する女性

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個人事業主とは、組織や団体に所属せず事業を行う人です。法人化していないことがポイントで、事業形態や働き方を指す「自営業」「フリーランス」とは意味が異なります。

個人事業主になれば、働き方の自由度が上がります。ワークライフバランスを実現しやすく、自分らしく働きたい人にはぴったりです。

ただし個人事業主になると、収入面や社会的な信用の面で不安があります。メリット・デメリットを踏まえた上でじっくりと検討しましょう。