静かな退職の意味とは?増加の理由と働く側のメリット、対処法を解説

「静かな退職」とは、必要以上には頑張らない働き方のことです。アメリカを中心に流行している言葉ですが、日本でも共感を示す人が増えています。静かな退職を選択する人が増加する背景や、職場におけるメリット・デメリットを解説します。

静かな退職とはどういう意味?

退職届

(出典) pixta.jp

ネット上で「静かな退職」というワードを目にしたことがある人も多いでしょう。アメリカを中心に流行している新語で、英語では「Quiet Quitting」と表現されます。静かな退職には、どのような意味があるのでしょうか?

仕事にやりがいを求めず、淡々とこなす働き方

静かな退職は、実際に会社を退職するわけではありません。会社に在籍しながら、仕事にやりがいや自己実現を求めず、日々の業務を淡々とこなす働き方のことです。

まるで退職した人のように精神的な余裕を持って働くのが特徴で、日本語では「頑張りすぎない働き方」とも訳されます。キャリアや収入に固執せず、仕事とプライベートの境界線をきっちりと割り切る人をイメージしましょう。

近年は、プライベートを大切にしたいという人が増えています。働き方の多様化によりキャリアプランが描きにくくなっていることも影響し、静かな退職に共感する人が増えているのが現状です。

否定的なニュアンスもある

静かな退職に共感する人がいる一方で、否定的な見方をする人もいます。熱意の低い人材の増加は生産性の低下を意味するため、会社側からは「困った社員」と見なされる可能性が高いでしょう。

静かな退職を選択する人には、以下のような言動が見られるのが特徴です。

  • 定時になったらすぐに退社する
  • 業務時間以外のメール・チャットには返信しない
  • できるだけ労力のかからない手段を選択する
  • 職務記述書に記載のない業務は断る

「寝そべり主義」という働き方も

中国の若者の間では、「寝そべり主義(Tangping)」というワードが流行しています。「過剰な労働を拒否し、最低限の生活を送ること」を求めるため、静かな退職にごく近い考え方といえるでしょう。

寝そべり主義が生まれた背景には、中国の過酷な競争社会が関係しています。大勢の応募者を押しのけて仕事を得ても、996勤務(朝9時から夜9時まで週6日働く)が当たり前で、出世するにも厳しい競争に勝ち抜かなければなりません。

将来への希望が見いだせない若者を中心に、結婚・出産・マイホーム購入といったお金がかかるライフイベントを、諦める人が増えているのが現状です。

静かな退職が増えている理由は?

はたらく女性

(出典) pixta.jp

アメリカや中国と同様、日本でも静かな働き方に共感を示す人が増えています。その背景には、価値観の多様化やキャリアプランの欠如などがあります。

働き方に対する価値観の多様化による影響

終身雇用制度・年功序列制度が崩壊しつつある日本では、働き方に対する価値観が大きく変化しています。昨今のコロナ禍ではリモートワークが促進され、出社をしない働き方が普及しました。

政府がワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を推進していることもあり、仕事だけに傾倒しない生き方を選択する人が増えているのが現状です。

働き方のニーズや価値観の多様化が進むにつれ、静かな退職を支持する人は増加すると考えられます。

目指すべきキャリアプランの欠如

終身雇用制度・年功序列制度が機能していた時代は、1つの会社で定年まで勤め上げるのが当たり前とされていました。勤続年数に比例して昇進・昇給するのが一般的だったため、労働者のキャリアプランは明確であったといえるでしょう。

価値観が多様化する現代は、これまで以上に柔軟な働き方が認められています。一方で、目指すべき方向性・理想像が定まらず、キャリアプランを描きにくくなっているのも事実です。

目標となるロールモデルが職場にいなかったり、成長できる機会が少なかったりすれば、仕事に対するモチベーションは上がりません。社会構造や組織の仕組みが原因で、静かな退職を生んでいるともいえます。

ハッスルカルチャーへの反動という声も

アメリカでは、静かな退職を「ハッスルカルチャー(Hustle Culture)」への反動と受け止める人もいます。

ハッスルカルチャーとは、気力や闘志をみなぎらせて働く文化のことです。働きがい・成功の象徴である一方、オーバーワークによるストレスや燃え尽き症候群を生み出す要因にもなっています。

かつては日本でも、懸命に頑張り続けることが美徳とされていましたが、近年はオーバーワークを避ける風潮があります。

コロナ禍を経て、多くの人は「人生において何が大事か」について考える機会を得ました。仕事一筋の生き方から、ワーク・ライフ・バランスの実現にシフトする人は少なくないようです。

静かな退職が職場に与える影響

仕事に疲れた女性

(出典) pixta.jp

静かな退職は、怠惰や業務放棄ではなく、あくまでも頑張りすぎない働き方です。しかし場合によっては、会社の業績や職場の仲間にマイナスの影響がおよぶという点も忘れてはいけません。

生産性・業績の低下

静かな退職を選ぶ従業員は、仕事に対する熱意が弱く、会社への帰属意識も薄い傾向があります。

自分に割り振られた仕事はきちんとこなすものの、業務改善・ブレインストーミング・情報共有・コラボレーションといった活動に対しては、自分から労力を割こうとはしません。職務記述書に含まれていない業務を頼んでも、断るというケースもあります。

このような従業員が増えた場合、チームの生産性が低下し、会社の業績悪化につながる恐れがあるでしょう。個人の成長が見込めなければ、会社の成長もストップしてしまいます。

周囲の負担が増す

静かな退職を選択する従業員は、自分の業務範囲を超える仕事は行わないのが基本です。そのため、イレギュラーな事態・トラブルが発生した場合、プラスアルファで仕事を引き受ける従業員に負荷がかかります。

業務の分担に偏りが生じると、不満やストレス、モチベーションの低下などが引き金となり、メンバー間に対立が生じます。よく働く優秀な従業員が次々と離職し、頑張りすぎない従業員だけがチームに残る結果になるかもしれません。

静かな退職の働く側のメリット・デメリット

はたらく男性

(出典) pixta.jp

職務怠慢でない限り、仕事へのスタンスは働く人が自由に決められます。静かな退職を選択した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

【メリット】精神的な余裕を持てる

静かな退職を選択する人の多くは、ストレスやプレッシャーがない生き方を望む傾向があります。

やりがいやキャリアアップ、収入にこだわらなければ、あくせく働いたり出世競争に身を投じたりする必要がなく、精神的な余裕を保てるのがメリットです。

また、自分の業務範囲だけをやると割り切れば、マイペースに仕事を進められます。イレギュラーな案件に労力を費やす必要がなくなり、時間内にきっちりと仕事が終わります。時間や体力にも余裕が生まれ、プライベートが充実するでしょう。

【デメリット】職場にいづらくなる

静かな退職は怠慢ではないものの、一生懸命に仕事をしている人からは「冷めている」「意欲がない」「非協力的」と見なされる可能性があります。

周囲から疎まれたり、後輩と立場が逆転したりして、職場にいづらくなる可能性が高いでしょう。静かな退職に共感する人は増えているものの、実際に行動に移すのは難易度が高いと考えられます。

会社が静かな退職に否定的な場合、経営悪化時には真っ先に人員整理の対象になるでしょう。降格すれば収入が減り、将来のライフプランが立てにくくなります。

企業が行うべき対処法は?

ビジネスミーティング

(出典) pixta.jp

静かな退職は、従業員個人の問題と捉えられがちですが、組織体制や労働環境が仕事への熱意を低下させているケースもあります。静かな退職に対し、会社側はどのように対処すればよいのでしょうか?

社内におけるコミュニケーションの活性化

職場の人間関係のつながりが薄かったり、自分に求められている役割が曖昧だったりすると、会社への帰属意識が薄れます。

とりわけリモートワークを導入している会社では、社員同士または雇用主との信頼関係が構築されにくく、ちょっとしたことで離職につながってしまいます。

コミュニケーションを活性化させ、帰属意識・仲間意識を高めれば、静かな退職を選択する従業員は減少するでしょう。会社側が従業員の価値観やキャリアプランを理解し、尊重する姿勢を示すことも重要です。

従業員の努力に正しく報いる

努力や頑張りが正当に評価されない会社では、「頑張っても意味がない」「努力するだけ無駄」という考え方が生まれやすくなります。

従業員のモチベーションを高く保つためにも、会社は人事評価制度・表彰制度を見直し、努力が報われる環境をつくらなければなりません。仕事を通じて得られるものが大きければ、静かな退職を望む従業員は減るでしょう。

従業員のキャリアプランや方向性をヒアリングして、それぞれに合ったサポートを提供するのも有効です。

仕事量の調整を行う

激務を続けてきた人は、バーンアウトから静かな退職を選択するケースがあります。「プライベートの時間を削ってまで仕事に打ち込むべき」という考え方は、既に時代遅れです。

従業員の早期離職を防ぐためにも、従業員の仕事量に無理がないか把握する必要があります。仕事量だけでなく、ポジションや納期、業務フローに問題がないかという点もチェックしましょう。

ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、以下のような対策も有用です。

  • 勤務時間外の電話・メールへの対応を要求しない
  • 業務フローを改善し、時間外労働を削減する
  • 有給休暇の取得を推進する

仕事とプライベートのバランスがポイント

退社

(出典) pixta.jp

静かな退職は、怠慢や業務放棄ではありません。本来ネガティブな意味合いはありませんが、「やる気がない」「冷めている」と評価する人も少なくないのが実情です。

静かな退職とまではいかなくても、仕事とプライベートのバランスを取ることは重要です。燃え尽き症候群にならないためにも、自分の働き方やライフスタイルを見直してみてはいかがでしょうか。

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