税理士は、AIの台頭など複数の社会背景から「将来性がない」といわれるケースがあります。しかし、グローバル化に伴う国際税務など、現代社会だからこそ需要が高まっている業務があるのも事実です。これからの税理士には、「人間ならでは」の仕事が求められます。
この記事のポイント
- 税理士に将来性がないといわれる理由
- AIの台頭をはじめとする社会背景から、税理士には将来性がないという主張があります。
- 税理士の需要が見込める業務
- コンサルティング業務や海外の税法に明るい税理士が、今後は求められていくと推測できます。
- これからの税理士に求められるスキル
- コミュニケーションスキルや提案力の他、学び続ける姿勢やITスキルも必要です。
税理士に将来性はある?ないといわれる3つの理由
税理士の仕事について「将来性がない」という主張があります。はじめに、その背景について見ていきましょう。
AIの台頭とデジタル化
1つ目は、AIの台頭をはじめとするデジタル化です。昨今「多くの仕事はAIで代替できる」といわれる時代になっています。
アメリカの非営利法人OpenAIとペンシルベニア大学による共同調査(2023年3月)では、生成AIの基盤となる「大規模言語モデル」の影響を大きく受ける職業の1つとして、税理士が挙げられました。
同調査では、数学者や経済アナリストなど、データを扱う職種が多く提示されています。記帳代行をはじめとするデータ入力作業はAIの導入でより効率的になるため、税理士の仕事の半分以上は、AIによって時間が短縮されると予測可能です。
また、2021年には電子帳簿保存法が改正されています。従来、帳簿・信憑書類のデジタル保存には税務署の承認が必要でした。しかし、法改正によってその手順は不要になっています。
帳簿のデジタル保存やレシート・領収証のスキャンが可能となり、一般の人々にとっても税務申告のハードルは下がりました。こうしたデジタル化の推進も、税理士のあり方に影響を及ぼしています。
出典: GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models
会計ソフトの普及
2つ目は、会計ソフトの普及です。2017年の時点で、すでに67.7%の企業が経理・会計部門に情報システムを導入しているというデータがあります。製造・物流・営業をはじめとした他の職種に比べても、高い導入率です。
昨今では、従来の会計ソフトに加え、クラウド会計ソフトの普及も進んでいます。クラウド会計ソフトでは、インターネット接続環境があればいつでも・どこでも記帳が可能です。銀行口座などと連携し、自動的に仕訳を行う機能を備えたソフトもあります。
クラウド会計ソフトの登場により、記帳の手間は大幅に削減されたといえます。税理士に依頼せずとも、記帳や確定申告に関わる書類が作成できるようになりました。
このような経理・会計のICT化も、「税理士に将来性がない」という主張の根拠として挙げられます。
中小企業の減少
3つ目は、中小企業の減少です。中小企業は税理士の主な顧問先です。税理士は企業に対し、財務・税制などの観点から経営支援を行います。
税務・会計に関するアドバイスを担当する他、金融機関との信頼関係の構築なども支援の一環です。
しかし中小企業庁の調査によると、中小企業の事業者数は年々減っているという結果が分かりました。2016年~2021年の5年間では、1年あたり4.3万者が減少しています。
クライアントとなる中小企業が減少を続けているため、それに伴い税理士の仕事も減っていくという主張があります。
出典:中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)|中小企業庁
税理士に将来性はある?需要が見込める業務
「将来性がない」といわれることがある税理士ですが、需要が見込める業務も存在します。今後も需要が見込まれるであろう、税理士の業務を紹介します。
税務調査時のサポート
税務調査とは、納税者が正しく税金を納めているかどうかを確認する作業です。国税局や税務署の調査官によって実施されます。法人税・所得税などに関しては「申告納税制度」が採用されています。同制度は納税者の申告内容によって、納税額が決まる仕組みです。
税務調査は、法人や個人事業主など確定申告が必要な人を対象に、申告内容の正しさを点検するために行われます。事業主は経営のプロですが、必ずしも税金に対する理解が十分にあるとは限りません。そこで、税理士に税務調査の同席を依頼します。
税務調査時のサポートでは、税務調査官に対し、経営者に同席した税理士が専門知識を基に不足や矛盾なく説明・対応します。この業務にはノウハウ・経験則が必要になるため、AIには対応が難しいといえるでしょう。
国際税務
国際税務とは、国際的な事業に伴って生じる税金への対応全般を指す言葉です。明確な定義を持つ言葉ではありませんが、グローバル化が進む現代においては、海外の税法にも明るい税理士の需要が高まっています。
国際税務の業務内容は多岐に渡ります。海外への進出・撤退時の税務対応や海外企業の買収サポートなどはその一例です。
国際税務に携わるためには、各国の税法に関する知識が求められます。タックスヘイブンや租税条約をはじめ、押さえておくべきトピックも多く存在しますが、これからのグローバル社会で求められる人材だといえそうです。
コンサルティング業務
税理士によるコンサルティングでは、財務の観点から業務の効率化・経営戦略・節税などに関するアドバイスを行います。税制の専門家として、決算書から財務状況の問題点を洗い出し、改善策を提案する業務です。
また課題解決だけではなく、融資の審査に向けて具体的な事業計画を策定できれば、資金調達にも強い税理士を目指せます。このような経営支援にも手厚く関わる税理士は、今後の需要が見込まれるでしょう。
税務相談
税務相談とは、個人・法人から税理士が受ける、税金に関する相談全般を指します。税務相談は税理士法で定められた税理士の独占業務です。
税理士以外が税金に関する相談を受けることは法律で禁じられています。なお、税務相談以外にも税務代理・税務書類の作成が独占業務にあたります。
税務相談を無資格者ができない理由には、税務の事情の複雑さが挙げられます。インターネット社会の現代では気軽に相談ができるものの、専門家が関わらなければ、情報は誤りを含んでいる可能性が高まります。
税理士が受ける具体的な相談内容としては、決算や節税に関するもの、経理・資金繰りについての相談などさまざまです。
税金に関する制度はたびたび変化し、計算方法も複雑です。制度に対するしっかりとした理解があり、税金の知識に精通した専門家である税理士でなければ、税務相談を受けることはできません。
クライアントと信頼関係を築き、顧客に応じて適切な回答を出す業務は、人間だからこその仕事だといえます。
M&A
企業の成長戦略や事業再編を目的として実施される合併・買収の過程では、多様な専門知識が必要です。税理士は、戦略策定からクロージングまで、こうしたM&Aに関する業務を一貫してサポートします。
M&Aにおける税理士の主な役割は、デューデリジェンスと呼ばれる売り手企業への財務調査です。売り手企業に潜む税務リスクを洗い出し、買収の事前に問題点を特定します。
M&Aの支援を手掛ける立場としては、他に証券会社や投資銀行があります。税理士の特徴は、それらと比較して中小企業の事情に明るい点です。顧問契約などを通じて中小企業とのつながりが深い税理士は、規模の小さいM&A案件にも対応しています。
税理士に将来性はある?今後求められるスキル
将来性がないといわれる税理士として今後活躍するためには、どのようなスキルが必要になるのでしょうか。需要が見込まれる税理士の業務を踏まえ、今後の税理士に求められるスキルについて解説していきます。
コミュニケーションスキル
1つ目は、コミュニケーションスキルです。税理士と聞くと、黙々と申告書類を作成しているイメージを抱く人がいるかもしれません。しかし税理士の仕事では、経営者との密な連携が必要です。
経営者にとって、お金の相談ができる相手は多くありません。そこで安心してお金の相談ができる相手が、税理士という立場でもあります。その他にも、得意先を訪問する・税務調査に立ち会うなど、何かとコミュニケーションスキルを要求される場面が多く存在します。
「この人なら任せられる」と思ってもらえるような信頼関係を構築するのも、税理士の仕事の1つです。
提案力
2つ目は、提案力です。特に、経営サポートを手掛けるコンサルティング業務では、経営者からの理解を得られるような提案をしなければなりません。
経営についての最適な道筋を提案しながら、経営者に伴走して税務に取り組む姿勢があれば、信頼関係の醸成につながります。
また、コンサルティング業務にあたっては、周囲に納得してもらえる交渉力も必要です。専門知識を活用しながらも、分かりやすく説明できる話し方を心がけましょう。
学び続ける姿勢
3つ目は、学び続ける姿勢です。税理士になるためには、難関国家試験の合格が前提です。しかし、試験の合格がゴールではありません。
税制の改正・経済情勢によって、税理士を取り巻く状況は変化します。そのたびに、知識をアップデートしていくことが重要です。知的好奇心が旺盛で、情報収集に意欲的な人が向いているといえます。
また税理士の仕事では、多様な業界のクライアントに対応します。各業界の知見を積極的に蓄積していけば、クライアントとのコミュニケーションも円滑になるでしょう。
ITの知見
4つ目は、ITの知見です。データ入力などの自動化できるタスクにAIを活用すれば、より高度な戦略の策定・立案に時間を充当できるようになります。
財務状況をはじめとするデータ分析においても、一定のITスキルが要求されます。これからの時代には、AIと共存できる税理士が求められているといえるでしょう。
将来性のある税理士を目指すための基本ステップ
ここまで、将来性というトピックから税理士について解説してきました。最後に、税理士を目指すための基本ステップを紹介します。
税理士試験に合格する
税理士は国家資格であり、合格率10.0%台の難関試験に合格しなければなりません。税理士試験は年に1度、8月に実施されます。
会計科目・税法科目の計11科目から5科目を選択し、回答する流れです。必須となる会計科目には、受験資格が設けられていないため、誰でも受験可能です。
一方の税法科目には受験資格が設定されています。法学部・経済学部・商学部など、社会科学に関する学部を卒業した人が受験可能です。ただし、指定の学部を卒業していなくても、日商簿記検定1級合格によって認定されるなど、受験が認められるケースは存在します。
なお選択科目のうち、消費税法と酒税法、もしくは住民税と事業税を同時に選択することは認められていません。税理士試験は「科目合格制」です。科目ごとの合格を続けながら、3年~5年をかけて突破するケースが多いといわれています。
2年以上の実務経験を積む
税理士として仕事を始めるためには、租税・会計に関する業務に従事した経験が求められます。税理士事務所や会計事務所での勤務経験を「実務経験」とするパターンが一般的です。
また、税務署での勤務経験や一般企業での経理部門の仕事などが実務経験として認められる場合もあります。これらの実務経験は、試験合格前のものでも構いません。2年以上の実務経験を積んだ後に、日本税理士会への登録で税理士として働けるようになります。
税理士は将来性のある仕事
AIの台頭をはじめ、複数の社会的背景が税理士の仕事に影響を及ぼしているのは事実です。しかしグローバル化に伴う国際税務・M&Aのサポート・コンサルティングなどの経営支援の需要は高まっています。
需要に応じるためには、税制度や経済情勢の変化に取り残されないよう、知識のアップデートが不可欠です。コミュニケーションスキルや提案力を磨けば、今後も社会から求められる税理士として活躍できるでしょう。
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