税理士の将来性と業界動向を解説。AI時代に求められる能力とは?

税理士を取り巻く環境は常に変化しています。近年は、ITツールの導入や人々の会計リテラシーの向上によって「税理士の仕事が減る」ともいわれています。今後、業務内容や役割はどう変化していくのでしょうか?将来性やAIと共存するヒントを解説します。

「税理士に将来性なし」といわれる理由

経理作業をする手元

(出典) pixta.jp

税理士は、税務書類の作成や納税のアドバイスに携わる税金のプロフェッショナルです。税理士資格を取得するには、難易度の高い国家試験に合格しなければなりません。

「士業は食いっぱぐれがない」というイメージがありますが、近年は将来性を案ずる声も聞かれます。税理士に将来性がないといわれるのは、なぜなのでしょうか?

テクノロジーの導入で省人化が進むため

近年は、テクノロジーが目覚ましい進展を遂げています。税理士業界に限った話ではありませんが、今後はAIやRPA、クラウドサービスなどによって、多くの業務が代替されるといわれています。

法人を顧客とする税理士の場合、定期的に顧客のもとを訪れ、仕訳入力の確認・仕訳証憑の収集などを行うのが一般的です。決算期は帳簿に基づいて決算整理を行い、決算書を作成します。

将来的には、仕訳作業・決算作業はすべてAIが行うようになるかもしれません。テクノロジーが導入されれば、業務の省人化が進むのは明らかです。

国内の中小企業数が減っているため

将来が不安視される理由の1つに、中小企業数の減少が挙げられます。税理士の顧客は、大半が中小企業と個人事業主です。顧客数が減少の一途をたどれば、生計を立てるのが困難になる可能性も出てくるでしょう。

国内の中小企業数が減っている主な要因は、経営者の高齢化です。後継者が見つからないまま引退年齢を迎えれば、黒字であっても廃業を選択せざるを得ません。

2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人で、そのうち約半数が後継者不在の問題を抱えています。

参考:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題|経済産業省

税理士の数が増加しているため

税理士試験の受験者数は減っているものの、税理士登録者数は右肩上がりに増えています。以下は、会計年度別の登録者数です。

  • 2000年度:6万5,144人
  • 2005年度:6万9,243人
  • 2010年度:7万2,039人
  • 2015年度:7万5,643人
  • 2020年度:7万9,404人
  • 2021年度:8万163人

中小企業の数が減る一方で、税理士の登録者数は年々増加しています。業界内の需要と供給のバランスが崩れ、少ないパイを多くの税理士が奪い合う状態になるのではないかと懸念する人は多いようです。

参考:税理士制度|国税庁

税理士業界の現状と今後の動向は?

税理士の手元

(出典) pixta.jp

税理士の将来性については、さまざまな意見があります。将来性がないとはいえないものの、技術革新や顧客の変化、世代交代などによって、税理士を取り巻く環境はどんどん変わっていくでしょう。税理士の現状と今後の動向を解説します。

人間とAIの分業体制へ

「AIに仕事を奪われる」と将来を不安視する人もいますが、税理士の仕事はなくならないと考えられます。

AIに代替される業務は、仕訳データの入力・税務申告書の作成といった定型業務が中心です。相手の意図をくみ取ったり、複雑な事例を判断したりする能力は備えていないため、AIによる完全代替の可能性は極めて低いでしょう。

AIが導入されると、税理士の働き方に変化が生じます。人間とAIの分業が当たり前になり、人は人にしかできない仕事を突き詰めていくことになるでしょう。

AIが定型業務・事務作業を一手に引き受けてくれるので、税務相談・税務調査などにより多くの時間を割けるようになります。

若手税理士が活躍できるチャンスが到来

業界規模が縮小しているにもかかわらず、税理士の数は年々増加しています。士業には定年がないため、「今から目指しても活躍できるチャンスは少ない」と考える若年層もいるでしょう。

しかし、税理士業界はベテランが中心ですが、近年は組織の若返りを目的に、若手の採用を強化するケースが増えています。

ベテラン税理士と比べ、若手税理士はITツールの扱いに慣れています。人間とAIの分業が進めば、AIを使いこなせる若手税理士の活躍シーンは大きく増えるでしょう。

2022年度の税理士試験の状況を見ると、41歳以上で受験している人が全体の約38%を占めており、25歳以下はわずか17%前後です。20~30代の人材は、業界内でも重宝される存在といえます。

参考:令和4年度(第72回)税理士試験結果|国税庁

副業解禁で顧客が増加する可能性も

主要顧客である中小企業が減る一方で、新たな顧客も生まれています。2018年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」のモデル就業規則から、副業禁止の規定を削除しました。

2018年以降、副業を解禁する企業が増え、会社員と個人事業主の二足のわらじを履く人が目立ち始めています。今後は、副業・兼業をする会社員が税理士の顧客になる可能性が高いでしょう。

確定申告が簡単にできるクラウドツールも普及していますが、これまで一度も税金の申告をしたことがない会社員にとって、税金の仕組み・ルールを正しく理解するまでには時間がかかります。

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

これからの税理士に求められること

税理士の打ち合わせ

(出典) pixta.jp

社会にテクノロジーが浸透すると、多くの職業はこれまでの役割や仕事内容を見直さざるを得なくなるでしょう。AI時代に、税理士にはどのような役割が求められるのでしょうか?

付加価値の高いサービスの提供

AIが定型業務・事務作業を担うようになれば、人はより付加価値の高い業務に時間を費やせます。税理士の独占業務は、税務書類の作成・税務代理・税務相談の3つですが、今後は税務相談がメインになる可能性が高いでしょう。

税金面のアドバイスだけでなく、経営課題の解決・計画の実行支援などを行う経営コンサルタントのような役割が求められます。

税務には課税・非課税の判断が難しいグレーゾーンが多くあり、専門的知識を備えた税理士でなければ対処できないケースが少なくありません。自分の専門性を高め、AIには担えない高度な知識・スキルを要する業務にシフトしていくことが求められます。

顧客とのコミュニケーションの強化

AIはルール化・マニュアル化できる仕事は得意ですが、相手の立場や気持ちを理解しながらコミュニケーションを取ることは苦手です。税理士は、AI導入によって空いたリソースを、顧客とのコミュニケーションに充てる必要があるでしょう。

日本の税制は年々複雑化しており、税改正のたびに企業側の作業負荷は増しています。ツール導入で税務申告を内製化したとしても、プロのアドバイスなしでは進められないケースも多々あるのです。

経営者にとって、税理士はいざというときに頼れる相手です。企業の外部パートナーとして、信頼関係の強化に努めなければなりません。

税理士業界を生き抜くためのポイントは?

パソコンと電卓

(出典) pixta.jp

今後は、中小企業の減少や税理士登録者の増加によって、税理士間の競争が激化します。AIとの分業がスタートすれば、活躍できる人とできない人に命運が分かれる可能性もあるでしょう。業界で生き抜くためには、何を意識したらよいのでしょうか?

AIやRPAを使いこなす

時代に淘汰されないためには、以下のような最新ツールを使いこなせるようになる必要があります。AIに仕事を奪われると捉えるのではなく、いかに活用するかを考えましょう。

  • AI-OCR(帳票読み取り)
  • RPA(ロボットによる業務自動化)
  • クラウドストレージ
  • コミュニケーションツール

近年は、中小企業でもDXが進んでいます。自社のITシステムに対応できるかどうかという点から、顧問税理士を選ぶ企業も少なくありません。

高度化・複雑化する情報化社会において、通信・ネットワーク・セキュリティに関する最低限の知識も身に付けておく必要があります。

コンサルティング力を磨く

人間とAIの分業体制が進めば、税理士の業務は税務相談・経営コンサルティングがメインになります。ライバルとの差別化を図るためにも、コンサルティング力を磨きましょう。

コンサルティング力とは、相手のニーズを的確にくみ取り、状況に応じて適切なアドバイスをする能力です。

具体的には、問題を解決に導くための「問題解決能力」や、相手に情報を正しく伝える「プレゼンテーション力」、物事を体系的に整理する「論理的思考力」なども含まれます。これらは一朝一夕では身に付かないため、早急に訓練をスタートさせましょう。

専門分野を確立する

税理士の業務は幅広く、相続に関してアドバイスする機会もあれば、企業の合併・買収に関わるケースもあります。さまざまな業務に携わるとはいえ、すべての領域に精通する人は少なく、誰にでも得手不得手があります。

「〇〇ならあの税理士に依頼しよう」と顧客から選んでもらえるように、自分の専門分野を確立しましょう。

近年は、特定の業界・業種に特化した「特化型税理士」が増えています。税務・経理の代行だけでなく、経営面のコンサルティングまでをサポートするため、顧客からは厚い信頼が寄せられます。

国際税務や事業承継など、時代のニーズに合った分野を極めるのもよいでしょう。専門性を磨けば磨くほど、より付加価値の高いサービスを提供できるようになります。

需要が見込める専門分野をチェック

税理士

(出典) pixta.jp

日本の税制は年々複雑化しており、仕事のスタイルを「広く浅く」から「狭く深く」にシフトする税理士が増えています。自らの専門性を磨くにあたり、需要が見込める分野をリサーチしておくことが重要です。

国際税務

グローバル化が加速する現代では、日本企業が海外で事業を展開したり、海外企業が日本で事業を開始したりする事例が増えています。日本と海外では税法が異なるため、国際間の取引では二重課税・脱税が生じるケースが珍しくありません。

国際税務では、国境を越えた事業活動や組織再編に適用される課税関係を取り扱います。英語・中国語などの語学力に長けた人は、国際税務を極めるのが望ましいでしょう。

租税条約や非居住者課税の取り扱いなども学ばなければならず、ハードルはかなり高いといえますが、高収入につながるキャリアを積める可能性があります。

事業承継(M&A)

事業承継とは、会社の経営権や事業を後継者に引き継ぐことです。引退年齢を迎える経営者の増加に伴い、事業承継のニーズは右肩上がりに高まっています。

かつては、身内の中から後継者を選ぶ「親族内承継」が一般的でしたが、近年は身内や従業員以外に事業を引き継ぐ「第三者承継(M&A)」が増加傾向にあります。事業承継における税理士業務の一例を紹介しましょう。

  • 企業価値の評価
  • 自社株式の評価
  • 事業承継の手段の選定
  • 税金面のサポート
  • 資金調達の支援
  • 税務面の買収監査

事業承継に関わる税制は複雑な上に改正が多いため、常に知識をアップデートし続ける必要があります。

相続

税理士であれば誰でも相続税は取り扱えますが、得意な人とそうでない人に分かれやすい傾向があります。

税理士試験には必須科目と選択科目があり、相続税は選択科目に該当します。相続税の知識がなくても税理士になれるため、人によって知識・経験の差が出やすいのです。高齢化社会の進展に伴い、相続専門の税理士は重宝されるでしょう。

今後は、相続財産に「デジタル資産」が多くなると見込まれます。デジタル資産とは、運用・管理しているアカウントにログインして初めて確認できる資産のことです。代表的なものとして、ネット銀行の預金口座やマイレージ、仮想通貨などが挙げられます。

未経験から税理士へのキャリアチェンジは可能?

電卓を見て悩むビジネスマン

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税理士の資格は生涯にわたって有効です。士業の中でも難易度が高いため、資格を手にすれば就職・転職が有利に進むでしょう。未経験から税理士へのキャリアチェンジは可能なのでしょうか?

まずは税理士試験の合格を目指そう

税理士になるには、税理士試験の合格に加え、租税または会計に関する実務経験を2年以上積む必要があります。

試験は、11科目から5科目を選んで受験する「科目合格制」です。難易度は高いですが、毎年1科目ずつの受験も可能なため、地道に努力を続けましょう。

2023年度からは受験資格要件の見直しが行われ、若い世代が資格試験に挑戦しやすい環境が整いました。

現在、税理士業界は高齢化が進んでいます。10年後・20年後にはベテラン税理士が引退する年齢を迎えるため、将来を見越した資格取得は大きなプラスの結果につながるはずです。

参考:税理士の資格取得 - 日本税理士会連合会
  :税理士試験の受験資格要件の緩和 - 日本税理士会連合会

税理士補助として経験を積む手もあり

税理士補助の仕事は、税理士資格取得に必要な実務経験として認められます。税理士事務所で働きながら勉強を進めれば、目標にいち早く到達できるでしょう。

税理士補助とは、税理士の補助作業を担うポジションで、会計スタッフや税務アシスタントとも呼ばれています。仕訳作業や経理代行、請求書発行を担当する場合もあるため、日商簿記の資格や事務経験があると採用されやすいでしょう。

税理士事務所の仕事には繁忙期があり、パートタイムを募集するケースもあるようです。正社員採用となるとハードルが高くなりますが、パートタイムであれば業界未経験者でも比較的採用されやすいでしょう。

税理士の役割は時代とともに変化する

税理士

(出典) pixta.jp

時代とともに、税理士の役割は変化します。AIが導入されれば、業務の軸は税務相談・経営コンサルティングなどの高付加価値業務へ移行すると考えられます。

来るべきAI時代を見据え、これからどのようなスキルを身に付ける必要があるのかを考えてみましょう。税理士を目指す人は試験勉強を進めながら、税理士事務所で働く選択肢を視野に入れるのが賢明です。

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