アパレル業界は、時代の流れとともに急速に変化しています。コロナ禍や消費者ニーズの多様化は、業界にどのような影響を与えたのでしょうか?アパレル業界に求められる人材の特徴や、販売員から目指せるキャリアパスなどを解説します。
アパレル業界に将来性はある?
アパレル業界とは、衣服の製造・卸・販売に関わる産業です。アパレル関連の仕事に就いている人やこれから目指す人の中には、業界の将来性に不安を感じている人もいるのではないでしょうか?アパレル業界の現状と将来性を解説します。
現在のアパレル業界は転換期
コロナ禍による生活様式の変化や消費者ニーズの多様化などにより、アパレル業界は大きな転換期を迎えています。
これまでは、トレンドを取り入れた安価な衣服を大量生産するビジネスモデルが主流でした。しかし近年は、アパレル業界における大量生産・大量廃棄の問題が浮き彫りになっており、ビジネスモデルを根本から見直さなければならない段階に至っています。
今後は業界内でさまざまなイノベーションが起き、今までになかったビジネスモデルや職業が誕生する可能性が高いでしょう。アパレル業界で働く人は、さまざまな変化を想定し、自分のキャリアや働き方を考えていかなければなりません。
アプローチの変更を余儀なくされた背景
アパレル業界は、これまでとは違った切り口で消費者にアプローチをしていく必要があります。その背景には、昨今のコロナ禍が関係しています。
内閣府の消費動向調査によると、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年には、消費者態度指数(※)が大きく落ち込みました。その後は回復に向かうものの、上がったり下がったりの波があります。
以前から国内アパレル市場には、商品の低価格化や競争の激化といった課題がありました。近年は、原材料費や物流費の高騰、経済活動の再開に伴う人手不足が深刻化しており、中小企業や零細企業は大きな岐路に立たされています。
業界で生き残るためには、ブランディングやEC事業への参入により、他社との差別化を図っていかなければなりません。
消費者志向は、高級志向と低価格志向に二極化しています。時代とともに変化する消費者ニーズにいかに対応できるかが鍵でしょう。
※消費者の支出に関する意識のことで「消費者マインド」ともいわれる。
参考:消費動向調査 令和5年8月実施調査結果|内閣府経済社会総合研究所 景気統計部
今後のアパレル業界で求められる人材は?
コロナ禍を経て、アパレル業界は大きく変化しつつあります。変化の激しい業界を生き抜くには、どのような資質やスキルが必要なのでしょうか?今後のアパレル業界で求められる人材の特徴をチェックしましょう。
ITリテラシーがある
アパレル業界に限らず、多くの業界では「ITリテラシー」のある人が求められています。ITリテラシーとは、IT(情報通信技術)を取り扱う際に必要とされる知識やスキルのことで、具体的には以下のような能力です。
- 膨大な情報から適切な情報を取捨選択できる
- デジタル端末を使いこなせる
- ネットワークやセキュリティーに関する知識がある
高度なIT技術は必要ないものの、今後はEC事業を展開する企業が増えるため、SNSを使って情報の収集・発信をしたり、業務効率化のためのITツールを使いこなしたりできる程度のスキルは備える必要があります。
マーケティングに明るい
これまでアパレル業界の販売員というと、接客力の高さに重きを置かれる傾向がありました。今後は接客力に加え、マーケティング力のある人材が重宝される時代になるでしょう。
マーケティングとは、商品やサービスの市場を調査して売れ筋やトレンドを把握し、販売戦略を立てることです。近年は、多くの人がSNSを使って情報を収集しているため、「SNSマーケティング」に長けた人ほど、企業に歓迎されやすいといえます。
今後は、SNSマーケティングを専門的に行う「SNSマーケター」の需要も高まるでしょう。
トレンド・時代を読む力がある
ネットメディアが普及した近年では、情報は一瞬にして多くの人に共有されます。消費者の興味・関心は次から次へと移り変わるようになり、ファッションのはやり廃りのスパンは年々短縮化しています。
アパレル業界で働く人材には、これまで以上に「トレンド・時代を読む力」が求められるでしょう。特に、デザイナーやクリエイティブディレクターなどは、変化を続ける業界のニーズにいかに対応できるかが重要といえます。
また、アパレル業界はトップの入れ替わりや企業の買収が盛んです。トップや上司が変われば仕事のやり方も変わるため、変化を受け入れる柔軟さが求められるでしょう。
アパレル業界の主な職種を確認
アパレル業界の職種は、「販売関連職」「総合職」「専門職」に大別されます。アパレル関連の仕事に就きたい人や業界内での転職を検討している人は、自分の適性をチェックしてみましょう。職種の特徴や働き方を紹介します。
販売関連職
販売関連職とは、百貨店やデパート、路面店などに勤務し、顧客に商品を売る仕事です。自らが広告塔となり、ファッションブランドを世に広めるポジションともいえるでしょう。代表的な職種として、以下のようなものが挙げられます。
- 販売員
- 店長
- スーパーバイザー
販売員は、顧客の商品選びをサポートするとともに、決済手続きや在庫管理、ディスプレイなどの業務を担います。販売員として経験を積んだ後は、店長やスーパーバイザーにキャリアアップする道が開けるでしょう。
スーパーバイザーは、複数店舗の運営管理を行う職種で、エリアマネージャーとも呼ばれます。
総合職
総合職はブランド事業全体に関わる職種で、アパレル企業の本社に勤務するのが一般的です。具体的には、以下のような職種があります。
- 営業
- 経理
- ブランドマネージャー
- マーチャンダイザー(MD)
- プレス
- バイヤー
ブランドマネージャーは、商品のブランディングに関わる職種で、ブランドの方向性とコンセプトを決定する重要な役割を担います。
マーチャンダイザーは、商品の企画・開発から販売プロモーションまでを一貫して手掛ける職種です。顧客の動向や市場のトレンドを把握して販売戦略を立てる必要があるため、マーケティングスキルや分析力が求められます。
プレスとは、ブランドの広報・PR担当のことで、自社ブランドの認知拡大やイメージアップなどを目的に広報活動を行います。
バイヤーは、国内外のメーカーから販売する商品を買い付ける職種です。売れる商品を見極める目や交渉力、情報収集力などが求められます。
専門職
アパレル業界の専門職には、専門的な技術と知識が必要です。まったくの未経験者が仕事に就くのは難しく、多くの人は服飾関連の専門学校や短大、大学を卒業しています。以下は、代表的な専門職の一例です。
- ファッションデザイナー
- テキスタイルデザイナー
- パタンナー
- ソーイングスタッフ
テキスタイルデザイナーとは、テキスタイル(布地・織物)をデザインする職種です。ファッションデザイナーの意図をくみ取り、ブランドのコンセプトや客層などを反映しながらテキスタイルをデザインします。
パタンナーは、ファッションデザイナーが描いたデザイン画を基にパターン(型紙)を作る職業です。パタンナーが裁断した生地を縫い上げるのには、縫製指示書が必要となります。
ソーイングスタッフは、縫製仕様書を基に縫製を行う技術職です。業務の多くはサンプル作成ですが、量産工場で働く場合は分業制で縫い上げます。
販売員から培えるスキル
アパレル業界には数多くの職種がありますが、業界未経験者は販売員からスタートするのが一般的です。実際に店頭に立ち、顧客と直に接することで、アパレル業界で働く上での基本的な知識やスキルが身に付きます。
既に販売員として働いている人やこれから目指す人は、「接客スキル」や「情報収集・分析能力」をしっかりと磨きましょう。
接客スキル
販売員は日々多くの顧客と接するため、接客スキルが身に付きます。接客スキルには、以下のようなものが含まれます。
- 正しい言葉遣いやマナー
- コミュニケーションスキル
- 傾聴力
- 提案力
- 観察力
- 気遣い
「自分は人見知りだから販売員には向いていない」と考える人がいますが、外向的で社交的な人だけが活躍しているわけではありません。
今後は消費者のライフスタイルやニーズがさらに多様化していくため、相手が何を求めているかを理解し、臨機応変に対応できる人が求められるでしょう。
情報収集・分析能力
販売員のキャリアを積めば、情報の収集・分析能力が身に付きます。これらの能力は、アパレル業界のどの職種でも重要視されるため、転職やキャリアアップにも役立つはずです。
日々店頭で接客に従事していると、顧客を通じてさまざまな情報に触れられます。悩みを聞き、アドバイスをしているうちに、ファッションコーディネートのセンスが磨かれ、売上につながりやすい商品ディスプレイが分かるようになるでしょう。
多くの店舗では、SNSによるプロモーションや情報発信が当たり前になっています。SNSの活用を通して、情報の収集・分析能力が磨かれ、次に流行するアイテムが予想できるようになるかもしれません。
身に付けたスキルを生かすキャリアは?
アパレル業界には、さまざまなキャリアの選択肢があります。販売員からスタートした人の場合、身に付けたスキルはどう生かせるのでしょうか?
役職を目指す
販売員として実績を積んだ後は、副店長や店長、スーパーバイザーといった役職を目指すキャリアパスがあります。
販売関連職は成果主義なので、昇格を目指す人は売上目標を達成し、目に見える結果を残さなければなりません。日々の業務の中で、店舗運営のスキルやマネジメントスキル、コミュニケーションスキルを磨くことも意識しましょう。
マネジメントスキルやコミュニケーション能力は普段の業務ではなかなか身に付かないものです。新人の教育係に立候補するなどして、人に教える経験を積む必要があります。
アパレル本社勤務にチャレンジ
販売員からアパレル企業の本社勤務にチャレンジする選択肢もあります。本社勤務のルートは、大きく「社内公募を狙う方法」と「本社勤務の求人に応募する方法」があります。
ただし、社内公募制度を取り入れていない企業も多いため、本社勤務の求人に応募する方が近道かもしれません。本社勤務といっても、営業や事務、バイヤーなどさまざまなポジションがあります。
本社勤務で就きたい職種を絞り込んでおき、どのようなスキルや資格が必要なのかを事前に調べておきましょう。
販売員からの本社勤務であれば、営業が目指しやすいでしょう。ファッションセンスや情報収集力を生かし、企画・マーケティング部門で活躍する人もいます。
他業界・他業種に転職
販売員で培ったスキルを生かし、まったく異なる業界・業種にキャリアチェンジする人も少なくありません。
キャリアアップと比べ、キャリアチェンジの難易度は高めですが、アパレル業界の販売員として働いた経験が生かせる職種は以下のように少なくありません。自分の長所や強みなどを考慮しながら、キャリアプランを立てましょう。
- 営業(法人・個人)
- 企画
- マーケティング
- フロントなどのサービス業
業界・業種・職種についてのリサーチをしっかり行うことで、転職後のミスマッチを防げます。仕事内容や待遇、働き方について知りたいのであれば、求人検索サイト「スタンバイ」で情報をチェックしましょう。
アパレル業界で働くなら将来性も確認しよう
コロナ禍や消費者ニーズの変化により、アパレル業界は大きな変革を迫られています。EC事業に軸足を移そうとする企業も多く、アパレル業界の企業で働く人材には、これまでとは違ったスキルが求められる可能性があるでしょう。
特にITリテラシーやマーケティングスキルの有無は、今後のキャリアアップや転職に大きく関わります。業界・業種の将来性や求められる人材像を把握した上で、今後のキャリアプランを立ててみましょう。