抽象化思考とは?仕事に生かすメリットとトレーニング法を紹介

抽象化思考は、仕事やビジネスに役立つ思考法の1つです。物事の本質を捉えやすくなるほか、視座が上がって多くのアイデアを生み出すのに役立ちます。抽象化思考を仕事に生かすメリットや、思考を高めるトレーニング方法を確認しましょう。

抽象化思考とは?

考え事をする男性のシルエット

(出典) pixta.jp

抽象という語から、曖昧で漠然としたイメージを抱く人も多いでしょう。「話が抽象的で分かりにくい」など、仕事ではマイナスのニュアンスで使われるケースも多いものです。

しかし抽象化思考は、物事の本質を理解するために欠かせない思考法といえます。まずは、抽象化と具体化の意味を正しく理解しましょう。

物事の本質を捉える考え方

抽象化思考とは、対象を抽象化することにより、物事の本質を捉える考え方を指します。

抽象化は、個々の具体的なものから注目すべき要素や共通の属性を抜き出し、一般的な概念として捉える営みです。共通する特徴から、グループ化する作業ともいえるでしょう。

例えば、地球・ボール・しゃぼん玉には、一見関連性がないように思えますが、球体という共通点があります。犬・パンダ・イルカは、姿形は違うものの、全て哺乳類に属します。

このように、具体性を取り去るのが「抽象化」であり、抽象化して本質を捉える考え方が「抽象化思考」です。抽象化のプロセスでは、物事を大きなまとまりという視点で扱うため、重要度の低い情報がそぎ落とされます。

具体化との違い

抽象化を深く理解するには、対義語である具体化の意味を知るのが有効です。具体化とは、抽象的な概念に明確な形を与えることです。物事の細部に焦点を当て、ディテールを見る作業といってもよいでしょう。

例えば、黄色い花を具体化すると、ヒマワリやタンポポ、スイセンといった個別の花の名前が挙がります。

抽象と具体の関係性は、木の幹と枝葉のようなものです。抽象という木の幹から、具体という枝葉が伸びるさまをイメージすると、分かりやすいかもしれません。

思考の抽象化によって、情報の枝葉が切り落とされると、物事の本質を見極めやすくなります。

抽象化思考を仕事に生かすメリットは?

アイディア

(出典) pixta.jp

仕事やビジネスの場では具体化に焦点が当たりがちですが、抽象化思考の活用によって得られるメリットは少なくありません。物事の本質・真因を捉えやすくなる以外にも、以下のような利点があります。

多くのアイデアを生み出せる

抽象化思考によって抽象度が上がると、細かい特徴は捕捉しにくくなりますが、全体を俯瞰しやすくなるのが利点です。

その結果、今までにないアイデアを思い付いたり、一見かけ離れているものを結び付けて考えたりできるようになるでしょう。

イノベーションというと、技術革新を伴うゼロからの創造をイメージする人も多いですが、既存の要素の新たな結合にも大きな可能性があります。

新たな結合を見つける上では、商品・サービスの全体像を俯瞰し、共通点・法則を見つけ出す抽象化のプロセスが欠かせません。

応用力が高まる

抽象化思考を鍛えると、応用力が向上します。応用力とは、既存の知識を活用して、新たな事柄に対応する能力です。

抽象化思考によって、物事に一定のパターン・共通点を見いだせると、初見の問題に直面しても、「あれと同じだから、これにも使えるはず」と柔軟かつスピーディーな対応が可能になります。

抽象化思考の弱い人は、「新しい問題が現れた」という認識しかできないため、解決するまでに多くの時間を要するでしょう。新しい業務をスタートする際にも、応用が利かず、ゼロからやり方・手順を覚える事態になります。

分かりやすい説明ができる

話が分かりにくい人や説明が下手な人は、話の要点がまとまっていないケースがほとんどです。特に自分の専門分野であるほど、具体的な事例(枝葉)にばかり目がいきがちで、重要なこととそうでないことが混在する傾向があります。

抽象化思考が磨かれると、枝葉ではなく、幹を意識した説明ができるようになるのがメリットです。話の要点(本質)をしっかりと捉えた上で、「全体像・要点を伝える→細部を具体的に述べる」という順序で説明をすれば、相手の理解度が上がります。

抽象化思考を活用する際の注意点

デスクワークをする男性

(出典) pixta.jp

抽象化思考には多くのメリットがありますが、仕事やビジネスで活用する上では注意点もあります。仕事ができる人は、抽象化と具体化を自由自在に行き来している点に注目しましょう。

抽象化と具体化の往復が重要

物事の抽象化だけでは、理想論で終わってしまう可能性があります。抽象化で得られた共通点・法則性を具体的な行動に落とし込んでこそ、目に見える結果につながるのです。

仕事やビジネスにおいては、抽象化と具体化の往復が重要といえます。例えば、新商品を開発する際には、以下のような思考の往復がなされるでしょう。

  • 既存の売れ筋商品をピックアップし、共通点・法則性を見つける(具体化→抽象化)
  • 共通点・法則性に基づき、具体的な商品のアイデアを考える(抽象化→具体化)

他者に説明する際も、最初に話の要点・アウトラインを説明し、その後に具体的な事例を挙げた方が、内容がより伝わりやすくなります。

抽象化思考を鍛えるヒント

珈琲を飲みながら作業をする

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抽象化思考は、本人の努力によって鍛えられますが、ただやみくもに思考しても能力はなかなか上がりません。最後に、日常生活で簡単にできるトレーニング方法を紹介します。

異なるもの同士の共通点を探す

抽象化思考とは、物事の本質を抜き出す考え方です。異なるもの同士の共通点を探す訓練を繰り返せば、徐々に抽象化思考の基礎が身に付きます。ポイントは、関連性・類似性がなさそうなものを無作為に選ぶ点です。

例えば、リンゴ・ミカン・モモであれば「果物」や「球体」という共通点がすぐに見つかりますが、バナナ・自転車・リモコンの共通点を見つけるのはそれほど容易ではありません。

それぞれの特徴をできるだけ数多くピックアップし、共通する要素がないか探っていきましょう。

水平思考クイズに挑戦する

水平思考クイズに取り組むことでも、抽象化思考が鍛えられます。「水平思考(ラテラルシンキング)」とは、固定観念や前提条件にとらわれず、物事を自由に考察するための思考法です。

垂直思考に代表される「論理的思考(ロジカルシンキング)」は、複数の根拠・論理を積み上げながら思考しますが、水平思考では常識を疑うところからスタートするのが特徴です。

水平思考クイズを解くには、物事の抽象化や見立てが必要なため、抽象化思考が必然的に磨かれるとされています。

例えば、「10個のオレンジを3人で公平に分けるにはどうするか」というクイズに対して、多くの人は「3個ずつ配って、残り1個を3等分する」と答えるでしょう。水平思考で考えると、「ジュースにして配る」という方法が導き出されます。

図解して考える

議事録・メモを取る際、箇条書きや文章でまとめるのが習慣化している人は多いでしょう。文章ではなく、あえて図解を用いれば、抽象化思考が鍛えられます。

図解とは、事柄・概念を図で説明する営みです。1つの図に収められる情報量には限りがあるため、枝葉末節をそぎ落とすプロセスが不可欠です。

図解で考えることは、抽象化思考そのものといってもよいでしょう。最終的に重要なエッセンス(本質)のみが残り、構造・関係性をより把握しやすくなります。メモを取る場合は、できるだけ図解する癖を付けましょう。

日々の業務を仕組み化する

抽象化思考を身に付ける近道は、日常生活の中で繰り返し実践することです。業務上の問題を洗い出し、仕組み化を実行すれば、抽象化思考が自然と鍛えられるでしょう。

業務の仕組み化とは、いつ・どこで・誰がやっても、同じ結果を再現できる状態を構築することです。もし正しく仕組み化されていなければ、同じ問題が再発します。

「締め切りを忘れやすい」「誤字脱字が多い」「連絡が遅れる」など、業務上の課題・悩みは人それぞれです。最適な業務フローを定める上では、抽象化や具体化のプロセスが欠かせません。

抽象化思考で「仕事ができる人」を目指そう

デスクワークをする男性

(出典) pixta.jp

抽象化思考が苦手な人には、物事を多角的に捉えられず、柔軟性にも欠ける傾向があります。視座を上げ、物事の共通点・法則性を見つけ出せれば、これまでになかった新たなアイデア・解決方法を見いだせるでしょう。

ただし、抽象化思考だけでは理想論で終わってしまう可能性が高いため、抽象化と具体化の両方を繰り返す意識が重要です。

思考力は、日々のトレーニングの積み重ねによって磨かれていきます。抽象化思考を鍛え、「仕事ができる人」を目指しましょう。