言語聴覚士の将来性と需要を徹底解説。スキルアップできる資格とは?

高齢化の進展や診療報酬の改定などにより、言語聴覚士の需要が高まりつつあります。時代のニーズに応えるためには、どのようなスキルを磨けばよいのでしょうか?言語聴覚士の将来性が高いといわれる理由や、各分野における働き方を解説します。

言語聴覚士には将来性があるとされる理由

ハートフル

(出典) pixta.jp

言語聴覚士とは、「話す」「聞く」「食べる」に問題を抱えている人に対し、専門的な訓練や指導、助言を行う職種です。AIの導入や社会情勢の変化で将来性が危ぶまれる職種が多い中、言語聴覚士には将来性があるとされる3つの理由を解説します。

高齢化の進展

高齢になると、身体機能や認知機能の低下により、摂食・嚥下障害や失語症、老人性難聴を患いやすくなります。

少子高齢化が進む日本は、人口に占める高齢者の割合が増加傾向にあり、今後は言語聴覚士の需要が右肩上がりに増えると考えられるでしょう。

2023年3月31日時点において、言語聴覚士国家試験の合格者累計は3万9,896人でした。理学療法士国家試験の合格者累計(21万3,735人)と比べるとまだまだ少なく、このまま高齢化が進めば、人手が不足する可能性があります。

参考:会員動向 | 日本言語聴覚士協会について | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会

参考:統計情報|協会の取り組み|公益社団法人 日本理学療法士協会

介護保険法や診療報酬の改定

介護保険法や診療報酬の改定により、言語聴覚士が活躍できるフィールドは広がっています。

2020年度の診療報酬改定では、リハビリテーションに関わる施設基準の見直しが行われ、呼吸器リハビリテーション料の実施者と難病患者リハビリテーション料の施設基準に言語聴覚士が追加されました。

また、2021年度の介護保険法の改定では、生活行為向上リハビリテーションにおいては、算定要件に「指定通所リハビリテーション事業所の医師または医師の指示を受けた理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が当該利用者の居宅を訪問し生活行為に関する評価をおおむね1月に1回以上実施すること」という項目が、新たに設けられました。

 

参考:令和2年度診療報酬改定の概要

参考:介護保険制度の概要 |厚生労働省

 

地域包括ケアシステムの推進

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目標に、政府は地域包括ケアシステムの構築に力を入れています。

地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で高齢者が自立した生活が送れるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援を包括的に提供する取り組みを指します。

高齢者の健康の回復には、リハビリテーションが不可欠です。摂食・嚥下機能やコミュニケーション機能のリハビリテーションに関わる言語聴覚士は、地域包括ケアシステムの担い手として重要な存在となるでしょう。

今後は、日本各地で言語聴覚士が活躍できる医療機関や介護施設、福祉施設が増えていくと考えられます。

参考:地域包括ケアシステム - 厚生労働省|厚生労働省

各分野における言語聴覚士の働き方と需要

シニアの女性と医療従事者

(出典) pixta.jp

言語聴覚士が活躍できる分野は多岐にわたりますが、中でも「医療分野」「介護・福祉分野」「教育分野」で需要があります。それぞれの分野における勤務先や働き方の特徴を解説します。

医療分野

言語聴覚士の活躍場所として最も多いのが医療分野です。医療機関においては、リハビリテーション科・耳鼻咽喉科・小児科・形成外科・口腔外科などが主な勤務先となるでしょう。

一般社団法人・日本言語聴覚士協会によると、言語聴覚士の免許を持つ正会員のうち、60.27%が一般病院・特定機能病院・診療所などの医療施設で働いています(2023年3月31日時点)。

2020年度診療報酬改定により、医療分野における言語聴覚士の需要が高まりを見せています。

これまでは、言語障害や聴覚障害、摂食・嚥下障害のリハビリテーションが中心でしたが、今後は医療チームの一員として、さまざまな疾患を持つ患者に関わっていくことになるでしょう。

参考:会員動向 | 日本言語聴覚士協会について | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会

介護・福祉分野

同協会のまとめで、言語聴覚士の勤務先として2番目に多いのが、医療・介護分野です。「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」2条により、介護老人保健施設では、リハビリテーション専門職である理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれかを、入所者100人に対して1人以上配置しなければなりません。

福祉分野における主な勤務先は、障害者福祉施設、児童福祉施設、保健所などなどです。言語聴覚士は主に、言語障害や聴覚障害、摂食・嚥下障害などを抱える利用者を担当します。

参考:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 | e-Gov法令検索

教育分野

言語聴覚士というと、医療や介護・福祉の分野で活躍しているイメージが強いですが、教育分野でのニーズもあります。

主な勤務先は特別支援学校や療育センターで、発達障害・言語障害・発音障害・聴覚障害・知的障害などがある子どもたちに、言葉の訓練や支援を行うのが主な役目です。教職員や保護者と連携しながら、言語の獲得や能力の向上を目指します。

教育現場に勤務する場合、言語聴覚士の資格のほかに、教員免許が必要になる場合があります。また、現場経験と指導力を磨けば、言語聴覚士を育成する講師への道が開けるかもしれません。

これからの人材に求められることは?

医療従事者

(出典) pixta.jp

言語聴覚士は需要の高い職業ですが、資格を取れば必ずしも仕事が見つかるわけではありません。有資格者が増加を続ければ、待遇アップを望むのも難しくなるでしょう。業界で長く活躍していくためにも、世の中のニーズに合った人材を目指しましょう。

自分の専門領域を極める

ほかの言語聴覚士と差をつけるには、自分の専門領域を極めることが重要です。特定の領域を極めれば、「このケースはあの人に任せよう」と周囲から頼りにされるでしょう。

自分の専門を決める上では、供給が少ない領域を選択するのも一手です。日本言語聴覚士協会によると、「小児言語・認知」と「聴覚」に携わる言語聴覚士が全体的に少ない状態です。

高齢化に伴い、軽 ・中等度難聴患者の数が増加すれば、聴覚のプロフェッショナルはさまざまなシーンで重宝されるでしょう。

参考:言語聴覚士とは | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会

コミュニケーション能力を強化する

言語聴覚士は、コミュニケーション機能の改善に関わる職種のため、コミュニケーション能力は欠かせません。リハビリテーションは個室で行うケースが多く、意思疎通がうまくいかないと、相手は訓練を苦痛に感じてしまう可能性があります。

患者や利用者の中には、コミュニケーションに障害を抱えている人もいるため、表情やしぐさ、会話の内容から心情を理解したり、やりとりが円滑に進むようにリードしたりする姿勢が求められます。

また、言語聴覚士としてキャリアを積んでいくと、チームリーダーを任されるチャンスがあります。人の上に立ってチームをまとめていく上でも、コミュニケーション能力は不可欠でしょう。

言語聴覚士のスキルアップにつながる資格

勉強する男性

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言語聴覚士として働くには、言語聴覚士国家試験に合格する必要があります。スキルアップを目指すなら、業務に関連する民間資格も取得しましょう。プラスアルファの知識があれば、患者や利用者により適したリハビリテーションを提供できます。

認定言語聴覚士

認定言語聴覚士制度は、高度な技術と知識を有した言語聴覚士を育成するための制度です。

一般社団法人・日本言語聴覚士協会が主催する生涯学習プログラム(基礎・専門)、臨床経験を履修し、認定言語聴覚士講習会を受講すると、試験合格者に認定言語聴覚士の資格が与えられます。資格更新は5年に1回で、定められた更新条件を満たさなければなりません。

認定言語聴覚士の資格を取得するメリットは、高度な技術と知識を持ったプロフェッショナルとして、周囲からの信頼を得やすくなる点です。

さらに、一般社団法人・日本摂食嚥下リハビリテーション学会の認定士資格の申請・取得が可能なため、転職に役立つ武器が1つ増えます。

なお、認定言語聴覚士講習会を受けるには、満5年を超える臨床経験が必要な点に留意しましょう。

生涯学習プログラムについて | 資格をお持ちの方へ | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会

呼吸ケア指導士

呼吸ケア指導士は、一般社団法人・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会が2013年4月に導入した認定資格です。資格の取得を通じ、呼吸ケアに関する最新の基礎的知識と臨床的技術が身に付きます。

呼吸は生命維持に欠かせない機能であり、発声発語機能や摂食・嚥下機能とは切っても切り離せません。医療機関や介護施設で働く言語聴覚士は特に、呼吸ケアの知識をリハビリテーションに生かせるでしょう。

資格を取得するには、同学会の会員を3年以上継続する必要があります。所定の研修単位(50単位以上)を取得し、認定委員会で認定されれば、呼吸ケア指導士の資格が与えられます。

呼吸ケア指導士について:一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会

プロフェッショナル心理カウンセラー

言語聴覚士は、患者や利用者との距離が近く、ときにはカウンセラー的な役割を求められます。心と体のつながりについて一定の理解があれば、相手の立場に立ったより効果的なリハビリテーションを行える可能性が高まるでしょう。

プロフェッショナル心理カウンセラーは、一般社団法人全国心理業連合会が認定する民間資格です。一般と上級の2つのレベルがあり、カリキュラムはそれぞれ「カウンセリングスキル教育」「カウンセリング実習研修」「プロフェッショナル適性訓練」に区別されます。

プロフェッショナル心理カウンセラーの概要|資格認定制度

時代のニーズに対応できる人材を目指そう

男性医療従事者

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言語聴覚士の将来性は高く、医療や介護・福祉、教育の現場で高いニーズがあります。地域包括ケアシステムの中で担う役割も大きく、今後は介護の現場で活躍する人が増えるでしょう。

言語聴覚士として長く活躍を続けるためには、スキルアップできる資格を取得したり、専門領域を極めたりして、時代のニーズに対応できる人材を目指す必要があります。高齢化の進展とともに有資格者数も増えるため、自分だけの強みを持つことが肝要です。

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木山美佳
【監修者】キャリアコンサルタント・人材育成コンサルタント木山美佳

株式会社キャリ・ソフィア代表取締役一般社団法人ダイバーシティ人材育成協会代表理事大手総合人材サービス会社、JAL系研修会社を経て2011年に株式会社キャリ・ソフィアを設立。人材育成事業を通して5万人以上のキャリア形成に携わってきた。Career Elements CardⓇなどのキャリア教材考案者。大阪府立大学大学院人間科学修士(博士後期課程単位取得退学)。国家資格キャリアコンサルタント。

著書:
自分から動く部下が育つ8つのパワーフレーズ(同文舘出版)