パタニティハラスメントの現状は?具体的な事例や予防策について解説

近年、パタニティハラスメントという言葉を見聞きするようになりました。ハラスメントは、個人の就業環境やメンタルに悪影響を及ぼすだけでなく、企業に不利益をもたらす問題です。パタニティハラスメントの現状や具体例のほか、予防策について解説します。

パタニティハラスメントとは?

悩む男性と上司

(出典) pixta.jp

近年、見聞きするパタニティハラスメントについてよく分からないという人もいるでしょう。どのような行為のことをいうのかや、現状についても解説します。

育休などに関する男性を対象とした嫌がらせ

パタニティハラスメントとは、男性の従業員が育休制度などを利用しようとする際や、実際に育休を取得した結果、嫌がらせを受ける行為のことをいいます。

パタニティ(paternity)とは英語で父性を意味する言葉ですが、「パタニティハラスメント」とは父親となった男性に対するハラスメントを指す用語として使われている造語です。法令や国の方針では「パタニティハラスメント」という言葉は使われていません。

育児や介護などに関するハラスメントをまとめて「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業などに関するハラスメント」と指定しており、その1つとして取り扱っています。

マタニティハラスメントとの違い

マタニティハラスメントは女性に対する、妊娠・出産・育児に関するハラスメントです。マタニティ(maternity)には、「母性」や「妊婦の」などの意味があり、女性に対して不利益な取り扱いをする行為のことを指します。

例えば、妊娠や出産を告げたら退職を促されたり、育休などの取得に対して嫌がらせを受けたりすることです。どちらも、出産や育児と仕事を両立させようとする社員の就業を妨害するものと定義されますが、対象が女性か男性かという点で異なります。

パタニティハラスメントの現状

厚生労働省が2021年に行った「雇用均等基本調査 事業所調査結果概要」によると、2019年10月1日からの1年間に配偶者が出産した男性のうち、2021年10月1日までに育休の申請および開始をした人の割合は13.97%でした。

2021年度の男性の育休取得期間を見ると、5日~2週間未満が一番多く、26.5%です。一方、2021年度に公表した職場のハラスメントに関する実態調査結果では、過去5年間で育休などに関するハラスメントを経験した男性の割合は26.2%でした。

特に、ハラスメントを経験した人のうち31.1%が99人以下の企業で勤務していていました。また、ハラスメントの行為者で一番多かったのは上司(役員以外)の66.4%、次いで会社の幹部(役員)34.4%でした。

「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)」

「令和3年度雇用均等基本調査 事業所調査結果概要」

パタニティハラスメントが注目される理由

パタニティハラスメントが注目されている理由の1つが、子育てに対する社会的な価値観の変化です。

共働き家庭の増加に伴い、ひと昔前の「育児は女性の役割」という固定観念から「男女が共に働きながら、共に子どもを育てる」という考え方が主流になりつつあります。

また、少子化対策の一環として、男性の家事・育児参画を促進する法令の整備や、取り組みが進んでいることも理由の1つです。

男性の育休取得率30%を目標とした取り組みが推進されている中、現実的にはまだハードルが高く、嫌がらせを受けるケースもあることが問題視されています。

「こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識|仕事と子育ての両立|内閣官房こども家庭庁設立準備室」

パタニティハラスメントの具体例

指導する上司

(出典) pixta.jp

パタニティハラスメントには、制度を利用することによる嫌がらせと、利用を妨害する行為の2種類があります。どのような行為が該当するのか具体例を見ていきましょう。

制度の利用による不利益な取り扱いや嫌がらせ

育休制度の利用を理由にしたさまざまな嫌がらせや不利益な取り扱いは、パタニティハラスメントに該当します。

  • 育休取得によって、降格・減給・解雇などの扱いを受けた
  • 育休からの復帰後に過小な要求ばかりさせられる
  • 育休中に同僚から「仕事が回らない、責任を取れ」などの嫌がらせメールが送られてきた

厚生労働省が2021年度に発表「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「過去 5 年間に育児休業等ハラスメントを受けた」と回答した人のうち、上司から制度などの利用を阻害された経験があると答えた男性は53.4%でした。次いで、33.6%が同僚から繰り返し、または継続的に制度などの利用に関して阻害されたと回答しています。

「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)」

制度の利用を妨害しようとする行為

育休などの制度の利用を妨げる行為も、パタニティハラスメントに該当します。

  • 育休を申請したが「休まれると困る」などと言われ取得を認めてもらえない
  • 「同僚に迷惑がかかるから、自分だったら取得しない」など遠回しに取得しにくいような雰囲気をつくられる
  • 「忙しい部署なので、育休制度は利用しないように」と言われている

実際にハラスメントを受けて、育休制度の利用を諦めた人も少なくありません。厚生労働省が2021年度に発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」の調査結果によれば、42.7%の人がハラスメントを受けて、育休の取得を諦めたと回答しています。

「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)」

パタニティハラスメントが起こる原因

偉そうな上司

(出典) pixta.jp

パタニティハラスメントが起こる主な原因は、性別に対する社会的な固定観念と育休制度に関する企業の整備不足の2つが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

性別に対する社会的な固定観念

育児に関する社会的な考え方に変化が起きているとはいえ、いまだに「男性は仕事、女性は家事や育児」という性別に対する固定観念が根強く残っているのが実情です。

育児に対する役割についての意識が変わりにくい背景には、男女の就業率の違いもあるといってよいでしょう。2022年度の「雇用均等基本調査 企業調査結果概要」の結果を見ると、正社員・正職員の男女比は男性73.1%、女性26.9%でした。

就業率の高さだけが性別に対する思い込みの原因とはいえないものの、現実的に「男性は仕事、女性は家庭」という状況が見て取れます。

このような状況も踏まえれば、育休を取得する男性への偏見が生まれやすくなると考えるのは難しくないでしょう。

令和4年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要|厚生労働省

育休制度の整備不足

企業側が、男性の育休取得に対して十分に準備できていないのも理由の1つです。育休制度を整えるには、主に以下の点について明確にしておく必要があります。

  • 育休の取得によって従業員が抜けたときの運用体制
  • 育休の取得時と復帰時の手続き方法
  • 育休取得中のフォロー体制
  • 男性の育休取得に関する社内周知や啓蒙活動

希望する従業員に育休を取得させるのは、企業側の義務でもあります。しかし、育休制度の整備が十分でないと、従業員の理解不足によって取得できないなどのハラスメントにつながりかねません。

パタニティハラスメントを防ぐには

相談窓口

(出典) pixta.jp

パタニティハラスメントは、企業側にも不利益をもたらす行為といえます。パタニティハラスメントを防止するための対策を3つ挙げて解説します。

育休制度の整備と社内への周知

男性の育休制度について、社内のガイドラインを整備しておくことが重要です。2022年10月の育児・介護休業法の改正に伴い「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が新たに創設されました。

これは、1歳までに取得できる育休とは別に、出生後8週間以内に最大4週間取得できる育休制度です。また、申請の際に希望すれば、4週間を2回に分けて育休を取得できます。

これまで子どもが1歳になるまで、まとめて取得しなければならなかった育休も、夫婦で時期をずらし、それぞれ2回に分けて取得できるようになりました。これらの育休制度の整備と同時に、男性の育休取得について社内への周知を徹底することも重要です。

育児・介護休業法改正のポイント|厚生労働省

育休を取得しやすい職場環境づくり

育休制度があっても、現実的に取得しにくい状況にあれば、設定する意味がありません。実際に男性が育休を取得しやすい環境をつくることも大切です。

厚生労働省の「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」のデータを見ても、育休取得率向上に向けた取り組みで一番効果があったのは、職場風土の改善(56.0%)でした。

男性が育休を取得しやすい職場環境をつくるには、経営者が率先して従業員に向けた啓蒙活動を行うことが必要です。

「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)

相談窓口を設置する

基本的にはパワーハラスメントやセクシャルハラスメントと同様に、相談窓口を設置し、相談を受けたら迅速かつ適切に対応します。プライバシーに配慮しつつ、通報者・当事者・関係者のそれぞれに不利益となる扱いをしないことが重要です。

また、従業員が気軽に相談できるような環境を整えておくことで、実際にハラスメントが起こった後の対応だけでなく、潜在的なハラスメント問題の解決にも役立つでしょう。

意識改革でパタニティハラスメントを防ごう

ビジネスマン

(出典) pixta.jp

企業に育休制度があったとしても、利用できない状況に追い込まれたり、取得したことで不利益な扱いを受けたりするのがパタニティハラスメントです。ハラスメントを防ぐには、従業員一人一人が性別役割に関する思い込みを変える必要があります。

長く続く社内風土や、業種の特徴からハラスメントをなくすのが難しいと感じた場合は、男性が育休制度を取得しやすい企業への転職を考えるのも1つの方法です。転職先探しには、全国の求人を検索できるスタンバイを活用してみましょう。

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