近年、カスタマーハラスメントが社会問題化しています。顧客や取引先から嫌がらせのような行為を受けている場合は、会社に頼るだけでなく、自分でも対策を講じることが重要です。カスタマーハラスメントの代表的な事例と、主な対応策を紹介します。
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?増えている背景や関連法令、クレームとの違いと併せて解説します。
顧客や取引先から受けるハラスメント
カスハラに明確な定義はありませんが、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、以下の条件を全て満たすものをカスハラとしています。
- 顧客や取引先からの言動である
- 要求の内容が妥当ではない、または要求実現のための手段・態様が社会通念上不相当である
- 要求実現のための手段・態様により、従業員が身体的・精神的な苦痛を覚える
顧客や取引先から著しい迷惑行為を受け、対応した従業員が正常に働けない状態になった場合、その行為はカスハラだといえます。
出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル P7 | 厚生労働省
カスタマーハラスメントの現状
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を見ると、企業が従業員からカスハラの相談を受けた件数は、過去3年間(2020年時点)においてパワハラ・セクハラに続き3番目に多いことが分かります。
パワハラ・セクハラは過去3年間で相談件数が減少しているのに対し、カスハラは増加している点も特徴です。
また、過去3年間でカスハラを受けたことがある人の割合は、約15.0%です。すなわち、6~7人に1人がカスハラを経験していることになり、パワハラよりは低いものの、セクハラよりも高い割合となっています。
出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル P4、P6 | 厚生労働省
カスタマーハラスメントが増えている背景
カスハラが増えている理由として、日本企業特有の過剰なサービスが挙げられます。サービスに対する消費者の基準が高くなり、より過度な要求を行うようになっているのです。
SNSの普及も、カスハラが増加している原因の1つと考えられるでしょう。企業に対する不満がSNSで拡散されると、それに共感した不特定多数の人から迷惑行為を受ける恐れがあります。
また、ストレスをため込む人の増加も、カスハラが多くなっている要因です。サービスを提供する企業側が逆らえないことにつけ込み、日常のストレスのはけ口としてカスハラをすると考えられています。
カスタマーハラスメントの関連法令
企業は、従業員をカスハラから守らなければなりません。「労働契約法第5条」や「令和2年厚生労働省告示第5号」により、そのことが定められています。
また、民法第709条(不法行為による損害賠償)では、カスハラを行った人は、精神的苦痛を受けた従業員に対し損害賠償する責任を負うことと決められています。
暴行・脅迫・業務妨害・名誉毀損といった行為を行った場合は、刑法に則した犯罪が成立するケースもあるでしょう。このように、カスハラに関連する法令はさまざまに制定されています。
クレームとの違い
クレームは「苦情」であり、必ずしも全てが不当であるとは限りません。正当なクレームを受けた場合、企業は真摯に対応する必要があるでしょう。
一方、カスハラの根底にあるのは「嫌がらせ」です。クレームでも不当または過剰な要求がある場合はカスハラといえますが、カスハラの中には要求がないものもあります。
正当なクレームは、要求の内容に妥当性があり、手段・態様も正当なものです。要求の内容または手段・態様のいずれかが不当なら、「不当クレーム=カスハラ」だと判断できます。
カスタマーハラスメントの代表的な事例
顧客や取引先と日常的にやりとりしていると、何がカスハラなのか分からなくなることもあるでしょう。カスハラに該当する、代表的な事例を紹介します。
電話を長時間切らない
カスタマーサポート・お客さま相談センターで多いのが、電話を長時間切らないカスハラです。何時間も電話で、誹謗中傷・罵倒を繰り返すようなケースが該当します。
1人の顧客が意図的に電話を切らないでいると、結果的に他の顧客の対応ができなくなるため、会社にとっては迷惑です。同じ相手から、延々と誹謗中傷・罵倒を受ける従業員も疲弊してしまいます。
電話を長時間切らないだけでなく、嫌がらせ目的で電話・メールをしつこく繰り返すこともカスハラです。要求内容の妥当性に関係なく、手段が社会通念上不相当である場合はカスハラと判断されます。
過剰な要求を受ける
カスハラの代表的な事例には、顧客サービスの範囲を超えた要求をするケースも挙げられます。企業にとって実現が困難であることを、要求されるパターンです。
過剰な要求には、「もっと安くしろ」「早く用意しろ」「社長を呼べ」「まだ店を閉めるな」「土下座しろ」など、さまざまなものが考えられるでしょう。
このうち土下座を強いることは、刑法で規定された強要罪に問われることがあります。過去には実際に土下座を強要し、実刑判決を言い渡されたケースもあります。
人格を否定される
人格否定のカスハラは、従業員の性格・能力を否定するケースです。自分の要求が通らないことの腹いせとして、侮辱的発言や名誉毀損に当たる発言を従業員に浴びせます。
従業員に対する個人攻撃は、もはや商品・サービスのクレームではありません。従業員が委縮して対抗できずにいると、人格否定のカスハラはますますエスカレートしていくでしょう。
従業員個人に対するカスハラには、セクハラまがいの発言も含まれます。セクハラ発言を受けて返答に困っている従業員に対し、さらに人格否定のカスハラを続けるパターンもあるのです。
脅迫まがいのことを言われる
度を越えたカスハラの例として、脅迫まがいの発言が挙げられます。「SNSで悪口を拡散する」「迷惑料を払え」「誠意を見せろ」など、脅迫の内容はさまざまです。
特に近年はSNSの普及により、「悪口を拡散してやる」という脅迫が増えています。正しくない情報が世に広まってしまうと、企業のイメージを大きく損ないかねません。
企業や従業員を脅迫することは、カスハラの中でも悪質な部類です。脅迫まがいのカスハラを行った人は、刑法で定められたさまざまな犯罪に問われる可能性があります。
カスタマーハラスメントへの主な対応策
顧客や取引先とやりとりする従業員には、カスハラに発展させないことや、カスハラに落ち着いて対応することが求められます。実際の現場で役立つ、主な対応策を見ていきましょう。
相手を落ち着かせる
既に興奮状態にある顧客に対しては、相手の気持ちを落ち着かせることが重要です。まずは話をしっかりと聞いてあげることで、相手が落ち着くケースもあります。
相手とやりとりする際は、丁寧な言葉遣いを意識し、声のトーンを低めにしてゆっくりと話しましょう。相手の勢いに合わせてしまうと、カスハラがますますヒートアップしてしまいます。
また、聞き間違いや勘違いがきっかけで、単なるクレームがカスハラに発展する恐れもあります。相手が穏やかだからといって、気を抜かないようにしましょう。
必要に応じて謝罪し解決策を示す
相手からのクレームに対しては、何が問題なのか、事実や状況をしっかりと確認することも大切です。こちらに非があるならきちんと謝罪し、適切な解決策を示しましょう。
クレームに対して謝罪をする場合は、自社の落ち度に応じた謝罪をするのがポイントです。過度な謝罪をしてしまうと、相手もそれに応じて過度な要求をしてくる恐れがあります。
また、相手の要求に応えられず断る場合は、できるだけ会社の規則・法令を理由にしないようにしましょう。これらの理由を伝えるしかないケースでも、相手の心情に寄り添った発言を意識することが重要です。
悪質な相手には毅然とした態度で対応する
カスハラへの対応で最も避けるべきことは、相手の勢いに折れてしまうことです。過度な要求には、勇気を持って断り続ける必要があります。
顧客や取引先を「上」の立場として見てしまうと、どうしても毅然とした態度で対応しにくくなりがちです。悪質なカスハラを受けた場合は、相手と対等な関係になるように気持ちを切り替えて、話を進めましょう。
自分が上の立場だと考えている人ほど、カスハラに発展しやすくなる傾向があります。あくまでも冷静に、ただし気持ちは対等な関係に切り替えることで、相手の気持ちにも変化が生じてカスハラが収まるケースもあるのです。
カスハラで悩んだらどうすればいい?
カスハラが多い職場で働くことに悩んでいる人は、どのような行動を取ればよいのでしょうか?カスハラで悩んだ際に、検討すべきことを紹介します。
会社や上司に相談する
カスハラでストレスがたまっているなら、会社や上司に相談しましょう。企業にとってのカスハラ対策は近年の重要課題であり、相談すれば会社に守ってもらえる可能性があります。
企業によっては、カスハラの専門窓口を用意しているケースもあるため、まずは自社に相談窓口があるか調べてみましょう。
また、会社や上司に部署異動を相談してみるのもおすすめです。転職と違い、環境を大きく変える必要がないため、負担を抑えつつカスハラの悩みを解消できます。
転職を検討する
会社や上司に相談しても、カスハラの悩みを解決できない場合は、違う会社への転職を検討しましょう。転職先を考える際は、具体的にどのようなことが嫌なのかを考えるのが重要です。
例えば、カスタマーサポート・お客さま相談センターでは、自分に関係がないことで苦情を受けるケースが多くなります。このような状況が嫌なら、個人向け営業職や販売職に転職すれば、苦情を自分で完結することが可能です。
また、同じコールセンターでも、顧客や取引先次第でカスハラがほとんどないケースもあります。コールセンターの仕事自体が嫌ではないのなら、カスハラがほとんどない企業に転職すれば、スキル・経験を生かせるでしょう。
カスタマーハラスメントへの対応策を把握しよう
カスハラは、近年の大きな社会問題となっており、カスハラが原因でストレスを抱える人も増えています。顧客や取引先と日常的にやりとりする仕事に就いている人は、カスハラへの対応策を把握・実践することが重要です。
カスハラの悩みが原因で転職を検討するなら、「スタンバイ」で仕事を探すのがおすすめです。全国の求人が豊富に掲載されているため、カスハラを受けにくい仕事も見つかるでしょう。