精神科医になるには?仕事内容や働き方、向いている人などもチェック

精神科医は、精神疾患の治療を担う専門家です。就業するには大学の医学部で専門知識を身に付けた後、医師国家試験に合格する必要があります。精神科医になる方法や仕事内容、さらには精神科医に向いている人の特徴を確認しましょう。

精神科医になるには

勉強する医師

(出典) pixta.jp

精神科医になるためには、どのようなルートがあるのでしょうか?就業するまでのルートや医師国家試験の概要について、詳しく見ていきましょう。

医師国家試験に合格する必要がある

精神科医になるためは、医師免許の取得が必須です。まずは医師国家試験の受験資格を得るために、大学や医科大学の医学部に入学しましょう。医学部では、精神科の専門知識はもちろん、医師として必要な知識全般を習得します。

学校教育法87条では、医学部や医学生の修業年数を6年と定めています。つまり、医学部に入学しても、医師国家試験を受けられるのは最短で6年後です。

国家試験に合格し医師免許を取得したら、大学病院などで研修医として経験を積みます。医療現場で実際に患者の診察に当たり、2年が過ぎれば精神科医として働くことが可能です。

参考:学校教育法87条 | e-Gov法令検索

医師国家試験の概要

医師国家試験は、毎年2月に実施されます。「必修問題」「一般問題及び臨床実地問題」「禁忌肢問題選択数」の3つで構成され、個別に設定された全ての得点基準を満たさなければ合格できません。

2023年2月に実施された第117回試験では、受験者数1万293人に対し、合格者数は9,432人、合格率は91.6%となっています。

医師国家試験の受験資格があるのは、医学部を卒業した人または卒業見込みの人です。外国の医科大学・医学部で学んだ人や外国で医師免許を取得した人は、「医師国家試験受験資格認定」で認定を受けることが必須です。

審査の結果次第では、医師国家試験を受けるにあたり、医師国家試験予備試験の受験や1年以上の実地修練を求められます。

参考:医師国家試験の施行について|厚生労働省
参考:第117回医師国家試験の合格発表|厚生労働省
参考:医師国家試験受験資格認定について|厚生労働省

他の診療科から転科も可能

他の診療科から精神科への転科は、比較的ハードルが低いとされています。精神科医には診療を行うにあたって必須となる資格がなく、どの診療科からでも転科が可能なためです。

特に患者の精神疾患が身体面にも影響を及ぼしている場合、内科や外科の専門知識は非常に役立ちます。このほか麻酔を利用した診療を行う職場では、麻酔科の専門知識が必要です。麻酔科から転科する医師も、歓迎される傾向があります。

精神科医に必要なその他の資格

精神科医の診察

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精神科医になる上で、どのような資格があるとよいのでしょうか?取得しておくと有利になる資格を紹介します。

精神保健指定医の取得がおすすめ

精神保健指定医とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」第18条に基づき厚生労働大臣が指定する資格です。

精神保健指定医資格を持つ精神科医は、患者本人の同意が得られない場合でも、強制入院や行動の制限などを行えます。このほかに、精神医療審査会委員としての診察や、精神病院に対する立入検査・質問なども可能です。

精神保健指定医の取得は必須ではないものの、幅広く活躍したい人は取得して損はありません。

参考:精神保険医とは|厚生労働省

精神保健指定医の概要

精神保健指定医は、患者の意思に反する医療行為を行うことが認められています。治療にあたっては人権への配慮が必須となるため、資質を認められた精神科医しか指定を受けられません。

精神保健指定医となる条件は、以下のように法律によって定められています。

  • 5年以上診断又は治療に従事した経験を有すること
  • 3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること
  • 厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること
  • 厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修
    (申請前3年以内に行われたものに限る)の課程を修了していること

精神保健指定医として指定を受けた場合でも、患者の行動制限は最小限に抑えるよう努めなければなりません。

精神保健指定医が不当な拘束を行ったり適切な治療を行わなかったりした場合は、厚生労働大臣により、職務の停止が命じられます。

出典:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第18条 (精神保健指定医) | e-Gov法令検索

精神科医の仕事内容

問診

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精神科医は、精神疾患を抱えた患者の治療を行うのが仕事です。仕事内容について、具体的に見ていきましょう。

患者を問診する

精神科医が患者の病状を把握するためにまず必要なのは、患者自身の話を聞くことです。

表に見えにくい精神疾患は、身体的な検査のみでは原因を特定できません。患者の話す内容・口調・様子などから、どのような病気が考えられるのか・何が病気を引き起こしているのかを判断します。

問診は1時間程度行われるのが一般的ですが、複数回にわたるケースも珍しくありません。場合によっては本人だけでなく、患者の様子を知る近親者の話を聞くこともあります。

精神科医が行う問診は専門性が高いことから、「精神科的診断面接」などと呼ばれます。精神科医が診断する病気は、うつ病・統合失調症・拒食症・双極性障害・自閉症・認知症・各種依存症など多様です。

心理療法や薬物療法で治療を行う

問診によって診断が確定すれば、患者に合わせた治療を行います。精神科の主な治療方法は、心理療法や薬物療法です。

心理療法とは、各種病状の改善を目指して面談・カウンセリングなどを行うことを指します。心理療法にはさまざまな手法があり、精神科医は患者の病状改善に有効な手法を選択しなければなりません。

一方薬物療法とは、薬を使って症状の改善を図る治療法です。さまざまな薬を使用しますが、「症状改善に有効な薬」「病気そのものに有効な薬」に大別されます。

例えばうつ病の治療なら「抗うつ剤」、不眠症の治療なら「睡眠薬」が処方されるでしょう。

なお心理療法と薬物療法は、どちらか一方があればよいというものではありません。精神科医は患者の様子を見ながら、心理療法と薬物療法を組み合わせて治療を進めます。

他の診療科と連携する場合も

患者によっては、精神の不安定さが健康状態に悪影響を及ぼしているケースがあります。この場合、精神科医だけで治療にあたるのは困難です。内科や外科など、他の診療科と連携して、病状改善の働きかけを行います。

またアルコールやギャンブルなどの依存症の治療は、家族や社会によるサポートが必要です。患者の家族をはじめ、各種依存症相談拠点機関や支援グループ・保健所などと連携しながら、治療を進めていくこととなるでしょう。

精神科医の働き方

医師

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精神科医となった場合、どのような働き方になるのでしょうか?精神科医の勤務先や働きやすさを紹介します。

精神科医の勤務先

精神科医には、主に「医療機関の勤務医となる」「開業して個人開業医となる」という働き方があります。

勤務医となった場合、勤務時間や労働条件・給与は勤務先に準じます。また入院の受け入れを行っている総合病院などは、基本的に交代制です。夜勤や休日出勤・急患への対応などを求められる場合があります。

一方、個人で開業する場合には、勤務時間の設定は自由です。9時から18時ごろまでを勤務時間とするケースが一般的ですが、社会人を対象とするクリニックなら夜間・休日営業を行う場合もあります。

また、昨今は社員のメンタルヘルスが重視される時代です。企業からの要請を受けて、企業専属の精神科医として働く人も増えています。

比較的ワークライフバランスを維持しやすい

「医師の勤務形態は過酷」とされる中、精神科医は比較的、生活と仕事を両立させやすいともいわれます。

精神科医の仕事は「緊急性が低いものが多い」「時間外労働が発生しにくい」という点が特徴です。患者の命に関わる緊迫した場面に立ち会う機会が少なく、仕事も通常であれば定時に終わります。プライベートな時間を確保しやすく、生活面を充実させられるでしょう。

また精神科医は、施設や公的機関などからのニーズも豊富です。働き方の選択肢が多く、個人の状況や考え方にマッチした働き方を実現できます。

精神科医に向いている人

笑顔で問診をする女性

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精神科医には、どのような資質が求められるのでしょうか?精神科医に向いている人の特徴を紹介します。

コミュニケーション能力が高い

コミュニケーション能力が高ければ、必要な情報を患者から聞き出しやすくなります。

適切な治療を行うためには、病気が発症した理由や背景について適切に把握・理解することが必要です。相手に合わせて必要な質問を投げられること・相手が言いたいことを正しくくみ取れることは、精神科医として非常に重要な資質です。

またコミュニケーション能力の高い人は、相手に警戒されにくい傾向があります。精神的な疾患を抱える人の中には、他人と向き合うのが苦手な人も少なくありません。

人から「話しやすい」「話を聞いてもらいたくなる」などといわれる機会の多い人は、精神科医に向いています。

冷静な判断ができる

常に冷静な態度を維持できる人も、精神科医の適性があるといえます。精神的な課題を抱える患者の多くは、メンタルが不安定です。予測できない行動・言動に走るケースも多く、医師は常に一歩引いた状態で相手をチェックする必要があります。

また患者によっては、距離を縮めすぎない方がよいケースもあるでしょう。相手の心情に共感することは必要ですが、感情に引きずられてしまうのは望ましくありません。

状況に応じて共感を示したりフラットな対応ができたりする人は、患者にとって頼りになる医師となるはずです。

忍耐力がありメンタルが強い

忍耐力がある人・メンタルが強い人も精神科医に向いています。精神病や依存症はよくなったり悪くなったりを繰り返すケースが多く、治療が長期化しがちです。病状が悪化しても焦らず、忍耐強く患者に接することが必要となります。

またメンタルに不調を抱えた人と真剣に向き合うことは、医師自身のメンタルにも大きな負担となる可能性があります。患者から悪態をつかれたり激しい言葉をかけられたりしても動じない、精神的な強さが必要です。

精神科医は人の心に寄り添う仕事

メンタルヘルスのイメージ

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精神科医になるためには、大学の医学部で学んだ後、医師免許の取得が必要です。免許取得後に2年間の臨床研修を受ければ、精神科医として働けます。第一線で活躍したい人は、精神保健指定医を目指すとよいでしょう。

近年は精神疾患についての認知が進んでいるため、専門機関を受診する人が増えています。精神科医のニーズは高く、幅広い活躍の場があるでしょう。精神科医は「人の心の不調を癒やしたい」と考える人には最適な仕事です。