資格取得を検討している人は、キャリアの方向性や将来の需要を考えた上で、これからの時代に役立つ資格を選びましょう。時代のニーズに即した資格は、転職やキャリア形成の強力な武器になります。ジャンル別のおすすめ資格や、取得のメリットも紹介します。
【事務系】これからの時代に役立つ資格
特定の資格を必要としない事務職は、専門職に比べてキャリアアップ・収入アップの機会が得られにくい傾向にあります。今後、データ入力といった単純作業はAIに代替される可能性が高いため、より高度な知識・スキルを身に付ける必要があります。
日商簿記検定
簿記は、ビジネスパーソンに人気の高い資格の1つです。会計の処理や財務諸表の見方などが分かると、コスト感覚・経営管理能力が養われ、ビジネスをより円滑に進められるようになります。
簿記には、日商簿記・全経簿記・全商簿記があり、中でも知名度が高いのが「日商簿記」です。企業の人材採用・人事異動の判断材料として活用されるケースが多く、社会人であれば取得して損はありません。
日本商工会議所のデータによると、2023年6月度の統一試験の合格率は、3級が34.0%、2級が21.1%、1級が12.5%です。初心者は3級からスタートし、2級以上を目指しましょう。1級に合格すると、税理士試験の受験資格が得られます。
税理士
税理士は、税理士法に基づく国家資格です。法律では、税務代理・税務書類の作成・税務相談が、税理士の独占業務として定められています。
企業の経理担当者が税理士の資格を取得すれば、企業内税理士にキャリアアップできます。税理士事務所への転職や、独立・開業の道も開けるでしょう。試験は科目合格制で、合格点をクリアした科目は次回以降の試験が免除されます。
会計学に属する科目には受験資格が設けられていませんが、税法に属する科目には、学識・資格・職歴の条件がある点にも留意しましょう。2022年度に実施された試験の合格率(学歴別・年齢別の合計)は、19.5%です。
【IT・Web系】これからの時代に役立つ資格
社会のデジタル化によって、IT業界の市場規模は拡大傾向にあります。ITエンジニアをはじめとするIT人材は、既に人手不足が深刻化しており、企業間では優秀な人材を巡る採用合戦が繰り広げられています。
DXの進展に伴い、IT系・Web系の資格を持つ人材はますます重宝されるでしょう。
基本情報技術者
基本情報技術者は、「独立行政法人情報処理推進機構(IPA)」が実施する国家試験です。ITエンジニアの登竜門に位置付けられており、主に「IT人材に必要な基本的な知識・技能を身に付けた者」が対象です。
合格者は、ITの実践的な活用能力を対外的に証明できるため、転職・キャリアアップがしやすくなるでしょう。IPAの資料によると、2023年10月度の合格率は42.4%です。
試験方法は、会場に設置されたコンピューターを使用する「CBT方式」で、試験日は受験者が自由に選択できます。受験資格はなく、基本的に誰でも受験可能です。
参考:基本情報技術者試験 | 試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
参考:情報処理技術者試験 統計資料 令和6年2月分 基本情報技術者試験|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
応用情報技術者
応用情報技術者は、基本情報技術者の上位資格です。主に「IT人材に必要な応用的な知識・技能を身に付けた者」が対象で、ITを活用した戦略立案やシステム構築、サービスの安定的な運用を独力で実現できるかどうかを判定します。
2023年度春期の合格率は、27.2%です。基本情報技術者に比べると合格率がグッと低くなるため、十分な対策を行いましょう。
合格者は、高度なIT人材として高く評価されます。資格手当や報奨金を設ける会社も多く、収入アップも期待できます。
参考:応用情報技術者試験 | 試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
参考:情報処理技術者試験 情報処理安全確保支援士試験 統計資料|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
ウェブデザイン技能検定
ウェブデザイン技能検定は、Webサイト制作やシステム構築に必要な知識・技能・実務能力を測る国家検定です。
Webサイト関連の業務に資格は必須ではありませんが、「○級ウェブデザイン技能士」の肩書が使えるため、自分をアピールしやすくなるでしょう。
2級と1級には受験資格がありますが、3級は「Webサイト作成・運営に関する業務に従事している者および従事しようとしている者」であれば誰でも受験できます。
「特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会」によると、おおよその合格率は3級が60~70%、2級が30~40%、1級が10~20%です。
参考:ウェブデザイン技能検定 - ウェブにかかわる全ての人のための、国家検定
【メンタルヘルス系】これからの時代に役立つ資格
現代人は、さまざまな不安・ストレスを抱えています。パワハラやリモートワークによるコミュニケーション不足などで、従業員のメンタルがダウンすれば、企業の生産性にも影響を与えるでしょう。企業内のメンタルヘルス対応に役立つ資格を紹介します。
メンタルヘルス・マネジメント検定
メンタルヘルス・マネジメント検定は、心の不調の未然防止と活力ある職場づくりを目的に実施されるものです。人事・労務担当が資格を取得すれば、企業のメンタルヘルス対応の窓口として、さまざまなフォローができるでしょう。
主に「人事労務管理スタッフ・経営幹部(1種)」「管理監督者・管理職(2種)」「一般社員(3種)」を対象としたコースがあり、試験内容や合格基準は対象ごとに異なります。
公式サイトによると、2023年3月に実施された試験の合格率は以下の通りです(1種のみ2022年11月度のデータを使用)。
- 1種:17.6%
- 2種:54.1%
- 3種:79.3%
参考:メンタルヘルス・マネジメント検定試験 | 働く人たちの心の健康と活力ある職場づくりのために
参考:結果・受験者データ | 試験のご紹介 | メンタルヘルス・マネジメント検定試験
【ビジネス全般】これからの時代に役立つ資格
ビジネスパーソンに必要なスキルは多岐にわたりますが、マーケティングや人事・労務、中小企業の経営戦略についての知識を身に付けておくと、活躍のチャンスが増えます。
キャリアプランとのマッチ度を考慮しながら、自分に合った資格を取得しましょう。
マーケティング検定
マーケティング検定は、「公益社団法人日本マーケティング協会」が実施する民間資格(内閣府認定)です。
試験勉強を通じて、マーケティングの重要概念や戦略が身に付くため、マーケティング部・営業部に所属している人にとっては、価値の高い資格といえます。
等級は3級・2級・1級で、1級は2級の合格者のみが対象です。1級では、1,000~1,500字程度の問題文が出題されるため、長文の記述に慣れておく必要があります。同協会によると、2022年度の1級試験の合格率は20.4%です(3級・2級は非公開)。
参考:公益社団法人日本マーケティング協会 - 公益社団法人日本マーケティング協会
参考:公益社団法人日本マーケティング協会 - マーケティング検定1級試験概要
社会保険労務士
社会保険労務士は、労働保険・社会保険諸法令に基づき、労働社会保険の諸手続き業務や労務管理の相談業務、紛争解決手続きの代理業務などを行う専門家です。
人事・労務は、度重なる法改正によって高度化・複雑化しています。働き方改革による雇用形態の多様化も進んでおり、社会的ニーズは高いといえます。
活躍するには、社会保険労務士の国家試験に合格しなければなりません。2023年5月に実施された試験の合格率は、わずか6.4%です。
「学歴」「実務経験」「厚生労働大臣の認めた国家試験合格」のいずれかを満たさなければ、受験資格が得られない点にも留意しましょう。
参考:受験資格について | 社会保険労務士試験オフィシャルサイト
FP技能士
ファイナンシャル・プランナー(以下、FP)は、金融・税制・不動産などの専門知識を生かし、個人の夢やライフプランの実現をサポートする「お金の専門家」です。
先行きが不透明な現代、老後資金の見直しや資産運用をスタートさせる人が増えており、一定の需要が見込めるでしょう。
FPの資格には、国の法律に基づいて実施される「国家検定」と、民間の団体が実施する「民間検定」があります。
FP技能検定(3級・2級・1級)は、職業能力開発促進法に基づく国家検定で、「日本FP協会」と「一般社団法人金融財政事情研究会」が実施機関です。日本FP協会によると、2023年9月に実施された試験の合格率(※)は以下の通りです。
- 3級:(学科)約74.8%・(実技)約77.7%
- 2級:(学科)約53.5%・(実技)約52.0%
- 1級:(実技)96.2%
※小数点第2位を四捨五入
参考:FP技能士の取得者数 及び 試験結果データ | 日本FP協会
中小企業診断士
中小企業診断士は、中小企業支援法に基づく国家資格です。中小企業に対し、成長戦略の策定や実行の助言をするのが主な役目で、経営コンサルタントを目指す人にはぴったりの資格といえます。
日本は、全企業の99%以上が中小企業です。多くの中小企業は、経営者の高齢化や後継者不足、DXへの対応といった課題を抱えており、中小企業診断士の出番は多いといえます。
中小企業診断士になるには、「一般社団法人中小企業診断協会」が実施する第1次試験に合格後、次のいずれかのルートで登録を行う必要があります。
- 第2次試験に合格後、実務補習を受ける、または診断実務に従事する
- 第2次試験を受けず、所定の養成課程を修了する
2022年度の合格率は、第1次試験が28.9%、第2次試験が18.7%です。
参考:中小企業診断士資格取得を目指す方に中小企業診断士試験のご案内です
【日常を支える業務全般】これからの時代に役立つ資格
暮らしと密接に関わる職種は、人手不足に陥りやすい上に、将来的なニーズが途切れない傾向があります。日常を支える業務に関して、これからの時代に役立つ資格を紹介します。
介護福祉士
介護福祉士は、介護系職種で唯一の国家資格です。介護に携わるのに必須の資格はありませんが、介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修を経て、介護福祉士を目指す人が多い傾向にあります。
資格を取得すれば、チームリーダーとしてマネジメントの経験が積めるほか、資格手当による収入アップが期待できるでしょう。
介護福祉士になるには、国家試験に合格する必要があります。厚生労働省によると、2023年度の合格率は84.3%です。
受験資格を得るルートは複数ありますが、社会人であれば「指定の養成施設を卒業する」「実務経験を積んで所定の研修を受ける」ルートを選択する人が多いでしょう。
参考:[介護福祉士国家試験]:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
保育士
共働き世帯の増加により、日本では保育士の需要が高まっています。仕事が大変で給料が安いイメージがありますが、2013年以降は1人当たり約14%の給与改善が行われています。
厚生労働省が指定する保育士養成施設を卒業していない人の場合、保育士試験に合格しなければ保育士資格は得られません。受験資格はおおむね専門学校や短大卒業程度ですが、一定の条件を満たせば、最終学歴が中学や高校でも受験が可能です。
2022年度に実施された保育士試験の合格率(1回目・2回目合計)は、約29.9%(※)です。
※一部の県が実施する「地域限定保育士試験」を含む
※小数点第2位を四捨五入
無人航空機操縦者技能証明
物流業界や警備業界、建設業界などでは、ドローン活用によって人手不足を解消する動きがあります。ドローンビジネスにいち早く参入したい人は、無人航空機操縦者技能証明の取得を検討しましょう。
技能証明がなくてもドローンの操縦自体は可能ですが、安全に飛行させられる技能を客観的に示せるのがメリットです。技能証明の区分は、飛行方法などによって「一等無人航空機操縦士」と「二等無人航空機操縦士」に分かれます。
技能証明を取得をするには、学科試験・実地試験・身体検査をクリアしなければなりません。登録講習機関で無人航空機講習を修了した場合は、実地試験が免除されます。
技能証明書の有効期限は3年で、更新には登録更新講習機関での「無人航空機更新講習」の受講が必要です。
参考:無人航空機操縦者技能証明|無人航空機レベル4飛行ポータルサイト - 国土交通省
これからの時代に役立つ資格を選ぶポイント
取得する資格は、自分のキャリアプランに合っていることが前提です。数ある資格の中から、「これからの時代に役立つ資格」を見分けるには、どのような点に着目すればよいのでしょうか?
今後伸びる業界に対応できるか
世の中に必要とされる資格は、時代とともに変わります。5年後・10年後を見据え、今後伸びる業界に対応できるかどうかを考慮しましょう。以下は、将来性が期待できる業界の一例です。
- IT業界
- 電子部品・半導体製造業界
- EC業界
- 倉庫・物流業界
- 医療・介護・福祉業界
- メンタルヘルス業界
特に大きな伸びが期待できるのが、IT業界です。経済産業省の資料によると、2030年には約79万人のIT人材が不足するといわれています。
とりわけ、AIや機械学習、IoTなどの先端技術を扱える高度な人材は、多くの企業で重宝されるでしょう。
参考:IT分野について 経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課
資格自体に興味を持てるか
転職・キャリアアップを目的に資格を取得するにしても、「高収入が得られそう」「需要が見込めそう」という理由だけで選ぶのは禁物です。
自分の興味のある分野であり、かつキャリア形成に役立つものを選択すれば、その分野のプロフェッショナルを目指せます。
興味がない資格を選んだ場合、資格勉強が苦痛に感じます。難関資格であればあるほど、途中で挫折する可能性が高まるでしょう。運よく試験に合格できたとしても、興味のない領域で仕事を続けていくのは困難です。
資格取得を目指すメリット
社会人が仕事をしながら資格を取得するのは、容易なことではありません。多くの時間・労力を費やしてまで、資格を取得するメリットはあるのでしょうか?
スキルや知識が向上する
資格取得は就職・転職に役立つイメージがありますが、業務に関連する資格であれば、社内でのキャリアアップにもつながります。
資格取得の勉強によって新しい知識をインプットできるため、日常業務にすぐ生かせるのがメリットです。資格が決め手となって、自分が希望する部署に異動できたり、待遇アップが実現したりする可能性もあるでしょう。
例えば、法人営業の担当者が中小企業診断士の資格を取得すれば、経営者の立場に立った提案・支援ができるようになります。相手からの信頼度が高まり、リピート受注が増えるかもしれません。
持てるスキル・知識の証明になる
就職・転職で採用を勝ち取るには、自分の強みをアピールする必要があります。しかし、いくら「〇〇が得意です」「〇〇ができます」と説明しても、実力を裏付けるものがなければ、採用担当者を納得させられません。
資格のメリットは、スキル・知識を客観的に証明できることです。例えば、「日商簿記検定2級」を保有している人は、財務諸表から経営内容を把握できるレベルであると判断され、経理部門の即戦力として採用される可能性があります。
また、有資格者しか業務に従事できない「業務独占資格」や、事業を行う際に法律で設置が義務付けられている「必置資格(設置義務資格)」を持っていれば、就職・転職を有利に進められるでしょう。
これからの時代に役立つ資格取得で活躍を
資格取得は、自分が望む人生やキャリアプランを実現するために必要なものです。「資格よりも実務経験を積め」との意見もありますが、未経験の業界に就職・転職するときは、資格が足がかりになります。
一時的なブームによって生まれた資格は廃れるのが早いため、「これからの時代に役立つかどうか」や「将来的な需要が見込めるか」を1つの判断軸にするのが賢明です。
興味の有無やキャリアの方向性なども考慮しながら、自分にぴったりの資格を選びましょう。