時短ハラスメントとは?起きる原因ともたらされるリスク、対処法も

時短とは一般的に労働時間の短縮を指し、近年実践する企業が増えています。しかし、社員が定時帰宅を強制されることで問題が起こる場合も多く、一種のハラスメントと見なされるケースも少なくありません。時短ハラスメントの原因や対処法を解説します。

時短ハラスメントとは

時計を見るビジネスマン

(出典) pixta.jp

時短ハラスメントとは、労働時間の短縮の強制・強要に関するハラスメントを指します。まずは時短ハラスメントとはどういうものか、概要から押さえておきましょう。

労働時間の短縮を強要すること

ビジネスシーンにおける時短(時間の短縮)に関するハラスメント行為は、一般的に、業務が終わっていない状況でも、社員に定時での退社を強要することです。

あるいは、定時までに終わる業務量ではないにもかかわらず、所定の業務時間内に仕事が終わらなければ、上司が理不尽に叱責するといった行為もハラスメントに該当します。これらは「時短ハラスメント」として、近年とりわけ問題視されているものです。

本来、定時退社は多くの社員にとって歓迎すべきことでしょう。しかし、これまで残業や休日出勤などが常態化していた企業が、無理に時短を決行するケースもあります。

その結果、社員が労働時間内に業務を終わらせることができず、混乱が生じているという現場は決して珍しくありません。

たとえ社員のワークライフバランスの維持・向上のために時短制度の導入を決めたとしても、逆に現場の負担が増している企業もあるというのが実態です。

時短ハラスメントが起きる原因は?

ハラスメント

(出典) pixta.jp

時短ハラスメントが起きてしまう主な原因としては、働き方改革の推進や、人手不足などが挙げられます。それぞれ具体的に見ていきましょう。

働き方改革の推進が大きく影響

国民のワークライフバランスの改善を目的として、これまで政府は積極的に働き方改革を推し進めてきました。企業に対してさまざまな要請がなされており、その一環として時間外労働の上限が決められています。

具体的には、労働基準法の改正により、36協定(時間外労働・休日労働に関する労使協定)を締結している企業であっても、社員の時間外労働の上限は、原則として月45時間(年360時間)と決められました。

しかし、業務量の調整・見直しなどを経ずに社員を定時に退社させ、見かけ上の労働時間削減をしている企業も多く、これが時短ハラスメントの大きな原因となっています。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省

人材不足も原因の1つ

働き方改革の推進のために労働時間を削減する一方で、業務量が時短前と変わらないことにより、社員の負担が増えている企業は少なくありません。

業務量が時短前と変わらない状況で、社員の負担を増やさずに所定の業務を完遂させるためには、当然ながら労働力を増やさなければいけません。

しかし人件費の削減のため新たな人材を確保しようとしない企業も多く、これも時短ハラスメントを引き起こす要因の1つとなっています。

時短ハラスメントの事例

叱責

(出典) pixta.jp

時短ハラスメントの具体例としては、所定の業務が時間内に終わらず叱責される場合や、持ち帰り残業が発生するケースなどが挙げられます。それぞれ事例を確認しましょう。

業務が終わらず叱責される

業務量が変わらない状況で労働時間が減少したため、所定の業務を終わらせることができず上司に叱責されるという状況は、典型的な時短ハラスメントの例です。

業務量が調整されていれば、社員の創意工夫により乗り切れる場合もありますが、労働時間のみが削られている組織も多く、ハラスメントの温床になっているのが実態です。

また、業務に割ける時間が減ったことで最終的なノルマや納期・期限を守れず、上司に厳しく叱責されるといった例もあるでしょう。いずれも社員にとっては理不尽な状況であり、ハラスメントの一種として多くの企業で問題になっています。

持ち帰り残業などの発生

所定の業務が終わらないまま定時になり、時短のため強制的に退社させられる企業では、終わらなかった業務を社員が自宅に持ち帰ってこなすケースもあります。自宅での仕事は残業とは見なされないため、事実上、無給で働いている人も多いのが実態です。

本来、働き方改革は社員のワークライフバランス改善のために導入されるものです。しかし、オフィスでの労働時間のみが減らされた結果、社員のプライベートの時間が削られている企業は少なくありません。本末転倒な事態に陥っている状況です。

また、記録上は定時退社したことにして、社員が隠れて残業をする事例も多いとされます。こういった持ち帰り残業やサービス残業をせざるを得ない事態も、時短ハラスメントの一種といえるでしょう。

時短ハラスメントがもたらすリスク

悩む男性

(出典) pixta.jp

時短ハラスメントはさまざまなリスクをもたらします。社員の仕事に対するモチベーションが低下するのはもちろん、仕事の質の低下や離職の増加などを招く可能性が高く、企業イメージの低下にもつながりかねません。

社員のモチベーション・生産性の低下

本来なら支給されるはずの残業代が支払われなければ、社員の収入は減ってしまう結果になります。仕事へのモチベーションが低下し、生産性も下がってしまう可能性があるでしょう。

実際のところ、サービス残業が増えたことにより、仕事がつらくなったと考える人は多いものです。

仕事の生産性が低下すると、限られた業務時間内にこなせる仕事量も減ってしまうため、さらに上司に叱責されるという悪循環に陥る人も出てくるでしょう。

仕事の品質の低下

業務時間の短縮により、個々の業務に十分な時間を割けなくなり、仕事の質が著しく低下する恐れもあります。

特に、限られた時間内に業務を完遂しなければ上司による時短ハラスメントの被害に遭うという場合、社員はとにかく早く仕事を終わらせることだけを考えるでしょう。

すると、本来の強みや特性などを十分に発揮できない人材が増える可能性があり、組織全体の生産性が大きく低下してしまう事態になりかねません。

休職・離職の増加

時短ハラスメントが横行している職場では、社員の仕事に対するモチベーションが低下するだけでなく、ストレスによって心身を消耗する社員が増える恐れもあります。人によっては、休職を余儀なくされる場合もあるでしょう。

また、会社や上司に不満を持つ社員が、より環境の良い職場への転職を希望し、離職率が上昇する可能性があります。

離職する社員が増えると、ますます労働力が減ってしまうため、残った社員の負担が増加するでしょう。結果として、さらなる離職を招く事態も考えられます。

企業イメージの低下

社員の負担が増すことでサービスの品質が低下すれば、企業イメージが悪化する恐れもあります。

顧客からの評判が落ちるのに加えて、時短ハラスメントがパワハラ・モラハラとして告発されると、世間からの信頼が損なわれる事態も考えられるでしょう。

時短ハラスメントに限らず、近年は社員に対する嫌がらせ行為に対して、社会的に厳しい目が向けられる傾向にあります。

たとえマネジメント層や部門の管理者に悪意がなかったとしても、労働時間の減少が社員の負担を増やしている場合、企業イメージの低下を通じて、売り上げに悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。

時短ハラスメントへの対処法

相談窓口

(出典) pixta.jp

時短ハラスメントの被害に遭っているのであれば、1人で悩まず、社内に設置された相談窓口を利用しましょう。それでも解決が難しい場合は、労働局や労働基準監督署への相談がおすすめです。

社内外の相談窓口に相談する

ハラスメントに悩んでいる人は、まず社内の専門部署に相談してみましょう。

企業によっては、時短ハラスメントやパワハラ・モラハラなどの専用相談窓口を、社内に設置しているケースもあります。そういった窓口がない場合は、人事部門への相談を検討しましょう。

しかし、時短ハラスメントは労働時間の短縮が根本的な原因である場合が多く、社内での解決が難しい可能性もあります。その場合には、企業の所在地を管轄する労働局または労働基準監督署に設置されている相談コーナーを利用するのがおすすめです。

労働局や労働基準監督署は、基本的に誰でも無料で利用できるので、精神的に追い詰められる前に、思い切って相談してみましょう。電話でも相談が可能です。

参考:相談窓口のご案内|あかるい職場応援団 - 職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト

時短ハラスメントは社員・会社双方に悪影響

指を刺すビジネスマン

(出典) pixta.jp

時短ハラスメントは一般的に、企業の労働時間の短縮に端を発するハラスメントです。社員に定時での帰宅を強要したり、業務時間の短縮により所定の仕事を終わらせることができない社員を上司が理不尽に叱責をしたりするケースなどが該当します。

いずれも、社員の仕事に対するモチベーションや生産性を低下させる可能性があり、仕事の質が落ちてしまう場合もあります。さらに企業イメージの低下を招く恐れもあるので、組織として早急な対策が必要です。

一方で、社員として時短ハラスメントを受けている場合は、精神的に追い詰められる前に相談することが大切です。社内の相談窓口の利用に加えて、労働局や労働基準監督署なども利用できます。1人で悩まず、周りを頼るようにしましょう。