取締役とは何をする人?期待される役割や責任範囲、選任方法を解説

取締役への転職に挑戦しようと思っているのなら、役割や責任を理解することが大切です。求められる能力を知っておけば、なれるかどうか判断しやすくなるでしょう。取締役とは何をする人なのか、なり方のポイントと併せて解説します。

取締役とは

取締役会

(出典) pixta.jp

取締役という言葉を聞いて、具体的にどのような役職なのかを説明できない人も多いのではないでしょうか。まずは、取締役の基礎知識について理解を深めておきましょう。

会社運営の意思決定や監督を行う役員

取締役とは、経営に関する重要事項の決定や業務の執行を行う役員のことです。会社法第348条で、取締役は会社経営の決定権を有することが定められています。

会社に取締役が存在する最大の理由は、社長のワンマン経営をけん制することです。多くの株主から認められた取締役がいることで、社長の独断により物事が決定されるのを防げます。

取締役3人以上で構成される機関が取締役会です。取締役会を設置するかどうかは自由に決められますが、公開会社・委員会設置会社・監査役会設置会社には取締役会の設置が義務付けられています。

参考:会社法第348条1項、第327条1項 | e-Gov法令検索

会社に最低限必要な取締役の人数

株式会社では最低1人、取締役会設置会社では最低3人の取締役が必要です。会社法第326条または第331条で規定されています。人数の上限はなく、何人でも置くことが可能です。

ただし、定款で取締役の上限人数を定めているケースでは、その規定に従わなければなりません。定款の内容を変更したい場合は、株主総会の特別決議による承認が必要です。

取締役が1人の株式会社を「一人会社」と呼ぶ場合もあります。会社の規模が小さいケースや、個人事業主が法人成りしたケースなど、取締役が1人しかいない株式会社は珍しくありません。

参考:会社法第326条1項、第331条5項 | e-Gov法令検索

取締役の任期は原則2年

会社法第332条では、取締役の任期を原則2年と規定しています。具体的な内容は、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」です。非公開会社では、任期を10年まで伸長することが認められています。

取締役の任期は、定款や株主総会の決議により短縮することが可能です。上場企業では任期を1年に設定しているケースもあります。

任期満了後に株主総会の決議で再度任命されれば、何度でも取締役になることが可能です。会社が取締役を解任するためには正当な理由が必要ですが、取締役自ら辞任したい意向がある場合は、任期の途中でも自由に辞任できます。

参考:会社法第332条 | e-Gov法令検索

取締役の主な種類

社長のイメージ

(出典) pixta.jp

取締役と名の付く役職には、さまざまな種類があります。代表的な役職をピックアップし、それぞれの詳しい意味について確認しましょう。

代表取締役

代表取締役とは、会社法上で定められた会社の最高責任者です。取締役会設置会社では代表取締役が、取締役会非設置会社の場合は代表取締役を含む各取締役が、会社の業務執行を担当します。

1つの会社で複数人が代表取締役になることも可能です。例えば、会社を2人で立ち上げたケースでは、2人とも代表取締役になる場合があります。

代表取締役の選定は必須ではありません。代表取締役を置かない会社では、各取締役がそれぞれ会社を代表することになります。

代表取締役社長や代表取締役会長の肩書きを持つ場合も、これらはあくまでも実務上の呼称であり、登記されるのは代表取締役のみです。

参考:会社法第349条 | e-Gov法令検索

専務・常務取締役

一般的に、専務取締役は社長や副社長の業務を補佐する役職、常務取締役は会社の業務全般を管理する役職です。

専務取締役と常務取締役のいずれも実務上の呼称であり、会社法上の役職ではありません。登記上は単に取締役となります。

規模が大きい会社では、役員の中で序列を定めるのが一般的です。通常は会長・社長・副社長・専務・常務・執行役員の順に、地位が下がっていきます。

社外取締役

社外取締役とは、社外から招き入れる取締役のことです。欧米では取締役の半数以上を社外取締役が占めているともいわれており、日本でも上場企業には社外取締役の設置が会社法で義務付けられています。

利害関係や人間関係に捉われずに業務を遂行できる点が、社外取締役を招き入れる大きなメリットです。経営状況に対して第三者の視点で客観的な意見を述べられます。

コーポレートガバナンスの強化も、社外取締役の重要な仕事です。第三者の視点で監視することにより、会社の不祥事を防ぐ役割を担っています。

社外取締役は非常勤として働ける上、1人で複数の会社の社外取締役を掛け持ちすることも可能です。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

取締役と他の役員や社員との違い

重役と部下

(出典) pixta.jp

取締役と執行役員・社長・一般社員との違いが分かれば、取締役に対する理解をより深められるでしょう。どのような点が異なっているのか、詳しく解説します。

取締役と執行役員の違い

執行役員とは、経営方針の実行や事業部ごとの意思決定を行うポジションです。役員数が多い会社では、常務の下に執行役員の役職を設けているケースがあります。

執行役員はあくまでも会社が任意で定めている役職であり、会社法上の役員には含まれません。登記が必要な取締役と異なり、執行役員は登記も不要です。

取締役は会社と委任契約を結び、報酬や任期などを契約で定めますが、執行役員は一般社員と同様に会社と雇用契約を結びます。事業部の部長クラスが執行役員となり、各事業を統括するのが一般的です。

取締役と社長の違い

実質的な会社のトップである社長は、社内プロジェクトの責任者になる役職です。一般的に、株式会社では代表取締役が社長になります。

ただし、社長というのは社内で任意で付けられる役職であり、必ずしも社長が代表取締役という必要はありません。社長が代表取締役ではない場合、その社長は対外的な最終責任を負わなくてもよいことになります。

肩書きが代表取締役社長となっているケースでも、登記上は単なる代表取締役です。代表取締役会長を置いている会社でも、会社法で定義された代表取締役のみで登記を行う必要があります。

取締役と一般社員の違い

取締役と一般社員は、契約の形態に違いがあります。一般社員が会社と雇用契約を締結しているのに対し、取締役の契約形態は委任契約です。一般社員から取締役になる場合は、会社との契約を締結し直す必要があります。

雇用契約とは、労働に対して会社が従業員に報酬を支払うことを約束する契約です。一方の委任契約は、専門的な仕事を任せる際に結ぶ契約であり、取締役は経営の専門家として会社と委任契約を締結することになります。

雇用契約では、よほどの理由がない限り、会社は従業員を解雇できません。しかし、委任契約には相互解除の自由という大原則があり、取締役は能力不足と判断されれば、いつでも解任される可能性があります。

取締役の役割

ビジネスマン

(出典) pixta.jp

取締役の役割は、取締役会を設置しているかどうかで異なります。取締役会設置会社と取締役会非設置会社のそれぞれについて、取締役にどのような役割があるのかを見ていきましょう。

取締役会設置会社の場合

会社法第362条では、取締役会設置会社において取締役会が以下の役割を担うことと定めています。

  • 会社の業務執行の決定
  • 取締役の職務執行の監督
  • 代表取締役の選定・解職

会社の業務執行を担うのは、代表取締役や業務執行取締役です。業務執行に関わらない取締役は、取締役会における意思決定に関与するほか、代表取締役や業務執行取締役を監視する役割も担うとされています。

参考:会社法362条2項 | e-Gov法令検索

取締役会非設置会社の場合

取締役会を設置しない会社において、取締役の主な役割は会社の業務執行です。ただし、定款に別段の定めがある場合は、記載内容に従います。

会社法で定められている取締役の業務執行の主な内容は、意思決定と実際の遂行です。取締役が2人以上いる場合、意思決定は取締役の過半数で行わなければなりません。

取締役会非設置会社における取締役の役割には、会社を代表することも挙げられます。代表取締役を定めている場合、会社の代表は代表取締役です。

参考:会社法348条2項 | e-Gov法令検索

取締役の責任

考え事をする重役

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会社運営に大きく関わる取締役は、会社とステークホルダーに対して責任を負います。それぞれの責任範囲を確認しておきましょう。

会社に対する責任

取締役は会社に対し、受託者の責任として善管注意義務や忠実義務を負っています。それぞれの義務の意味は以下の通りです。

  • 善管注意義務:一般的・客観的に見て当然要求される注意を払う義務
  • 忠実義務:法令・定款違反が生じることがないようにする義務

取締役が善管注意義務違反や忠実義務違反を犯した場合、義務違反により会社が被った損害に対し、原則として損害賠償責任を負うことになります。

ステークホルダーに対する責任

取締役は会社だけでなく、ステークホルダーに対しても責任を負います。ステークホルダーとは、株主・取引先・顧客・金融機関など、会社の利害関係者のことです。

取締役の意図的な行為や重大なミスによりステークホルダーが損害を被った場合、ステークホルダーは取締役に対して損害賠償を請求できます。

ただし民法上は、株主総会の決議や定款の定めにより、取締役個人の賠償責任の範囲を限定的にすることが認められています。

取締役の選任について

会議のイメージ

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取締役は株主総会の決議により選任されます。取締役になれる条件と、2種類ある選任方法を見ていきましょう。

取締役になるための条件

会社法第331条では、取締役に選任できない条件を以下のように定めています。いずれか1つでも該当するものがあれば、取締役にはなれません。

  • 法人
  • 会社法などの規定に違反して刑に処せられ、刑の執行が終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過していない者
  • 上記2以外の規定に違反して禁錮刑以上の刑に処せられ、その執行が終わるまで、または刑を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中を除く)

公開会社は取締役を株主のみに制限できません。一方、非公開会社は取締役を株主のみに制限することが可能です。

参考:会社法331条1項 | e-Gov法令検索

2種類の選任方法

取締役を選任する一般的な方法は、株主総会の普通決議です。総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の過半数の賛成により決議に至れば、選任は有効となります。

各取締役候補者について、出席株主が持つ議決権の過半数の賛成を得られた場合、候補者は取締役として選任されます。議決要件は定款で変更することも可能です。

1人の候補に対し複数の票を投票できる累積投票でも、取締役を選任できます。1つの議決権について選任する人数分の投票権が与えられるため、少数派株主の意向を反映させたい場合に有効です。

参考:会社法342条1項 | e-Gov法令検索

取締役に求められる能力

通話しながらスマホを操作するビジネスマン

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取締役に向いている人に共通する特徴を紹介します。求められる能力を把握し、自分にもできる仕事かどうか判断する際の参考にしましょう。

マネジメント能力

従業員を動かして会社に利益をもたらす立場の取締役には、マネジメント能力が求められます。会社のリソースを適切に管理しながら、ステークホルダーにも利益をもたらさなければなりません。

組織が大きくなっていくと、取締役は責任範囲を適切に設定し、マネージャーをうまく配置する必要があります。会社のビジョンを従業員にきちんと伝えることも重要です。

ただし、取締役の権限を振りかざしすぎると、従業員がついてこない恐れもあります。従業員に対する思いやりを持ち、成長させていけるようなリーダーシップも求められます。

経営能力

取締役には、意思決定を正しい方向に導くための、事業戦略・組織戦略・財務・法務などに関する幅広い経営能力も必須です。

それぞれの専門家に相談し、判断を仰ぐことも可能ですが、最終的な決定は取締役が行わなければなりません。判断を誤った場合、経営に大きな悪影響を与えてしまう恐れがあります。

そのため、取締役は経営について全般的に理解しておくことが大切です。課題解決や業務遂行のスキルも、取締役が役割を果たす上で重要なスキルといえます。

専門知識・経験

社外取締役には、専門分野に関する知識や経験が求められます。社内取締役に不足しているスキルを社外取締役のスキルで補えれば、バランスが取れた役員構成になるためです。

社外取締役を募集している企業は、主に以下のようなスキルや経験の持ち主を欲しがる傾向があります。

  • 合併・買収
  • ブランディング
  • マーケティング
  • グローバル経営
  • 多様性
  • ESG経営

上記の専門知識や経験を持っている人としては、弁護士・公認会計士・税理士や元経営者が挙げられます。

取締役になる方法

ネクタイを締める男性

(出典) pixta.jp

自社での昇進や他社からのヘッドハンティングで、取締役になることが可能です。これらの方法が難しいようなら、社外取締役の求人に応募する方法もあります。

自社での昇進

取締役になる最もスタンダードな方法は、自社内で昇格することです。成果を出し続けて実績を重ね、段階を踏んで出世していけば、最終的に取締役への昇進を狙えます。

自社での昇進で取締役になることを目指す場合は、自社に取締役のポストがあることが前提です。現在の取締役に一般社員から出世した人がいるなら、昇進を狙えるチャンスは十分にあります。

内部昇格のポイントは、経営層と現場の双方から高い評価を得ることです。自分の存在価値を高めるために多くの実績を積み上げ、信頼を得ていきましょう。

他社からのヘッドハンティング

ヘッドハンティングとは、他社から優秀な人材をピンポイントで引き抜くことです。自社で実績を積んでいく過程で、他社から能力を買われて取締役としてスカウトされるケースがあります。

最初から自分が評価されている環境で働けることが、ヘッドハンティングを受けるメリットです。収入もアップするケースが多いため、やりがいを感じながら仕事に取り組めるでしょう。

ただし、ヘッドハンティングは頻繁に受けられるものではありません。タイミングや運に左右されやすい点や、どうしても待ちの姿勢になる点がデメリットとして挙げられます。

社外取締役への転職

近年は社外取締役の求人を出す企業が増えています。上場企業の社外取締役の設置が義務化されたことや、会社の内部統制を強化できることが、社外取締役の求人が増えている理由です。

取締役への転職を目指すなら、社外取締役の求人を積極的に探してみましょう。自分が得意とする分野の専門知識を持つ社外取締役を求めている企業なら、挑戦する価値は十分にあります。

社外取締役の求人を探すなら、国内最大クラスの求人サイト「スタンバイ」を活用するのがおすすめです。全国の豊富な求人が掲載されているため、自分に合った社外取締役の求人も見つけやすいでしょう。

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取締役について理解し転職に挑戦しよう

重役のイメージ

(出典) pixta.jp

取締役とは、会社運営の意思決定や監督を行う役員のことです。株式会社では最低1人の取締役を設置する必要があります。任期は原則として2年です。

取締役は法律で規定された役職であり、社長・専務・常務といった任意の役職とは意味合いが違います。雇用契約を締結する一般社員と違い、取締役の契約形態は委任契約です。

取締役にはマネジメント能力や経営能力が求められます。自社内での昇進や社外取締役への転職など、自分に合った方法で取締役を目指してみましょう。