取締役とは何?会社法上の役割・任期や役員との違い、責任などを解説

取締役とは、企業の重要な意思決定や業務執行を担う役職です。その具体的な役割や権限について、正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。取締役の概要をはじめ、他の役職との違いや責任について解説します。

この記事のポイント

取締役の役割
企業の経営に関わり、意思決定や業務の監督を行います。
取締役の種類
取締役には、代表取締役や社外取締役などがあり、それぞれ異なる責任や役割を担います。
取締役になるメリット
経営に直接関与できるほか、企業経営の経験を積むことでキャリアの幅が広がります。

取締役とは

スーツを着たシニア男性

(出典) pixta.jp

取締役は、経営に関わる企業にとって重要なポジションです。まずは、取締役の役割や権限などについて解説します。

会社法で定められた役職

取締役は、会社の経営方針を決めたり、その進み具合をチェックしたりする役割を持つポジションです。会社法で定められた役職であり、株式会社には最低1人、取締役会を設置する場合は3人以上置く必要があります。

取締役には、以下のような義務が求められています。

  • 善管注意義務:十分な注意を払って経営を進めていく義務
  • 忠実義務:会社や顧客のために誠実に働く義務

取締役は、法律やルールを守りながら、会社の価値を高めていきます。会社の方向性を決める重要な存在であり、会社が順調に運営されるために欠かせない存在です。

出典:会社法第348条・第326条第1項・第331条第5項|e-Gov法令検索

任期は原則2年

会社法第332条により、取締役の任期は原則2年と定められています。具体的には、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最後の年度の定時株主総会が終わるまでです。

ただし、株式譲渡制限会社では、最長10年まで延長できます。任期満了後は、株主総会の決議によって再任される場合もあれば、任期途中で契約を解除されることもあるでしょう。

取締役を解任するには、原則として、株主総会で決議権の過半数が解任に賛成する必要があります。このように、取締役の任期は企業の状況や経営方針によって、柔軟に決められています。

出典:会社法第332条|e-Gov法令検索

選任方法と要件

取締役は、経験や専門知識、経営に対する理解度などを考慮し、株主総会によって選任されます。企業の経営方針や業績に大きな影響を与える立場であるため、適任者は慎重に選ぶことが必要不可欠です。

また会社法第331条および第331条の2では、以下のように取締役に選任できない要件が定められています。

法人

  • 認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が不十分である者
  • 会社法や金融商品取引法などに違反して刑を受け、執行後2年を経過していない者 など

これらの要件は、企業経営の健全性を保ち、株主やクライアント、取引先の利益を守るために設けられています。

出典:会社法第331条・第331条の2|e-Gov法令検索

取締役の種類や他の役職との違い

スーツ姿のシニア男性たち

(出典) pixta.jp

取締役にはさまざまな種類があり、他の役職との違いも存在します。それぞれの役割を明確にすることで、企業内での位置付けをより理解しやすくなるでしょう。

代表取締役

代表取締役とは、会社を代表する取締役のことです。会社の意思決定を行い、契約の締結など対外的な業務を担う重要な役職です。そのため、企業運営において大きな責任と権限を持ちます。

取締役会を設置している会社では、必ず代表取締役を選任する必要があり、これは会社法で定められています(会社法第362条第2項第2号・第362条第3項)。

一方で、取締役会を設置していない会社では、代表取締役を置かないケースもあります。社長と代表取締役は同一視されることがありますが、社長はあくまでも社内の役職名であり、法的な代表権とは異なります。

そのため、社長と代表取締役が別の人物である、代表取締役が複数人いる、といった会社もあるでしょう。

出典:会社法第362条第2項第2号・第362条第3項|e-Gov法令検索

社外取締役

社外取締役とは、会社の外部から迎えられた取締役のことです。2021年3月1日に改正会社法が施行され、上場企業では社外取締役の設置が義務化されました。

社外取締役の役割は、会社の経営陣とは違う客観的な立場から、経営をチェックし、アドバイスをすることです。これにより、会社の透明性が高まり、適切な管理が期待できます。

また、社外取締役は特定の会社に専念する必要はなく、複数の会社の取締役を兼ねることも可能です。

企業が健全に運営され、価値を高めるためにも、社外取締役の存在は重要です。そのため、多くの企業が導入し、公正でバランスの取れた経営を目指しています。

出典:法務省:会社法の一部を改正する法律について

専務・常務取締役

取締役の役職名は、法律で決められた明確な定義はありません。そのため、会社法上は全て「取締役」として扱われます。

社内では、役割を明確にし経営や意思決定をスムーズにするために、序列順に以下の3つに分かれています。

  • 専務取締役
  • 常務取締役
  • 平取締役(特に役職のない取締役)

専務取締役や常務取締役は、経営に深く関わり、特定の業務をまとめる役職です。取締役の具体的な仕事や権限は、企業の規模や方針によって異なります。

執行役員

執行役員とは、企業が独自に設ける役職で、会社法上の「役員」には含まれません。執行役員の設置の仕方は企業ごとに異なり、それぞれの組織体制に応じて決定します。

取締役とは異なり、法的な意思決定権を持っておらず、取締役会の決定に従って業務を進める立場です。そのため、執行役員は取締役よりも現場に近い立場で働くことが多いといえます。

執行役員は取締役を兼ねる場合もあれば、業務執行に専念することもあります。

取締役の役割

オフィスで腕を組む男性

(出典) pixta.jp

取締役の役割は、企業の規模や組織体制によって異なります。特に取締役会の有無によって、その業務内容や権限は大きく変わります。具体的な役割についてチェックしていきましょう。

取締役会について

取締役会とは、取締役が会社の重要事項を話し合う場です。会社の方針や業務の進め方について決め、スムーズな経営を目指します。

取締役会を設置している企業は、年に4回以上開くよう義務付けられています。

しかし、2006年の法改正により、上場企業以外は取締役会を設置しなくてもよいとされました。取締役会を設けず、取締役が個別に決定を行う会社もあります。

とはいえ取締役会は、意思決定の透明性が高まり、会社の経営を健全に保ちやすくなる点がメリットであり、多くの企業が取締役会を活用しています。

出典:会社法第363条・第326条|e-Gov法令検索

取締役会設置会社の場合

取締役会では、以下のように企業の重要な意思決定を担います。

  • 業務の経営方針を決定
  • 取締役の仕事を監督
  • 代表取締役の選任・解任 など

法律で定められた重要な決議も実施され、会社の健全な運営を支えています。

取締役会の設置は、経営の透明性を高め、会社の管理体制を強化できる点がメリットです。また意思決定のプロセスが明確になり、リスク管理や業務の適切な運営がしやすくなります。

取締役会非設置会社の場合

取締役会を設置していない場合、取締役が個別に業務執行の決定を行い、会社の経営を担います。

この場合、代表取締役の選定は、組織や運営に関する基本的なルールが記載されている「定款」や株主総会の決議によって行われます。

ベンチャー企業や中小企業では、柔軟な経営を実現するために取締役会を設置しないケースが多く見られます。ただ、取締役会を設置しない場合、取締役間の意思疎通や管理体制の整え方が課題として残るでしょう。

取締役の責任

オフィスでパソコン作業をするシニア男性

(出典) pixta.jp

取締役は、企業の経営判断に関わる立場です。意思決定の責任が増し、法的義務も発生します。取締役の責任範囲について確認していきましょう。

会社に対する責任

取締役は、会社に対して善管注意義務と忠実義務を負っています。

善管注意義務とは、取締役が会社経営に関して専門的な知識や経験を生かし、最善の判断を下す責任を指します。一方、忠実義務は、会社や株主の利益を最優先に考え、私的な利益を優先しないことを求めるものです。

取締役がこれらの義務に違反し、会社に損害を与えた場合、原則として損害賠償責任を負います。

ただし、取締役が経営判断を行う際に、十分な情報収集を行い、慎重に検討した結果であれば、たとえ会社に損害が生じたとしても責任を問われないことがあります。これが「経営判断の原則」です。

ステークホルダーに対する責任

ステークホルダーとは、企業の経営や業績に影響を受ける利害関係者を指し、株主・クライアント・取引先・従業員などが含まれます。企業は、これらのステークホルダーと適切な関係を維持した経営が重要です。

取締役が故意または重大な過失によって企業に損害を与えた場合、ステークホルダーは損害賠償を請求できます。

特に、株主は会社に対して「株主代表訴訟」を提起し、取締役の責任を追及することが可能です。企業の信頼を維持するためには、取締役が誠実で適切な経営判断を行い、ステークホルダーの利益を損なわないよう努めることが求められます。

取締役の仕事内容

オフィスでの会議

(出典) pixta.jp

取締役は、企業の経営方針の決定や業務の監督など、多岐にわたる業務を担当します。企業の規模や業種によっても異なりますが、まずは基本的な業務内容を整理し、具体的な役割を理解しておきましょう。

取締役会・株主総会での対応

取締役会を設置している企業では、取締役は最低でも年に4回の取締役会に参加するよう義務付けられています。取締役会では、企業の運営方針を決定し、業務執行に関する重要な議論を行います。

また、代表取締役の選任・解任なども取締役会の役割の1つです。

さらに、取締役は株主総会にも参加し、前年度の事業内容の説明や次年度の方針を発表します。株主との関係を適切に維持し、企業の健全な運営を図るために、株主総会での説明責任を果たすことが求められます。

このように、取締役は取締役会や株主総会を通じて、企業の意思決定に深く関与し、経営の透明性を確保することが重要な役割です。

経営者との連携

取締役は、代表取締役の業務を監督し、経営をサポートする役割を担います。

企業の運営が透明であるか、適切な判断がされているかを確認します。また、経営者に対して意見を述べ、健全な経営をサポートすることも業務の1つです。

市場の変化やリスクを考慮した助言を行い、多方面からの信頼獲得や企業の成長を支えています。

顧客との関係性構築・強化

取締役は、企業の重要な案件において取引を円滑に進める役割を果たします。特に、大口取引や企業同士の戦略的パートナーシップでは、経営層の意思決定が必要です。取締役が直接関与することで、交渉のスピードや信頼性が高まります。

また、取締役は顧客にとっても重要な存在です。経営視点を持つ彼らが関わることで、顧客との長期的な関係構築が可能となり、単なる取引先を超えたパートナーシップが築かれるでしょう。

信頼関係を深めることで、顧客満足度の向上や継続的な取引が期待できます。

取締役の給料の仕組み

給与袋と電卓

(出典) pixta.jp

取締役の給料は、一般社員とは異なる仕組みで決められます。業績や会社の方針によっても変動するケースがあり、ボーナスやストックオプションなどの制度も取り入れられることがあります。

取締役の給料は「役員報酬」と呼ばれる

取締役の給料は「役員報酬」として支払われ、従業員の給料とは異なります。役員報酬は企業の経営状況や利益を考えて取締役会で決められ、通常は毎月一定額が支給されます。

取締役は労働基準法の「労働者」ではないため、残業代や最低賃金の対象外で、雇用保険や労災保険にも加入しません。つまり、解任されたとしても、失業手当を受けられないということです。

しかし、健康保険と厚生年金保険に労使折半で加入している点は、従業員と同じです。

金額の決め方

役員報酬は、定款や株主総会の決議に基づいて決定されます。

取締役は自分で報酬額を決めることができず、客観的な手続きを踏む必要があります。報酬の増減も、株主総会の決議が必要です。さらに、役員報酬の変更は原則として事業年度開始から3カ月以内に行わなければなりません。

この期間を過ぎると、税務上で「定期同額給与」の要件を満たさなくなり、法人税の負担軽減を受けられない可能性があります。従って、役員報酬は事業計画や業績予測を考慮して慎重に決めることが重要です。

取締役になるメリット

握手をするスーツ姿の男性

(出典) pixta.jp

取締役になることで、経営に携わる機会が増え、キャリアの幅が広がる可能性があります。また、年収アップや企業の意思決定に関与できる点も大きな魅力です。取締役になることのメリットを見ていきましょう。

定年がなく高い報酬を得られる可能性

取締役には定年がなく、株主総会で再任されれば長くその役職を務めることができます。一般の従業員と異なり、年齢を理由に退任する必要がないため、経験や人脈を生かしながら経営に関与し続けられるでしょう。

ただし、独自の基本的なルールとして定年制度を設ける企業もあります。取締役の責任は重く、経営判断によって会社の業績や方針に大きな影響を与える立場にあるためです。

また一般的に、取締役の報酬は従業員よりも高額に設定されることが多く、会社の利益や業績に応じた報酬体系が採用される場合もあります。

役員報酬は企業ごとに異なりますが、取締役は経営の中枢を担う存在として、それに見合った報酬をしっかりもらえるケースが多いといえるでしょう。

大きな権限と経営参加

取締役は、会社の未来を左右する重要な決定に関わるため、大きなやりがいを感じられる立場です。経営戦略を立てたり、意思決定に直接参加したりすることで、企業の成長に貢献できます。

また、経営に携わることで、経営者視点や意思決定のノウハウを実践的に学べます。これらの経験は個人にとっても貴重な財産となり、今後のキャリアにおいて、大きな強みとなるでしょう。

取締役には強い権限が与えられますが、それに伴う責任も重大です。経営判断が企業の業績や従業員の働き方に直結するため、常に適切な判断が求められます。その分、成果を上げたときの達成感は大きく、成長を実感できる立場ともいえます。

取締役になるデメリット

パソコンを前に悩む男性

(出典) pixta.jp

取締役には多くのメリットがある一方で、責任の重さやリスクも伴います。取締役として働くデメリットや注意点についても、理解を深めておきましょう。

雇用・労災保険や労働基準法の対象外となる

取締役は会社と雇用契約を結ばないため、先述した通り、雇用保険や労災保険の加入対象外とされます。そのため、従業員が受ける失業給付や労災保険による補償を受けることができず、退任後の生活設計には十分な備えが必要です。

また、取締役は経営者として労働基準法の適用外となり、有給休暇や残業の概念がなく、労働時間の制限もありません。業務の責任が大きいため、長時間労働や休日出勤が続くこともあり得るでしょう。

このように、取締役は従業員とは異なる立場にあり、自由度が高い一方で、労働者としての法的保護がないことがデメリットです。

会社の経営状態に影響されやすい

取締役の報酬は、企業の業績に大きく影響されます。そのため経営が安定していない場合、報酬もその分不安定になるリスクがあります。

特に、設立間もない会社や業績が低迷している会社の取締役は、安定した給与所得者と比べて信用力が低く見られ、住宅ローンなどの審査が厳しくなることもあるでしょう。また、取締役が会社の連帯保証人になっている場合、会社が倒産すると個人の資産にも影響を与える可能性があります。

このように、取締役の生活は会社の業績によって大きく影響する点を、念頭に置いておきましょう。

取締役の定義や役割を理解しよう

笑顔の男性

(出典) pixta.jp

取締役は、企業経営に関わる重要な役職であり、意思決定や監督を担います。社会的な地位や報酬も高く、やりがいを感じられる立場だといえるでしょう。

一方で、従業員とは異なる契約であり、会社の業績が大きく影響します。会社だけでなく自分の生活を守るためにも、責任の大きな役職だといえます。

取締役を目指したい人は、管理職としての実績を積むだけでなく、経営に関する知識を整理し、視野を広げておきましょう。求人情報一括検索サイト「スタンバイ」では、豊富な求人情報の中から、取締役のポジションを狙った案件も掲載しています。
スタンバイ|国内最大級の仕事・求人情報一括検索サイトなら