コンセプチュアルスキルはなぜ重要?求められる背景と鍛え方を紹介

コンセプチュアルスキルとは、物事を概念化する能力です。不確実性の高い時代を生きる社会人に不可欠なスキルであり、鍛えれば組織全体のパフォーマンス向上に役立ちます。コンセプチュアルスキルの重要性や構成要素、トレーニング方法を確認しましょう。

コンセプチュアルスキルとは?

ノートパソコンを持っている男性

(出典) pixta.jp

社会人やビジネスパーソンに必要とされるスキルの1つが、「コンセプチュアルスキル」です。スキルを鍛えれば、複雑な問題に直面した場合でも、最適解を導き出せる可能性が高まります。スキルの概要と構成要素について理解を深めましょう。

複雑な物事を概念化する能力

コンセプチュアルスキルは、物事を概念化する能力です。ハーバード大学のロバート・カッツ教授が提唱したビジネスモデルに登場するスキルの1つで、日本語では「概念化能力」と訳されます。

概念化とは、物事に共通する要素(本質)を抜き出し、概念としてまとめる営みです。「抽象化」と混同されやすいため、両者の違いを明確に区別しておきましょう。抽象化は、概念化を行う前提とされています。

  • 抽象化:物事に共通する要素を抜き出すこと
  • 概念化:物事に共通する要素を抜き出し、概念としてまとめること

例えば、顧客分析の結果から「20代の利用者が多い」という特徴を見いだした場合、「このツールは20代の利用者に受け入れられやすい」という概念が導かれます。

スキルの構成要素

コンセプチュアルスキルは、複数のスキルが相互に影響し合って成り立つ複雑なものです。代表的なスキルとして、以下のようなものが挙げられます。

  • ロジカルシンキング(論理的思考)
  • クリティカルシンキング(批判的思考)
  • ラテラルシンキング(水平思考)
  • 多面的視野
  • 受容性
  • 柔軟性
  • 知的好奇心
  • 探究心
  • 応用力
  • 俯瞰力

クリティカルシンキングとは、物事・状況を批判的に分析して、解決策を見つける能力です。ここでいう批判とは、常識・習慣を無条件に受け入れるのではなく、客観的な視点から物事を判断することを意味します。

ラテラルシンキングとは、固定観念にとらわれず自由に発想する能力です。横に発想を広げるため、「水平思考」とも呼ばれます。

なお、ロジカルシンキングは論理を縦方向に掘り下げるため、「垂直思考」と呼ばれる点も覚えておきましょう。

コンセプチュアルスキルの2つのモデル

デスクワークをする男性

(出典) pixta.jp

コンセプチュアルスキルには、「カッツモデル」と「ドラッカーモデル」が存在します。それぞれにおいて、スキルがどのように位置付けられているのか把握しましょう。

カッツモデル

カッツモデルは、ハーバード大学のロバート・カッツ教授によって提唱されたモデルです。

組織内の各階層(トップマネジメント・ミドルマネジメント・ロワーマネジメント)に必要な以下3つのビジネススキルを示したもので、コンセプチュアルスキルはその中の1つに挙げられています。

  • コンセプチュアルスキル(概念化能力)
  • ヒューマンスキル(人間関係能力)
  • テクニカルスキル(業務遂行能力)

カッツモデルでは、トップマネジメント(経営層)に近づくほど、コンセプチュアルスキルの重要度が増すのが特徴です。

チームリーダー・マネージャーといったロワーマネジメント(監督者層)では、コンセプチュアルスキルよりもテクニカルスキルに重きが置かれます。

ドラッカーモデル

ドラッカーモデルは、経営学者のピーター・ドラッカーにより、カッツモデルをベースに考案されたものです。カッツモデルとの大きな違いは、以下の2点となります。

  • ロワーマネジメント層の下にナレッジワーカー(知的労働者)が追加されている
  • 全ての階層において、同程度のコンセプチュアルが必要とされている

ドラッカーモデルの特徴は、従業員であるナレッジワーカーからトップマネジメントに至るまで、全ての階層にコンセプチュアルスキルが必要とされている点です。

トップマネジメントに近づくほど重要度が増すのではなく、ナレッジワーカーにもトップマネジメントと同程度のコンセプチュアルスキルが求められています。

コンセプチュアルスキルが高い人の共通点

セミナー講師の男性

(出典) pixta.jp

組織では役職・ポジションを問わず、コンセプチュアルスキルの高い人材が求められる傾向があります。スキルが高い人には、どのような共通点があるのでしょうか?

問題を本質的に解決できる

概念化のプロセスでは、具体的な物事から本質を抜き出す「抽象化」が行われます。多くの情報から枝葉末節が切り捨てられるため、問題の本質が浮き彫りになるのです。

コンセプチュアルスキルが高い人は、表面的な事象にとらわれず、根本的な問題を解決できるのが特徴といえるでしょう。

コンセプチュアルスキルが低い人は、本質から外れた枝葉末節にばかり目がいくため、いつまで経っても問題が解決しません。目先の問題の対処に追われ、本来やるべき本質的な物事に手が回らなくなる恐れもあります。

発想力が豊か

コンセプチュアルスキルが高い人は、固定観念や世の中の常識にとらわれない、自由な発想が可能です。より広い視野から物事を考えられるため、イノベーションの可能性が広がるでしょう。

オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・アロイス・シュンペーターによると、イノベーションとは「既存の技術・知見に新たな結合を与える営みを通し、新たな価値を創出すること」です。

ただし、要素を適当に組み合わせても、価値の創出にはつながりません。本質を見極め、概念としてまとめ上げるプロセスがあってこそ、イノベーションが可能になるといえます。

業務効率が高い

コンセプチュアルスキルが高い人の共通点として、行動に無駄がなく、合理的かつ効率的に動く点が挙げられます。

業務の手順や社内申請ルートの改善など、日常の定型業務を改善するにはどうすればいいかを考えるので、組織全体のパフォーマンス向上にも貢献するでしょう。

また、目の前のタスクを淡々とこなすのではなく、「この仕事の目的は何か」「自分の役割は何か」といった仕事の本質に着目するため、高いモチベーションが保てます。働く意義・目的を深く理解しており、適切なタイミングで最適な判断ができます。

説明が分かりやすい

コンセプチュアルスキルが高い人は、物事に共通する本質を体系的にまとめ上げるのに長けています。

「具体的事象と抽象的概念」や「末端と全体」の往復にも慣れており、「要するに…」「言い換えると…」といった表現をうまく用いながら、物事の全体像・仕組みなどを他者に分かりやすく説明します。

何を伝えるべきか正しく理解しているため、要点がまとまらなかったり、枝葉末節にこだわりすぎたりといった事態に陥る可能性が低いでしょう。

コンセプチュアルスキルが重要視される背景

デスクワークをする男性

(出典) pixta.jp

コンセプチュアルスキルは、マネジメント層以外のナレッジワーカーにも必要なスキルであり、近年その重要性が高まっているとされています。概念化する能力が求められる背景には、何があるのでしょうか?

VUCA時代と加速するビジネス環境の変化

1つ目の理由として、VUCA時代の到来と、加速するビジネス環境の変化が挙げられます。VUCAとは、「先行きが不透明で予測が困難な状態」を意味する造語です。

あらゆるものが目まぐるしく変化する現代は、過去の前例・常識が通用しない時代といっても過言ではありません。世の中には正解のない問題が多く、成功パターン・ノウハウはすぐに陳腐化します。

ビジネス環境の変化も激しく、上司からの指示を受けて動く「トップダウン方式」に頼っているだけでは、企業として生き残れないのが現実です。

コンセプチュアルスキルを身に付けると、正解のない問題が生じても最適解を導き出せるようになります。組織で働く個々人が変化に柔軟かつスピーディーに対応すれば、曖昧で不透明な社会情勢を乗り切れる可能性が高いでしょう。

組織におけるイノベーションの促進

2つ目の理由として、組織におけるイノベーションの促進が挙げられます。新たなビジネスや変革の担い手となる「イノベーション人材」の、獲得・育成に力を入れる企業は少なくありません。

経済の成熟化や少子高齢化が進行する日本では、市場規模が縮小を続けています。本来、イノベーションは企業の成長に必要な戦略の1つでしたが、VUCA時代においては「生き残る上で欠かせない要素」となっているのが実情です。

コンセプチュアルスキルを鍛えると、物事の本質を見極める力や多面的な視野が養われるため、新たなアイデア・ビジネスチャンスが生まれやすくなります。

コンセプチュアルスキルを高める方法は?

人差し指を立てるビジネスマン

(出典) pixta.jp

コンセプチュアルスキルは、さまざまな思考法・スキルがベースになっています。高め方は複数ありますが、日常生活の中で簡単にできるトレーニング方法をいくつか確認しましょう。

抽象化と具体化を繰り返す

コンセプチュアルスキルを高めるためには、抽象化と具体化のスキルを鍛える必要があります。

抽象化とは、重要度の低い情報を捨て去り、物事の本質を抜き出すことを意味します。一方の具体化は、抽象的な概念・法則・傾向などを、はっきりとした形に落とし込むことです。

この抽象化と具体化を往復する能力こそが、コンセプチュアルスキルともいえるでしょう。

抽象化のスキルを鍛えるには、文章にテーマを付けたり、要約したりする方法が有効です。また、ミッション・ビジョンといった概念を具体的な事例で示す練習をすれば、具体化のスキルが鍛えられます。

言葉で明確に定義する

ある事象が生じたときに、定義付けをする癖を付けましょう。自分の言葉で明確に表現することによって、コンセプチュアルスキルが磨かれていきます。

例えば、「売上が下がる理由」を分析した場合は、「売上が下がるときは〇〇が関係している」「○○が生じると売上が下がる」などと、共通性・法則性を言語化します。

「ロジカルシンキングとは△△」「成功とは△△」といったように、「〇〇とは△△である」という形に当てはめて、言葉に明確な定義を与えるトレーニングもおすすめです。

目的を意識する

コンセプチュアルスキルは、行動の目的を意識することにより高まります。例えば、日々の業務に慌ただしく打ち込んでいると、タスクの消化自体が目的となってしまい、その先にある本来の目的・ミッションを忘れてしまうケースはよくあるものです。

「何のために行うのか」「どんな目的を果たすための行動なのか?」という点を意識する習慣を持てば、物事の本質を見失いません。困難な状況が生じた場合でも、原点に立ち返ることで、問題の根幹や最適な解決方法を見極められる可能性が高いでしょう。

日々の意識とトレーニングが大事

ビジネスマン

(出典) pixta.jp

コンセプチュアルスキルは、マネジメント層に必須のスキルとされてきましたが、現代では組織に属する全ての人材が身に付けるべきスキルと考えられています。

スキルを鍛えると、複雑な物事・問題に直面した場合にも、論理的かつ創造的なプロセスで最適解を導き出せるのがメリットです。発想力も豊かになり、さまざまなアイデアが生まれやすくなるでしょう。

一朝一夕では身に付かないため、日々のトレーニングによって少しずつ鍛えていくことが大切です。